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2016年5月3日火曜日

舛添都知事の「言い訳」が何ともマズい理由


野呂 エイシロウ
バッシングは収まりそうにもありません(写真:中西祐介/アフロスポーツ)
東京都の舛添要一知事が海外出張に多額の費用をかけていたほか、公用車で頻繁に神奈川県湯河原町の別荘と行き来していた問題が明らかとなり、議論を呼んでいる。というより、舛添都知事の会見が「開き直り」と「言い訳」に聞こえてしまい、世間的に批判の的、バッシングの対象になっているといったほうが正しいだろう。
このような問題は一般的な企業でも起こりうる。たとえば社長や役員クラスの出張がビジネスクラスやファーストクラスである一方、平社員はエコノミークラスを使わなければならなかったり、役員には社用車があるのに平社員は電車やバスなどの公共交通機関しか使えなかったり、などという構図と似た部分もあるからだ。

一般企業でも起こりうる問題

戦略的PRコンサルタントである筆者の下にも舛添都知事の問題に関連して、「弊社でこのようなことが起こったらどう対応すればいいか」という相談がいくつか来ている。筆者は「起こらない、起こさないのがいちばん」と答えているが、そうはいっても何が火種になるかわからない。ではどうすればいいだろうか。
今回の問題を整理整頓すると、大きく5つに分けられる。
1.豪華なホテル
2.航空機のファーストクラス
3.高額な出張経費
4.公用車での別荘通い(一説には400万円)
5.危機管理の側面
多分、論点のメインは、「ぜいたくだ」「税金を使うのはおかしい」という感情論であろう。「知事のこうあるべき」と「庶民の、知事はこうあるべき」という「べき」にずれがあるのだ。「べき」のズレが怒りの感情になることは、日本アンガーマネージメント協会の安藤俊介代表理事が指摘している。
一般企業の会議を例に挙げよう。「10分前には席に着いているべき」という人と、「1分前でもいい」と思っている人には、「べき」の差が9分もある。当然、前者は後者に怒りを覚えるはずだ。
「都知事はこうある”べき”」という「べき」が人々の中にあった。舛添都知事はそれとのズレがあったことに、気が付かなかったし、ズレがあったから問題が大きくなったのだ。舛添都知事が問題についてのジャッジをするのではなく、都民の感情に合わせて対応できていたら今回の問題はここまで大きくはならなかったと思う。
これは「納得」の問題だ。納得がいかないからマスコミや都民は騒いでいるのだ。そのために大切なのは、普段からの情報公開とブランディングである。たとえば、
・飛行機の中でも一睡も出来ないほど打ち合わせやメールのやり取り、レポート作成がありエコノミークラスでは他の客さんに迷惑をかけている。さらにコンセントがなく仕事に支障が出る
・飛行機の中でもこんな膨大な仕事をしているのだから、ビジネスクラスやファーストクラスに移ったほうが、仕事の効率がいい
・ホテルでも、毎日何十人もの来訪者がいて大変なので、大きな部屋にしたほうが良い
・来訪者が多く、コーヒーなどの飲み物を外国で手配するのは容易ではなく、ホテルのほうが効率が良い
というブランディングが普段できていれば、こんなに問題にならなかったと思う。一般の人からすると「東京都知事の仕事はこんなに大変」と知らない。その忙しさもわからない。一方でマイクロソフト創業者のビル・ゲイツさんは、社長になってからもエコノミークラスで移動していたという話もある。
「大変だから、ファーストクラスでもいい」と理解を得るほどまでに都民の感情を動かし、「都知事はファーストクラスに乗るべき」と「べき」を変えておく必要があった。これができていれば、都民も「知事は飛行機の中でも映画も見ず、飲酒もせず、仕事に明け暮れているので、せめてパソコンのコンセントのあるビジネスクラスは許される」「ホテルに帰ってからも数十人の来訪者があり、30分単位のミーティングが次々と深夜まで続くので、大きなスイートルームも必要なのだろう」と納得したはずだ。

会社社長も普段からブランディングが必要

それは、会社の社長でも一緒だ。
「あの忙しさなら、社用車が必要なのではないか?」
「あんなに大変なら飛行機はファーストクラスだろう」
「エコノミークラスに乗っていたら秘密保持ができなくて、会社に損害がでるかも」
「ホテルのほかに会議室をとると、移動時間のロスが出るのではないか?」
「日本を出る前に多忙で忙しく、出張先でもほぼ寝られないらしいから飛行機ぐらいは、寝させてあげたほうがいいのではないか?」
と社員が思うくらいでなければならない。
逆に反発を買うのは
「知事なんだから、ファーストクラスであるべき」
「社長なんだから、スイートルームであるべき」
というブランディングである。「偉いから許されるという態度を取っている」と思われたらアウトだ。今回の件から見えてきているのは、「舛添都知事が望んで、そうさせたように感じる」ということだ。それは明らかにブランディングのミスである。もしかすると、そうではないかもしれないのだが、多くの人々は、そんなふうに感じている。
たとえば、「なぜ、オバマ大統領は、エアフォースワンで移動するのか!ぜいたくでけしからん」というバッシングを、筆者は聞いたことがない。明らかに大統領は忙しそうだ。以前何かのドキュメンタリーを見たが、分単位で仕事している。機密もたくさんあるはずだ。だから文句が出ないのだろう。

「金持ち」強調はバッシングにつながりかねない

企業の場合も一緒である。だから、筆者は普段から企業の社長にはこのようなアドバイスをしている。「車や自宅、ブランド品の取材は一切受けるな」と。雑誌などで、自分がおカネをたくさん持っているようなことを自慢するのはNGだ。「金持ち」ブランディングは後々バッシングにつながる。
たくさん仕事して所得が高いのも、ぜいたくも悪くはない。それを公にしなければいいのだ。常に、「庶民感覚ではどうか?」と考える。その感覚を経営者や会社の広報部門は常に持っておいたほうがいい。
舛添都知事は今回の問題が公になってからの対応がまずかった。会見を見ると「言い訳」にしか聞こえない。「法的に問題がなければいい」とも受け取れる発言が多いが、その時点で、NGである。「世間がどう思うか」を読み違えると大ケガをする。
もしかして、広報担当とそのような議論をして決めた結論なのかもしれないが、大切なのは、「公開する努力」を示すことである。「謝罪」と「説明」と「今後の改善と対策」である。明らかに、「不満」を持っている相手に「言い訳」をしても上手くはいかない。 世間は法律だけではなく、人々の感情で動いているからだ。

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