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2015年10月14日水曜日

「1億総活躍」本当の狙いは「労働市場改革」だ! ナゾの言葉にゴマかされては いけない


磯山 友幸
〔photo〕iStock

閣僚ですら理解していない

第3次安倍改造内閣が発足した。党役員と主要閣僚10人を留任させる一方で、初入閣を9人誕生させたが、マスコミ各社の論評は「目玉に乏しい」といったものが目立った。

そんな中で唯一新しさと言えたのが「1億総活躍担当相」。安倍晋三首相に近く、主要閣僚への起用が噂されてきた加藤勝信・官房副長官が当てられた。

安倍首相が自民党総裁再選に際して打ち出した「アベノミクス第2ステージ」の中核を成すのが「1億総活躍」というコンセプトである。「目指せ『1億総活躍』社会」として、「家庭で、職場で、地域で、誰もがもっと活躍できる社会」を作るとぶち上げた。それを実行に移す担当大臣が「1億総活躍相」というわけだ。

だが、「1億総活躍」と言って、具体的に何をやろうとしているのか。現段階では、まったく分からない。

地方創生担当相に留任した石破茂氏ですら、記者会見で、「(1億総活躍は)最近になって突如として登場した概念。国民の方々には『何のことでございましょうか?』という戸惑いみたいなものが、全くないとは思っていない」とまで述べたと報じられた。つまり、閣僚にすらきちんと理解されていないという代物だというわけだ。

そもそも「3本目の矢」はどこへ?

その1億総活躍社会の、実現に向けた「新3本の矢」にしても勢いに欠ける。「希望を生み出す強い経済」「夢をつむぐ子育て支援」「安心につながる社会保障」という、具体策に乏しい標語を並べただけ。

これまで世の中の期待を盛り上げてきた「アベノミクスの3本矢」を、一気にかすんだ存在に変えてしまったと言っても過言ではない。

新3本の矢の目標も「GDP(国内総生産)600兆円」「希望出生率1.8」「介護離職ゼロ」としたが、では、どうやってGDPを600兆円にしていくのか、という具体的な政策は、まったく見えない。単に数字を掲げるだけなら誰でもできる。

これまでアベノミクスを支持してきた学者や経済人、元官僚などの不満も大きい。特に、これまでの3本の矢のうち「3本目」の成長戦略に期待してきた構造改革派の失望は大きい。

「安倍さんは体調も悪そうで、すっかり改革する気持ちを失ってしまったのではないか」。そんな声も聞かれる。「3本目の矢はどこへ行ってしまったんだ」というわけだ。

安倍首相が公言し続けてきた岩盤規制を突破する切り札だったはずの「国家戦略特区」も、一気に存在がかすんだ。担当の石破地方創生相に丸投げ状態だ。

さらに、積極的に地方視察をこなすなど官僚の評価も高かった小泉進次郎・内閣府大臣政務官ら、石破氏の手足を総入れ替えした。派閥均衡の人事を優先してポストを割り振ったため、政策の継続性などにはほとんど配慮されなかった印象だ。

国家戦略特区は、安倍首相がさんざん海外での演説で大見得を切ってきた「集中改革期間」が来年3月末には終わる。特区で、海外に日本が変わる姿を見せる、という公約は、このままだと反故になりかねない。霞が関の官僚の間からも、「海外に成果として示せる弾がない」というボヤキが聞こえてくる。

雇用は増えているが……

そんなアベノミクスの失速状態をどう立て直そうとしているのか。

改造内閣発足時の記者会見で安倍首相はこう語っている。

「安倍政権発足から1000日余りが経ちました。アベノミクスにより雇用は100万人以上増え、給料は2年連続で上がりました。もはやデフレではないという状況をつくり出すことができました。国民の皆さんの努力によって日本は新しい朝を迎えることができました」

自らが進めてきたアベノミクスの成果が着実に出ているという認識なのだろう。

確かに、雇用は増えている。雇用者数は32ヵ月連続で増え続けている。33ヵ月前は安倍政権が月末に発足した2012年12月。つまり、第2次安倍内閣ではずっと雇用者は増え続けてきたのだ。2013年1月が5502万人で、直近の2015年8月が5639万人だから、110万人増えている。

だが、野党が激しく反発するように、正規職員は3336万人から3329万人で、ほぼ横ばいに留まっている。いったん3200万人台まで落ちたものが増え始め、2015年1月以降は前年同月比プラスが続いている。

一方で大きく増えたのは非正規雇用だ。2013年1月に1823万人だったものが、今年の8月は1972万人にまで増えた。

当初は、正規雇用が減って非正規が増えるという状況が続いたが、最近は、正規も非正規も増えている。2015年2月には非正規がマイナスに転じたが、その後は再びプラスとなり、正規雇用の伸びを上回る伸び率になっている。

もちろん、非正規雇用が悪いというわけではない。働き方が多様化しているとみることもできる。旧来型のフルタイムで働く正社員ではなく、パートや派遣、契約社員を選択する人もいるだろう。これまで働くチャンスが乏しかった高齢者や女性が仕事をするケースが増えていると見ることもできる。

業種別にみれば、「医療・福祉」関係の雇用者が大きく伸びており、高齢者向けサービスなどで、新しい雇用が生まれていることを示している。

おそらく「1億総活躍」社会が求めるのは、定年後の高齢者や、女性にもっと働いてもらおう、ということだろう。もちろん「やりがい」などの向上もあるだろうが、基本的に、今後足らなくなる労働力をどう生み出していくか、に力点があるように思える。

つまり、安倍内閣が発足当初から取り組もうとしている「労働市場改革」と「1億総活躍」は一体なのではないか。

塩崎恭久厚生労働相は留任したが、増え続ける医療費の抑制や年金制度、年金運用体制など懸案が山積み。前の通常国会では、何とか派遣法改正案を成立させたが、ホワイトカラーエグゼンプションなど懸案はそっくり積み残しになっている。

そうした労働改革を加藤大臣と二人三脚で実現していくということならば、これまでのアベノミクスの連続線上にあるとみることもできるだろう。

ただ、労働市場改革に斬り込めば、民主党との正面衝突は避けられない。果たして、加藤大臣がどんな具体的な政策を打ち出してくるのか、注目したい。


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