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プラズマ・核融合学会用語解説 電極間の放電で,グロー放電よりもさらに電流を増加させていくと端子電圧が急激に減少し,電流の増加とともに電圧が低下していく負性抵 抗特性を有するようになる。このときアーク放電となりアークプラズマが形成される.アークプラズマでは電子,イオン,中性気体原子・分子 の温度がほぼ等しく,5,000~20,000 K程度となっており,熱平衡の状態に近い熱プラズマになっている.電流密度の大きな放電電流は陰極から の電子放出により維持される.電子の放出機構は,プラズマによって熱せられた陰極からの熱電子放出が主なる場合と,水銀など融点の低い金 属では電界放出による電子の供給や,中性粒子やイオンの衝突による電子放出が関与している場合など複雑である.真空から大気圧領域まで広 い雰囲気中にわたってアークプラズマは存在し,大気圧中ではアーク柱内部において電子の平均自由行程が短いため,電子衝突電離ではなく熱 電離が主である.アークプラズマはアーク柱として観測される陽光柱と,電極付近で半径が小さく絞られている領域から構成されている.アー クのまわりのガス流によりアーク半径を細くする熱ピンチ現象を用いて,電流密度を高め単位体積あたりの電気的入力を増加させることも可能 である.電極と接する部分では正イオンが多い空間電荷層となり,陰極表面には陰極点が形成されている. 真空中の電極間では,電極材料が蒸発しプラズマとなって放電が維持される真空アークが生じる.電力用真空遮断器では真空アークの電流遮 断特性が利用されている.アークプラズマはアークランプをはじめとして電気溶接,鉱石などから目的とする金属材料だけをとりだすプラズマ 精練,高融点の金属を溶かすプラズマ溶解,各種のガス分解処理など,熱プラズマの特性を利用した様々な応用に使われている.高速の水流で アークプラズマを安定化させ,かつ放電管壁との熱遮蔽をしたアークプラズマを用いた高輝度の大強度光源も実用化されている. アークプラズマ 掲載号 74-11 285 Arc Plasma プラズマ・核融合学会用語解説 Ion Cyclotron Range of Frequency,すなわちイオンサイクロトロン周波数帯における高周波プラズマ加熱をいう.C-ステラレータに代表される 高周波加熱の草創期 には,シアアルヴェン波を用いた加熱が主流であり,Ion Cyclotron Resonance Heating (イオンサイクロトロン共鳴加熱)と呼 ばれた.その後,トカマクにおいて 加熱が試みられるように至り,Compresional Alfven波が,プラズマ中心に対して,より優れた近接性を持つ ことが明らかとなった. Compressional Alfven波はイオンサイクロトロン周波数において右周り円偏波となるので,イオンによる吸収が弱い.この問題は重水素の主イ オンに対して水素(あるいはヘリウム3)の小数イオンを加えることにより解決された.この加熱手法をマイノリティ加熱と呼ぶ.この加熱手法に おいてはイオン加熱が起こる.また,マイノリティイオンの量が多くなると,高磁場側から励起された波はイオンバーンスタイン波にモード変 換され電子により吸収される.この加熱手法を二種イオン混合共鳴加熱と呼ぶ. Compressional Alfven 波の励起には,通常,磁場に垂直方向に高周波電流を与えるループが使用され,これをアンテナと呼ぶ.アンテナ周辺か ら発生する不純物がプラズマ中に流入することが問題とされていたが,世界各国での研究の結果解決された.現在では中性粒子加熱とならぶ有 力な加熱手法として認められている.近年プラズマ 諸元の上昇と共に有限ラーモア半径効果が顕著となり,第二~三次イオンサイクロトロン高 周波加熱も可能であることが実証された.高次高周波加熱においては高エネルギーイオンテイルが発生することが知られている.また,最近の 大型トカマクでは電 子温度が高くなり速波の直接電子加熱も観測された.このように,多様な加熱領域が存在することがICRF加熱の一つの魅 力でもある.ICRFという呼称は相当広い範囲をカバーするので静電波を利用したイオンバーンスタイン波加熱をも含ませることがある. ICRF加熱 掲載号 66-5 014 Ion Cyclotron Range of Frequency Heating プラズマ・核融合学会用語解説 慣性閉じ込め核融合では,燃料が飛ぴ散るまでの非常に短い時間に十分な核融合反応を行わせる必要があるが,全燃料を高温度にまで加熱し なくても,燃料の一部のみを高温度に加熟し,そこで十分な核融合反応を起こせば,核反応で生じる高エネルギー粒子により周囲の比敷的低温 の燃料が加熟され核融合反応が爆発的に燃え拡がる.その結果,燃料の一部をあらかじめ加熟するのに要したエネルギーに比ぺて十分大きな核 融合出力(約1,000倍:燃料利得という)を得ることができる.これを核融合反応の点火,燃焼という.点火するには,輻射損失だけでなく,膨 張損失や熱伝導損失,核反応生成粒子の拡散損失を上回る核反応生成粒子による燃料の自己加熟を必要とするが,そのためには高温度に加熟し た領域(点火領域)で十分な反応が起こるだけの温度と点火領域の大きさが必要でそのしきい値が存在する(点火条件). 例えぱ,重水素と三重素の核融合反応で生じる 3.5 MeV のアルファ粒子による自己加熱を考えると,単位時間あたりのアルファ粒子による加 熟が輻射損失を上回るには約 4 keV の点火温度が必要であり,点火領域の大きさはアルファ粒子の飛程で決まり,点火温度近傍では,燃料の質 量密度と点火領域の半径の積が ρR ~ 0.3 g/cm2 となる.この値は地下核実験により確かめられていると言われている.温度を点火温度より高 くすると点火領減の大きさは小さくてもよい.なお,点火領域のみを高温度に加熱する慣性核融合では,磁場核融合と異なり,この点火条件を 達成するのに必要なエネルギーは科学的ブレークイーブン(投入エネルギーと核融合出力エネルギーが同じ)を達成するのに必要なエネルギー より小さいか同程度と見積もられている. ICF点火条件 掲載号 68別冊 051 ICF Ignition Condiction プラズマ・核融合学会用語解説 入力ドライバーエネルギーから圧縮燃料コアの熱エネルギーヘの変換効率を(ターゲット)結合効率と呼ぶ.球殻ターゲットを用いた理想的 な噴出型圧縮の場合,主にターゲットシェルの運動エネルギーが最終的なコアプラズマの内部エネルギーに変換されるため,結合効率は吸収効 率,流体力学的効率および伝達効率の積として与えられる.流体力学的効率は吸収エネルギーからターゲットシェルの運動エネルギーへの変換 効率であり,伝達効率はターゲットシェルの運動エネルギーから燃料の熱エネルギーヘの変換効率である.波長 0.35 μm 程度の短波長レー ザーを用いれば,80%程度の吸収効率が得られることがわかっている.また,充分に球対称な爆縮が実現すれば,伝達効率も100%近い値とな る.したがって,結合効率は主に流体力学的効率によって決定されると考えてよい. ICFの結合効率 掲載号 68別冊 054 ICF Coupling Efficiency プラズマ・核融合学会用語解説 ヘリカル装置やトカマク等のトーラス状磁場配位に不整磁場が印加されると,不整磁場に共鳴する位置に孤立した島のような磁気面領域,ア イランドが形成される.アイランドダイバータは,プラズマを閉じ込めるための入れ子状になっている閉じた磁気面領域内の周辺部に大きなア イランドを積極的に形成し,プラズマの中心からアイランドまで到達した熱と粒子をアイランドの周囲のセパラトリッ クスに沿って中性化板 (ダイバータ板)あるいは排気部まで導く方式のダイバータである.m/n = 1/1 のアイランドを利用したアイランドダイバータは,トロイ ダル方 向の1カ所に設備を局在させることができるため,特にローカルアイランドダイバータと呼ばれている.アイランドダイバータは高効率で粒子 を排気できる等の特徴を持っている. アイランドダイバータ 掲載号 71-7 166 Island Divertor プラズマ・核融合学会用語解説 軸対称円形断面トーラスにおいて,トーラス中心から磁気軸までの距離をR(大半径)とし,円形断面の半径(小半径)を a とすると,ア スペクト比は A= R/aである.A≫ 1 のような場合にはトーラス効果が弱く,A≒1~2の小アスペクト比トーラスでトーラス効果が最大になる. トーラスプラズマの解析的理論では,ε= A-1 = a/R≪1を展開パラメータとして,O(ε) あるいは,O(ε2 ) までトーラス効果を考慮すること が多い. 非円形断面トカマクでは,水平方向の磁気軸からプラズマ表面までの距離が小半径と考えられる.ステラレータやヘリオトロンでは,Rはト カマクと同様であるが磁気軸に沿って変化する断面形状を平均した小半径が用いられる.さらに,へリカル軸ステラレータでは,大半径もトー ラス方向に変化するのでRに対しても平均が必要になる.核融合炉としては,プラズマ周辺にブランケット等の空間が必要になるので,トカマ ク炉ではA≒3~4が適当と考えられる.一方,ステラレータ炉では,アルファ粒子閉じ込めの条件よりA≒7~10以下は容易ではないとされてい る. アスペクト比 掲載号 69-12 109 Aspect Ratio プラズマ・核融合学会用語解説 アドヴァンスト核融合とは本来,アドヴァンスト燃料核融合(Advanced Fuel Fusion)の意味であって,従来主に検討されてきた重水素一三重 水素燃料核融合(D-T Fuel Fusion)が遭遇すると予想される種々の課題を緩和すべくこれ以外の燃料を用いた核融合のことである.代表的なア ドヴァンスト燃料核融合反応を表1(136a.gif)に,それらの核反応断面積を図1(136b.gif)に示す.D-D核反応は障壁因子が小さいので低いエネル ギーでも比較的大きな核反応面積となるが,大きな共鳴は認められず核反応断面積の最大値はそれほど大きくない.D-3He核反応は400 keV近 傍に鋭い共鳴があり,核反応断面積は比較的大きなものになっている.これら以外のp-11Bやp-6Liなどの高Z粒子による核融合反応は,いずれ も障壁因子が大きく,したがってある程度の核融合反応率を得るためにはより高い粒子エネルギーが必要とされる.これらのアドヴァンスト燃 料核融合のうち,D-D核融合ではその核反応から発生する三重水素と主燃料の重水素によってD-T反応が起こる.これによって,D-T核融合の課 題の起因である14 MeV中性子がD-T核融合の約1/2発生する.一方・D-^3He核融合によって発生する14MeV中性子はD-T核融合の1/10以下と 非常に少なく,将来のエネルギー源として有望視されている. アドヴァンスト核融合 掲載号 70-9 136 Advanced Fusion プラズマ・核融合学会用語解説 エネルギーの消費,注入が存在する散逸力学系の相空間において,その軌道が t →∞につれて漸近する極限集合をアトラクタという.一定の 周期で同じ軌道をえがく安定な周期軌道はよく知られたアトラクタで,周期アトラクタと呼ばれている.従って,例えば,散逸力学系では任意 の初期値から出発した軌道が,t →∞につれてエネルギーの消費と注入がバランスすることにより周期アトラクタに巻き付いていく現象等が観 測される.アトラクタは,いい方を変えると近傍の軌道を引き付ける性質を持っている決定論的常微分方程式の解である.特に,相関次元が非 整数となることが多い非周期軌道からなるアトラクタは,無限の折り畳み構造を持っており,ストレンジアトラクタと呼ばれている.このよう に,軌道の性質はその概要をアトラクタの構造から知ることができるため,実験的に得られた時系列データから相空間上のアトラクタを再構成 する方法は,非周期軌道,すなわちカオスの同定に有効な手段の一つとなっている. アトラクタ 掲載号 74-2 257 Attractor プラズマ・核融合学会用語解説 放電に必要な外部エネルギーが遮断された後の電離気体をいう.これを用いた計測技術には、静的アフタグロー(static afterglow)法と流れア フタグロー(flowing afterglow)法とがある.静的アフタグロー法では,放電管内にガスを満たし,パルス放電を行う.プラズマ中の粒子やそれ らのエネルギーが各種の損失過程により減少していく様子を時間の関数として観測する.流れアフタグローでは,反応ガス(1)をバッファー ガスとともに高速で管内を流す.上流をプラズマ生成領域,下流を反応領域に分ける.反応の進行状況を管内の位置や反応ガス(2)の流量の 関数として観測する.アフタグロープラズマの特徴の一つは,外部電界が加わらないので電子はマックスウェルエネルギー分布になりやすい. 原子・分子の反応素過程の研究に用いられている.輸送係数,イオン-中性粒子反応,解離再結合過程,準安定原子同士の衝突過程等が調べら れている. 図:253a.gif 253b.gif アフターグロー 掲載号 73-12 253 Afterglow プラズマ・核融合学会用語解説 ターゲット表面をレーザーで照射すると,急速に加熟されてプラズマ化し表面温度および圧力が急激に上昇する.表面での温度勾配により熱 伝導波が内部へ伝わり,また圧力勾配により圧縮波(衝撃波)が内部へ伝播する.レーザー照射時の固体表面のプラズマの構造を模式的に図に 示す.ターゲット内部は,初期の冷たい領域(1)と,衝撃波により圧縮された領域(2)よりなる.その外部にはプラズマが急激に膨張し,密 度が急激に減少,温度,流速が急激に増大するディフラグレーション領域(3)が形成される.さらにこの領域はほとんど等温で膨張していく 希薄波領域(4)ヘと連続的に移行する.プラズマが表面から吹き出し,その反作用がディフラグレーション領域と圧縮領域の境界付近に高い 圧力を発生させる.これをアブレーション圧力と呼ぶ.この圧力がターゲットを圧縮,加速する力となる.ロケットが燃料を高速ガスとして放 出し,その反作用で推力をえるのと加速機構が相似であるため,アブレーション加速をロケットモデルで表現する場合が多い.アブレーション 圧力は吹き出しの量と噴出速度に比例して大きくなる.この吹き出しの大きさはm(=ρv)という量で測られ質量噴出率と呼ばれている. アブレーション加速 掲載号 68別冊 058 Ablative Acceleration プラズマ・核融合学会用語解説 ALAP: ICRP ( 国際放射線防護委員会 ) により 1958 年に提唱された最大許容線量に対する精神的な規定.線量-効果関係の直線性の考え方を基本に置 き,わずかな線量でも危険があるとし,無用な被曝はせぬよう,施設の設計,運転および被曝を伴う仕事に際し,現在の技術と経済的・社会的 条件を考慮して,線量を実行可能な限り低くすべきであると勧告したが,その後 ALARA の概念に変わった. ALARA: ICRP 勧告で,cost-benefit に基づく許容線量の考え方から, ALAP に代わって取り入れられた概念.すべての被曝は社会的および経済的な要因 を考慮に入れながら,容易に達成できる限り低く,かつ合理的に達成できる限り低く保たなければならないと変更された.この概念は ICRP が 線量制限体系に関して挙げている三つの要件,すなわち行為の正当化,防護の最適化および個人の線量限度のうち防護の最適化と同一の概念で ある.最適化のためには費用便益分析に基づく手順が主流であるが,そればかりでなく定量的,定性的な他の手法を取り入れていくことも重要 である. ALARA, ALAP 掲載号 74-7 273 ALARA,ALAP プラズマ・核融合学会用語解説 磁力線を復元力としプラズマの質量を慣性とする波動である.特徴的な伝播速度は 以下の式(1)で与えられアルヴェン速度と呼ばれる.ア ルヴェン波は,磁場の圧縮を伴わない shear Alfven 波に分類される.アルヴェン波のうち周波数がイオンサイクロトロン周波数より十分低い領 域を特に (狭義の) アルヴェン波と呼ぶこともある.この領域のアルヴェン波は簡単なMHD方程式で記述される.MHD方程式 の解の一つは Shear Alfven 波であるが, compressional Alfven 波は,プラズマ圧力の効果により音波の影響を強く受け,速波と遅波に分枝する. アルヴェン波の伝播は密度に強く依存する.現実の実験室プラズマは密度の勾配を持つので, ある一定のプラズマ密度の下で磁場垂直方向の 共鳴 (アルヴェン共鳴 ) を示す.共鳴層では有限ラーモア半径効果を無視できなくなり,いわゆる kinetic Alfven 波にモード変換する.一般にア ルヴェン波は吸収の弱い波で境界のあるプラズマでは離散スペクトルを持つ.しかし,この共鳴層が存在するとき静電波の性格が強まり波動-粒 子の相互作用が増大して連続スペクトルに移行する.これを利用した加熱をアルヴェン波加熱と呼ぶ. shear Alfven 波は周波数がイオンサイクロトロン周波数以下においてのみ伝搬可能である.イオンサイクロトロン周波数付近では磁場方向波数 が無限大 (イオンサイクロトロン共鳴) となり左回り円偏波である.したがって,不均一磁場中を磁場に沿って伝播する波はこの共鳴層でイオン による強い吸収を受ける.これを磁気ピーチと呼ぶ .この概念は初期のイオンサイクロトロン共鳴加熱に使われた.compressional Alfven 波は, イオンサイクロトロン周波数の上 下の領域においても伝搬可能である.イオンサイクロトロン周波数付近では完全な右周り円偏波となるのでイ オンによる吸収は逆説的に弱い. 式(1):015eq.gif アルヴェン波 掲載号 66-5 015 Alfven Wave プラズマ・核融合学会用語解説 重水素と三重水素を燃料とする核融合においては,エネルギーの80%が14 MeVの中性子で,残る20%が3.5 MeVのアルファ粒子として放出され る.中性子のエネルギーはブランケットによって吸収され熱となるが,一方,アルファ粒子は,トカマクのような磁場閉じ込め装置では磁場に よって捕捉され,プラズマイオンや電子との衝突過程を通してプラズマの加熱に寄与する.また慣性核融合においても,コアで発生したアル ファ粒子は周囲の燃料粒子との相互作用によってその加熱に大きな役割を果たしている.この加熱過程を総称してアルファ粒子加熱と呼ぶ.磁 場閉じ込め装置で言う自己点火とは,このアルファ粒子加熱のみでプラズマからのエネルギー損失分を供給し,ビーム入射などの追加熱を止め ても核融合反応が維持される状態をいう.プラズマ中の高速イオンは,エネルギーが高いほど電子との衝突がイオンとの衝突より支配的にな る.アルファ粒子の発生エネルギーは3.5MeVと大変高いため,アルファ粒子加熱は主として電子加熱である.