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2017年2月7日火曜日

三流経営が掘った墓穴 東芝“虎の子”放出で始まったカウントダウン


磯山友幸
 巨額損失発覚で破綻目前の東芝が“虎の子事業”を分社化する。残るは原発事業の片輪走行だが、損失爆弾はその片輪の中。いよいよ秒読みが始まった。 

「東芝は一流の技術を持っていますが、経営者がダメだと会社はこうなってしまうんだということを痛感しました」 

 東芝の若手技術者はこう言ってため息をついた。 

 医療関連、家電製品と部門が売却されて仲間が減ったうえに、ひとり、またひとりと会社を去っていく。将来性のある優秀な人材から見切りをつけて転職しているのだ。人が減った分、仕事はどんどんキツくなる。将来不安もあって精神を病む同僚も目立ってきた。 

●「実質的に銀行管理」 

「今も東芝を愛している」というこの若手技術者も、ついに転職することを決めた。技術だけでは会社がもたないことが分かり、経営の経験を積んで技術が分かる経営者になりたいという。

「昨年の段階から東芝は実質的には銀行管理状態だよ」 

 そう外資系ファンドの幹部は言う。東芝は昨年3月末、東芝メディカルをキヤノンに売却することを慌ただしく決めたが、それも銀行の東芝に対する貸付金を「破綻懸念先債権」など不良債権化しないための「便法」だったというのだ。 

 実際、本当に売却手続きが完了したのは昨年末になってからだったが、何としても東芝の3月末のバランスシートを見かけ上、債務超過にしたくなかったというのである。粉飾決算で傾いたはずの会社が、決算書づくりのために事業の切り売りを迫られる。何とも皮肉な展開だ。 

 だが、東芝の“再建策”に、「自社の社員を守るなんて発想はないね」とこのファンド幹部は突き放す。実際、中国の美的集団に売却された家電部門の中堅幹部は「昨年末のボーナスが信じられないほど減った」と嘆く。 

 過去の粉飾決算のツケを払うだけでも大変だが、昨年末に新たな問題が加わった。東芝の子会社であるウェスチングハウス(WH)が買収した原発建設会社CB&Iストーン・アンド・ウェブスターで「数千億円規模」の損失が発生することが明らかになったのである。原発工事の原価見込みが甘く、工事が進むほど、損失として現金が出ていく。まさに「泣きっ面に蜂」だ。 

●東日本大震災で一変 

 東芝は急遽、半導体部門の分社化を打ち出したが、結局これも1年前の決算書づくりと同じ「便法」である。またしても稼ぐ力のある「虎の子」を切り離せば、残った東芝はますます自立できなくなる。政府系金融機関や政府系ファンドによる出資の声が出ているのは、要は最終的に「国民負担」で処理する、ということに他ならない。 

「実は東芝はあの時つぶれていたんです」──。粉飾決算が表面化する前、経済産業省の幹部が言っていた。もう時効だと思ったのだろう。 

 あの時とは2009年春のことだ。リーマン・ショックの影響で国内企業が苦境に立たされた。その最も深刻な例が東芝だった。当然、経産省が先頭に立ち、他の省庁や銀行も協力して東芝をひとまず危機から救った。 

 ところがそこに11年、東日本大震災が起きる。原発ビジネスを巡る環境が一変。買収して抱えていたWHの資産価値が目減りした。ところが経営陣は巨額の損失計上を避けるために、イケイケドンドンの事業計画を掲げ続け、粉飾がまかり通るようになった。 

 東芝に原子力だけを残しても、「国は助けてくれるに違いない」というのが東芝の経営者や銀行の考えなのだろう。だが、過去の失敗を繰り返したくない経産省は救う気がないようにも見える。原子力技術を日本に残すことは必要でも、東芝という企業体を残すことと同義ではない。 

「WHを引き取るところなんて、どこもないだろう」と経産省の大物OBも言う。東芝の原子力事業と、日立製作所と三菱重工業が持つ原子力事業と統合する案もささやかれるが、損失額の確定すらできないWHがもれなくついてくるのでは、日立も三菱もおいそれとは首を縦に振れない、というわけだ。 

 何らかの「便法」でとりあえずこの3月末の決算を乗り切ったとしても、東芝がこの断末魔から抜け出すのは難しい。WHの引き取り手が出てこなければ、いよいよ秒読みが終わりに近づく。(ジャーナリスト・磯山友幸) 

※ AERA 2017年2月13日号

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