トランプ次期大統領が完全にそっぽを向き、もはや幻と化しそうなTPP。それでも協定発効を諦めない日本側には、何か引くに引けない理由があるのか?
TPPの発効には、参加12ヵ国の国内総生産(GDP)のうち85%以上を占める、最低6ヵ国の批准が絶対条件。しかしGDP比で全体の60.4%を占めるアメリカが「やーめた」と言えば、その時点で発効は不可能なのだ。
そんな「死んだも同然」のTPPについて、いまだに日本の国会が批准に向けて議論し続けているのも異常だが、こうなってしまった以上、TPP消滅後の「後始末」と、トランプがTPPに代わって進める気マンマンの「日米FTA」について検証を進めるべきだろう。
で、最初にハッキリさせておきたいのが、すでに「TPP発効」の前提でバラまかれた、あるいはこれからバラまかれようとしている「TPP対策予算」についてだ。その“利権”については49号の本誌でも取り上げたが、今回はより深く見ていく。
2015年の11月、政府はTPPを見据えた「総合的なTPP関連政策大綱」を決定。そこで掲げられた政策に対して、すでに、合計1兆1906億円という巨額の予算が組まれている。
その中身は主に、「攻めの農林水産業への転換」「地域の『稼ぐ力』強化」「食の安心・安全」などだが、問題は、いずれの予算も「TPP発効を前提にした補助金や対策費」だということ。だったらTPP自体が消えかかっている今、その予算はどうなっているのか?
TPP交渉をウオッチし続けてきた、PARC(アジア太平洋資料センター)事務局長の内田聖子氏は、ため息交じりにこう話す。
「結論から言えば、すでにどんどん使われてしまっています。内閣官房のTPP政府対策本部の担当者に聞いたところ、『2015年度分の予算は執行。2016年度予算も各省で適切に執行されている』との答えでした」ちなみに、TPP対策の名の下に予算を組んでいるのは、TPP参加国のなかで日本だけなのだとか!
「ニュージーランドやオーストラリアの2016年度予算を調べてみましたが、TPPに関連した対策予算のようなものは、何ひとつ組まれていませんでした。でも、それが普通なのではないでしょうか。まだ批准も済んでいなければ正式に発効もしていない協定の『対策予算』を組むということ自体がありえない話ですから。しかし、日本ではそれが当たり前のように行なわれていたのです」(内田氏)
しかも政府は、そのやり方をまだ続けようとしている。
「今国会で、『TPP批准』とセットに、来年度の予算に向けた『TPP対策関連法案』を採決しようとしているのだから驚きます。本来なら、それをやめるだけでなく、使ってしまった対策予算も『国庫に返納します』とするのが筋ではないでしょうか。
なぜ発効前にもかかわらず、これだけの予算が組まれることになったのか。政府に見通しの甘さはなかったのか。きちんとした検証が必要だと思います」(内田氏)
次に注目したいのは、中小企業について。、TPP政府対策本部が公開している分野別資料の中の「中堅・中小企業分野」を見ると、TPPが中小企業の発展の契機になると猛烈にアピールしながら、8項目、総額約221億円(2015年度補正予算)のTPP対策予算が組まれている。ほかにも、保険分野や食の安全にかかわる規制についても、TPPを前提にした規制緩和がすでに進められているのだ。
アメリカがTPPを離脱すれば、こうした巨額の予算も規制緩和も、すべては大義名分を失う。11月21日にトランプ次期大統領がビデオメッセージを通じて宣言したことを額面通りに受け取るなら、今後は「日米FTA」の交渉に移行していくことになる。しかしその前に、安倍政権は、きっちりこれらの「落とし前」をつけるべきではないだろうか。
発売中の『週刊プレイボーイ』51号では、トランプが日本に仕掛ける「日米FTA」について、長らくTPP交渉をウオッチしてきた専門家と弁護士が徹底検証。TPPよりはるかに厳しい条件を突きつけてくることが予想される「トランプ版FTA」の中身を、是非ご覧いただきたい。
(取材・文/川喜田 研)
■週刊プレイボーイ51号「トランプが仕掛ける日米FTAがヤバすぎる!!」より
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