例えば電子温度が10 keVの場合, アルファ粒子エネルギーのおよそ8割が電子に移る.核融合反応を維持するにはイオンを加熱しなければならないが,イオンは主に電子との温 度緩和過程を通して間接的に加熱される.このことから,自己点火装置においては電子のエネルギーの閉じ込め性能が十分に良いことが一段と 重要になってくる. アルファ粒子加熱 掲載号 73-5 230 Alpha Particle Heating プラズマ・核融合学会用語解説 プラズマ閉じ込め装置では,プラズマの周りを取り囲むように金属性の殻(シェル)が配置される.安定化シェルは,プラズマの動きによっ てその表面に誘起される鏡像電流がプラズマの変動に抗する磁気力を作り,それがプラズマの平衡維持や安定性に寄与する.円筒型のシェルの 厚みd,半径a,導電率σで決まる磁場の浸透時間(τ~μ0daσ)が,プラズマの放電時間または変動に比べ十分長い場合(10倍以上),シェル は完全導体として扱え,浸透時間に比べ短い成長の時定数をもつ不安定モードに対して安定化効果をもつ.浸透時間が短い薄肉の抵抗性シェル は外部垂直磁場との組み合わせによりプラズマ位置のフィードバック制御を行うことができる. 固定境界のスフェロマックでは,平衡保持の役目をなすフラックスコンサーバ(FC)と呼ばれるカットのない導電性シェルが用いられ, MHD的に安定な平衡配位がこのFCの形状によって決定される.また,自由境界スフェロマックでは,傾斜型およびシフト型のMHD不安定性が 頻繁に発生するが,導電性シェルはこれらのグローバルな不安定性の抑制に威力を発揮する.逆磁場ピンチ装置(RFP)では,トロイダルとポ ロイダル方向にカットの入ったシェルが用いられるが,カット数に比例して増大する誤差磁場が閉じ込め性能に影響を及ぼす.導電性シェルは 抵抗性シェルに比べ,ループ電圧や磁気揺動レベルが軽減される.このように,スフェロマックやRFPにおける導電性シェルの近接設置の要請 は,将来の安定で良好なプラズマ閉じ込めの長時間維持の実現に向けて解決されなければならない本質的な課題となっている. 安定化シェル 掲載号 75-4 301 Stabilizing Shell プラズマ・核融合学会用語解説 ドイツのASDEXトカマクで最初に発見された改善閉じ込めモード(Hモード)中に発生する代表的な不安定性である.現象的には Hα あるい は Dα 光信号に大きなスパイクとして現れ,発生領域がプラズマ周辺部に局在化しているという特徴を持つ.このELMが発生するとプラズマの 粒子およびエネルギーが吐き出されて,閉じ込め改善度が多少劣化する.通常ELMなしのHモードは定常性を持たないが,それを制御するため には非常に重要な現象であるという別の側面もある.ELM現象の本質はいまだ解明されていない.現在,その現象の分類分けが進んでいる段階 である.DIII-Dトカマクでは,加熱入力が大きい領域で非常に大きな Dα 光スパイクが現れるGiant ELM,Dα 光に比較的小さなスパイクが現れ るGrassy ELM,そして加熱入力がL/H遷移のしきい値に近いところで見られるType III ELMの3種類に分類している.他の装置で観測される ELMがすべてこの分類で説明できるかどうか,慎重に検討する必要がある. ELM 掲載号 69-5 092 Edge Localized Mode プラズマ・核融合学会用語解説 磁力閉じ込め型核融合装置では,プラズマを強力な磁場中に閉じ込めている. そのためプラズマ中の電子はサイクロトロン運動を行い,その 結果,サイクロトロン放射 (Electron Cyclotron Emission)を行う.今,磁場強度がBである時,サイクロトロン周波数はωce=eB/meで与えられる.こ の時電子はnωce(n=1,2,3...)の周波数で放射を行う.この放射スペクトル強度を測定することによって電子温度や迷走電子に関する情報が得ら れ,そのための計測をECE計測と呼ぶ. ECEの強度 I[W/(m2 sterad Hz) ]はKirchoffの法則によりI=(ω2/8π3 c2)kTe [1-exp(-τ)]で与えられる.ただし,kTeは電子が持つエネルギー,τ> 2は 媒質の光学的厚さである.では,プラズマは光学的に厚く式(1)となり,放射強度は電子温度に比例する.一般に高温プラズマでは低次の高 調波は光学的に厚く,n=1~3 のECEが測定に利用されている.周波数領域は磁場強度がB=3~5Tの場合.84~420 GHzとなりミリ波から サブミ リ波領域となる.計測器としては,フーリエ分光器,グレーティングポリクロメータ,ラジオメータ等が広く使用されている. 式(1):013.gif ECE 掲載号 66-5 013 Electron Cyclotron Emission プラズマ・核融合学会用語解説 日本,欧州,米国,ロシアの四極が共同で推進しているトカマク型核融合実験炉.ITER(イーター)の目標は,自已点火条件の達成と長時間 DT燃焼の実現,炉工学技術を統合されたシステムで実証すること,高熱流束機器や核工学機器の総合的な試験を実施することである.最新の設 計パラメータは,核融合出力 1.5 GW,主半径8.1 m,副半径 2.8 m,非円形度1.6,プラズマ電流 21 MA,トロイダル磁場 5.7T(プラズマ中 心),燃焼時間 1,000秒,プラズマ加熱パワー100MW.1988年4月から1990年12月まで概念設計活動(CDA:Conceptual Design Activities)が行わ れ,引き続き1992年7月から6年間の予定で工学設計活動(EDA:Engineering Design Activities)が進められている.EDAは,ITERの建設に着手す るか否かを判断するために必要な,すべての技術資料を整備することを目的として,四極の均等分担を原則とする国際共同設計と大規模な工学 R&D,および四極のプラズマ実験装置からの自発的貢献による物理R&Dを3つの柱として活動を行っている. ITER 掲載号 73-6 233 International Thermonuclear Experimental Reactor プラズマ・核融合学会用語解説 半導体集積回路の微細化は光リソグラフィ技術を始めとする微細加工技術の進展にともなって急速に進んできた現在,行われているエキシマ レーザーリソグラフィの次世代としては加工寸法0.1 μm以下が要求され,光や電子ビームを用いたいくつかの方式で技術開発が進められてい る.EUVリソグラフィはその一つで波長10 nm付近の極端紫外光(EUV光,軟X線に含めることもある)を利用するものである.この波長域では もはやレンズは存在しないので反射光学系によりマスクパターンをレジスト上に縮小転写しなければならない.高い反射率を得るために現在 Mo-Si多層膜に適する波長13 nm,またはMo-Be多層膜に適する波長11 nm光の利用が考えられている.典型的なシステム図(319.gif)を以下に示 す.この方式は従来の光リソグラフィに対して技術的に大きなギャップがない点が特徴となっている.具体的な開発課題としては高精度非球面 鏡の製作とその評価法の開発,反射型マスクの欠陥フリー化,高性能レジストの開発,露光システムの長時間安定動作とスループットの向上な どがあげられる. 一方,光源としてはこれまでのEUVリソグラフィの基礎研究が行われてきたシンクロトロン放射光に代わりキロヘルツの高繰り返しレーザー を用いたレーザープラズマX線源がその平均パワーの高さ,小型,高コストパーフォーマンスにより選択されつつある.これはレーザーを高圧 ガス,固体クライオ,固体テープ,液滴ターゲット等に集光させ,高温高密度プラズマを生成し高輝度な微小X線源を得る方式である.ター ゲットとなる物質にはその放出波長領域が上述のコーティングに適していること,デブリなどが光学系に影響を及ぼさないことなどが要求さ れ,現在ではXeが有力候補と考えられている.これまで波長13 nm付近のバンド幅3 %内への変換効率(レーザーエネルギーに対する発生EUV エネルギーの比)として1~3%が得られている.現在,平均EUV出力10 Wのものまでが開発されている. EUVリソグラフィ 掲載号 75-12 319 EUV Lithography プラズマ・核融合学会用語解説 プラズマの集団運動を介してイオンが加熱される現象をイオン異常加熱と呼ぶ.「異常」という修飾詞を付けるのは,Coulomb散乱に基づく 古典的な熱伝導やエネルギー緩和では説明できない場合を指すからである.古くからZetaなどのピンチプラズマで,磁場の擾乱と相関してイオ ンが急速に加熱され,顕著な温度非等方性が生じることが知られている.また磁気圏プラズマでも,一般にイオン温度の方が電子温度よりも高 いことが示され,イオンを選択的に加熱する機構があると考えられている. 近年この問題に関して非線形科学の観点から新たな関心が集まっている.自己組織化現象によって形成される構造は,大きなエネルギー散逸 と,それを維持するためのエネルギー入力をもつのが特徴であり,「散逸構造」と呼ばれる.プラズマにおいては,磁場構造(電流分布)の自 己組織化と磁気エネルギー散逸の増大が表裏一体の関係をもつ.散逸されたエネルギーは,イオンへ流れイオン異常加熱を引き起こすと考えら れる.この散逸機構はイオン粘性として表される.いかなる条件下でイオン粘性散逸が電流の抵抗散逸を卓越するのか,イオン粘性散逸が支配 する自己組織化ではどのような構造が生み出されるかが明らかになっている. イオン異常加熱 掲載号 72-5 194 Anomalous Heating of Ions プラズマ・核融合学会用語解説 スウォームの原義はある方向性を持って集団で移動する昆虫,鳥 家畜等の群れのことであり,猛毒を持った無数の蜂が集団となって人を襲 うホラーもどきの映画のタイトルにもなった.イオンスウォームはこの類推で使われ始めた言葉と思われ,媒質である気体や液体中をひとかた まりとなって移動,拡散しつつ,時には媒質中の反応種や媒質分子自身と化学反応を行って変質していくイオン群を意味する.イオン運動に方 向性を与える外場としては一般に定常一様電場が用いられるが,方形波電場やRF電場,さらには磁場を重畳して利用する場合もある.単なるイ オンビームとは違って媒質の存在が本質的に重要であり,媒質分子との衝突,多重散乱,反応過程が複雑に絡み合って競合するおもしろさがあ る.イオン群の平均移動速度をドリフト速度といい,媒質の温度,数密度,印加電場によって自由に制御が可能である.このドリフト速度から イオンの平均並進エネルギーを見積もることができる(Wannier理論).並進エネルギーは原理的には絶縁破壊に至るまで増やせるが,一般的には 媒質の温度で決まる熱エネルギー領域から数eVの範囲でこれを制御し,移動度,電場方向拡散係数,イオン/分子反応の反応速度定数などを測定 する.これをイオンスウォーム実験法という.最近は液体ヘリウム温度下での実験も行われており,低エネルギー領域でのイオン輸送・反応実 験はイオンスウォーム法の独壇場と言える.イオンスウォーム法で得られる知見は,現在,半導体製造,絶縁ガス応用,ガスレーザーといった 非平衡プラズマ応用領域,大気汚染物質除去手法の開発,大気環境イオン化学など広範囲の研究分野に於ける重要な基礎情報であり,電子ス ウォーム法のそれと相まって今後益々活用されていくものと思われる. イオンスウォーム 掲載号 74-5 268 Ion Swarm プラズマ・核融合学会用語解説 イオンの輸送・反応係数はイオンスウォーム現象を定量化する基本量であるが,それらを方向性を持って移動する鳥やけものの群れ(ス ウォーム)の特性量に対応させてみよう.スウォームを特徴づける量は,単位体積(あるいは単位面積)当たりの頭数とその分布,全体としての平均 移動速度,そして群れの広がり具合いである.移動期間が長くなると,個体の生死により群れの頭数が変化することもある.これらに対応する イオンスウォームの基本量は,気体中のイオンの数密度分布,電場方向のドリフト速度,拡散係数,そして生成・消滅反応係数である.図 1(269.gif)は代表的なイオンスウォーム実験器,定常一様電場形成のための数枚の電極(ガードリング),イオン源,集荷電極(あるいは質量分析 器),そしてイオン源と集荷電極の間に挿入した2枚の電気的シャッターから構成される.2枚のシャッターには通常イオンが透過できないように それぞれバイアス電圧を印加しておく.容器内に気体を満たし,2枚のシャッターにバイアス電圧を打ち消す2つの方形波パルスを印加し,パル ス間の遅延時間を掃引する.その結果ドリフト領域を流れ下るイオン電流の到着時間スペクトル(ATS)が得られる(図2:269.gif).ATSはイオン 数密度分布に対応し,シャッター間の距離とATSのピーク時間からドリフト速度が,半値幅から電場方向の拡散係数が決定できる.ドリフト速 度を電場強度で割った量が移動度で,この移動度と拡散係数をまとめてイオンの輸送係数という.図中,左側の鋭いATSはLi+であり,右側の広 くなだらかなATSはLi+にCO2分子が1個付着したいわゆるクラスターイオンである.これら2つのATSの面積比からLi+とCO2分子のイオン/分子反 応の反応速度係数が求められる. イオンの輸送・反応係数 掲載号 74-6 269 Transport Coefficient and Reaction Rate of Ions プラズマ・核融合学会用語解説 イオンサイクロトロン周波数以上の周波数帯に現われる静電波の一種である.高周波 電場により励起される磁場中プラズマの高周波電流は, 有限ラーモア半径効果により ,イオンサイクロトロン高調波成分の和として表される.この電流の和の発散がほぼゼロになることを準中性条件 とよび,これを満たすべく高調波周波数の間に一つのイオンバーンステイン波分枝が決定される.やや細かい分類をすれば,電子の平均熱速 度 が磁場平行方向の波動の位相速度より遅いものを純イオンバーンステイン波と呼び ,速いものを中性イオンバーンステイン波と呼ぶ.最近の核 融合研究への応用においては前者が注目されることが 多い.周波数は磁場に垂直な波数の関数となる.波数の減少関数であり後進波の典型的な 例である.イオンバーンステイン波はプラズマの加熱に関連してよく研究されて おり,直接イオンバーンステイン波を励起するものをイオン バーンステイン波加熱と呼ぷ.また,圧縮性アルヴェン波を励起しイオンバーンステイン波に変換させる加熱 手法を2種イオン混成波加熱と呼 ぶ. イオンバーンステイン波 掲載号 71-6 163 Ion Berstein Wave プラズマ・核融合学会用語解説 屈折率が周波数の増加とともに小さくなる現象(∂n/∂ω<0)を異常分散という.一般に,共鳴吸収が存在する場合,媒質は異常分散を示 す.その理由は,誘電率の実部と虚部が因果律の要請によってクラマーズ・クローニッヒ関係式で互いに結びついているためである.プラズマ ではアルヴェン波やイオンサイクロトロン波の異常分散が実験的に報告されている. 異常分散領域で群速度を計算するとその値が発散するという困難にぶつかる.群速度を屈折率で表すと, 以下の式(1)となり(c:光速),異常分散領域では∂n/∂ω<0のため,上式の分母はいくらでも小さな値を取ることができる.すなわち, 群速度の値は光速を超えて発散してしまい,相対論に矛盾するように見える.この問題はゾンマーフェルトとブリルアンに指摘され(1910年 代),それ以後各方面で問題の解決のため 研究が続けられてきた.最近,理論および実験の両面で進展があった. 波束伝播の記述に鞍点法(Saddle Point Method)を適用することで,従来の群速度に代わる新しい伝播速度の表式と,現象の本質は分散の異常 にあるのではなく,共鳴吸収帯におけるフーリエスペクトルの不均一減衰とその結果として起こる中心周波数のシフトであることが報告され た.異常分散領域でガウス型のアルヴェン波束を伝播させ,伝播速度やスペクトルの変化などが詳しく実測された.その結果は鞍点法による計 算結果とよく一致している. 式(1):125eq.gif 異常分散と群速度 掲載号 70-5 125 Anomalous Dispersion and Group Velocity プラズマ・核融合学会用語解説 「異常」(anomalous)という形容詞がつく現象は物理の世界に多数あって,予測や常識に合わない場合使われている.プラズマの磁気閉じ込 めでは,研究の当初から知られている.磁場を横切る損失が,粒子のクーロン衝突で決まる拡散係数に基づく評価より速かったので,この言葉 が用いられた.衝突拡散に対するトロイダル効果(新古典拡散)も,当初は異常輸送の説明の動機をもって研究された.現在は,電磁揺動で発 生する流束をさすことが多い.「異常」と形容するが,むしろ,不均一な非平衡系では自然な現象である.「流れ」が「勾配」の非線形関数で あること,多種の「流れ」に干渉があること,L/H-mode のように分岐性を持つこと,間欠的流れを生むこと等の性質を持ち,閉じ込めプラズマ という非平衡系を特徴づけるものと考えられている.プラズマの不均一性が原因となって生まれる乱流に起因するものとして,多くの研究がな されている. 中性粒子や光子を介在として生まれる輸送も含まれ得るが,区別して用いる場合もある.また,カオスなどの研究で,拡散過程に表現できぬ 流束(例えば,巨視的な長さや時間に比べ,揺動の緩和時間/緩和長が短くない等)をさす場合もある. 異常輸送 掲載号 72-11 213 Anomalous Transport プラズマ・核融合学会用語解説 wavelrtとは,英語でさざ波の意で,直訳するとさざ波変換となる.ウェーブレット変換は石油探査の技師であったMorletが最初に考案したも ので,フーリエ変換が解析対象の波形を正規直交系である定常な正弦波で関数展開するのに対し,ある時刻の前後でのみ振幅を持つ非定常波形 で関数展開する.その展開計数が瞬時スペクトルに対応し,ウィグナー分布とともに非定常なデータのスペクトル解析に応用される. マザーウェーブレット,またはアナライジングウェーブレットと呼ばれる非定常波形φI(x)にスケールファクタaと時間シフトbの変換を施 し,フーリエ変換での周波数の異なる正弦波に対応する新しいウェーブレット基底関数φJ(t)を生成する.(下式(1)) 当然 a,bが異なれば別のウェーブレット基底関数が生成されるので,生成されたこれらのウェーブレット基底関数と観測データx(t)の相関 W(a,b)を求める.(下式(2)) これがウェーブレット変換と呼ばれる.