米IT大手のアマゾン・ドット・コムが9月16日、従業員に週5日の出社を要請することを発表した。これまでは在宅勤務を容認していたが、来年1月より、事実上のリモートワーク廃止となる。世界的大企業のまさかの方針転換には、日本でも衝撃が走っている。
アマゾンが週5日の出社を義務付け
アンディ・ジャシーCEO(最高経営責任者)によると、アマゾンが今回、週5日のオフィス勤務を従業員に言い渡した理由は、社内でのつながり、チームの強化をするためだという。
新型コロナウイルスの流行によって、世界的に在宅勤務という働き方が広がり、日本でもすっかり根付いていたが、2024年に入り、徐々にリモートワークを廃止する企業がではじめている。そしてここにきて、ついにアマゾンまでも、リモートワーク廃止に踏み切ったかたちとなった。
ネット上ではこれに猛反発する声が多く、〈ウチもそうなるんじゃないかとビビってる〉〈会社に行きたくてしょうがない老害たちが「アマゾンもやってるから!」と喜んでそうで怖い〉などSNSでは悲鳴のような声まであがっている。
実は転職サービス「doda(デューダ)」が2023年11月にアンケート調査をした結果によると、リモートワークをしている人の約65%が、リモートワークが廃止された場合、転職を検討すると回答している。
実際、「会社に原則出社を命じられたため、すぐに会社を辞めました」と話すのは、元出版社勤務の30代男性だ。
「都内の老舗出版社に勤めており、コロナが流行したころから、私の部署だけリモートワークがOKになりました。営業だったりほかの部署は、社外にデータを持ち出せないなどあり、出社時間を変える程度の措置でしたね。リモートワークの間、私は今まで通りの仕事量をこなし続け、部署の売上も上々だったと思います。しかし年明けから急に、リモートワーク廃止が言い渡されました。理由は今回のアマゾンとまさに同じく、“社内の団結力を強くするため”……。
リモートワークで後輩指導が困難に
社内でリモートワークができる部署とできない部署での軋轢が生じているという話は多い。
しかし、できる部署の中でも、やりたい派とやりたくない派が混在しているのが現状だ。特に“後輩指導”をする立場だと、「リモートワークが負担になってしまう」と、映像制作職の30代男性が話す。
「映像制作という仕事上、機材さえあれば家でも全く同じ仕事ができるし、期限内に納品ができれば何も問題ないということから、ウチの会社ではすぐにリモートワークが承認されました。私は片道1時間近くかけて出社していたこともあり、大幅に作業効率がよくなったと思います。
しかし後輩が入ってきてから、状況は一気に変わりました。私は彼らの指導を任されたのですが、リモートでは指導がうまくできず、レスポンスもラグがあるので、スムーズに作業を進められないのです。
また、リモートといっても、週1の出社義務があるので、そこで後輩と対面で話すのですが、週1では仲も深まらないうえ、相手がその日をピンポイントで休むと、2週間も対面で指導できなくなります。自分1人ならリモート万々歳ですが、確かにチームで動くとなると、リモートは効率が悪いとしか言いようがありません」(映像製作職・30代男性)
リモートワークが全国的に普及してから約4年。実際に社会全体がこの働き方を経験したことで、メリットとデメリットがそれぞれ浮かび上がってきた。これらについて、東北大学特任教授で、人事・経営コンサルタントの増沢隆太氏に改めて解説してもらった。
「フルリモートの最大の負荷は、“一人”であることです。アイデアに煮詰まったときや気持ちがポジティブではないとき、同僚と雑談したり、他人に見られていることによる緊張感が、ダラダラした仕事の進め方から自分を守ってくれる体験を、多くの人がしたと思います」(東北大学特任教授・増沢隆太氏)
営業職でもリモートワークが効果的?
「リモートが合わず、非効率な業務も明確になりました。一番相性が悪いのは、労働集約的な“作業”です。コロナ初期、オンラインのカメラを就業中は点けっぱなしにさせ、すべての労働を監視するようなことをしていた管理職もいました。
工場の生産ラインや事務処理を進めていくような作業労働は、対面での時間管理や成果管理が適しており、進捗を自主管理するようなオンラインには合いませんでした」(東北大学特任教授・増沢隆太氏)
リモートワークによる生産性をめぐっては、各所で研究データやアンケートがとられているが、データごとに「生産性は変わらない」「むしろ上がった」「効率が下がっている」などとバラつきがあり、明確な答えはいまだ出ていない。
業種や職種によって大きく異なるのだから、この先も完璧なデータは出ないだろう。その一方で、絶対にテレワークとは合わないと思われた職種で、意外な声もあがっているという。
「当初、リモートワークに反発だらけだった対面の営業職で、相性がいいとされているのです。営業は“お客様と顔をつきあわせなければ誠意が通じない”……、今でもそうした価値観の人はいるでしょう。しかし営業相手の意見として、面倒な接待やら世間話やらをすっ飛ばしていきなり本題に入れるリモート営業(交渉)を、好ましいと思う人が少なくなかったのです。
昔風の接待営業、ご機嫌伺い訪問などを無駄と感じるのは若手の管理職だけでなく、高齢の多忙な上級管理者も同じでした。彼らの多くは時間を凝縮して交渉ができるリモートを、Win-winなツールと受け止めています」(東北大学特任教授・増沢隆太氏)
結局、出社かリモートかはあくまで業務次第であって、どちらかが優れているという二者択一ではない。また、いくら出社のほうが効率がいいからと、週5の出社を義務付ければ、リモートを求める社員が流出してしまう可能性がある。そうなると、また社員を一から育てなおす羽目になり、効率を重視したハズが、元も子もないことになってしまう。
これからの日本社会はどうなる
多くの企業が今まさに、リモートワークを続けるか廃止するかで悩んでいることだろう。そんな中で、今回のアマゾンの週5出社の義務付けは、日本社会にどんな影響をもたらすのか。
「アマゾンに限らず、イーロン・マスク氏は、コロナ禍がまだ収まっているとはいえない2022年に、早々とテスラ社において週40時間の出勤を命じ、続いて、買収したツイッター社においても在宅勤務を禁止しています。このような “The外資“な会社が、むしろ日本的にも見える週5日出勤を取り入れるということは、そうした旧来の勤務形態や価値観を維持したい経営者にとっては追い風となるでしょう。追従する企業は一定数出ると思います。
ニューノーマルに反対する老害というイメージを持たれがちだった経営層の人々にとって、外資のトップ企業がリモートを廃止しているというのはまたとない援軍であり、『出社してナンボ』という信条を後押しするでしょう」(東北大学特任教授・増沢隆太氏)
これから先、日本の社会、そして世界の社会はどのように変化していくのだろうか。コロナの唯一の功績とも呼ばれた、リモート化の社会が消えてしまう可能性がでてきている。
取材・文/集英社オンライン編集部
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