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森林組合に任せるのではなく、山林所有者が自ら森林の整備を行う「自伐型林業」。林業の大規模化が進められる中で、土佐の森・救援隊の中嶋健造理事長は、低コストで、参入容易な自伐型林業への転換が、中山間地域の再生につながると語る。
――中嶋理事長は異業種出身でありながら、林業の変革に挑んでいます。
中嶋 もともと、ITや経営コンサルタントの仕事をしていました。その後、高知県へUターンし、最初は棚田の保全を事業化できないかと、いろいろやっていたのですが、とても棚田では食べていけませんでした。
まず、米の売価は安いですし、棚田体験に来る人から、大きな金額を取るわけにもいきません。そうした時、ふと見上げると、周りは山林だらけなことに気づいたんです。
農地の面積はわずかで、ほとんどを山林が占めている。山林を使うほうが、事業として理に適っているのではないか。そんな考えで林業に興味を持ち、「土佐の森・救援隊」の前身となる森林ボランティア団体へ顔を出すようになりました。
――多くの場合、山林の管理は森林組合が行っていますが、「土佐の森・救援隊」は、山林保有者が自ら伐採・搬出を行い、収入を得る「自伐型林業」の普及を進めています。なぜ、自伐型に力を入れるようになったのですか。
中嶋 私が参加した森林ボランティア団体は、自分たちでチェーンソーを使って間伐し、出荷も行っていました。その姿を見て、「これは自分でもできるんじゃないか」と思ったんです。やってみると、実際に伐倒・造材・搬出などが少しずつできるようになり、さらに木材を売ることもできました。
しかも、その作業を1人当たりの日当に換算すると、平均3万円程度。20日間働けば月収60万円になります。「林業は儲からない」と思っていたので、驚きました。自伐型林業の可能性に気でき、自分たちで実践しながら、全国への普及にも努めるようになったのです。
小規模林業が雇用を創出する
――現在の林業の問題点について、どう見ていますか。
中嶋 現在の林業は、森林組合へ委託するのが主流になっています。
もともと、日本は自伐型が盛んだったのですが、1964年に木材の輸入全面自由化が始まると、輸入材に対抗するため林業の大規模化が目指されました。その担い手となったのが、森林組合だったのです。自伐をしていた森林所有者も、森林組合へ委託して大規模化すれば儲かると考えてしまいました。
しかし、それはとんでもない間違いです。大規模化している現行の林業は、約1億円もの機械投資をし、数名を雇用して行う高投資・高コスト型です。だから、儲けるのが難しいのです。
――自伐型によって、林業はどのように変わるのですか。
中嶋 自伐型は大型機械を使わず、機械を導入する初期費用は300~500万円程度です。また、私たちは、低コストで木材を搬出するための工夫など、ノウハウを蓄えてきました。自伐型はお金がかからないので、小規模でも十分に採算が合います。
それは多様な働き方、幅広い就労機会をもたらします。6次産業化や森の多目的活用といった他の仕事と組み合わせ、兼業で自立を目指すこともできます。例えば、高知の森林率は84%です。県内のどこへ行っても山林がありますから、あらゆる場所で雇用を創出することが可能です。
また、自伐型は環境保全の面でも優れています。大型機械を導入すると、山林に大きな作業道をつくらなくてはなりません。また、大規模林業は、コストを回収するために木を伐りすぎてしまうことがあり、山が荒れてしまいます。
――中嶋理事長は、自伐型林業による地域再生を提唱されています。
中嶋 日本の国土は70%が森林です。それに対し、農地はほんの10%にすぎません。どう考えても、土地の大部分を占めている林業へ目を向けるべきなのに、10%の農業に投資が偏っています。
また、農業を体験するグリーンツーリズムが持て囃されていますが、それが生まれたイギリスやフランスは、農地率が7割近くで森林率は1割前後。つまり、日本と状況が逆です。日本が主とすべき産業は、農業でなく林業なんです。
日本は、林業をするための気候にも恵まれています。温帯地域で降雨量も豊富。その結果、スギやヒノキ、クリ、ケヤキなど使える樹種がものすごく多い。一度伐ってしまっても、木が勝手に生えてきます。これほど条件の良い国は他にありません。
ところが、世界一の林業国はどこかというと、日本より緯度が高く雨量も少ないドイツです。ドイツは使える樹種が少ないので、トウヒなどの質の低い木をメインに扱っています。それでも、ドイツの林業はGDPで3兆円、就業者数は120万人にもなります。
一方、日本の林業はGDP1800億円、就業者数4万7000人。豊かな資源があるにも関わらず、その実力が発揮されていません。
全国で自伐の担い手を増やす
――高知県は、自伐型などを支援する「小規模林業推進協議会」を設立し、中嶋理事長が会長に就任されています。行政の対応も、変わってきているのですか。
中嶋 当初、自伐型は林業界から否定され、行政からも相手にされませんでした。しかし、他県を含めて成功事例をつくることで、徐々に変わってきました。
自伐型は、経営者として山林をマネジメントすることになりますから、仕事としても面白い。若い人も、林業に関心を持ちやすくなります。
中山間地域を再生する大きなプロジェクトとして、自伐の担い手をたくさん育てていきたい。今、全国で研修を展開しており、賛同者がどんどん増えてきています。「同じようにやれば、どこの中山間地域でも成功する」。そんなモデルをつくっていきたいと考えています。
1962年高知生まれ。愛媛大学大学院農学研究科修了。IT会社、経営コンサルタント、自然環境コンサルタント会社を経てフリーに。2003年、NPO法人「土佐の森・救援隊」設立に参画。山の現場で自伐林業に驚き興味を持ち、地域に根ざした脱温暖化・環境共生型林業が自伐林業であることを確信し、「自伐林業+シンプルなバイオマス利用+地域通貨」を組み合わせた「土佐の森方式」を確立させた。
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