上式の1/aがフーリエ変換の周波数に,bが時刻に対応する. マザーウェーブレットとしては,Morletのウェーブレット,フレンチハット,メキシカンハット,Daubechiesのウェーブレット,Gabor関数等 多数考案されているが,非定常スペクトル解析に用いる場合には,フーリエ変換の周波数スペクトルと物理的に対応させやすいGabor関数 式 (3)が採用される場合が多い. 式(1):293aeq.gif 式(2):293beq.gif 式(3):293ceq.gif ウェーブレット変換 掲載号 75-2 293 Wavelet Transform プラズマ・核融合学会用語解説 相空間上の軌道点の振る舞いを調べることは,カオスなどの系の力学的挙動を理解する上で有効な方法である。実験で得られる一次元の時系 列データX(t)から微分値X'(t), X"(t), …を求めて相空間を再構成することは原理的には可能であるが,実験データは離散的で雑音を含んでいるた め,高次の微分値を正確に求めることは非常に難しい.この場合,時間遅れτを用いた相空間を再構成法が有効である.例えば,三次元の相空 間を再構成する場合,位置ベクトル{X(t),X'(t),X"(t)}をプロットする代りにある時間遅れτを用いて{X(t),X(t+τ),X(t+2τ)}をプロットす ることによって相空間を再構成できる.このときτは系の特徴的な周期の数分の一に取ればよい.これは,X(t) = sin(t) である場合に,X'(t) =cos(t)と一致させるためには 時間遅れτ=π/2とし,X(t +τ)=sin(t+π/2)=cos(t)とすればよいことから直感的に理解できる. 一般的にd次元のベクトルを作り位相空間を再構成する場合,サンプリング時間Δtで得られたN個の時系列データを{ X(ti)=X(iΔt) : i=1, N}とすると,時間遅れτ=mΔtを用いて相空間の位置ベクトルを Xi = {X(ti), X(ti + τ), ...... , X(ti+(d-1)τ)} ただしi=1,2,3,....,N. とすれば良い.この方法を埋め込み(Embedding)といい.dを埋め込み 次元(EmbeddingDimension)という. 埋め込み次元 掲載号 74-2 258 Embedding Dimension プラズマ・核融合学会用語解説 「アルヴェン波」と言った時,多くの場合磁力線方向の波数(k)がゼロの極限でのω/k=VA(VAはアルヴェン速度)の関係を持つ,磁力線方 向の電場がゼロでかつエネルギーは磁力線方向にのみ伝播する電磁流体波動を指していることが多い.このモードは完全導体の不均一プラズマ 中では連続スペクトルを持つことになるが,もし,外部から一定の振動数と波数の揺さぶり(例えば表面波による)ができたとすれば,その位 相速度がちょうどアルヴェン速度になる点が局所的に共鳴するはずである.磁気圏でのパルセーションの多くはそのように考えられている.し かし,これでは共鳴点でのエネルギーが無限大になってしまうが,Hasegawa and Chen 等はイオンの有限ラーモア半径(分極電流)を考慮するこ とにより共鳴の特異点が除去でき,新たに磁力線を横切って伝播する『運動論的アルヴェン波(KAW)』が生まれ,それがエネルギーを運び去 ることを発見した.KAWは磁力線方向の電場を持つ波長の短い波であるため,これによるプラズマ加熱がこれまで核融合やコロナ等の分野で話 題になっている.ただし,KAWはω2,ve2,ωνei(ve は電子の熱速度)の大小によって三種類に分けられる. 参考文献:A. Hasegawa and L. Chen,Phys. Fluids 19,1924(1976). 運動論的アルヴェン波 掲載号 72-5 196 Kinetic Alfven Wave プラズマ・核融合学会用語解説 加熱入力があるしきい値を越えた時にプラズマ表面付近で急激に温度・密度が高い分布に遷移し,エネルギー閉じ込め時間が改善する閉じ込 め状態をいう.このような性質のプラズマは,ダイバータを持つASDEXトカマク(ドイツ)で中性粒子ビーム入射によるプラズマ加熱実験を 行っている際に発見された.その後,リミタ配位,高周波を用いた加熱実験,ジュール加熱プラズマ,さらにヘリカル型装置においても同様の 現象が観測されている.これに対し,このような閉じ込め改善を伴わない放電状態をLモードという. Hモードではプラズマ表面付近に局在する不安定性(Edge Localized Mode, ELM)が間欠的に出現することがある.この時周辺部の粒子が吐き 出されるため,Hモード放電時において密度上昇を抑制することができる.密度の定常制御性を向上させる目的から積極的にELMの利用が考え られている.このELM付きHモード(ELMy Hモード)は,日米欧露の四極が共同で設計を進めている国際熱核融合実験炉ITERにおいて自己点 火と長時間燃焼を達成する上での標準閉じ込め状態と位置づけられている.更に設計の信頼性を高くするために,Hモードの閉じ込め性能と遷 移に必要な加熱入力しきい値に関する国際データベースの構築がITER物理R&D活動として国際的協力の下に進められている. Hモード 掲載号 73-9 244 H mode プラズマ・核融合学会用語解説 エキシマレーザーは紫外線領域で発振する大出力パルスレーザーである.励起状態は比較的安定であるが,基底状態では不安定ですぐ解離して しまうような分子をエキシマ(Excimer)と呼ぶ.たとえば,アルゴンやクリプトンなどの希ガスは単原子分子であるから,通常は自分自身や他の 原子とは容易に結合を作らないが,励起状態になると,基底状態の希ガス原子やフッ素・塩素などのハロゲンと一緒に分子を形成する.このエ キシマからの光放出を応用したのがエキシマレーザーである.エキシマの寿命は数nsと短く,上準位にあるエキシマは紫外線を放出して基底状 態(下準位)に遷移するがすぐに解離してしまうために容易に反転分布が実現できる. エキシマレーザーの主流は放電励起希ガス-ハライドエキシマレーザーで,希ガスとハロゲンの組み合わせにより,紫外線領域で約50 nm毎に 強力な発振線が得られている.実用化されている代表的な希ガス-ハライドエキシマレーザーは, ArFレーザー(193nm),KrFレーザー(249 nm), XeClレーザー(308 nm)である.エキシマを形成するための数%の希ガスとさらに少量のハロゲンガス(塩化水素やフツ素ガス)をヘリウムやネオン で希釈した混合ガスが媒質ガスとして用いられる.一般にはこの媒質ガスを数気圧に高めて頑丈な容器に封入し,レーザー光の進行方向に対し て横方向に放電させる.エキシマレーザーでは,レーザー上準位の寿命が短いため,高い励起強度が要求される.また,一様なグロー放電を得 るために紫外線やX線を用いた予備電離が不可欠である. エキシマレーザーの最大の特徴は,短波長・短パルス・高出力であり,これをいかして,色素レーザー用励起光源(XeClレーザー),リソグラ フィのステッパ(KrFレーザー),光化学の基礎研究(ArFレーザー)等のほか,最近では薄膜形成のためのアプレーション用レーザーとして活発に 応用されている. エキシマレーザー 掲載号 74-6 270 Excimer Laser プラズマ・核融合学会用語解説 時間分解されたX線領域での二次元像を撮影するためのカメラ.慣性核融合等のレーザー生成プラズマを用いた研究では,対象となるプラズ マの形状をサブ・ナノ秒の時間分解能で観測することが要求される.そのために,高速の時間分解能を有したX線イメージコンバータが開発さ れている.ストリークカメラの様に電子レンズ内に掃引電極を配し,電子ビームを制御する方式と,マイクロチャンネルプレートをゲート動作 させる近接型と呼ばれる方式が有る.現状では,主に後者の方式のものが使用されており,シャッター時間は約100 psec,解像度は10 lp/mm 程 度である.この方式は,原理的には可視域ならびに粒子像の撮影にも適用可能である. X線フレーミング(コマ撮り)カメラ 掲載号 68別冊 069 X-ray Framing Camera プラズマ・核融合学会用語解説 通常,軟X線領域(30 nm~1 nm)以下の波長で動作する短波長レーザーをX線レーザーと称している.1984年にローレンスリバモア研究所とプ リンストン大学で,それぞれ電子衝突励起法と再結合励起法により波長約20 nmにおける軟X線の増幅が観測されて以来,X線レーザーの研究が 急速に進歩した.可視・紫外域のレーザーと異なって,X線領域では光共振器の実現が困難であり,超放射形でレーザー発振させるために大きな 利得が要求される.さらに,自然放出損失に打ち勝ってレーザー上準位を励起するのに必要とされるパワー密度は波長の4乗に反比例して大き くなる.したがって,可視・紫外域のレーザーと比較すると,X線レーザーの励起には桁違いに強力なパワーが必要とされる.X線レーザーの研 究の進展は,レーザー核融合研究を中心とした分野における高強度レーザーの開発によるところが大きい.超短パルス・超高強度レーザーの進 展に伴って,その強力な光電界で原子やイオンを直接電離し,容易に多価イオンを生成することができるようになってきた.高強度レーザーを 利用した光電離を用いて,電子衝突や再結合などの励起方法により反転分布が生成され,いくつかの遷移においてX線の増幅が確認されてい る.衝突励起方式では,Ne様Seの3p-3s遷移で18.3,20.6,20.9 nm,Ne様Tiの3p-3s遷移で32.6 nm,Pd様XeのJ = 0-1遷移で41.8 nm,等でX線の増 幅が報告されている.また,軽元素イオンの△n = 1または2の準位間で反転分布を生じる再結合励起方式においては,H様Cのバルマーα線18.2 nmや,H様Liのライマンα線13.5 nm等でX線の増幅が報告されている.X線レーザーの励起用レーザー装置は非常に大型で汎用性が低いという のが現状である.X線レーザーの実用化のためには,励起用レーザー装置の小型化が必要である. X線レーザー 掲載号 74-6 271 X-ray Laser プラズマ・核融合学会用語解説 高速の中性水素原子をプラズマ中へ入射させ,そのエネルギーを与えることによりプラズマを加熱する方法を NBI(中性粒子入射)加熱とい う.中性粒子は磁場の影響を受けることなく入射できるので磁気閉じ込め方式の核融合実験装置で幅広く用いられている.プラズマ中で荷電交 換あるいは衝突電離によりイオンとなるがこの変換特性長は,おおむね入射エネルギーに比例し,プラズマ密度に反比例する.したがって,プ ラズマ小半径が 1m を越える核融合炉では数100 keV 以上の入射エネルギーが必要である. 高速イオン粒子は衝突緩和過程によりプラズマを加熱する.エネルギーが電子温度の10数倍以上より高い場合は電子加熱が主となるので,イ オンヘの加熱効率を高めるためには標的プラズマの電子温度を高くする必要がある.一方,中性粒子ビームをトーラスの接線方向に入射させる と Ohkawa 電流が駆動される.プラズマ電子の遮蔽電流により打ち消されてしまう水素プラズマ( Zeff = 1 )を除いて,正味のプラズマ電流が 駆動される.核融合炉規模での電流駆動に応用するには 1MeV 以上の入射エネルギーが必要となるが,高密度領域での効果的な電流駆動方式と して期待されている.また,開放端型磁気閉じ込め装置のプラズマ電位の形成にも NBI は利用されている. NBI加熱 掲載号 69-11 106 Neutral Beam Injection Heating プラズマ・核融合学会用語解説 遠赤外 (Far Infrared) 域の電磁波光源を用いたプラズマ計測を総してFIR計測と呼ぶ. プラズマの高密度化に伴い,使用する電磁波ビームの最 適な波長領域がマイクロ 波領域から遠赤外領域に移行してきた.また,近年の各種波長での遠赤外レーザー光 源の開発および遠赤外域検出器 の開発と合いまって,プラズマ計測へ幅広い応用が行われるようになった. レーザー光源としては CO2レーザーによる光励起型遠赤外 レー ザーや HCNレーザーに代表される直流放電型遠赤外レーザーが用いられてる. 一方,検出器としては室温で使用可能な高感度,低雑音ショッ トキー・バリア・ダイオードが一般的に用いられてる.FIR計測としては,(1) 干渉/偏光測定,(2) 散乱計測および (3) プラズマからの放射測 定 などが挙げられる.(1) では多チャンネル干渉/偏光測定 により電子密度分布あるいはボロイダル磁場分布の測定,(2)ではドリフト波等の電子 密 度揺動測定あるいはイオン・トムソン散乱によるイオン温度測定,および (3) としてはプラズマから放射される長波長域の電子サイクロトロン 放射測定がある. FIR計測 掲載号 66-1 002 FIR measurements プラズマ・核融合学会用語解説 FRC とは,”磁場反転配位”の英文の頭文字をとったもので,環状トロイダルプラズマ電流によるポロイダル磁場と外部コイルによる縦方向 磁場によってプラズマを閉じ込める配位である. 現在,逆バイアステータピンチ法,逆方向のトロイダル磁場をもつスフェロマクの合体法,イオンビーム入射法の実験によってこの配位を形 成している.トカマク等の配位と比べてトロイダル磁場がないために非常に高いプラズマベータ値(実験的に90%以上が実現)をもつプラズマ を閉じ込めることができる. この配位では電磁流体的に傾斜モードに対して不安定( tilt instability )であると予想されるが,実験的にはその不安定性の成長時間(~数μ sec )より十分長い間(~ 数 msec)FRC プラズマは安定に保持されている.これは,高エネルギーイオンによる安定化効果を示唆している.し たがって,FRC プラズマに対しては従来の電磁流体的な扱いに加えて粒子の運動論的効果を取り入れた扱いが必要となり,興味深いプラズマ物 理の分野となっている.またプラズマの周辺が開いた磁力線で取り囲まれているために,荷電粒子を多く発生する核融合(D-3He 燃料核融合等 のアドヴァンスト核融合)ではそれらを直接エネルギー変換器に導くことが容易で,高効率の核融合炉が期待できる. FRC 掲載号 73-3 226 FRC プラズマ・核融合学会用語解説 フーリエ変換を時間と周波数に関して離散化したものが離散フーリエ変換(DFT: Discrete Fourier Transform)である.計算機においては次式で 表されるDFTを用いて周波数スペクトルXkが計算される(下式). ここで,x(n)はデータであり,データ数はN,k は周波数に対応する.しかし,DFTの演算量はデータ数Nの2乗のオーダであるので,データ数 が大きくなるとその計算量は莫大なものとなり実用的な計算時間では結果が得られなくなる.そのDFTを高速化したものが高速フーリエ変換 (FFT: Fast Fourier Transform)であり,演算量をN log2Nのオーダまで減少させることで,ある程度のデータ数まで実用的に計算可能とした. しかし,高速化のアルゴリズムの制約よりデータ数は2のべき乗個に制限される.また,周波数の離散化によってデータの周期性が仮定される ため,通常はFFTの実行前に,データに窓関数を掛けておくことが必要である. FFTによるスペクトル解析では,サンプリング周期をΔTとすると,時間分解能は解析データの時間幅であるNΔTであり,周波数分解能は 1/(NΔT)となる.両者の積は一定で,同時に時間・周波数分解能の両方をあげることはできないという一種の不確定性原理が存在する.データ 長が長い定常なデータに関しては,スペクトルの定義にしたがって計算するFFTが最もよいスペクトルが得られるが,データ長が短い場合や定 常性が仮定できない場合は,FFTよりも他のスペクトル解析法である最大エントロピー法(MEM: Maximum Entropy Method)や,ウィグナー分 布,ウェーブレット変換等を用いる方が妥当な結果が得られる場合もある. 式(1):290eq.gif FFT 掲載号 75-1 290 FFT プラズマ・核融合学会用語解説 電極を熱電子が十分放出可能な程度に加熱して用いる静電プローブをエミッシブプローブという.熱電子のエネルギーはkTw(kはボルツマン 定数;Twは加熱された電極の温度)程度であり,通常プラズマの空間電位Vsに比べて十分小さい.電極から放出される熱電子は,プローブ電 位VpがVs以下ではプラズマに流れ込むが,Vp>Vsの飽和電子電流領域ではほとんど流れない.このことを利用すれば,プラズマの空間電位Vs の精度よい測定が可能となる.Twを一定に保ったエミッシブプローブを用いる場合,電流電圧特性曲線には通常の静電プローブ特性曲線に放出 される熱電子の寄与が加わる.Vp<Vsでのみ熱電子による一定の電子電流が通常の特性曲線の電子電流方向と逆向きに加わるためVp=Vsで急 激に変化し,この電流電圧特性曲線よりVsが精度よく測定できる. エミッシブプローブ 掲載号 72-01 183 Emissive Probe プラズマ・核融合学会用語解説 エミッタンスはビームの発散角(ダイバージェンス)や輝度(ブライトネス)などとともに,荷電粒子ビームの質を表す基本量の1つであ る.ビームはいろいろな軌道の集合であり,ある点を通過するビームの軌道は方向の異なる多数の軌道によって構成される.ある任意の断面に おける軌道は四次元位相空間上の点集合(Xi,Yi,Xi',Yi')で表すことができる.特に回転対称系では(ri,ri')となり,点集合を囲む閉曲 線をみればビーム全体の広がりやビームの発散の程度が明らかとなる。このような図(182.gif)をエミッタンス図または位相図と呼んでおり,閉 曲線で囲まれる面積をビームのエミッタンスと定義する.特に速度で規格化したエミッタンスは空間電荷効果や散乱が無視できるときは,レン ズ系を通過したり加減速されても変わらない不変量となる.すなわちレンズ系によってエミッタンスを小さくすることはできない.それゆえ, イオン源や電子銃においていかにエミッタンスの小さいビームを発生させるかということがビーム輸送系等を設計する上で重要となる. エミッタンス 掲載号 72-01 182 Emittance プラズマ・核融合学会用語解説 磁気核融合の基本は高温プラズマを安定に閉じ込められる磁場構成法を見出すことである.MHD方程式系において,プラズマの巨視的な流れ がなく,散逸効果を無視すると,定常状態では(1)J×B=▽P,(2)μ0J=▽×B,(3)▽・B=0がMHD平衡方程式として得られる.プラ ズマを閉じ込めるためには,(1)~(3)式の解として得られるBから,磁力線を追跡することによって磁気面が構成でき,しかも磁気軸のま わりに入れ子状に磁気面が存在する必要がある.そうすると,(1)式からB・▽P=0およびJ・▽P=0が成り立つので,磁気面内では圧力が 一定であり,また電流線により形成される面にもなっている.