中国経済が急激に減速するなか、中央・地方政府の財政を脅かす新たな“時限爆弾”が炸裂する恐れが現実味を帯びてきた。好景気だった時期に次々と導入した医療・年金などの社会保障関係費が、少子高齢化の進展とともに膨張。これに景気減速が追い討ちをかけている格好だ。集めた保険料の運用実態も不透明で混乱に拍車をかけており、専門家は「すぐに制度を見直さないと、大混乱に陥る」と警鐘を鳴らす。
急増する社会保障費
年金や医療、福祉にかかるコストを示す社会保障関係費の急増が、中国で止まらない。
2009年には約1兆億元(約20兆円)強ほどだったが、わずか5年後の2014年には約2兆6100億元(約52兆円)と急激に膨らんだ。
多額の社会保障関係費が財政を圧迫しているとされる日本(約32兆円、2014年)と比較しても、その規模は突出している。
その背景には、中央と地方の政府に分かれて社会保障関係費を負担している中国特有の財政構造がある。
日本のシンクタンク・ニッセイ基礎研究所が調べたところ、社会保障関係費の実質の負担割合は中央が6割、地方が4割。そして負担額そのものは、中央、地方ともに増加の一途をたどっていた。
なぜ増え続ける?
この増加の原因とされるのが、社会保障に導入された中国独特の社会保険制度だ。
中国には、大きく分けて2種類の社会保険がある。
まずは1949年の建国以降、早い段階から導入してきた都市の就労者対象の社会保険。これには年金や医療、労災、失業、出産・育児などが含まれる。
これに対し、おおむね2000年以降の好景気を背景に、国民全体を保険に加入させる「皆保険」を目標に、それまでは対象外だった都市の非就労者を対象にした医療、年金制度が次々と導入された。農村住民を対象にした社会保険も加わった。
この新しい社会保険を、片山ゆき研究員は「財政負担が重くのしかかる制度」と問題視する。
その理由として、中央政府が社会保険のガイドラインを決めるものの、各地方政府に保険料の設定から徴収、給付の規準、保障の範囲まで具体的な制度運営が委ねている点を挙げる。
例えば、都市の非就労者対象の医療保険では、あらかじめ設定された複数の保険料の中から、自身の経済能力に応じた保険料を選ぶことができる。
そのため地方政府は、より多くの加入を増やそうとして、本来の保険料の給付とは別に、納める保険料の額に応じて別途、給付する「補助」の制度を設けているのだ。
同じく年金制度でも、より高い保険料を納付した加入者には、より高い補助を支出している。より長く保険料を納めた場合にも加算金を支出している。
こうした不透明な運用実態について、片山研究員は「本来の給付以外に支出していることが、財政を圧迫する大きな要因」と指摘する。
進む高齢化
加入者に高齢者が増えていることも問題だ。
中国では10年後の2025年には、65歳以上の人口が全体の14%を占める高齢化社会に突入すると推測されている。危機感を強めた中国では10月、1979年から続けてきた人口抑制の「一人っ子政策」の廃止を決めた。
それでも片山研究員は、「今後さらに急激な少子高齢化は進み、財政支出への圧迫を高める要因となる」と警鐘を鳴らす。
実際、先にもみた通り、社会保障関係費は急増の傾向をみせており、財政危機のシナリオは現実味を帯びている。
限られる対策
社会保障関係費が膨張する中、最近では景気減速の追い討ちもかかる。財源が先細りとなる中、中国政府の打てる対策は限られている。
対策としては通常、保険料の引き上げが考えられるが、都市の就労者の社会保険の場合、すでに保険料率は40%前後と高い水準に達しており、片山研究員は「景気減速で、これ以上保険料水準を引き上げるのは難しい」とする。
さらに都合の悪いことに中国では2013年、高額な療養費負担軽減を目的とした「大病医療保険制度」を導入している。その財源は加入者から別途徴収した保険料ではなく、医療保険料の積立金にあたる医療保険基金を充てている。
基金からの流出は増え続けているとみられるが、その運用実態は不透明で、すでに“赤字”に転落したとする報道もある。
真相は不明のまま、根本的な対策もなおざりとなっている状況で、片山研究員は「まるで“時限爆弾”を抱えたような状態」と表現した。
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