株主よりも従業員が一番だーー。京セラの稲盛和夫名誉会長は、「社員を路頭に迷わせるな、わがままな株主にNO」と題した国際ビジネスメディア「ブルームバーグ」のインタビュー記事で、短期的な利益を求める株主には毅然と拒否すべきとの姿勢を示した。「アクティビスト」と呼ばれる物言う株主へのアンチテーゼとなりそうだ。
記事によると、稲盛氏は株主還元を求めるアクティビストに対して、「会社をつぶして社員を路頭に迷わせるわけにはいかない。安全に経営するためにはこれだけの余裕が必要だと、わがままな要求に対しては毅然として言わないといけない」と述べた。
稲盛氏は「社員を大事にし、喜んで働いてくれれば会社の業績は上がる。それは株主にとってもいいことで、決して対立することではない」として、「従業員第一」を掲げている。
ただ、会社法では、株主が会社の所有者だと規定されているので、株主が「わがまま」であったとしても、「株主第一」ということではないのだろうか。企業統治にくわしい鈴木謙吾弁護士に聞いた。
●稲盛氏の考えは、長期的には株主の利益と両立
「法的に『会社は誰の物か』ということであれば、株主の所有であることは間違いありません。従業員は、あくまで会社と労働契約を締結している地位があるだけです。
また、銀行などの債権者や会社の取締役についても、会社とはそれぞれ金銭消費貸借契約、委任契約を締結している地位に過ぎません。ですから、法的には、会社は従業員の物ではないのです」
稲盛氏の発言は、こうした会社法の基本に反することになるのだろうか。
「必ずしもそういうわけではないでしょう。稲盛氏は『会社は従業員の物だ』とは言っていませんよね。発言は『従業員が一番』ということです。株主よりも上だという優先順位を付けているのではなく、おそらく最も大切にすべきと言っているのでしょう。
株主も従業員も、どちらも大切です。ただ、株主と従業員という天秤がどちらに傾くかは、経営者ごとの価値観でしょう。稲盛氏の天秤は、従業員よりですね。
株主を優先した短期の利益主義よりも、従業員を大切にすることで長期の安定的な利益を生み出すことをねらっています。その結果として、株主にも寄与できると考えているのでしょう。株主から委任を受けた取締役が、仮に従業員を締め付ける経営で短期的な利益を上げたとしても、長期的・安定的な成長には結びつかないという論理ですね。
稲盛氏の考え方は、非常に納得感のあるものです。実際に、日本航空(JAL)の経営改善など、数々の目覚ましい結果も出しています。従業員第一といっても、株主の利益を全く考慮していないわけではありません。『株主と従業員の利益は、長期的にみれば両立できるはず』という考え方に基づいているのでしょう」
鈴木弁護士はこのように話していた。
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