このようなMHD平衡解が,軸対称トーラスプラズマとヘリカル対称プラズマに対 して存在することを示すことは可能であるが,ステラレータに代表される非軸対称トーラスにおいてはMHD平衡解の存在は自明ではない. 軸対称トーラスあるいはヘリカル対称トーラスでは,MHD平衡解を求めるために磁気面がψ=一定の等高面に対応する磁束関数に対する偏微 分方程式を解くことが多い.この方程式は(1)~(3)式より最初に導出した旧ソ連の V. D. Shafranov 博士および米国の H. Grad 博士の名前を 用いて,Grad-Shafranov 方程式と呼ばれている. (1)~(3)式では,圧力Pはスカラ量であると仮定しているが,強力な中性子入射加熱を行っているプラズマやミラー磁場のように速度空 間損失領域があると,非等方圧力になる可能性がある.このような場合には,磁力線に平行方向の圧力をP¦¦,垂直方向の圧力をP⊥と表して,P¦¦ ≠P⊥であるプラズマに対するMHD平衡理論が用いられる.また最近は,プラズマ内に巨視的な流れがあるMHD平衡も注目されている. MHD平衡理論は,実験データ解析にも有効であり,トカマクやステラレータでは,プラズマ圧力による磁気軸の移動(Shafranov シフトと呼 ばれる)を計測し,これからプラズマ圧力や,プラズマ電流分布を予測することができる.この手法はトーラスプラズマの磁気計測法として確 立している.またMHD平衡計算と磁気計測法を組み合わせることにより,プラズマ形状や位置の制御ができるので,MHD平衡はトカマクのプ ラズマ制御の基礎にもなっている. MHD平衡 掲載号 72-11 212 MHD Equilibrium プラズマ・核融合学会用語解説 プラズマを記述するモデルとしてMHD方程式系は広く使われている.磁気核融合では,プラズマ閉じ込めが可能であるためにはMHD平衡が 存在しなければならない.さらに,小型で高性能な閉じ込め装置を実現するにはMHD不安定性を抑制する必要がある. MHD不安定性は大別すると理想MHDモードと抵抗性MHDモードに分けられる.高温プラズマでは,MHD平衡状態に微小な摂動を与えると, 指数関数的に成長する場合があり,MHD不安定性と呼ばれている.MHD不安定性は,不均一なプラズマ電流に起因する電流駆動型モードと不 均一なプラズマ圧力に起因する圧力駆動型モードに分類されるが,圧力の高いプラズマでは反磁性電流が流れるので,場合によっては区別は明 確でなくなる. 理想MHDモードとしては,圧力が無視できるようなプラズマでも発生するキンクモードと,不均一圧力により駆動されるインターチェンジ モードとバルーニングモードがある.キンクモードは,プラズマ表面を含めてプラズマ柱全体がらせん状に変形する外部キンクモードと,プラ ズマ内部の領域のみらせん状に変形する内部キンクモードがある.インターチェンジモードは磁力線の平均的な曲率が悪い場合に磁力線方向の 振幅が一定となるようなモード構造を持つのに対して,バルーニングモードは,磁力線の曲率の悪い領域(例えばトーラスプラズマの外側領 域)に振幅が局在化するモード構造を持つ.理想MHDモードに対しては,MHD方程式系がエネルギー保存則を持ち,ハミルトン形式で書ける ために,エネルギー原理が成り立ち,活用されている. 一方,抵抗性MHDモードとしては,テアリングモード,リップリングモード,および抵抗性インターチェンジモード(qモードとも呼ばれ る)がある.これらの特性についてはFurth,KilleenおよびRosenbluthによる有名な論文[1]を参照するとよい.例えば,トカマクプラズマではテ アリングモードが不安定になりやすく,有限抵抗のためにリコネクションが生じ磁気島が形成されて閉じ込めを悪化させる.また,ヘリオトロ ンプラズマでは,磁気丘領域が存在するために抵抗性インターチェンジモードが重要である.これらのMHD不安定性を安定化するためには,磁 気シア,磁気井戸および導体壁とプラズマ流が有効である. 参考文献 [1] Phys. Fluids 6, 459 (1963). MHD不安定性 掲載号 75-4 299 MHD Instabilities プラズマ・核融合学会用語解説 磁場プラズマ中ではイオン・サイクロトロン共鳴と電子サイクロトロン共鳴の中間に低域混成共鳴とよばれる共鳴周波数が存在する.イオン のプラズマ振動と電子の分極ドリフト運動が絡んだ共鳴条件で,ωLH = ωpi/( 1 + ωpe 2/ωce2 )1/2で近似される.ここに,ωpi,ωpe はそれぞれイ オン又は電子プラズマ周波数,ωce は電子サイクロトロン周波数である.トカマクのような強磁場中では,イオンプラズマ振動に近く,弱磁場 では電子とイオンのサイクロトロン周波数の幾何平均の周波数になる.この共鳴周波数近傍の周波数帯を LHRF と呼ぶ.この周波数帯の波はプ ラズマ電子密度の設定により電子またはイオンと相互作用させることができる.トカマクで1019m-3 程度の電子密度の場合には ωLH が数GHz の 周波数帯になるため,クライストロンと呼ばれる大電力の電子管や導波管が使用でき,プラズマの加熱やトカマクの非誘導電流駆動に利用され ている.特に,最近では LHRF を使った低域混成波電流駆動(LHCD)研究が進展し,核融合炉の最有力侯補とみなされているトカマクの重点 課題である定常化に大きく寄与している. LHRF 掲載号 69-11 107 Lower Hybrid Range of Frequency プラズマ・核融合学会用語解説 トカマクやヘリカルのような環状磁場閉じ込め装置の研究では,プラズマ熱流をいかに処理するかが重要な課題になっており,エルゴディッ クダイバータは,輻射型ダイバータの一種で周辺のエルディック領域内でプラズマ熱流を輻射光,最も望ましい形の熱流に変換して熱負荷の軽 減やスパッタリングの抑制を行う.不純物輻射冷却は,電子温度が低いとき,その効率が高いが,エルゴディックダイバータでない配位では, 周辺の低温領域の体積が小さいために中心部での放射冷却をできるだけ小さくしながら,閉じ込めへの影響の少ない周辺部に放射冷却を限定す ることが一般的には困難になる.そのため放射効率の高い周辺低温領域の体積を増大させるためにエルゴディック磁場配位を周辺に形成する. まず閉じ込め領域周辺部に弱い共鳴磁場(ポロイダルモード数>6)を印加するとトロイダル効果のため複数のアイランド層が半径のすこし 違った位置に発生する.さらに印加磁場強度を強くすると(それでもトロイダル磁場の~0.1%程度),アイランドが重なり合ってエルディック 領域が周辺に形成される.この領域内は,磁力線でつながっており,そのため電子の輸送が大きく,電子温度が低く押さえられ,領域全体が不 純物の放射効率の高い低温領域になる. また放射冷却が不充分な場合でも,印加共鳴磁場を回転させるとプラズマ流の時間平均熱負荷が低減できる.エルゴディック領域のプラズマ は,第一壁と接触するが第一壁近くでは,エルゴディックというよりはアイランド構造が支配的でその接触領域は,ポロイダル方向には,局所 化する.これを逆に利用してアイランドを~1Hz程度で回転させることで確実に接触面積の拡大が可能になる. エルゴディックダイバータがITERの設計に取り入れられない最大理由は,エルゴディック磁場構造で周辺の閉じ込めを乱して放射冷却するた めにHモード(閉じ込め改善)の形成に必要な周辺の輸送障壁ができないと考えられているためである(少なくとも実験的にはHモードの形成 は実証されていない). エルゴディックダイバータ 掲載号 75-9 314 ergodic diverter プラズマ・核融合学会用語解説 レーザーダイオード(LD)で固体レーザー材料(例えばNd:YAG)の強い吸収線(波長 808 nm)のみを選択的に光励起することにより逆転 分布を生じさせ,レーザー光(波長 1,064 μm)を発生させる装置のことである.特定の吸収線のみを励起するので固体レーザー材料への熱負 担が少なく,したがって高繰り返し動作が可能である.最近,波長 800 - 840 nm で発振する AlGaAs半導体レーザー(レーザーダイオード,また は短くダイオードとも呼ばれる)が急速に開発され,高強度(200 μs パルス動作で 4 kW/cm2),高効率(60%),長寿命(1011 ショット)が 達成された.二次元アレイ形状のLDも大出力化が進み,0.35 ~1 MW(パルス幅 200μs)の出力のものが市販されており,また $1/W までの低 価格化も進んでいる.このような大出力,高効率,長寿命のLDアレイを励起光源とする 1.064μm Nd:YAG レーザーの高出力化が急速に進ん でいる.1992年には CW (直流)出力150 W,平均出力 1.4 kW(繰り返し 2.5 kHz),ピーク出力 44 MW が実現され,レーザー加工,ステッ パー等へ応用されている.また,LD励起固体レーザーの特徴を生かしたレーザー核融合炉用のLD励起固体レーザードライバーの概念設計が行 われ,0.35μm へ波長変換したパルス出力 4 MJ(10nsパルス)を繰り返し12 Hz,総合効率12%で達成しうることが示されている.そのための 固体レーザー材料としてはNd:ガラス(HAP4),Nd:SiO2,Nd:Y:CaF2 等が検討されており,ドライバーコスト$200/J を達成するための ガイドラインも明らかにされている. LD励起固体レーザー 掲載号 68別冊 076 Laser Diode Pumped Solid State Laser プラズマ・核融合学会用語解説 エロージョンとは,一般的には固体材料表面が気体・液体・固体(固体粒子)などの流体あるいは多相流体と衝突する,または異種の物質と 接触することよって機械的作用や化学的作用で表面が損耗し,肉厚の減少を生ずる現象をさす. 核融合炉で問題となるエロージョンのひとつにプラズマ対向機器表面でのエロージョンがある.これはプラズマ粒子が高粒子束密度(1020~ 1023m-2s-1)でプラズマ対向壁表面に入射する際の,表面の原子をはじき飛ばす物理スパッタリングや,水素や不純物の酸素のイオンが炭素材表 面の原子と反応してメタンなどの炭化水素もしくは一酸化炭素となって放出される化学スパッタリングである.またディスラプションによる対 向材表面への超高熱負荷によっても表面が蒸発や昇華を起こす.この結果,対向材料の表面が損耗して対向材の肉厚の減少を起こし,対向機器 の健全性や寿命に影響を及ぼすことから,核融合炉環境下においては,エロージョンの少ないことが対向材料の選択の大きなポイントとなって いる.ただし,これらの評価は核融合中性子による効果はほとんど考慮してない議論であり,現実の核融合炉では核融合中性子によるはじき出 し損傷や核変換損傷による構造変化や化学組成の変化が局所的にも起こり重大なエロージョンを引き起こす可能性があり,問題となっている. さらに,エロージョンはブランケット内部における問題でもあり,冷却材・増殖材・増倍材等との共存性における重要な課題でもある.erosion とcorrosionの区別が厳密には行われていない場合が多い. 対向材料の種類によって問題となるエロージョンの素過程が異なっている.炭素材料においては,物理スパッタリングとともに化学スパッタ リング,蒸発,昇華などが損耗量の評価に関わるのに対し,高Z材料の対向材料のタングステンでは,主にディスラプションによるエロージョ ンが問題となると考えられている. エロージョン 掲載号 75-7 308 Erosion プラズマ・核融合学会用語解説 ダイバータ配位においては,炉心から流出する熱流束がセパラトリクスに沿って,ダイバータ板が設置されている狭い流域に流入する.この ため,ダイバータ板での熱処理が,核融合炉の設計で最も重要な課題になっている.熱流束がダイバータ板に到達する前に,その50%以上をダ イバータ領域においてプラズマ自身の放射冷却によって散逸させることで,この課題を解決する方策が有望視されている.放射冷却を低温高密 度のダイバータプラズマ領域に限定できれば,そこでは粒子間の衝突頻度が高く,平均自由行程が短いので,高い冷却効果を持つとともに,炉 心が直接冷却されるのを防ぐことができる.これを遠隔放射冷却と呼んでいる. 遠隔放射冷却はダブレットIIIにおける実験で発見され,その後,ASDEX,JT-60,JET等でも確認された.JT-60Uの実験では,低温高密度 ダイバータにおける低Z不純物(炭素,酸素)の低電離イオンおよび水素中性粒子の励起損失と荷電交換が遠隔放射冷却の物理機構であること が,定量的に明らかにされた. 遠隔放射冷却 掲載号 70-2 114 Remote Radiative Cooling プラズマ・核融合学会用語解説 文部省核融合科学研究所(岐阜県土岐市)において8年間の試作・開発、実機製作を経て1998年3月より稼動し始めた大型の磁場プラズマ閉じ 込め装置.通称はLHD.宇尾光治博士が1958年に端緒をつけた外部導体のみによる環状プラズマの閉じ込め概念であるヘリオトロン配位を持 つ.ヘリオトロン配位は1対のヘリカルコイルにより,磁気シアを持った閉じ込め磁場と4本のダイバータ構造を発生できるため,他の環状磁場 閉じ込め概念に比較して本質的に電流ディスラプションのない安定な放電を持続できるという特長を持つ.LHDではコイル系統をヘリカルコイ ルのみならずポロイダルコイルおよびバスラインを含めてすべて超伝導化することにより,装置工学的にも定常運転を可能としている.大半径 3.9m,小半径0.6m,プラズマ体積約30m^3という装置規模を有している.磁場強度は現在3Tであるが,超流動ヘリウムを用いた冷却能力増強 により4T運転を計画している.従来の小型・中型ヘリカル系装置からエネルギー閉じ込め時間として約一桁の規模拡大を行うことにより,炉 心プラズマへ外挿可能な10 keV程度の高温プラズマを実現し,ヘリカル方式核融合炉のために重要な物理的,工学的研究課題を解明することを 目的としている.トロイダルプラズマ閉じ込めの総合的理解に向けた大型トカマクとの相補的研究の対象となっている.主力加熱装置は負イオ ン源を用いた中性粒子入射加熱装置であり,電子・イオンサイクロトロン共鳴加熱装置も合わせ持つ.初年度(平成10年度)の実験では,温度 は電子,イオンとも2 keVを越え,エネルギー閉じ込め時間も0.2秒を上回るプラズマが生成保持されている.炉工学分野からの貢献として0.8 GJの蓄積エネルギーを持つ超伝導ヘリカルコイルを成功裏に稼動させたことは特筆に価する.また構造材料,高熱流束機器の分野での貢献も期 待されている.今後の研究により,核融合の実現に必要な1億度のプラズマに関する種々の物理研究が飛躍的に進む見通しである. 大型ヘリカル装置(LHD) 掲載号 75-11 318 LHD プラズマ・核融合学会用語解説 固体表面を電子衝撃すると,表面近傍の原子の内殻電子が励起されて内殻(例えばK殻)に空位が生じる(図(a)(179.gif)).すると,この 空位に外側の殻(例えばL殻)から電子が遷移して,2つの準位の差に相当する余剰エネルギーが原子から放出される.エネルギーの放出は特性 X線(図(b)(179.gif))または外殻(いまの場合L殻)電子の原子外への放出(図(c)(179.gif))という形で起こる.後者をオージェ電子と呼 び,この電子のエネルギーは次式で与えられる. EA = EK - EL - EL' - φ ここで,φ は仕事関数で, EL' は外殻に空位が生じているため空位のないときの EL とわずかに異なる.オージェ電子は元素固有のエネル ギーをもつため,固体表面からの二次電子のエネルギースペクトルを求めることにより表面に存在する物質を同定することができる(オージェ 電子分光).オージェ電子分光は原子番号の小さい元素の固定に適しており,電子分光に用いる一次電子エネルギーは1~3kevが一般的であ る. オージェ電子 掲載号 71-12 179 Auger Electron プラズマ・核融合学会用語解説 惑星磁場の磁カ線に沿って惑星表面へと降下する高エネルギーの電子が惑星大気中の原子・分子を励起することにより生ずる発光現象.地球 だけでなく,木星や土星等の磁場を持つ惑星の極域で起こる現象であり,太陽コロナから惑星間空間そして惑星磁気圏へと続くプラズマのダイ ナミックな運動の一環として生ずる.特に,太陽フレア等の太陽プラズマの大規模な擾乱や惑星間空間磁場の向きの変化に伴って引き起こされ る磁気嵐はオーロラと直接的な関係がある.オーロラは地球では約 10keV に加速された電子によって高度約100km で生じ,その色は酸素原子か らの緑および赤の輝線および窒素分子の青の輝線が主体となっている.オーロラが出現する領域は磁極点ではなく,磁気緯度65゜- 75゜で卵型 に取りまく帯となっていてオーロラオーバルと呼ばれている.大規模なオーロラは低緯度まで拡がり,北海道でも10年に1回程度(おおよそ太 陽活動1周期に1回程度)見ることができる. オーロラオーバルを通る磁力線は太陽と反対側(夜側)ではプラズマシート(磁気中性面)につながっている.オーロラオーバルでは磁力線 に沿って沿磁力線電場が生じ,これにより電子が加速を受けている.オーロラおよびそれに伴う現象が複雑であるので全体像を確定するまでに は至っていないが,オーロラにおける高エネルギー電子生成にはプラズマシートでの磁気再結合も関与している可能性が高い. オーロラ 掲載号 73-9 242 Aurora プラズマ・核融合学会用語解説 オゾン発生器(Ozone Generater)ともいう.オゾン生成法には,紫外線照射法,水の電気分解によるもの,および無声放電(Silent Discharge, バリア放電とも呼ぶ)法などがある.しかしながら,オゾン生成効率や単位時間あたりの生成量の面から主に無声放電方式が利用されている. 無声放電方式オゾナイザの特徴は,電極間隔(ギャップ長)が1mm以下と短く,原料ガスは空気または酸素で動作圧力は大気圧以上の圧力であ る.さらに,電極間にはガラスなどの誘電体が挿入されていることである.ギャップ長が短いのは,電子との衝突による酸素分子の解離を効率 よく行なうための高電界(E / N ≧100 [Td])の発生,および生成されたオゾンの熱分解を防ぐための効果的な冷却のためである.ここでEは電 界,Nは粒子数密度である.また,動作圧力が大気圧以上と高いのは,オゾン生成の主反応である酸素原子と酸素分子および第三体との三体衝 突(three body collision)を効果的に起こさせるためである.オゾン発生方法としては,他に,1)電極間に金属酸化物粒体を挿入する方法,2)電 極間に金属細線を封入する方法,3)回転電極を用いる方法,4)オゾン化ガスの拡散に工夫をこらした方法,5)沿面放電(Surface Discharge)によ る方法,6)三相交流電源による沿面放電と無声放電の重畳を用いた方法,7)二重放電を用いた方法など各種の発生方法が提案され,一部は実用 化されている.