https://edtechzine.jp/article/detail/1313
立ち上げから1年半、初の資金調達に成功――「この上なく優しい情報端末」を目指して
G's ACADEMYはこの夏、2回のYOUTH CAMPを開催した。7月31日から4日間開催された1回目は中学生から高校生まで合計14人が参加。半数以上が男子だったが、女子も4人が受講した。HTML/CSS、JavaScriptなどのプログラミング言語を学び、オリジナルのWebアプリを作成するところまでを4日でこなす。東出氏はゲストスピーカーとして2日目に講演した。
東出氏はまず、起業に至るまでを振り返った。「子どもの頃からものづくりが好きだった」と切り出し、「小さい頃から多趣味で、ザリガニを2年飼ったこともあるし、蒸気機関を作ってみたり…」と続ける。起業に影響しているのが中学2年生の時の出来ごとで、現在のアイデアにつながるロボット制作を試みたり(「その時は失敗して、いったん興味がなくなった」とのこと)、Appleの創業者であるSteve Jobs氏の名言集を読み、「2020年に起業するという目標を立てた」りしたという。
その前には、今の東出氏につながるとも言える重要な原体験をしている。10分以上飛ぶグライダーを作ったところ人気で、中学校の学園祭において数百円で販売した。「約50基を用意していたと思うが、3分もしないうちに売り切れた」という。「自分が作ったものをいいと言って喜んでもらえる」体験は貴重だったようだ。やはり起業する運命だったのだろう。
高校1年の時には個人事業主になっていた東出氏だが、現在を決定づけたのは高校2年の時に応募した東京都主催のスタートアップコンテスト「TOKYO STARTUP GATEWAY」だ。「能動的かつ直感的なロボットで、今までの情報端末の限界を超える」といったコンセプトで、見事優秀賞を受賞した。獲得した賞金を一部資本に当てて立ち上げたのが現在の会社、Yokiだ。
Yokiのビジョンは、「真にパーソナライズされた世界を作り、多様性のある世界を作る」だ。そのビジョンの下、「この上なく優しい情報端末」をミッションに掲げる。
そこで重要になるキーワードは「感情のデータ」だ。センサーが取った個人のデータをビックデータとして扱い、個人にフィットした服を作るといったことが可能になりつつある。これまでわれわれは自分に合う服を探してきたが、服がわれわれに合わせてくれる時代になる。服だけでなく、食品など身の回りのさまざまなものが個人に合わせる時代になると予想されているが、さらに東出氏は一歩踏み込んで「感情のデータを拾えない限り、本当の意味で個人にフィットしていると言えないのではないか」と考える。
例えば同じフィットネスアプリの利用者でも、“痩せたいと思っていても痩せ方がわからない人”と“特に痩せたいとは思っていない人”で成果は大きく変わる。「その人の心の情報が拾えて初めて、本当の意味でパーソナルと言えるのではないか」と東出氏は言う。
それを実現するためには、センサーでユーザーのデータを取るだけではなく、会話などコミュニケーションによって距離を縮める必要がある。これにより、パーソナライズされた情報やサービスを提供できる情報端末を作ろうというのが、「この上なく優しい情報端末」との言葉に込められた狙いのようだ。
こういった考えに基づき、東出氏らはロボットの「HACO」、そして開発環境の「HACREW」を開発している。この日はうれしいニュースもあった。前日にベンチャーキャピタルNOWより出資を受けることが決定したのだ。NOWはクラウドファンディングCAMPFIREなどで知られる家入一真氏が中心のベンチャーキャピタルで、東出氏は得られた資金を利用してHACOとHACREWの製品販売に向けての準備を進める。
当初の目標だった”2020年”よりも3年前倒しでの起業となったが、これについては「自分が目指していた世界が思ったより早く来そうだと思ったから」と説明した。一方で、会社設立から1年半、ゆっくり着実に進めてきた。「ああでもない、こうでもないとプロトタイプを繰り返している」からだそうで、「最初の資金調達までにこんなに時間がかかるというのは、(スタートアップとしては)普通に考えると遅い」と認める。スタートアップと聞くと急成長と連想しがちだが、マイペースで進めていくのが東出流のようだ。
続いて東出氏が大切にしていることを5つ挙げた。
- 「ネガティブであることに、ポジティブになる」(ネガティブに考えがちだが、そんな自分をポジティブに受け入れる)
- 「小説や映画に時間を多く割く」
- 「何もできないという自覚を持つ」(人に頼らないと何もできないという自覚を持って生活する)
- 「1日を24時間以上にする」(人に手伝ってもらうことで、1日は24時間以上の実績を生み出せる)
- 「人に期待する時は、同じだけ裏切られるかもしれない」(そうすれば、がっかりしない)
このプログラミングキャンプに登壇しながらも、実は一切コードは書けないという東出氏。自分ができない部分は素直に人を頼ることで、さらに価値を生み出すのが東出氏のスタンスだ。
なぜプログラミングをやろうと思ったのかが大切
参加者たちが訊いた、ロボットやビジネスのこと
後半は、G's ACADEMY YOUTH CAMPに参加した学生全員が東出氏に質問をした。東出氏の事業や起業に関するものもあれば、意見やアドバイスを求めるものもあった。
高校1年生の男の子は、ロボットについて、「ロボットが普及して力を持ち、反旗をひるがえすなど良くないことが起こることはあると思いますか?」と質問。東出氏は、人工知能に楽観論と悲観論があることを紹介しながら、「どちらが正しいのかはわからない。ロボットが自我を持って反旗をひるがえすことはないと思うが、一人の人間がものすごい力を持つようになることは怖いと思う。そうなったら、その部分をよくすればいいと考えている」と東出氏。
