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つたない英語の接客で、訪日客に人気を博しているスポットがある。現場で使われているのはカタコトの英語だ。なぜそれでも訪日客は不満を漏らさないのか。現場のスタッフたちに「カンタン英会話術」のコツを聞いた。第1回は「秋葉原のメイドカフェ」だ――。(第1回、全2回)
※本稿は、「プレジデント」(2017年4月17日号)の掲載記事を再編集したものです。
一緒にキュンキュンして“萌え”を伝える
メイドカフェといえば秋葉原。なかでも神的存在の「@ほぉ~むカフェ」には、1カ月に約5000人もの外国人が押し寄せるという。
「ご主人様(注:メイド用語で客のこと)は世界各国からいらっしゃいますが、アジアで多いのはやはり中国、韓国、台湾の方。ここ数年はタイからのご主人様も増えています」
こう語るのは人気メイドで、@ほぉ~むカフェを経営するインフィニア社長のhitomiさん。創業当初から勤務していることから、さぞかし英語が堪能かと思いきや、意外にも「むしろしゃべれない部類」だと言う。
しかしインタビュー前、店内に潜入していた我々取材班は、外国人客と楽しげに盛り上がっているhitomiさんの姿を目撃していた。英語が堪能というわけでないなら、いったいどうやって外国人客とコミュニケーションを取っているのだろうか。
「こんな私でも楽しく会話できるのは、言葉だけに頼らないからです。例えばアニメなど、外国人のご主人様と一緒に盛り上がれる共通の話題を見つけるんです。そうすればタイトルや主人公の名前など、単語レベルの会話で通じるので、あとは身振り手振りで、表情豊かにお喋りします。なかには英語も通じないご主人様もいらっしゃいますが、共通の話題があれば、ジェスチャーや顔の表情で伝わるんですよ」
確かにhitomiさんの英語は流暢というわけではないが、「アニメーション、ムービー、ジブリ」などキーとなる単語を軸にテンポよく話しかけ、オーバーアクション気味の身振り手振りと終始絶やさぬ笑顔で、コミュニケーションが成立している。外国人たちもとても楽しそうだ。会話の様子を見ていておや、と思ったことがある。会話の端々に日本語を織り交ぜているのだ。
「ここに来る外国人のご主人様は日本の文化に触れたいという方が多いので、日本語を挟みながらお喋りすると喜ぶんです。ですからあえて、会話の端々に日本語を入れるようにしています」
外国人客に人気なのがメイドとのチェキによる記念撮影。これも楽しく会話する際の取っ掛かりとなるという。
「一緒に写真を撮ったら、台紙にご主人様の名前を書いてプレゼントします。その際、ご主人様のお名前を、例えばカタカナで“マイケル”と書いてあげて、これ、マイケルって読むんです、と教えてあげると喜んでもらえます」
外国人客は“萌え”という文字も喜ぶのでよく書き添えるという。
「萌えがわからない外国人のご主人様には、一緒にキュンキュンしてもらって、恥ずかしそうに照れている感じになったら、それそれ! それが“萌え”です、と教えてあげます。英語で説明するより実際に体感してもらったほうが、喜んでもらえるし、気持ちも通じ合うんです」
同店では、新人メイドのために英会話教室を全10回で開催。さらに、全メイドに接客でよく使うフレーズを掲載した英会話ハンドブックも配布している。好評なのが、「その国の代表的なスポットや名物」。単語を言うだけで、会話の糸口になって盛り上がるという。
「例えば『ほえあ、あー、ゆう、ふろむ?』と聞いて、ご主人様が『オーストラリア』と答えたら、『カンガルー!』と返すとすごく喜んでくれます。どんな人でも、自分の国のことを1つでも知っていてもらえるとうれしい気持ちになりますよね」
言葉が通じなくても共通点を見つけて一緒に盛り上がろうとする姿勢、これが外国人が殺到する理由なのだ。
Maid in English(メイド イン イングリッシュ)
Maid in English(メイド イン イングリッシュ)
●「おかえりなさい ご主人様」:Welcome home my master !
●「~の国から来ました」:I come from the kingdom of ~
●「メイドは永遠の17歳です」:Maid is forever seventeen years old.
●「続けて言ってください『フリフリ!』」:Repeat after me “Furifuri”
●「萌えは、かわいいです」:Moe is cute !
●「~の国から来ました」:I come from the kingdom of ~
●「メイドは永遠の17歳です」:Maid is forever seventeen years old.
●「続けて言ってください『フリフリ!』」:Repeat after me “Furifuri”
●「萌えは、かわいいです」:Moe is cute !
日本のアニメの話なら強気で話せる
我々取材班はhitomiさんのアドバイスをもとに、メイドカフェに来ていたイギリス人と韓国人に、無謀にも英語で会話を試みた。
海外経験がほとんどなく、外国人と英語で喋ったことなんて十数年ぶりだったのでドキドキだったが、外国人観光客は意外にも非常に好意的で、一生懸命耳を傾け、理解しようとしてくれた。そのため、英単語をつなげるだけでも話が通じた。そもそもメイドカフェに来るような外国人は日本の文化が好きで興味を持っているので、日本人にも好意的に接してくれるのだろう。
やはり盛り上がったのはアニメの話。イギリス人は好きなアニメとして『らんま1/2』『聖闘士星矢』をあげてくれた。しかし、我々がそのアニメを観たのはかなり昔。内容を覚えておらず、それ以上会話が続かない。一方韓国人のほうは『君の名は。』が好きだという。韓国では日本とさほど変わらないタイミングで日本の人気アニメ映画が上映されているため、お互いリアルタイム。かなり話が続いた。なにより外国人から日本のアニメが好きだといわれると誇らしい気持ちになり、英語に対するコンプレックスが一気に和らいだ。もちろん自分がつくったわけではないが、WBCで日本が勝ってうれしいのと同じ理屈だろう。
(取材・撮影=山下久猛)
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