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2016年12月7日水曜日

がん治療に進展?新薬がもたらす延命効果 膨らむ「チェックポイント阻害薬」への期待。特にキートルーダーは肺ガン、皮膚、頭部、頸部、子宮、大腸ガンに効果が高い。

がん治療に進展?新薬がもたらす延命効果

膨らむ「チェックポイント阻害薬」への期待

2015年06月08日
メルク社の「キートルーダ(一般名:ペンブロリズマブ)」(Merck & Co., Inc. via The New York Times)

5月下旬、腫瘍を攻撃する免疫系の働きを活性化する新薬に、よくあるタイプの肺がんの患者の生存期間を延ばす効果があるという研究が発表された。この種の新薬の効果を示す研究が最近、相次いでいる。

また、免疫治療薬の効果が見込める患者の腫瘍には、特定の遺伝子的特徴があるとの研究も発表された。

免疫を邪魔する分子を抑え込む

この発見により、これまでは免疫治療薬が効かないと思われていた、直腸がんや前立腺がんといったがんの患者の一部にも、免疫治療薬の使用が広がる可能性がある。免疫治療薬は高価だが、これまでは主に予後の悪い皮膚がんの一種、悪性黒色腫(メラノーマ)や肺がんでしか劇的な効果は認められてこなかった。

「(効果が期待できることを示す)遺伝子的特徴が見つかった人は、チェックポイント阻害薬を使った治療を受けるべきだ」と、ジョンズ・ホプキンス大学のルイス・ディアス准教授(腫瘍学)はあるインタビューで語っている。ディアス准教授は後者の研究論文の筆頭著者だ。

これらの研究は、5月22日にシカゴで開幕した米国臨床腫瘍学会(ASCO)年次総会で発表された。後者の研究は、米医学誌ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン(電子版)にも掲載された。

チェックポイント阻害薬は、免疫系が腫瘍を攻撃するのを妨げる「チェックポイント」と呼ばれる分子の働きを阻害して効果を上げる。現在、アメリカで承認されているのはメルクの「キートルーダ(一般名:ペンブロリズマブ)」に、ブリストル・マイヤーズ・スクイブの「オプジーボ(一般名:ニボルマブ)」及び「ヤーボイ(一般名:イピリムマブ)」がある。いずれも過去2年にわたってASCO年次総会の中心的話題となり、今年もそうだった。

3つとも悪性黒色腫の治療薬として承認されている。オプジーボは今年3月、肺扁平上皮がん(全肺がんの約4分の1を占める)の治療薬としても承認された。

ASCO年次総会で発表された研究では、オプジーボには非小細胞肺がん(扁平上皮がん以外の肺がんの多くを占める)の患者の生存期間を伸ばす効果があったことが示された。

化学療法の薬、ドセタキセルを投与された患者の全生存期間の中央値が9.4カ月だったのに対し、オプジーボを投与された患者は12.2カ月だったという。そのうえ、副作用はオプジーボのほうがずっと少なかった。

腫瘍にPD-L1というタンパク質(特定のチェックポイント阻害薬が効果を上げるだろうことを示すもうひとつの物質)が発現している患者であれば、予後はさらによくなる。そうした患者では、ドセタキセルを投与されている場合の全生存期間の中央値が9カ月なのに対し、オプジーボを投与されている場合には17.2カ月だった。

「無作為化試験だと、みんなこの種の違いには気がつかなかっただろうと思う」と、デーナ・ファーバーがん研究所(ボストン)のパシ・ジャンヌ博士は言う。ジャンヌ博士は肺がんの専門家だが、この研究には参加していない。

今夏、非小細胞肺がんの治療薬として承認申請予定

ブリストル・マイヤーズが資金を出した臨床試験は、プラチナ製剤による化学療法での治療をすでに受けた進行がんの患者582人を対象に行われた。今年夏、同社は非小細胞肺がんの治療薬としてもオプジーボの承認を申請する予定だ。

ASCO年次総会で発表された他の研究では、オプジーボの投与により進行肝がんの患者の19%で、キートルーダの投与により頭部や頸部のがんの患者の25%で、腫瘍がかなり縮小することが確認されたという。ちなみに現時点で肝がんの治療薬としてFDAから承認されているのはバイエルとアムジェンが開発したネクサバールしかない。

チェックポイント阻害薬が腎臓がん、膀胱がん、胃がんなどのがんの一部の患者にも効果がある可能性を示す研究もあった。だが大腸がんや前立腺がん、すい臓がんへの効果を示す証拠はほとんど見つかっていない。

では、チェックポイント阻害薬が非常によく効くがんと、そうでないがんがあるのはなぜだろう。

ひとつの考え方としては、肺がんや悪性黒色腫はしばしば、タバコの煙や紫外線といったDNAにダメージを与えるものが原因で起こる。だから「1つの腫瘍につき何百もの変異がみられる」とディアス准教授は言う。これは他の腫瘍よりも多い数字だ。そのために免疫系が、がん細胞を破壊すべき相手だと容易に認識できるのかもしれない。

だがもっと変異が多いがんもある。それも「ミスマッチ修復」の欠損を伴う変異だ。この欠損があると、細胞分裂の際にDNAに異常が起きても修復がうまくいかない。そして突然変異が積み重なっていってしまうのだ。

打つ手のなかった腫瘍が縮小

大腸がんの5%を占める「リンチ症候群」の患者では、このミスマッチ修復の欠損がみられる。リンチ症候群は遺伝性で、がん、特に大腸がんを発症するリスクが高くなる。その一方で遺伝性ではない大腸がんの約10%にもみられるし、前立腺がんやすい臓がんなどほかの多くのがんでも数%にはみられるはずだとディアス准教授は言う。

この仮説を証明するため、研究チームは小規模な研究を行った。他の治療の効果が見込めなくなった進行がんの患者を対象にキートルーダを投与してみたのだ。

ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシンに載った論文によれば、この欠損のある10人の大腸がん患者のうち4人では腫瘍がかなり縮小した。だが、欠損のない患者ではそうした効果はみられなかった。また、大腸以外のがんにかかっていて欠損のある患者7人のうち5人(71%)でも、腫瘍の縮小がみられた。

この欠損がある直腸がん患者の生存期間はない患者より長かった。ただし、どれほどの期間かはまだ分かっていない。というのも多くの人が今も生存しているからだ。

DNAシーケンシングにより、この欠損のある人にできた腫瘍には平均して1782もの変異があった(ない人ではたった73個)。

(写真:Jessica Kourkounis/The New York Times)

研究に参加した患者のひとり、ステファニー・ジョーホーはリンチ症候群だ。母は44歳で大腸がんになり、6年後には子宮がんになった。ジョーホーはもっと運が悪く、大腸がんだと診断されたのはニューヨーク大学を卒業してすぐのことだった。

2度の手術に2種類の化学療法を受けたが、がんの進行は止められなかった。万策尽きて、大量の麻薬がないとひどい痛みに襲われるようになった。ジョーホーはニューヨークでの仕事をやめてフィラデルフィア近郊の実家に戻ったが、ほとんどベッドに横たわったままだった。

ところがキートルーダの投与を受け始めると、腫瘍は小さくなり始めた。痛みもぐっと楽になり、麻薬を使わなくてもよくなった。その後、禁断症状の治療のために短期間、入院することになったけれど。

「こんなに調子がいいのは4年ぶり」とジョーホー(25)は言う。

(執筆:Andrew Pollack記者、翻訳:村井裕美)


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