フェラーリF1チームが、3Dプリンティングの技術をピストンの製造に応用して、2017年型F1エンジンの大幅なパフォーマンス向上に役立てようとしている。
昨年、シーズン開幕前の高らかな宣言を自ら裏切ることになったフェラーリは、セルジオ・マルキオンネ会長の指示を受け、徹底した秘密主義のもとでマシン開発を行ってきた。コードネーム「668」が与えられた新車の開発は、オンスケジュールで進んでいると言われ、2月24日にフィオラノでの「フィルミングデイ」でデビューした後、オンラインでの発表会が開かれる予定だ。
だが、プレシーズンテスト用のマシンに搭載されるパワーユニットは、エンジン開発プロセスの「最初の一歩」でしかない可能性が高い。
エンジンチームから抜擢されたテクニカルディレクターのマッティア・ビノットは、新型パワーユニットが大きなブレークスルーになることを期待している。そして、その最後の仕上げは、エンジン部門のチーフデザイナー、サッシ・ロレンツォと、組み立ての責任者であるエンリコ・グアルテリに託される。
新しいエンジンの最大のポイントは燃焼にある。最新の渦流ジェット点火システムへの取り組みにより、燃焼室内の圧力を大幅に上げることができたのだ。具体的には、マニエッティ・マレリ製の新しいマイクロインジェクターが、イグニッションチャンバーでの理想的な火炎の発生に役立ち、燃費を抑えながらパフォーマンスを向上させるという。
ただ、この変更に伴って、エンジンはこれまで以上に大きなストレスにさらされる。燃焼室内の圧力は400バール以上に達し、温度も大きく上昇して、信頼性の問題の発生が危惧されるのだ。
こうした問題を回避しながら性能目標を達成するため、フェラーリはエンジン設計の考え方を根本から見直す必要に迫られた。その一環として、現在彼らは、鋼合金を使った画期的なピストン設計のコンセプトをテストしている。
マニュファクチャラーがエンジンに使用できる素材は、FIAによって制限されているが、フェラーリはピストンの素材にアルミニウムを使うという従来の「常識」を覆そうと試みている。アルミニウム合金は鋼合金より軽量である一方、変形に耐える能力や、極限的な温度でも壊れない能力では鋼合金に劣っている。このジレンマを解決すべく、ピストンに最適な素材を探してきたマラネロのエンジニアたちは、最新の3Dプリンティング技術の応用を検討しているらしい。これは一般の製造業では、「付加製造(アディティブ・マニュファクチャリング)」と呼ばれている技術だ。
これまで3Dプリンティングの用途は、風洞モデル用のプラスティック製部品の試作などに限られていた。だが、この技術がもたらす設計の自由度、そして製造時間の短縮は、金属製部品の設計開発にも新たな領域を切り拓いた。この技術を金属に応用すれば、素材の薄い層を一層ずつ積み重ねていくことにより、伝統的な金属加工の技術では不可能だった、きわめて複雑な形状の製品も作れるようになるからだ。
F1のエンジンには、鋳造や鍛造といった普通の製造法で作られる鋼合金のピストンは適さない。しかし、3Dプリンターのように薄い層を重ねていく製造法であれば、たとえば内部がハニカム構造になったピストンの設計も可能になり、鋼合金の利用が視野に入ってくる。つまり、重量面でも不利にならずに、強度面のアドバンテージを生かせるのである。
この技術を研究しているのは、おそらくフェラーリだけではないだろう。だが、ビノットは、これによる性能面の向上ができるだけ早い段階で、うまくいけばシーズンの開幕戦から、コース上で発揮されることを期待しているという。
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