オゾン発生量としてはmg/hから数10 kg/hにわたり,オゾンの利用分野としては,上下水処理,プール用水の処理,発電所冷却水 への注入,食品業界,パルプ漂白,材料の表面処理,機械工業および医療関係など幅広い分野にまたがっている.ただし,オゾンは有毒なガス であるため,その取り扱いには注意を要する.このため,日本オゾン協会では,安全なオゾナイザを社会に出すため,オゾナイザ製造事業所の 登録と規格(型式)認定制度をスタートさせた. オゾナイザ 掲載号 74-10 282 Ozonizer プラズマ・核融合学会用語解説 放電プラズマに光を照射すると外部回路に電気的な応答(電極間電圧や電流の変化など)が現れる現象をさす.適当なプローブ電極により電 気信号を観測する場合も含めることがある.古くから知られている現象であるが,最近では波長可変レーザーを光源とすることにより,簡便な 分光法として利用範囲が広がった.放電空間内の原子・分子が特定波長の光を吸収して電離されやすい高励起状態に遷移し,荷電粒子の生成消 滅バランスが変化することが現象の主な原因であるが,負イオンからの光脱離等,レーザー光による荷電粒子の直接生成によっても起こる.光 の吸収から電気的な応答に至るまでの機構が複雑であり,信号強度から光吸収した分子種を定量するのは一般に難しい.しかし,高感度であ り,スペクトル線の形や位置を情報として利用する用途には適している.ホローカソード放電管に波長可変レーザー光を照射してオプトガルバ ノ信号を観測することにより,レーザーの絶対波長の較正を簡便に行うことができる.電界によるスペクトル線の分裂や位置の変化(シュタル ク効果)を波長可変レーザー照射オプトガルバノ分光法で計測することにより,グロー放電の陰極降下部等の電界の空間分解測定が行われてい る. オプトガルバノ効果 掲載号 74-12 289 Optogalvanic Effect プラズマ・核融合学会用語解説 不可逆過程の熱力学での輸送係数の対称性に関する定理をさす.一般に熱力学的流量Jiと熱力学的力Xjは平衡状態の近傍で下式(1) と書ける.この時,一般に外磁場Bがある時に,輸送係数Lijは相反定理、下式(2)を満足する.この定理の成立には体系が熱平衡状態に極め て近いこと,ならびにそこでの微視的な揺らぎが可逆的であることが必要である.例えば,等方的なプラズマの線形誘電率テンソルに対するオ ンサーガー相反定理は下式(3)となる.ここで,ω,k,v,Ωはそれぞれ角周波数,波数ベクトル,速度ベクトル,サイクロトロン角周波数 を示す.プラズマのように非平衡,非線形系で一般的に相反定理が成り立つ保証はないが,扱っているモデルの不正確さのために相反定理が破 れていることを主張している文献が多いのも事実である.例えば,空間的に不均一なプラズマに対する局所解の誘電率テンソルでは相反定理が 破れているがこれはフーリエ分解したためである.一方,修正局所解はオンサーガー相反定理を満たす. 式(1):203aeq.gif 式(1):203beq.gif 式(1):203ceq.gif オンサーガー相反定理 掲載号 72-8 203 Onsager Reciprocuty Theorem プラズマ・核融合学会用語解説 トーラス状のプラズマの平衡を保つために回転変換と呼ばれる磁場のねじりが必要である.トロイダル磁場のみではイオンと電子は上下逆方 向にドリフトし,トーラス上部と下部に正または負の電荷が蓄積する.この結果生じる電場のため E×B ドリフトが生じ,プラズマは全体とし て主半径方向に吹き飛び平衡が失われる.これを防ぐために,トーラスの小さい円周方向に沿うポロイダル磁場が必要であ る.トロイダル磁場とポロイダル磁場の合成としてらせん状の磁場が形成される.荷電粒子は磁力線に沿った方向にはすばやく移動するため, 上下にたまった電荷はらせんに沿って中和される.トカマクではプラズマ中に電流を流すことによってポロイダル磁場を発生する.一方,ヘリ カル系ではプラズマ中に正味のトロイダル電流なしで実効的なポロイダル磁場をつくることができる.これは,磁力線に沿ってトーラスを周回 する時(ヘリカルコイルのねじれ方に比べてはるかにゆるやか),ヘリカルコイルのつくるトロイダル磁場とポロイダル磁場の強弱を共鳴する 形で感じるため,磁力線は平均としてポロイダル方向に回転するからである.この時,必然的に磁力線のトロイダル角一定の面への投影は二重 らせん,磁気面は楕円やおむすぴ形になる. 回転変換 掲載号 69-2 085 Rotational Transform プラズマ・核融合学会用語解説 外部から加わる雑音などの非決定論的要因のない,小数自由度の力学系で,力学系自体の非線形性によって生ずる不規則な運動をいい,初期 値のわずかな差が長時間後に大きな差となる軌道不安定性によって特徴づけられ,力学変数のパワースペクトルが連続スペクトルになる.力学 系の解は位相空間の,初期値によって一意に決まる軌道によって表される.保存系では自由度間の相互作用がないときの互いによく分離してい る軌道が,相互作用によって重なりあうようになって,位相空間をくまなく巡れるようになる.散逸系では,外部パラメータを変化させると, 解空間の構造が変化し,そこでのアトラクタがすべて不安定になり,軌道はこれらのアトラクタを不規則に巡るようになって乱雑な非周期解と なる.プラズマ・核融合ではミラー磁場中の電子サイクロトロン共鳴加熱実験に研究の端を発し,MHD活動に伴う磁力線のカオス,ソースと散 逸をもった三波相互作用におけるカオスなど,物理的基礎過程でカオスと結びついているものが多く明らかにされ,標準写像や間欠カオスのモ デルや概念が生まれた.最近では電離過程やシース不安定性に伴うカオスも観測されており,閉じ込め装置の周辺プラズマの挙動をカオスの手 法で解析する例も報告されている. カオス 掲載号 68-3 038 Chaos プラズマ・核融合学会用語解説 高エネルギー粒子が標的固体に衝突したときに,標的固体からその構成原子や分子を弾き出す現象をスパッタリングという.一般にスパッタ リングという用語は,入射粒子が希ガスイオンの時のように,弾き出し現象が物理的な衝突過程による“物理スパッタリング”をさすのに使わ れているため,弾き出しの過程で化学反応を伴う現象を特に“化学スパッタリング”と呼んで物理スパッタリングと区別している.化学スパッ タリングは,物理スパッタリングとは異なり化学反応を伴うため,入射エネルギーに弾き出しエネルギ一のようなしきい値は存在せず,またそ の収率は標的固体の温度,表面状態,残留ガス圧,入射粒子のフラックス等環境条件に強く依存する.特に入射粒子が水素イオンの 様に軽い場合は,物理スパッタリング率は小さいのに対して,化学スパッタリング率が非常に大きくなることがある.例えば核融合炉の第一壁 黒鉛が,水素イオン入射による化学スパッタリングによりメタンを発生させ(その収率は 500℃ 付近で最大となり約 0.2(C/H)である)損耗 されるだけでなく,プラズマを汚染させるものとして,強い関心を集め多くの研究が行われている.また金属第一壁に吸着または酸化物として 存在していた酸素は,水素の化学スパッタリングにより水の形で引き抜かれプラズマを汚染する.弾き出し損傷を伴わない化学反応は低エネル ギープラズマによるプラズマプロセッシング技術として広く使われている. 化学スパッタリング 掲載号 67-3 020 Chemical Sputtering プラズマ・核融合学会用語解説 核融合炉の自己点火条件は,平均プラズマ密度nとエネルギー閉じ込め時間τEの積と,平均プラズマ温度Tとで与えられる.ここで最も簡単 な例として,輻射損失を無視し不純物を含まないD-T(重水素一三重水素)プラズマを想定すると,自己点火条件は 式(1)(Qα=3.5MeV) と書け,一般的には二つのパラメータ空間(nτE,T)でその領域が表現される.核融合炉条件に近いT~10keV領域では,<σv>~T2がよい 近似となっており,上式は 式(2)と変形でき,自己点火条件が平均プラズマ密度,温度およびエネルギー閉じ込め時間の三重積に対する条件 として表せ,これを核融合積と呼ぶ.プラズマ中心のイオン密度およびイオン温度の実験データを用いて,ni(0)τETi(0)の値を計算し,自己点 火条件に対する実験データの到達度を表す一次元的な指標として,この核融合積を用いることが多い. 式(1):133aeq.gif 式(2):133beq.gif 核融合積 掲載号 70-8 133 Fusion Triple Product プラズマ・核融合学会用語解説 結晶性材料が中性子,イオン,電子などの照射を受けたとき,構成原子があるしきい値以上の運動エネルギーが与えられると,もとの格子位 置から弾き出される.このような損傷を弾き出し損傷(displacement damage)と呼び,これに必要なエネルギーを弾き出ししきいエネルギー (displacement threshold energy)と呼ぶ.入射粒子によって弾き出された原子が大きい運動エネルギーを持っている場合,弾き出しの連鎖が生じ る.これをカスケード損傷と呼び,このとき最初に弾き出された構成原子を一次弾き出し原子(primary knock-on atom;PKA)と呼ぶ.一般にカ スケード損傷はPKAエネルギーが数百eV以上の場合に顕著となり,核融合炉ブランケットや核分裂炉炉心における材料の弾き出し損傷は主とし てカスケードを伴うものである.高エネルギーPKAによるカスケード損傷では,欠陥集合体の直接形成(カスケード中心領域への原子空孔集合 体形成及びカスケード外殻領域への格子間原子集合体形成)や残存点欠陥生成の効率及びその時間的・空間的不均一性などに特徴があり,単一 の弾き出しとは格子欠陥形成において大きく異なったものとなる.また,カスケード損傷による局所的な弾きだし原子,混合(cascade mixing) や衝撃波(shock wave)は,既存のミクロ組織の変質を誘起すると考えられている. カスケード損傷 掲載号 71-11 178 Cascade Damage, Displacement Cascade プラズマ・核融合学会用語解説 高密度ダイバータを極端に発展させたもので,大量のガスをダイバータ・プラズマに当て,荷電交換反応や放射冷却で熱を散逸させることに よりダイバータプラズマを冷却して再結合によりガス状態にし,ダイバータ板の熱負荷を軽減するという概念である.しかしガスターゲットダ イバータでは,ガスターゲットダイバータから炉心プラズマへのガス流出を防止するための対策(ダイバータプラズマに近接した壁など)が必 要である.また,ガスターゲットダイバータでは,ガス圧が高いため上流のプラズマ圧力も高くなり,したがって炉心プラズマの密度は高くな る.ガスターゲットダイバータに必要となる炉心プラズマの密度がGreenwald limit の1.5倍であるので,密度限界を決定している機構の解明と密 度限界の向上がITER物理R&Dの最大の課題の一つである.さらに,ガスターゲットダイバータの運転領域は,もし存在しても非常に狭いと考 えられる(運転領域の限界近く).したがってガスターゲットダイバータが成立しない運転領域の熱除去の対策を講じることが重要である. ガスターゲットダイバータ 掲載号 72-2 184 Gas Target Divertor プラズマ・核融合学会用語解説 プラズマ発生装置の真空容器内へ燃料ガスを導入する方法のひとつである.従来、トカマク装置などでは燃料ガスの導入法として,プラズマ 点火前から定常的にガスを容器に充填しておく「定常ガス導入法」と「ガスパフ法」が用いられてきた.しかし,最近では,プラズマ発生 ショット中でのプラズマ密度のリアルタイム制御の観点からガスパフが用いられるようになった.ガスパフは,当初,電磁弁を使って行われて いたが,ピエゾ素子を用いたピエゾバルブが開発され 100 V程度の電圧で1ミリ秒程度までの比較的高速のバルブ応答が簡単に得られるようにな り急速にこの手法が普及した.しかし,注入された燃料ガスは,プラズマ周辺部で電離され,拡散あるいは対流(粒子ピンチ効果)を介してプ ラズマ中心部へ侵入していくことになる.このため,核融合炉などの大型装置では密度分布が平坦になり,閉じ込め性能の悪化が危惧され,こ れに代わる方法として燃料ガスの氷を入射するアイスペレット入射法が多方面で使用されるようになってきた.核融合炉では,まずガスパフで 燃料ガス注入を行いプラズマを点火し,ついでガスパフとともにアイスペレット入射により注入燃料の量を制御し,所定のプラズマ密度を得 る,というような燃料の導入シナリオが考えられる.また,ガスパフの新しい利用法として,ダイバータ板の熱負荷軽減のためその付近を低温 高密度にするためのダイバータ室内へのガスパフが注目されている.また,プラズマの粒子輸送の研究のためピエゾバルブの駆動電圧を数10ヘ ルツから数キロヘルツで変調する変調ガスパフ実験も行われるようになってきた. ガスパフ 掲載号 73-1 218 Gas Puff プラズマ・核融合学会用語解説 2個の向かい合った円形コイルに逆向きの電流を流してできる磁場配位で,プラズマを閉じ込める基本的配位の一つである.プラズマは点カ スプでは円筒状,線カスプでは薄いシート状になって円周状に広がるため,その断面は点カスプと線カスプでとがった形になる.カスプはこの ようにとがった部分をさす言葉である.カスプ磁場の特長の一つは,中心で磁場が0であり周辺に向かって強くなっているため,プラズマは磁 気流体力学的に安定であることである.第二の特長は両コイルからの磁力線が線カスプで非常に接近してその幅がイオンのラーモア直径よりも 薄くなるため,シートプラズマを形成することである.カスプ磁場からのプラズマ損失を抑える有効な方法として,高周波封じ込め (Radio-Frequency Plugging) がある. [参考文献]佐藤照幸,高山一男編:高周波封じ込めとカスプ,IPPJ-REV-5,名大プラズマ研(1989). 図:219.gif カスプ磁場 掲載号 73-1 219 Cuped Magnetic Field プラズマ・核融合学会用語解説 二極放電において電極間の絶縁が破壊されると,電極間の大部分は,電気伝導の良いプラズマで充たされるが,陰極前面に大きな電位降下を 伴った境界層(陰極シース)が出現する(図283.gif 参照). プラズマ柱は大抵発光を伴っており,陰極シースは暗くなっているので目でそれ を確認できる.この境界層における電位降下VcをCathode fall,陰極降下と呼んでいる.この陰極降下は,放電プラズマの維持に極めて重要な役 割を果たしている.電極間の電位分布は,与えられた条件下で放電を維持するのに最も都合のよいように自己形成される.プラズマ柱の電位降 下は,通常の放電(放電管半径~電極間隙)では小さく,電極間電圧のほとんどが陰極シースにかかる. 陰極降下形成の理由は,次のように考えられる. プラズマの寿命は一般に非常に短い.したがって,プラズマを一定の状態に維持するには, 常にエネルギーを注入してプラズマ粒子の損失を補う必要がある.陰極から放出された電子(一次電子)が陰極降下で加速されることでそれを 実現している.一次電子は,プラズマから入射するイオンの衝撃による電子放出,γ作用(冷陰極),あるいは熱電子放出(熱陰極)によって賄 われている. 前者の場合,1個の電子を放出するのに多数(10個以上)のイオンの入射が必要なので,一次電子はそれに見合うイオンを作り出 さなければならず.陰極降下は封入気体の電離電圧の10倍以上となる. これに対して熱陰極の場合は,イオンの陰極への入射は必要なく,かつ 豊富な一次電子が放出されているので,陰極降下は電離電圧程度となる.なお,陰極シースはイオンの空間電荷層(冷陰極)あるいは陰極側に 電子,プラズマ側にイオンの空間電荷層から成る電気二重層(熱陰極)で構成され,放電電流は,前者ではその大部分がイオンによって,後者 では電子により運ばれている. 図(283.gif ):二極放電における電極間電位分布,V(x) カソードフォール 掲載号 74-10 283 Cathode fall プラズマ・核融合学会用語解説 CAMAC(Computer Automated Measurement And Control)はモジュールタイプの計測・制御システムを計算機で制御するための規約で,IEEE Std.583-982 等に定義されている.A/D変換器,D/A変換器,パルス計数器等のモジュールをクレートと呼ばれるバスコネクタ付き(データ ウェイと呼ぶ)の電源に挿入して,クレート全体を制御するコントローラモジュールにより計測機と接続される.CAMACは主に高エネルギー 物理学実験で利用されてきたが,その後核融合実験にも採用されるようになり,実験に必要な各種モジュールが開発されてきた.高エネルギー 物理学実験では10-12秒を計測するような高速性が要求されるが,核融合実験では大量データの収集,高速転送等の大規模なデータ処理機能が特 に重要である.最近では1モジュールあたり数MBのデータを収集して,数秒で計算機にDMA転送(ブロック転送と呼ぶ)する能力を持つものも ある.計算機からの制御は単純なCAMACコマンド(ハードウエアの動きに直結した命令)で動作するので制御プログラムが容易に実現でき, また特殊なモジュールを製作するのも容易である.利用できる計算機の機種も多く,最近ではパソコンやワークステーションにも接続できる. 接続方式は計算機に内臓のインターフェース(パラレル,GPIB,SCSIに直接クレートを接続する比較的小規模な方式と,バスケーブルで複数 のクレートを接続しハイウェイを形成して,ドライバと呼ばれる中継器により計算機に接続する大規模な方式がある.またこの2つを混合した 方式も可能である.実時間制御が必要な時は,32bit のマイクロコンピュータを搭載したコントローラモジュールがあり,ネットワークに接続し てワークステーションからグラフィカルな制御も可能である. CAMAC 掲載号 68-3 039 CAMAC プラズマ・核融合学会用語解説 レーザー光を直接燃料ペレットに照射し爆縮する直接駆動爆縮に対し,レーザー光を一旦金などの高原子番号物質に照射してそのエネルギー を軟X線に変換し,この軟X線で燃料ペレットを照射する方式をいう.その利点は,軟X線がインコヒーレントであるため,直接駆動方式で問題 となる,レーザー光のコヒーレンスに起因する高次モードの照射不均一性が発生しないこと,軟X線間接駆動アブレーションによる爆縮ではレ イリー・テイラー不安定性が抑制されやすいことなどのため,レーザー光やターゲット設計への要請を部分的に緩和できることである.一方欠 点としては,軟X線へのエネルギー変換や軟X線の燃料ペレットヘの伝達のプロセスを含むためエネルギー効率が低下し,要求されるレーザー 出力が大きくなることやターゲット構造が複雑になることなどがある.