全国各地に社員が!(ソニックガーデン提供)
ソフトウェアを開発するIT企業、ソニックガーデンは、「全社員リモートワーク」を実現させている。一体どのような経緯で社員全員のリモートワーク化が実現したのか。その歴史と、全社員リモートワークをどのように成り立たせているのか探ってみた。
全社員リモートワークに至った経緯
代表 倉貫義人氏(ソニックガーデン提供)
ソニックガーデンの代表を務める倉貫義人さんは、自身のブログで物理オフィスのない完全リモートワークに至った経緯をつづっている。つまり全社員が各拠点でそれぞれにリモートワークを行い、テレビ会議とバーチャルオフィスを組み合わせた働き方スタイルだ。
そこに至るまでには10年の歳月を要した。ちょうど10年前、2008年頃は浜松町の大きなビルの一室に物理オフィスが存在していた。大手企業の社内ベンチャーとして始まったこの会社は、IT企業ならではのステップアップを遂げていく中で、着々とリモートワーク化へと進んでいった。
ペーパーレス→クラウド化→メールのチャット化→テレビ会議
2011年に独立し2012年には外苑前の小さなオフィスで仕事をしていた。中途採用をはじめたところ、初めての応募が兵庫県の社員だったことから、工夫をしながらリモートワークを開始。もともとアイルランドに1名社員がいたそうなので、リモートワークに抵抗はなかった。
そしてリモートワーカーが増えていく中、試行錯誤の末、2014年には「バーチャルオフィス」の仕組みを取り入れた。他にもチャットツールなど有名なツールはあったが、なかなか自分たちのやりたいことが実現できなかったという。そして自分たちで作り上げたのが、バーチャルオフィス「Remotty(リモティ)」だ。
Remottyの画面(ソニックガーデン提供)
2016年には、使用する人が減った物理オフィスを撤廃。来客用などの事務所として都内に1か所、神奈川と岡山に1か所ずつ「ワークプレイス」を計3か所用意しているが、通常業務は完全にオンライン上のバーチャルオフィスで行われている。
バーチャルオフィスで実現可能になったこと
全社員リモートワークを成功に導いたのは、バーチャルオフィスの「Remotty」だった。具体的にはどのようなことができるようになったのか。
「オフィスで行うことすべてをオンラインでできるように設計しました。他の社員がどんな顔で仕事をしているか見ることができたり、簡単にビデオ会議を始めたり、気軽な会話もチャットや掲示板上で行えたりします。それぞれの社員が自分のチャットスペースを持っており、そこでは『疲れたなぁ』『〇〇へ行ってきます!』など気軽につぶやけるようになっています。つまり物理的なオフィスと同じように、まるで隣に社員がいるかのような感覚で働くことができます」(高谷さん)
プログラマの高谷大樹さんによると、現在は全社員リモートワークで特に不便なこと、困っていることはないそうだ。困っていることが生じた場合は仕組みを変えたり、ツールで解決したりしているという。
ログイン=「論理出社」を義務付け
バーチャルオフィスでは、出社・退社はどのように判断されるのか。
「私たちはバーチャルオフィスにログインすることを『論理出社』と呼んでいます。基本的に仕事中のログインは必須になっています」(高谷さん)
いってみればログイン=タイムカード打刻。しかし、常にログインしていると、音声が飛び交うなどして仕事に集中できなくなることもあるのではないか。
「バーチャルオフィス誕生以前は、Skypeなどの音声通話ツールを用いて音声をつなぎっぱなしにするなどしていましたが、当事者以外の声が聞こえてわずらわしいという問題が出てきました。Remottyでは、自分や自分が関わるプロジェクトに関するコメントがついたときのみ通知が出て、必要に応じてちょっとした通話やビデオ会議を始められるため、騒がしいという問題は解決されました」(高谷さん)
開発合宿を開催。深く話をする機会も
リモート飲み会(ソニックガーデン提供)
ところで、全社員リモートワークとなると、社員同士が対面して会議や作業をする必要がある場合などはどうしているのか。
「もともと社員同士で会う必要があるときというのはほとんどありません。たまにリアルで会って開発を一緒にしたい、深く話をしたいという場合には、全国にいる社員の都合に合わせて、会う場所を決めています。例えば、今年は社員の住む静岡県と岡山県に数名で訪れ、開発合宿を行いました。また、『ビジョン合宿』という会社の文化や社員それぞれのビジョンなどについて話し合う機会も設けています」(高谷さん)
全社員リモートワークは、あらゆる不都合を改善したバーチャルオフィスツールによって実現可能になった。とはいえ、随時行われる“深くかかわりあう”合宿などを開催しているのを知ると、全社員リモートワーク成功の根底には、経営側と社員、社員同士の信頼性と絆が必要であるように見えた。
【取材協力】
株式会社ソニックガーデン
ソフトウェアを開発するIT企業。月額定額の顧問スタイルで提供する「納品のない受託開発」や、リモートワークのためのバーチャルオフィスツール「Remotty」の開発・販売を行っている。また、好きな場所で自由に働く社会を作るためのメディア「Remote Work Labo」の運営も行い、新しい働き方に取り組む企業に向けた情報発信を行っている。
(石原亜香利)
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