また、一体どうやって学業とビジネスを両立するのか――。これは誰もが気になるところだ。「学校と仕事の両立はどうやっているのですか?」と中学2年生の女の子がストレートに聞くと、東出氏は「通った高校にはテストがなかったし、大学に入ってから学業は超不真面目」と笑った(東出氏は高校までシュタイナー教育の学校に通った)。また、「(大切にしていることの1つである)1日24時間以上にするという話につながるが、時間をかければ成果が上がるというものではない」と持論を明かした。
高校3年生の男の子は、「起業の時の親の反応は?」と尋ねた。すると東出氏は、「一切親の言うことを聞かずに育った」と苦笑。両親は、「会社をやっていることに賛成ではないようだが、言っても無駄だと諦めている」という。
「最終的な人生の目標は?」と質問したのは、勉強や読書が中心の生活という中学2年生の男子。これに対し東出氏は、「コンビニってつまらないって思っている」と切り出し会場を引き付けた。海苔がパリパリしているおにぎりがいい、ふやけたおにぎりがいい、と人の好みはさまざまのはず。しかし、現在われわれが生きる社会ではどこに行っても同じような大型ショッピングセンターがあるなど、小さなニーズに対応していない。小さなニーズを解決していくことで、全体として見た時に社会問題が解決されるのではないか、と考えている。「大きな組織が成し遂げること、個人が成し遂げることはそれぞれ異なり、その両方の世界があって良い」(東出氏)。このように突き詰めていくと、社会問題の解決がやりたいことだという。
「(事業に)失敗したらどうしますか?」といった問いに対しては、「複数の団体から10万円ずつ収入がある状況を目指している。リスクはあまり負いたくない方」と現実的な面を見せた。Yokiのメイン事業以外にも5つほどプロジェクトを動かしており、数年かけて定期的に収入が入る形に持っていきたいと考える。また、Yokiのスタッフにも会社は生活を保障しないと伝えている。「だから副業OKだし、”自分で自分の身を守ってください。Yokiはそれを支援します”と言っています」と話した。副業を推進するのにはポジティブな理由もあり、全く異なる業種のアイディアや技術が、Yokiでも生かされるかもしれないと考える。
自分のやりたいことをどう貫くか
自分の悩みを相談する参加者も多かった。中学1年生の女の子は「絵を描きたいが、やる時間がとれない。どうしたらいいですか?」と聞いた。東出氏は、「1枚絵を描くだけだったらそんなに時間は使わない。その絵についてブログを書いてみて反響があれば、自分だけではなく他の人も認める才能があるということ。そうすると、変わってくるのではないかな」と答えた。
なお、東出氏は学校の宿題などやらなければならないことでも、「嫌いなことや、無理なことはやってこなかったかも」と振り返った。「怒られることもなかった。”こいつはこういう人だから仕方がない”という状況になっていた」と苦笑した。東出氏は高校までシュタイナー教育を行う学校に通ったがこれについては後で、「一般的な学校に通っていたら、どこかで歯止めをかけられたかもしれない」と振り返った。
「親から部活をやめろと言われ、部活(バスケット部)と勉強の両立に悩んでいる。今までの人生で何かを諦めたことはありますか?」と悩みを打ち明けたのは高校2年生の女の子。東出氏は、「これを目指したいというのがあり、逆算して最短のアプローチは何かと考え、そこから取捨選択している」と答えた。そして、質問者に対して「バスケットのモチベーションは?」と聞き、女の子が「好きなことはバスケしかない」と答えると、「それならば、やめない方がいいと思います」とアドバイスした。
なぜコードを書くのか?を考える
プログラミングキャンプらしく、「ものづくりをやってみたいが何を始めればいいか?」との質問もあった。質問したのは「将来の職業の幅が広がるかもしれない」とこのプログラムに参加した高校1年生だ。「(ものづくりの)アプローチがコーディングでも、木を切ってみるでもいいが、歴史上のあるところで『これ以上のことをやるにはプログラミングが必要』となったはず。木を切って、歯車を作って、それでも無理だからプログラミングが必要なんだ、といった風に、なんでプログラミング必要なのかを考えながらものづくりをするといい」と自身の考えを話した。
「プログラミングができない」という東出氏は、「なぜプログラミングをやろうと思ったのかが大切」と語る。プログラミング必修化についても、「“なぜコードを書くことが必要か”を理解せずにやるのは難しい。道具が目的化してしまう」と警告した。Yokiで開発中のロボットはテクノロジー学習市場も狙っており、「なぜコーディングするのかを確認しながらできるものにしたい」という。単にプログラミング教育を必修化すれば、子どもに可能性が広がるわけではないと見る。
起業家、10代と聞くと、さぞやソーシャルネットワークなどを使いこなしているのだろうと想像してしまうが、実は自称”コミュニティ恐怖症”。「使っているのはTwitterぐらい」という。両親の教育方針もあって家にTVはなく、最近までインターネットやSNSは全くやらなかった。「スマートフォンネイティブという言葉があるが、僕はiPhone Xネイティブで、スマホを持ったのはごく最近。学生時代、情報に触れない生活をしていた。情報過多にならなくて良かった」と語った。
参加者それぞれが、興味や疑問について語り意見を交わす機会となった今回の講演。東出氏のコメントはおのおのに響いたようだ。
0 件のコメント:
コメントを投稿