点火条件および高利得達成にとって直接駆動方式と間接駆動方式のいず れがより容易であるかはそれぞれの方式で達成される効率と一様性に依存する.間接駆動方式のエネルギードライバーとしてはレーザーに限ら ず,Zピンチプラズマや重イオンビーム等も考えられている. 間接駆動爆縮 掲載号 68別冊 050 Imdirect Drive Implosion プラズマ・核融合学会用語解説 慣性閉じ込め爆縮核融合における燃料球の一加熱方式.爆縮核融合では,重水素・三重水素燃料を充填した燃料球表面を高出力パルスドライ バーで加熱し,発生したプラズマの高圧力(数10~100 Mbar)で燃料球を爆縮する.その結果,内部の燃料は高温高密度となり核融合点火・燃 焼に至る.この加熱法には燃料球を直接加熱する方式(直接照射爆縮)とドライバーエネルギーを熱X線(輻射温度200~300 eV)に変換し,こ れで加熱する方式(間接照射爆縮)とがある.レーザーがドライバーの場合,そのコヒーレンシーに起因するビーム内強度の不均一性が存在す るため,直接照射爆縮では空間的に高次モードの不均一が生じるが,間接照射爆縮ではこれを回避できる.また,イオンビームやZピンチプラ ズマをドライバーとする場合には,ビーム数やプラズマ形状の制限から必然的に間接照射爆縮を用いることになる.反面,直接爆縮に比べ間接 爆縮はエネルギー伝達効率が低下する.間接照射爆縮のターゲットはX線の変換と閉じ込めを目的として,燃料球は金などの高Z物質でできた キャビティ内部に置かれる.レーザーの場合を例に両方式を図(200.gif)に示す.最近の研究の進展により,レーザーのコヒーレンシーを時間 的,空間的に制御する技術が確立され,直接爆縮で必要とされる均一性が確保されるようになった一方で,間接爆縮ではキャビティ内の膨張プ ラズマや反射レーザー光に起因する低次モードの不均一性の制御が重要課題となっている. 間接照射爆縮 掲載号 72-7 200 Indirrect-Drive Implosion プラズマ・核融合学会用語解説 一般に膜を隔てて両側にガスが接触している場合,各ガス成分は,各分圧が膜の両側で等しくなる方向に膜を透過し移動する.この透過性は ガス種毎に異なり,例えばポリイミド膜では水素や水蒸気を窒素に比較して 100~10,000 倍も選択的に透過する.この性質を利用して,混合ガ スからある種のガス成分を分離濃縮する膜を『気体分離膜』という.工業的には石油化学プラントにおいて,水素と一酸化炭素等との分離のた め本格的に研究開発され,現在では簡易除湿,乾燥空気生成等の用途に中空糸状気体分離膜モジュールが広く市販利用されている. 最近では,ITERおよび将来の核融合炉の安全性向上研究の一環として,気体分離膜を利用した新しいトリチウム格納除去設備の開発実証が進 められている.これは,トリチウム汚染ガスをポリイミド中空糸膜モジュールを介して循環し,汚染ガス中のトリチウムおよび水蒸気濃度を高 め,1)トリチウム除去設備の実処理ガス流量を数10分の1程度に低減(主に反応器の小型高性能化),2)格納系内の水蒸気の大部分を直接凝 縮して回収(主に吸着塔の小型化)するもので,従来の触媒酸化一水分吸着方式の除去設備を格段に小型高性能化できる. 気体分離膜 掲載号 71-10 175 Gas Separation Membrance プラズマ・核融合学会用語解説 自由電子がイオンもしくは他の電子と衝突する時,電磁波の放射や吸収が起こる.この放射過程を制動放射と呼び,吸収過程を逆制動放射と 呼ぶ.非相対論的なエネルギー領域(数十 keV 以下)では電子とイオンの衝突の二重極放射や吸収が支配的である.相対論的なエネルギーで は,電子-イオンおよび電子-電子衝突での四重極放射が重要になる.量子力学的には,輻射場中での自由電子のエネルギー準位の遷移に対応 し,自由-自由遷移吸収(free‐free transition absorption)とも呼ばれる.また,この吸収過程はプラズマ中で最も古くから知られたものであるこ とにより,古典吸収(classical absorption)とも呼ばれる. 逆制動放射 掲載号 68別冊 063 Inverse Bremsstrahlung プラズマ・核融合学会用語解説 逆磁場ピンチ(RFPと呼ばれる)は核融合をめざした磁場による高温プラズマの閉じ込め方式の一つであり,ドーナツ状の磁場構造を持った トカマクと同じグループに属する内部電流系軸対称トーラスである.RFPの磁場配位の特徴は,トロイダル磁場(ドーナツの大円方向の磁場) の向きがプラズマの中心と外分で反転していること,外部コイルで発生する必要のある磁場が非常に小さく,閉じ込め磁場の大部分がプラズマ 内部の電流で作られることである.このような磁場配位をとることにより,非常に小さなトロイダル磁場(トカマクの10分の1以下)であるに もかかわらず,大きなプラズマ電流を流して,高温・高密度のプラズマを高い効率で安定に保持することが可能となっている.RFPの磁場配位 は,与えられた条件のもとでのエネルギー最小状態に近いため,プラズマに内在するメカニズム(ダイナモ効果と呼ばれる)により,一見する と複雑な磁場配位が自律的に生成・維持される.核融合炉の観点からは,プラズマ電流による強力な抵抗加熱が利用できるので,それだけで核 融合炉の点火に至る可能性を持っていること,工学的に最適なアスペクト比の設定が可能であること,プラズマ外部の磁場が弱いため磁場の利 用効率を大きく下げることなくプラズマ外に熱処理用(ダイバータ)の大きな空間を設けることが可能であること,等の利点を持っている. 逆転磁場ピンチプラズマ 掲載号 73-2 222 Reversed Field Pinch Plasma プラズマ・核融合学会用語解説 核融合炉の運転を想定した時核融合反応により発生する出力(PF)と,反応状態を維持するために必要なプラズマ加熱用入力(PI)との比 Q= PF/PI をプラズマQ値,または単にQ値と呼ぶ.(なお,慣性核融合では標的利得がこれに対応する.) 発電用プラントでの単純化したエネルギーの流れは図(103.gif)のようになる.炉心部からの全熱出力を変換効率ηで電気出力(PG)に変える が,その一部(循環率ε)はプラズマ維持用加熱機器(効率ξ)に還流されるので,その残りが正味の発電量(PE)となる.これからηξε 1 + Q ) = 1 の関係が成り立つ.ε<1 が有効な発電となるための条件である. 効率η,ξは工学的に上限を持つ(通常η<0.4 ,ξ< 0.8 程度)ので,プラズマ性能の改善によりQ値の向上を図る努力が続けられている. 通常,Q = 1 の場合を臨界条件と呼ぶ.また,ηξε = 1/3 としたとき(したがってQ = 2)が,ローソン条件に対応する.一方,プラントと しての自己燃焼持続条件(自己点火条件とも呼ばれる)は,エネルギー循環率 ε→0 の場合に当たり,Q→∞ に相当する. Q値 掲載号 69-9 103 Q Value プラズマ・核融合学会用語解説 q値はプラズマを保持するドーナツ状の磁場容器の特性を表す重要なパラメータである.単純なトロイダル磁場のみではプラズマを保持でき ないので磁力線に捻じりを加え,磁気面をつくる.磁気面上の磁力線を辿るとき,小円周方向への回転数と大円周方向への回転数の比を回転変 換(ι)と呼び,その逆数を安全係数あるいはq値と呼ぶ.プラズマ電流により磁力線の捻じりをつくるトカマク型装置におけるq値は,通常, プラズマ中心で1程度であり,周辺に向かって増加するが,プラズマの巨視的安定性を確保するため,プラズマ表面での値は2以上に設定され る.これに対し,ヘリカルコイル電流によるヘリカル型装置では,通常,プラズマの中心部から周辺部に向かって減少する.q値が一様でな い,すなわち磁気シアのある配位ではq値が有理数となる磁気面(有理面)でプラズマの不安定性が発生しやすい.磁気シアによる安定化効果 と有理面での不安定効果との適切な兼ね合いが必要であり,トカマクではq値の径分布の制御方法が重要となる.トカマクでは円柱プラズマモ デルとプラズマの断面形状で決まる1程度の数係数から計算されるプラズマ表面でのq値がよく使われる.これは工学的q値と呼ばれる. q値 掲載号 69-12 110 q-value プラズマ・核融合学会用語解説 単純で扱いやすく,低温・定常・完全電離で静かな(Quiescent)磁化プラズマを生成することを目的に,1960年代初頭に主にRynnとD'Angelo によって開発された直線型装置(machine)のことをいう.電子ビーム衝撃等により2,000℃以上に加熱されたW,Ta等の金属熱板にその仕事関 数に比べて電離電圧の低いCs,K,(Ba)等のアルカリ(土類)金属原子を蒸気粒子ビームとして衝突させると,接触熱電離によって発生した 正イオンが熱電子を伴って熱板表面より放出され,直径5cm内外,長さ数百cmのアルカリ(土類)金属プラズマ柱が生成される.プラズマ中の 電子温度は熱板温度にほぼ等しく(~ 0.2eV),イオンは通常,熱板前面の電子シース(0~ -2V)で加速されている.ほぼ完全電離(99 %)の 状態でプラズマ密度の制御が比較的容易で,1-8kGの磁場強度の下で108-1012cm-3にわたって変えることができる. このように,内部電場・電流が内在する放電プラズマとは異なり,熱的に生成されたプラズマであるため初めは極めて静かであると思われた が,発生するドリフト波等の重要な不安定性及びプラズマ閉じ込めの基礎研究も成された.プラズマの基礎現象とりわけランダウ減衰の測定, プラズマ電位形成等の線形,非線形波動現象の解明に大きく貢献してきたが,最近ではプラズマ物理の解明に止まらずプラズマ応用研究のため にQマシンが用いられてきている. Qマシン 掲載号 74-3 262 Q Machine プラズマ・核融合学会用語解説 強結合プラズマとは,理想気体として熱運動の効果より,構成粒子間の相互作用の効果が大きいプラズマである[1].前者は,古典系では熱エ ネルギー,縮退系ではフェルミエネルギーで,後者は,粒子間の平均距離におけるクーロンエネルギーで評価できる.後者の前者に対する比を 結合度といい,Γ(古典系)または rs(縮退系)で表す(図1(100a.gif)参照).強結合プラズマでは,粒子の位置,運動は互いに強く相関し,内 部エネルギー,圧力が減少する.強結合効果は種々の振動モードの分散関係,輸送係数などに現れるが,最も顕著な効果は結晶化である. 核融合プラズマの最終状態は,磁場,慣性のどちらの閉じ込めの場合も弱結合である.しかし,慣性核融合の標的は爆縮の途中で強結合状態 を通過する.イオントラップ[2]に閉じ込めたイオンクラスターをレーザー冷却すると,古典強結合プラズマが得られ,結晶化が観測される(図 2(100b.gif)参照)[3].また,二次元系での結晶化は,ヘリウム液面上の電子系でも観測された.通常の金属中の電子系は縮退した強結合電子系 であるが,結晶化するほど結合度は大きくない. [1] 例えば,東辻浩夫:核融合研究61, 207(1989). [2] 例えば,桜井 誠,木村正広,大谷俊介:核融合研究 66, 224(1991). [3] 例えば,東辻浩夫:核融合研究 65, 203(1991). [4] S. L. Gnbert, J. J. BoUinger and D. J. Wineland, Phys. Rev. Lett. 59, 2022(1988). 強結合プラズマ 掲載号 69-8 100 Stronly coupled plasma プラズマ・核融合学会用語解説 磁場コイルの冷却方法から名前がつけられた,超伝導線材の一つの方式.強制冷却導体は,線材の内部に長手方向全長にわたって線材外部に は気密なすきま(冷却流路)を作り,ここに低温の流体(冷媒)を強制的に流して冷却する.これに対し,浸漬冷却導体は線材の周囲に冷媒を 配置して準静的に冷却する.強制冷却導体は,機械的強度が高く耐電圧性能の高いコイルを容易に作ることができ,さらに冷却効率がコイル形 状に依存しないため,コイルの設計も容易である.欠点としては,冷媒流発生装置が必要なこと,流路上部の発熱が下流部に影響を及ぼすこ と,流路が細く長いため,導体の突発的発熱に伴う冷媒の膨張が高い圧力上昇を招き,ときには冷媒の流れの閉塞を引き起こすことなどが挙げ られる.代表的な強制冷却超伝導体にはホロー型(図1(131.gif))とケーブル・イン・コンジット型(図2(131.gif))がある.前者は比較的単純な 断面形状の冷却流路を堅固な超伝導導体に設けたもの.後者は細い超伝導線を撚りあわせたフレキシブルなケーブルを気密性の管(コンジッ ト)で覆ったもの. 強制冷却導体 掲載号 70-7 131 Forced Flow Cooled Conductor プラズマ・核融合学会用語解説 レーザー光のプラズマ中への吸収機構のうち,共鳴的に起こる機構.レーザー光がプラズマ中に伝播してくる際,反射密度で S-偏光をもって いると,レーザー光の電界は臨界密度に迄侵入する成分を持たない.しかし,P-偏光をもっていると,反射点では,臨界密度にまで侵入する電 界成分がある.この電界は,臨界密度での電子プラズマ波の周波数をもっているため,共鳴的にレーザーの電界エネルギーが電子プラズマ波, すなわちプラズマヘと吸収される.共鳴吸収の割合は以下の式で表される.ここでq=(k0L)2/3 sin2θ で k0 は真空中でのレーザー電磁波の波 数,Lはプラズマの密度スケール長,θはプラズマにレーザーが進入する入射角.A(q)およびÅ(q)はAiry 関数とその微分形を示す.この式 より入射角15゜,レーザー波長1μm,密度スケール長5μm程度の実験条件の場合,共鳴吸収率は50%近くにもなることが予想される. 式(1):064eq.gif 共鳴吸収 掲載号 68別冊 064 Resonance Absorption プラズマ・核融合学会用語解説 核融合炉環境では,14Mevまでのエネルギーをもつ中性子により大きな材料損傷が生じる.この厳しい照射環境に耐える材料の開発には,試 験手段として高エネルギー強力中性子源の整備が不可欠である.これまでに,米国の Fusion Materials Irradiation Test Facility(FMIT)計画および 原研のエネルギー選択型中性子照射試験施設(ESNIT)構想において,重陽子ビームを流動Liターゲットに入射することにより14MeV付近に ピークをもつスペクトルの中性子を発生する「d-Liストリビング反応型中性子源」の技術検討・開発が行われた.また,IEA協力により,国際核 融合材料照射施設(IFMIF)の施設概念としてESNITの概念を取り入れたエネルギー選択性を有する「d-Liストリビング反応型中性子源」を選択 し,1995年2月より2年間の予定でその概念設計を進めている.IFMIFは30-40MeVの範囲で124mAの重陽子ビームを高周波で加速する2台の線型加 速器(総ビーム電流:250mA),流動Liターゲット系およびテストセルより構成され,2MW/m2 以上に相当する中性子束(高中性子束領域) を約1リットルの試験体積で使用可能となることが想定されている. 強力中性子源 掲載号 71-12 180 Intence Neutron Source プラズマ・核融合学会用語解説 MHD不安定性を安定化する方法として考案され,磁場配位構成において重要な役割をする概念である.交換型不安定性を考えてみよう.仮想 的に磁気エネルギーを変えない交換型変位に対して,プラズマの内部エネルギーの変化を計算する.圧力の高い部分が外側へ変位したとき,体 積を減少させるような変位しか許さないような磁場配位は安定である.つまり,δV < 0でなければならない.ここで,B(磁場強度)× A(断 面積)= 一定の磁束管を導入すると,下式(1)となり,比体積dl / B が減少することと等価である.例えば,磁場強度Bが内部で弱くて,外部 に向かって強くなる場合はこの条件を満足する.これが極小磁場(磁気井戸)になっている配位である. 一方,この条件をトーラスプラズマで満足するのは容易ではないので,トーラスの外側でBが弱くて,トーラスの内側でBが強くなる性質を考 慮しても,dl / B が内部から外側に向かって減少していれば,平均的には極小磁場配位である.この場合にもプラズマを安定化する効果がある (平均磁気井戸を形成している). 極小磁場配位は磁力線の曲率を用いて特徴付けることもできる.例えば,カスプ磁場では中心にB= 0の点があり,極小磁場配位である.カス プ磁場のように外部へ向かうとB= ¦B¦が強くなり,プラズマから見ると凹型の磁力線の曲率は安定化効果を有する.逆に,プラズマから見て凸 型の磁力線の曲率の場合は,不安定性が発生しやすい.したがって,絶対的な極小磁場配位は磁力線の曲率がいたるところ良い場合に対応して いる.トーラスプラズマの場合には,トーラスの内側では,プラズマから見ると磁力線はよい曲率であるが,トーラスの外側では,磁力線の曲 率は悪い.平均的な極小磁場配位は,磁力線の平均的な曲率がよい場合に対応している. 式(1):310.gif 極小磁場配位 掲載号 75-8 310 min B Configuration プラズマ・核融合学会用語解説 局所近似とはプラズマ中の電子エネルギ-分布関数が局所電界により決定されることを意味し,比較的高ガス圧力で一様なプラズマ中の電子 エネルギ-分布関数を記述するには極めて有効な近似である.一方,非局所近似とは電子エネルギ-分布関数が局所電界では決定されず,電子 エネルギ-分布関数は運動エネルギ-とポテンシャルエネルギ-の関数となることを意味し,非一様衝突支配のプラズマ中の電子エネルギ-分 布関数を記述するには有効な近似である. 非局所近似はベルンシュテインとホルステインにより1950年代に直流グロ-放電陽光柱の電子エネルギ-分布関数の管径構造を記述するため に最初に用いられた.非局所近似の概念は以下のように記述できる.電子移動の方向性は中性粒子との衝突で失うことより電子の運動量緩和長 は電子の平均自由行程で決定される.したがって,電子の平均自由行程が短いプラズマ中では電子運動量は局所電界で決定される.一方,電子 の持つ運動エネルギ-は弾性衝突のみを考慮した場合中性ガスと電子の大きな質量差のためほんのわずか失うだけで,電子は駆動速度または拡 散速度でプラズマ中を初期エネルギ-を維持したまま移動できる.したがって,非一様なプラズマ中にプラズマ維持のために形成される静電電 位(両極性拡散電位)により電子の運動エネルギ-は位置エネルギ-に変換され,任意の位置での電子エネルギ-分布関数は基準位置での電子 エネルギ-分布関数を静電電位差分だけシフトした形状で与えられる.