野田 真史 皮膚の健康 ガイド
妊娠線(皮膚線条)とは?
妊娠した際、下腹部に皮膚が割れたような赤色や白色の線ができてしまい、それが残って消えない「妊娠線」。下腹部の皮膚が急激に引っ張られてしまうことや、ホルモンバランスの変化も原因だと言われています。「表皮」という皮膚の表面部分が薄くなり、その下の「真皮」にあるコラーゲンやエラスチンが変化して、キズができた時のような状態になってしまうのです。
最初は赤紫色をしていることが多いのですが、時間が経つと周りの肌色よりも白い色をした線が残るようになります。
妊娠線。妊娠で下腹部が引き伸ばされることにより起こる。見た目が気になるが、治療が難しい。
妊娠以外の原因でも起こることがあるため、一般的には「皮膚線条」や「ストレッチマーク」と呼ばれています。思春期に体が急速に成長する時期には、おしりや太もも、ふくらはぎのあたりに、また体重が増加して肥満気味になってしまった時には下腹部や太ももに起こりやすいです。
思春期の成長によるストレッチマークは脚に起こりやすい
妊娠線は予防できるのか?
皮膚線条で困っている方はよく皮膚科を受診されます。見た目で診断はすぐにつくのですが、予防や治療は難しいのが現状です。
さまざまな保湿クリームが予防として使われてきましたし、実際に販売されていますが、いずれも予防に有効であるというしっかりとした研究データはありません。乾燥を防ぐ上では保湿剤はもちろん重要ですが、それが妊娠線の予防になるかどうかははっきりしません。
妊娠線の治療は?
予防同様、治療も難しいのが妊娠線です。湿疹やニキビと違い、「これを使えばまず治ります」というほど有効な治療がないのです。
妊娠線ができて皮膚科に行っても、「これは治すのが難しいです」と言われた方がほとんどではないでしょうか。しかし、最近はいくつか治療が効いたという報告が出てきていますので、ぬり薬とレーザーの治療をひとつずつ紹介します。
トレチノイン
シミやシワの治療に使われるトレチノイン。コラーゲンの新生を促すことで、妊娠線にも有効とされている。
治療としてのぬり薬に関しては、「トレチノイン」という美白やシミの治療に使われている成分が有効だというデータがあります。0.1%の濃度のトレチノインを1日1回、6ヶ月塗ったところ、トレチノインを塗った人では80%で改善があったのに対し、トレチノインが入っていないクリームでは8%でしか改善がなかった、というものです。
トレチノインは医療保険が効かないため、自費で購入する必要がありますが、美容皮膚科専門のクリニックでなくても、多くの皮膚科のクリニックは美白やシミの治療のために処方を行っています。これは試してみる価値があると言えます。余談にはなりますが、トレチノインは美容のクリームとして使われるのと同時に、アメリカではニキビの治療薬として保険でカバーされています。
レーザー
様々なレーザーが妊娠線の治療に試されてきた。Non-ablative laserという、皮膚へのダメージが少ない、皮膚のテクスチャーを改善するためのレーザーが有効とされている。
もうひとつ、有効な治療法としてはレーザーが挙げられます。様々なレーザーが妊娠線に対して試されてきましたが、現時点で最も有効とされているのがnon-ablative laserと呼ばれる、皮膚の表面のテクスチャーを改善するタイプのレーザーです。
この機械は史上初めてFDAという薬や医療機器を認可するアメリカの機関から、承認を受けています。皮膚の真皮の部分に作用し、新しいコラーゲンを作らせることで若々しい皮膚にする、というコンセプトのレーザーで、顔の表面の細かなシワを改善させるためによく使われています。真皮のコラーゲンを新しく作り、正常な真皮の構築に回復させる作用があるため、妊娠線にもシワにも有効というわけです。
日本でも一部のクリニックでは採用されています。美容専門のクリニック、もしくは保険診療と美容診療の両者を扱っている皮膚科のクリニックであれば、この治療を扱っているか聞いてみる価値があります。
見た目以外には問題を起こさない妊娠線(色素線条)ではありますが、水着になるときや温泉に入るときには気になるものです。以前はほとんど治療が不可能と言われた妊娠線(皮膚線条)ですが、技術の進歩により少しずつ治療の可能性が見えてきました。まだ保険が効く一般の皮膚科診療では治療が困難ですが、トレチノインやレーザー(non-ablative laser)による治療は行う価値があると言えるでしょう。
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