なお,非弾性衝突を引き起こすのに十分なエネルギ-を持つ電子群(電 子エネルギ-分布関数の高エネルギ-部)は中性粒子との非弾性衝突で即座にその運動エネルギ-を失うので,一般的には電子エネルギ-分布 関数を静電電位差分だけシフトした形状で与えられないが,非弾性衝突頻度が低い場合すなわちガス圧力が低い場合は静電電位差分だけシフト した形状で近似できる. 局所近似と非局所近似 掲載号 74-5 266 Local Approximation and Non-Local Approximation プラズマ・核融合学会用語解説 強い電波を放射する活動銀河核からは光速に近い速さ(ローレンツ因子2~10)のプラズマ流がしばしば観測される.この流れを銀河系外プラズ マジェットと呼ぶ.ジェットは1pc (1pc = 3.1 × 1016m)以内の領域から噴出し,その開き角は数度以内で1-1,000 kpcまで延びている.その所々に knotと呼ばれる電波の強い斑点が観測される.また,ジェットの先端はきのこ状に広がり,その部分はlobeと呼ばれる.上記のジェットの速度 はドップラー効果等により計られた実速度ではなく,このknotの速度である. クエーサ3C273,ブレーザ BL Lac,3C279等のジェットのknotは見掛け上光速を越えて運動する.この現象をsuperluminal motionという.これは 相対論的ジェットが我々に向かって放出されているものとして解釈される.銀河系外プラズマジェットの加速に必要なエネルギーは1036-40J/sと 見積もられる.このエネルギーは活動銀河核中の巨大ブラックホール(質量は太陽の108倍程度)のまわりのプラズマの重力エネルギーが開放され て供給されていると考えられる.その加速機構としては輻射圧によるモデルや降着円盤を貫く磁場によるモデル等が提出されているが,未解決 である. 銀河系外プラズマジェット 掲載号 73-7 238 Extragalactic Plasma Jet プラズマ・核融合学会用語解説 縦磁場Bz(トロイダル磁場)とプラズマ電流Izによって生ずるBθ(ポロイダル磁場)があり,プラズマの形状が図1(243a.gif)に示すように折 れ曲るような擾乱が起きた場合を考える.曲がった内側のBθが強くなり,磁力線に垂直方向に働く磁場圧力のため,Bθは不安定化に寄与す る.一方磁力線に平行方向に働く張力のためにBzは安定化に寄与する.そのためBθsがある程度大きくなると,この折れ曲りの擾乱は不安定に なる.これをキンク不安定性という. トカマクのように|Bz|≫|Bθ|の場合,表面電流配位ではプラズマの変位ξ=ξ(r) exp( imθ+ikz )×e-iωtの分散式は 式(1)となる(m >0).ここでρm,aはプラズマの質量密度および小半径である.トーラスの大半径をRとするとk=n/Rで与えられる.n,mは整数である. 分散式の右辺第1項は縦磁場Bzの安定化項,第3項はBθの不安定化項である.安全係数q=aBz/(RBθ) を導入すると,分散式の右辺第2項は (nBθ/a)2(q+m/n)2となり,有理面(q+m/n=0)で安定化に寄与する第2項が零となる.m=1,n=-1モードの安定条件はω2>0よりq> 1となる.これを Kmskal-Shafranovの条件という.トーラスにおけるm=1,n=-1のキンクは図2(243b.gif)に示すような変位となる.キンク不 安定性の成長時間は(ポロイダル)アルヴェン波の通過時間程度で非常に短かい. 式(1):243eq.gif キンク不安定性 掲載号 73-9 243 Kink Instability プラズマ・核融合学会用語解説 超伝導状態が破れて常伝導状態に変化することを言う.英語のquenchは「火を消す」意味の動詞であり,超伝導(実際にはエネルギーの低い 状態であるが)状態が消えてしまうことから命名された.わずか0.5mm の超伝導線が 100 から 200 A の電流を流し得るが,「クエンチ」が起 こって通電中に突然超伝導状態が破れるとどんなに危険かは容易に想像される.そこで超伝導マグネットの設計ではクエンチをさけるために 「安定性」に全力を注ぐとともに,万が一のクエンチに際してマグネットを壊さないように「保護」にも力を入れている. 超伝導状態は相変化をともなう現象のために温度,磁界,電流密度に臨界値がある.1991年に水銀の超伝導効果がオンネスによって発見され た時には,すぐにも強磁界発生に使えると思われ,そのための研究が開始されたが,現実にはクエンチが起こり第二種超伝導体の発見される 1960年代まで超伝導マグネットは実現しなかった.クエンチの原因はなんらかの擾乱で超伝導線の温度があがり,臨界電流値が下がることから 起こる.擾乱を取り除く努力がされた結果ほとんどの原因については擾乱量の予測とそれを取り除く方法が確立したが,最後にマグネットの巻 き線の電磁力による動きが予測の難しいものとして残っている.しかし安定性の研究の進展により,たとえ予測しがたい擾乱が起こってもクエ ンチを起こさないように設計することが可能となった. クエンチ 掲載号 68-4 040 Quenching プラズマ・核融合学会用語解説 慣性核融合用ターゲットの一つで,燃料を冷却し,液化または固化して中空の球殻状にしたターゲットを言う.燃料の初期密度が高く,中空 であることから同じ量のガス状の燃料を持つターゲットよりも爆縮効率がよいことがシュミレーションなどで予測されている.将来の実用炉用 として有望視されている燃料ターゲットであるが,重力が存在する中で液体の垂れ下がりをなくし均一な厚さの燃料層を作ることや,固化する ときに発生する結晶化に伴う凹凸の発生をいかに抑えるかが技術的な課題となっている.極低密度で原子番号の小さい物質で作られたスポンジ 状(フォーム)の層の中に液体燃料を浸透させ,均一性を確保するフォームクライオ法や,三重水素の崩壊熱を利用して,固体の重水素三重水 素混合燃料を均一化するβ線加熱法,外部から高周波電場をかけ,内部にプラズマを発生させ,その加熱効果で固体燃料を均一化する方法など が研究されている. クライオターゲット 掲載号 68別冊 078 Cryogenic Target プラズマ・核融合学会用語解説 クリープとは,塑性変形が一定応力のもとで時間と共に増加する現象の事を言い,高温ほど顕著な現象である.一方,核融合炉材料では中性 子照射を受けながらクリープが進行し(照射下クリープ)その温度範囲,応力範囲が大きく拡張される.代表的な照射下クリープの機構とし て, (1)滑りによる変形が転位の点欠陥吸収(上昇運動)により継続される, (2)応力下で特定の方位特性を持つ転位が点欠陥を吸収し異方性のある上昇運動を起こす の2つが提案されている.いずれの場合も照射下のみに存在する自由欠陥の挙動左右されるものであり,照射後のクリープ変形とは全く異なっ た現象である.照射下クリープの実験は,一定の応力(多軸性も含めて)で長時間照射を継続する必要があり,一般に制御された実験が難し い.軽イオンビームを薄膜試料に応力を与えながら照射する方法,高圧ガスを封入したチューブを原子炉で照射し形状変化を見る方法等が代表 的な実験方法である.なお最近,オーステナイト鋼で室温近くという,今までの常識外の低温で大きなクリープ変形が認められ,その機構が関 心を呼ぶとともに次期実験炉設計への影響が議論されている. クリープ 掲載号 67-4 024 Creep プラズマ・核融合学会用語解説 低気圧放電管で一般的に見られる放電形態で,シラン(SiH4)やメタン(CH4)などの反応性ガスを用いたグロー放電により機能性薄膜を形 成したり,フレオン(CF4)ガス中のグロー放電によるVLSIのエッチングに利用されている.その電流-電圧特性から,前期グロー,正規グ ロー,異常グローに分けられるが,通常は陰極全面が放電面積となり電圧を増すと電流密度が上昇する異常グローが,高密度均一プラズマ生成 の観点から利用されている.印加電圧の周波数により,直流・交流グローと高周波(RF)グローに分けられるが,前者は二次電子放出(γ)作 用,後者は空間電離(α)作用により放電が維持される.また,前者は熱陰極と冷陰極グローに,後者は平行平板容量結合型と無電極誘導型に 大別される.電極間は大きく陰極降下部(イオンシース領域)と陽光柱(プラズマ領域)に分けられ,プロセスヘの応用に関して言えば,プラ ズマ領域の電子によるラジカル生成を利用する化学的気相成長(CVD)法と陰極降下部の強い電界により加速されたイオンによるスパッタコー ティングなどの物理的気相成長(PVD)法にそれぞれ利用されている. グロー放電 掲載号 68-5 044 Glow Discharge プラズマ・核融合学会用語解説 多くの清浄な金属表面は気体の化学吸着(chemisorption)に対して活性である.ゲッターポンプは,この表面吸着作用を利用した排気装置で ある.表面が吸着ガスで蝕和すると排気能力がなくなる.そこで清浄な表面をつくる方法の違いにより,チタンゲッターポンプのように常に新 しい金属蒸着膜を作るものと,ジルコニウム・アルミニウム合金等,吸着されたガスの固体内拡散を捉進させることで表面の清浄度を保つもの (非蒸発性ゲッター)とに分類する.いずれも希ガスに対する排気能力はない. 磁場閉じ込め核融合実験装置では,主として前者が使用されている.チタンの蒸着膜で覆うことにより,容器表面に吸着していた不純物ガス を封じ込め,かつ,酸素等の軽不純物混入の防止および水素リサイクリング制御に効果を得ている.さらに,金属不純物制御も大きな課題とな る今日の実験装置では,ボロン・リシウム等の薄膜で覆う技術(コーティング)が開発され,よい結果を得ている.他方,後者はストレージリ ング加速器の超高真空化のために多用されているものの,水素脆化による微粉化や剥離損傷があるため取り扱いが難しく,不純物制御のために はほとんど利用されていない. ゲッターポンプ 掲載号 70-2 115 Getter Pump プラズマ・核融合学会用語解説 船が通った後に水面に残す波を航跡(wake)という.これにならって,粒子ビームが通った後に加速器に残す電場を航跡場(wakefield)とい う.航跡場は後に続くビームを不安定にすることがある.しかしうまく利用すれば,進行方向の電場は航跡場加速として後続ビームの加速に, またこれと垂直方向の電場はプラズマレンズなどのかたちで粒子ビーム収束に役立つ.プラズマ・誘電体管・周期構造を持つ金属管等が,航跡 場を後続ビームに伝える媒体となり得る.誘電体管や金属管の航跡場には境界条件を満足するモードが無数にある.ところがプラズマではモー ドがプラズマ周波数でひとつに決まる.このためプラズマ航跡場加速は加速効率に優れている.粒子ビームばかりでなく,短パルス大出力レー ザーが動重力(ponderamotive force)によりプラズマ中に残す航跡場も粒子加速に利用できる.実験ではビーム励起法により20 MV/m程度の電 場が観測されている.どちらの方法にせよ,現在の加速器が持つ加速勾配の原理的な限界(100 MeV/m程度)を桁の単位で凌鷲することが目 標である.このためにはビーム励起法では強力な航跡場を励起するための強力なビームの開発が課題である.一方のレーザー励起法では加速距 離すなわちレーザーの焦点深度をのばすことが課題である.なお,逆チェレンコフ放射加速もレーザーが誘電体に作る航跡場を利用する加速器 とみなすことができる. 航跡場加速 掲載号 69-4 090 Wakefield Acceleration プラズマ・核融合学会用語解説 核融合炉材料のうち,現在の大型実験装置でプラズマ対向壁として使われているベリリウム,ボロン,炭素などを,それらが低原子番号材料 なので低Z材と総称するのに対し,モリブデン,タングステンなどの高融点金属を高Z材と総称する. 初期のプラズマ実験装置では,核融合が将来の熱源であることを考慮して,プラズマ対向壁にはステンレス鋼や銅,タングステンなどが使わ れた.しかし,これらの構成原子がプラズマ中心に集まると著しい放射損失を与えるため,プラズマ性能を向上させることが難しかった.現在 では放射損失の少ない低Z材を膜やタイルとして使うことにより核融合条件に近いプラズマを作るのに成功して いる.ところが核融合プラズマでは,プラズマ対向壁への熱あるいは粒子負荷が非常に大きいので,第一壁低Z材は著しく損耗することが分 かってきた.また核融合により発生する中性子の照射により炭素材の熱伝導度が著しく低下する.このため低Z材を第一壁に使うことに疑念が 持たれるようになってきた. そこで国際熱核融合実験炉(ITER)の設計では,最も熱入力の高いダイバータ部に,高Z材を導入するようになっている.しかし,一方ではプ ラズマ中心に高Zの不純物が集まると著しい放射損失を招くので,本当に高Z材が使えるのかという疑念も存在する.最近ようやくこういった 観点からの高Z材とプラズマとの両立性についての研究がはじめられている. 材料として高Z材を見ると,一般的に固くて脆いため,加工が難しいだけでなく,熱衝撃により割れる危険性も高い.また中性子照射による 脆化も懸念されている.それ故プラズマ対向壁として高Z材が有効であっても,どのような形態(バルク,タイル,あるいは膜)で使用する か,さらにはどのように冷却するかといった点など研究課題は多い. 高Z材料 掲載号 72-2 186 High Z Materials プラズマ・核融合学会用語解説 慣性閉じ込め核融合では,核融合燃料を低温に保ったまま高密度に圧縮し,その一部を点火温度以上に加熱することにより核融合点火・燃焼 を行い,高利得を得る.通常の中心点火方式では,レーザー照射で発生するプラズマ噴出圧力による求心衝撃波を重ね合わせて高い圧力を発生 し,燃料の中心部を点火する.これに対し,高密度に圧縮した燃料の一部を,外部のエネルギー源により加熱し点火する方式を高速点火と呼 ぶ. 後者では,音波の伝播で決まる圧力均衡時間(約10 ps)より短時間に加熱することが必要であるので,高速点火と呼ばれる.近年,高エネル ギー超短パルスレーザー光の生成が可能になったため,高速点火を実現できる可能性がでてきた.中心点火方式に比べ,照射均一性を緩和で き,かつ高い核融合利得を得られる可能性がある. 高密度燃料を外部から加熱し点火するために、高強度レーザー光で高エネルギー電子を生成し,この電子のエネルギーを高密度燃料に与える 方法が検討されている.レーザー光から燃料加熱への高い結合効率を得るには,電子の発生源はできるだけ燃料に近いことが必要である.その ため,予め100 ps 程度の長パルス・高エネルギーレーザー光で臨界密度以上のプラズマ中に導波路を掘り,その後に 10 ps 以下の超短パルス・ 超高強度レーザー光を照射する.いかに効率よく超短パルスレーザー光のエネルギーを高密度燃料の一部に与え得るかが,高速点火の核融合方 式としての成立を決める.プラズマ物理の面からは,超高強度光による相対論的電子の生成,超強磁場を伴う大電流電子流の高密度プラズマ中 の伝播など,新しい物理的課題が多く存在する. 高速点火 掲載号 73-8 241 Fast Igintion プラズマ・核融合学会用語解説 イオン温度(Ti)が高いプラズマの運転状態をいう.トカマクでは「hot-ion mode」と呼ばれるが,特にヘリカル型閉じ込め装置では「高Ti モード」と呼ぶ.トーラスにおける古典的な粒子拡散理論(新古典理論)によれば,ヘリカル型磁場配位では磁場のヘリカルリップルに捕捉さ れた粒子の損失が問題となる.しかし,プラズマ中に生成される電場により粒子閉じ込めが改善される.プラズマ中の電場はイオンと電子の両 極性拡散で決定され,一般的に2つの安定解と1つの不安定解があり,分岐(bifurcation)が起こる.特にプラズマ密度の低い領域では,プラズマ 温度の3から5倍の強い正電場が形成され,イオンの閉じ込めが著しく改善される.この場合,主に電子の拡散に強く依存するパラメータ領域に おいて電場が決定されるので,別名「電子ルート」とも呼ばれている.正電場の存在は実験的にも明らかにされており,強い電場によるE×B回 転によって粒子の半径方向のドリフト損失が押さえられ,イオンの閉じ込め改善がなされると予想されている. 高Tiモード 掲載号 72-6 198 High Ti Mode プラズマ・核融合学会用語解説 内部輸送障壁を持つトカマクプラズマ中心部の改善閉じ込めモードの一つで,1989年,JT-60の高ポロイダルベータ(βp)運転時に発見され た.鋸歯状振動のない中心安全係数>1の状態への強い中心加熱(中性粒子ビーム加熱)が基本的な運転条件である.ブートストラップ電流は 最大でプラズマ電流の80%に達し,定常トカマク炉に向けた先進閉じ込めモードとして研究が進展してきた.内部輸送障壁の形成はイオン系に 顕著であり,正の磁気シア位置で発生する.イオンの熱拡散係数は内部輸送障壁位置(プラズマ小半径の70%程度に達する)からプラズマ中心 に渡って改善され,新古典値程度からその数倍程度に低下する.これまでの中心イオン温度の最高値は45 keVである.一方,電子系には輸送改 善が見られない場合が多い.電子系にも明らかな内部輸送障壁が見られる放電が少数報告されている.ベータ限界は内部輸送障壁近傍の圧力勾 配で決まり,理想キンクバルーニングモードの限界値と一致する.内部輸送障壁の発生機構や安定性に関して,その後発見された負磁気シア モードとの比較研究が進んでいる.一方,周辺部をHモード化すること(高βpHモード)で,エネルギー閉じ込め改善度が一層上昇(Lモード の2 - 3.5倍程度)するとともに,圧力分布の適度な平坦化によってベータ限界も上昇する.さらに,周辺部をELMのあるHモードとすることで 定常性が改善され,高閉じ込め改善度,高規格化ベータ値,高ブートストラップ電流割合での完全非誘導電流駆動の同時維持が報告されてい る.高ブートストラップ電流率を維持した場合に見られる自発的な負磁気シアの形成も含めた電流や圧力分布の制御,及び,これまでのイオン 加熱主体の実験領域を電子加熱主体に拡大する実験が進められている. 参考文献:プラズマ・核融合学会誌 74 , 434(1998) . 高βpモード 掲載号 75-8 312 High βp Mode プラズマ・核融合学会用語解説 コーティングと言う言葉は,任意の固体表面上に膜を形成して被覆することを意味する.卑近な例を上げると,各種の塗装,金属のメッキ, こげつかないテフロンコーティング,シェーバーの刃のチタンコーティングなど,我々の身近な所で役立っている.コーティングの目的・役割 は,(1)摩耗,腐蝕,高熱などから保護すること,(2)美装,(3)各種の特殊機能(電子材料など)を持たせること,の3つに大別できる. コーティング法としては,液体を用いるウェットプロセス(重合や電着塗装)が古くから採用されているが,廃液処理の公害対策や微細加工の 必要性から,プラズマを用いる低温・ドライプロセスに,可能な限り移行しつつある.後者の例を上げると,スパッタリングやイオンビーム蒸 着を始めとして,反応性ガスのプラズマ分解が新しいコーティングの領域を拓きつつある.コーティングは,密着性の強化・均一化・大面積 化・高効率化などの課題を抱えながらも,先端技術開発の重要なツールとして定着している.核融合においても,カーボン・ボロン・シリコン などの薄膜の in situ コーティングが炉壁のコーティング技術として注目されている. コーティング 掲載号 69-8 101 Coating プラズマ・核融合学会用語解説 コロナ放電の名前は,針先の放電発光が王の冠ににているところから来ているらしい.大気中針対平板電極配置のような不平等電界において, 針電極に正の電圧を加え,これを高めていくと,まず,針先に小さい発光が見られる.これをバーストパルスコロナという.さらに電圧を高める と,細いフィラメント状の発光が平板電極に向かって間欠的に伸びる.これをストリーマコロナという.針電極に負の電圧を加えた場合は,ま ず,規則正しい出現頻度を持ち,かつ急峻な電流の立ち上がりを示すトリッチエルパルスコロナが現れる.この発光は針先に銀杏の菓がついた ようである.さらに電圧を高めると,定常電流が流れるパルスレスコロナになる.発光は銀杏の葉の中央を両刃の剣が突き抜けている形をと る.コロナ放電は加える電圧によって,直流コロナ,交流コロナ,高周波コロナがあり,また,一方の電極が電離に作用し他方は作用しない単 極コロナと,両方の電極とも電離に寄与する,双極コロナがある. コロナ放電 掲載号 74-4 265 Corona Discharge プラズマ・核融合学会用語解説 磁場中のプラズマを伝播する波が,粒子のサイクロトロン運動と共鳴して減衰を受ける現象をいう.粒子は磁場に沿ってしか自由に動けない ので,この現象は,磁場方向に伝播する成分を持つ波に限られる.波の角振動数をω,波数ベクトルの磁場方向成分を k//,粒子の速度の磁場方 向成分を v//とすると,粒子の波に対する相対速度の磁場方向成分は (v// - ω/k//) となる.粒子のサイクロトロン振動の周期は,サイクロトロン 角振動数を ωc とすると 2π/ωc であるから,一周期の間に粒子が波に対して磁場方向に進む距離は, (2π/ωc)(v// - ω/k//) である.これが磁 場方向の波の波長 2π/k//の整数倍になっていれば,粒子はサイクロトロン運動で一旋回したとき波の同じ位相にもどってくるので,波の電場 によって,共鳴的に加速または減速を受けることになる.この共鳴的な加速・減速によるエネルギー収支を粒子の速度分布について平均する と,波のエネルギーが粒子のエネルギーに変換され減衰を受ける.上の共鳴条件を書き替えると ω - k// = nωc(nは整数)となるが,特に n=0 の 場合は,磁場中でのランダウ減衰になる.ランダウ減衰同様,サイクロトロン減衰もプラズマ加熱や電流駆動の物理機構として使われている. サイクロトロン減衰 掲載号 69-2 084 Cyclotron Damping プラズマ・核融合学会用語解説 質量 m ,電荷 q の粒子が一様な磁場中で行う旋回運動はよく知られている.その旋回(ジャイロ)振動数と旋回半径はそれぞれ Ω = ¦ q ¦ B/m , ρ = v⊥/Ω で与えられる.ここに B は磁束密度,v⊥ は磁場に垂直な速度成分を表す.通常,この Ω をサイクロトロン振動数と呼ぶ. 著者によっては,Ω をラーモア振動数,ρ をラーモア半径と呼ぶことがある.しかし,これは誤解を招く恐れがある.なぜならラーモア振 動数には別の定義があるからである.すなわち,中心力の下で運動する荷電粒子に静磁場が揺動として加えられた場合,粒子運動は近似的に中 心力だけの運動に,角振動数 ωL = ¦ q ¦ B/2m の回転運動を重ね合わせたものになる.この回転運動をラーモア歳差運動,ωL をラーモア振動 数と呼ぶ[1].ゼーマン効果の説明のためにラーモア自身が導いたものでその名を付けるにふさわしい. したがって,サイクロトロン振動数をラーモア振動数と呼ぶのは正しくない.この呼び方は,筆者が調べた限りでは,1950年代の核融合研究 草分け期の著作から散見されたが,その呼称の根拠は定かでない.他方,この分野の教科書の先駆であるAlfven,Spitzerの著書にはこのような 誤用はない. 相対論的粒子の場合の旋回運動は,静止質量 m を式(1)に置き換えればよい.この場合にはシンクロトロン振動数とも呼ばれる.非相対論 的,相対論的を問わず,ジャイロ振動数,ジャイロ半径で通すのが簡明で混乱を生じないと考える. [1] 例えば,伏見康治:現代物理学を学ぶための古典力学(岩波書店,1964)p.122. 式(1):104eq.gif サイクロトロン振動数とラーモア振動数 掲載号 69-10 104 Cyclotron Frequency and Larmor Frequency プラズマ・核融合学会用語解説 プラズマ中の自由電子がイオンと衝突した際に z 荷に電離されたイオン Xz+に自由電子が捕獲され, z-1 荷のイオンX (z-1)+となりイオンの荷数 が減る過程を再結合という.プラズマ中のイオンと電子との衝突による再結合過程には放射再結合,二電子性再結合及び三体再結合の三種類が ある.放射再結合は光電離の逆過程でありXz+ + e → X(z-1)+ + hν の様に電子が捕獲され光子hνを放射する.この時に放射される光を再結合放射 (又は自由ー束縛遷移放射)という.電子が捕獲される準位の主量子数をnとすれば,放出される光のエネルギーはn殻の電離エネルギー I(n) と 自由電子のエネルギーEeとの和 hν = Ee + I(n)となるため n殻の電離エネルギー I(n)で端をもちI(n)以上のエネルギーをもつ連続スペクトルとな る.実際のプラズマでは高リィドベルグ状態の占有密度(ポピュレーション)が衝突により連続状態電子のマックスウェル分布に繋がるため,低 エネルギー側は端としては観測されず,再結合連続放射強度は対応するシリーズ線スペクトル強度になめらかに繋がる. プラズマ中での再結合速度係数は高温領域 ( I(n) << kTe )ではH様イオンでは1/n3に比例し,低温領域 ( I(n) >> kTe )では1/nに比例する.プラズ マ中に水素以外の不純物が存在する場合は荷数 z の4乗に比例して再結合による放射率が大きくなるため制動放射(自由-自由遷移放射)と比較 し放射率は大きくスペクトルの短波長領域ではプラズマからの連続光に大きく寄与する.再結合放射は制動放射と比較してプラズマの温度が低 いほど重要となりイオンが完全電離になるような高温プラズマでは制動放射が主要となる. 再結合放射 掲載号 73-11 250 Recombination Radiation プラズマ・核融合学会用語解説 Glass Microballoon の略語で,ガラス中空球を意味する.慣性核融合用燃料容器の一つの形式である.室温で高圧の燃料を長期間保持でき,真 球性,壁厚の均一性などが優れているので,燃料容器として広く用いられてきた.水ガラスを原材料として二重ノズルで整形して加熱処理して 作られたGMBは特に厚さの均一性に優れ,直径 100 -1,000μm 壁厚 1~10μm の物が作られている.金属アルコレートを加水分解して作られた ガラス粉未を加熱処理して作る方法は,比敷的成分の選択の幅が広いので特徴のあるGMBが作られている.Caを合むGMBは耐候性に優れ,燃 料を6ケ月以上保持できるものが作られている.酸化アルミ系のGMBでは1,000気圧に近い燃料を保持することができる.直径 1,000μm 以上 で,壁厚が 1μm 程度の LHART(Large,High-aspect-ratio Target)ターゲットも製作されていて,高い中性子発生を可能にしている. GMB 掲載号 68別冊 079 Glass Microballoon プラズマ・核融合学会用語解説 プラズマが固体表面,例えば容器の壁,と接する場所では,一般にその壁に隣接して電場を伴った特殊な薄い層ができる.これをシース (sheath) という. もしも初めにこのような層がなかったとしても,電子はイオンよりも熱速度が大きいので先に壁とぶつかって失われ,プラズ マ本体がイオン過剰となって電位が上がり,壁との間に電位差を生じて電場が作られる.そしてこの電場がイオンを壁に向かって加速し,電子 を減速してついには壁への流入量が両者で等しくなるまで電位が上がって定常状態となる.こうして自然にできた電場を伴う構造がシースであ る.このようにシースの形成には電位差と電子の熱運動とが主役を演ずるので,その層の厚さはデバイ長の数倍程度となる.シースの内部で は,電子はその各場所での静電ポテンシャルで定まるボルツマン分布をし,イオンはプラズマ本体から入ってきて,電場で加速されてまっすぐ 壁に飛び込む,という描像がよい近似で成り立つ. シース 掲載号 66-3 009 Sheath プラズマ・核融合学会用語解説 CD シェルターゲットは重水素化ポリスチレン[(- C8D8 -)n]を用いて製作した球殻状の燃料ペレットである.将来の高利得用ターゲットと して有望視されているクライオターゲットのよい模擬実験用ターゲットであり,高密度圧縮の物理解明用ターゲットとして利用されている.密 度整合エマルジョン法により,直径 100~1,500 μm,壁厚 3~20 μm,真球性,壁厚の均一性 99 %以上の高品質のものがつくられている.また プラズマ診断のための水素,塩素およびシリコンなどの元素を化学結合した状態で分子レベルに均一にドープすることが容易である.実際に, 三重水素置換SiドープCD シェルターゲットを爆縮実験に使用して,固体重水素密度の600倍以上の高密度プラズマを実証することに成功し た.さらに,炭素と水素から成るポリスチレンで製作したCHシェルは低原子番号成分であるため,クライオターゲットの燃料容器としても非 常に有用である. CDシェルターゲット 掲載号 68別冊 080 CD Shell Target プラズマ・核融合学会用語解説 地球磁気圏は巨大なプラズマキャビティであり,太陽風により吹き流された形で,前面(太陽側)は約10地球半径,後面(尾部)は6,000地球 半径以上のスケールとなっている.磁気嵐の源は太陽大気中で発生する大陽フレア等の大規模擾乱である.その擾乱が太陽風中を衝撃波として 伝播し,突然に地球磁気圏を圧縮する.したがって,磁気嵐は地上での観測では磁場のパルス的増加から始まる.しかしキャビティを外側から ポコポコと叩くだけでは大きな磁気嵐は起きないはずである.太陽風からは単に運動量の変化を受けるだけでなく,キャビティ内へのプラズマ の流入があり,これにより磁気圏内に巨大な赤道帯環電流が生じる.この環電流は反磁性的であり,地球磁場の顕緒な滅少を引き起こす.これ が磁気嵐の本番でありパルス的磁場の増加から数時間後に始まり数日にわたり,極域のオーロラを伴った乱れた状態が続く.キャビティ内への 太陽風プラズマの流入は磁気再結合過程によると考えられている.地球磁場は北向きであるので太陽風中の磁場が南向きの時はキャビティ前面 で,また北向きの時は地球磁場が北極域に入り込む領域で再結合が起きやすい.磁気嵐ではこれらが大規模かつ頻度高く起きる.また,尾部に 沿って形成されているプラズマシートでの再結合が直接に赤道帯環電流を引き起こすと考えられている. 磁気嵐 掲載号 68-4 041 Magnetic Storm プラズマ・核融合学会用語解説 トロイダル閉じ込め装置では,磁力線は”入れ子”状になったドーナツ形の磁気面 の群を形成し,プラズマはこの磁気面の中に閉じ込められ る (「磁気面」の項参照) . もし,異なる小半径の各磁気面状の磁力線の捻りの度合いが互いに異なる場合,磁 気シアがあるという.すなわち,各磁気面毎に磁力線にず れが存在することになり,磁気シアは磁気面毎に磁力線の傾きが変化する度合いを表している. ある特定の磁気面上にある磁力線はトーラスの主円周方向と小円周方向にそれぞれ有限回巡って閉じることがある.この磁気面は有理面又は 共鳴面と呼ばれ,種々の不 安定性の発生の原因となりやすい.しかし,磁気シアはこのように不安定の発生しやすい共鳴領域を局在化し,プラ ズマの安定性を改善する効果がある. 磁気シア 掲載号 66-4 012 Magnetic Shear プラズマ・核融合学会用語解説 トーラス装置のプラズマ閉じ込め領域においては,その内部の任意の点から出発して,磁力線を追跡すると,磁力線が覆いつくす面(磁気面) が存在する磁場構造になっている.ただ,ある磁気面では,1本の磁力線が何回かトーラスを回転すると元の 位置に戻り,面を覆いつくすこと はない (有理面) .こういう有理面に共鳴摂動磁場 が重量されると,下図(11.gif)に示されたように,同心状の磁気面が崩れ,島の形をした新た な磁気面群,つまり磁気島が形成される.磁気島内の磁気面内の点は,磁気線でつながっているため圧力,温度が一定になり,プラズマ閉じ込 めの劣化につながる.摂動磁場のない平衡磁場配位では, 磁気面に垂直な磁場成分は存在しないが,摂動磁場が重量されると垂直成分(Br) が現 れ,磁力線が元の磁気面からずれる.摂動磁場と磁力線のピッチが非共鳴の場合,元の磁気面からのずれ(Δ / a)は ~O (Br / B0) と小さく,磁気 面が少し変化するだけである(ここで a はプラズマ半径,B0は平衡磁場強度である) .共鳴を起こす場合は,磁力線に沿って,Brの方向が変わら ず, 元の磁気面から大きくずれていく.しかしながら,磁力線のピッチは径方向に進むにつれて,変化するので,径方向にあまりずれると非共 鳴になり,ずれが制限され,磁気島の構造となる.磁気島の大きさ(Δ / a )は,~O (Br / B0) 1/2であり,Br / B0~ 10-4 程度になるとプラズマに影響 が 出始める.実際の装置では,共鳴摂動磁場は,外部コイル電流が軸対称からずれて生じた (トカマク装置の場合) ,またプラズマ自身が不安 定性で作ったりする.後者の極端な場合,プラズマ半径の数分の一程度の磁気島が形成されて,プラズマ全体が自己崩壊 (disruption) することも ある. 磁気島 掲載号 66-4 011 Magnetic Island プラズマ・核融合学会用語解説 磁気フィルタは局在したシート状の横磁場であるが,例えば,プラズマに通したパイプ(ロッド)の中に永久磁石を詰めて作られる(ロッド フィルタ).ロッド間の中心磁場強度(最適な磁場強度はプラズマパラメータに依存する)は80~100ガウス(半値幅は3~4cm)程度であり, イオンの運動には殆ど影響せず電子のみが磁化される程度の磁場である.この横磁場には高速電子を選択的に反射して低速電子のみを透過させ る特性があり,磁気フィルタと呼ばれ,負イオン源プラズマ中の電子エネルギー分布制御に広く用いられている. 水素放電プラズマ中では,1. 高速電子(>20~40 eV)との衝突により生成された振動励起分子H2(v")に,2. 低速のプラズマ電子(~1 eV) が解離付着するという二段階過程により水素負イオンH-が体積生成される.また,生成されたH-は2~3 eV以上の電子との衝突により容易に消 滅するので,H-生成の最適化には電子エネルギー分布の制御が不可欠である.そのため,イオン源プラズマを磁気フィルタにより二分して,上 述の1,2の過程が最適となる電子エネルギ-分布になるようにプラズマ領域を分離するタンデム方式(2チャンバ方式)が考案された.H2 (v")は磁場の影響を受けずに拡散するため,フィラメントからの高速一次電子との衝突によるH2(v")生成領域(ドライバー領域)と低速電 子のH2(v")への解離付着によるH-生成領域(引出し領域)を分離・独立させることができ,体積生成型負イオン源での負イオン生成・引き出 しの高効率化が実現された. 電子のエネルギー分布制御を空間的に行う磁気フィルタ方式(空間フィルタ)に対し,アーク放電を数kHz以上で変調することによってプラ ズマ中の電子エネルギー分布を時間的に制御した時間フィルタと呼ばれる方式も開発された.この方式は反応性プラズマを用いたエッチング技 術に最近応用されている. 磁気フィルタ 掲載号 74-9 278 magnetic filter プラズマ・核融合学会用語解説 トカマクやヘリカル系装置はトロイダル閉じ込め装置と呼ばれる.このような装置の磁場配位では,下図(10.gif)に示されているような磁気面 の群を形成することによってプラズマのと閉じ込めを行っている.磁気面とは,その上の任意の点から磁力線を追跡する と磁力線がくまなく覆 いつくす面である.荷電粒子は,磁力線に巻き付きながら磁力線方向に動くので,それゆえに磁気面状に拘束され,その面を動き回る.(厳密に は,曲がった磁力線に沿って運動する荷電粒子は磁力線に垂直にドリフトするので,粒子の作る軌道面は磁気面より少しずれ,トカマクの場合 は,そのずれは,ポロイダルラーモア半径程度である) .また粒子は面上をほぼ自由に動き回るのでプラズマの圧力,温度などは,面内で一定 になる.それゆえにプラズマの基本パラメータである温度,密度,圧力は,磁気面を規定するパラメータのみの関数となる.磁気面の中には, 有理面と呼ばれる例外的な面が離散的に存在する.その面上では,1本の磁気線が面を覆いつくすのではなく,何回かトーラス回転をすると元 の位置に戻る.有理面は1本の磁力線が,面を覆いつくさないため に外部エラー磁場や,プラズマ不安定性に対して,構造的に弱く,磁気面の 崩壊が生じるときは,有理面を中心に発生する. 磁気面 掲載号 66-4 010 Magnetic Surface プラズマ・核融合学会用語解説 磁気リコネクションとは,抵抗性プラズマにおいて反平行成分を持つ磁力線同士がつなぎ換わることで,実験室や宇宙プラズマに自己組織化 や多彩な非線形時間発展・緩和現象を誘起する中心的な素過程である.そこには,理想磁気流体においては起こり得ない,磁場のトポロジー変 換に伴う異なる起源を 持つ磁力線のプラズマの混合と,磁気エネルギーからプラズマの熱・運動エネルギーヘの効率的変換という,二つの特徴的な現象が働いてい る. 磁場がつなぎ換わる速度は,X点における電流方向の電場の強さで決まるので,その強度とそれを決めている物理機構を明らかにすることが 理論的課題になっている.Ⅹ点付近の定常解として,Y字型磁力線構造を持つSweet-Parker解やslow-modeショック構造を伴う解などが知られて いる.リコネクションの原因として,反平行磁場構造自身に内在する抵抗性不安定性(テアリングモ-ド)や,外部からのプラズマ流による駆 動が提唱されている.また,無衝突に近いプラズマにおいても高速に進行するものが観測されていて,波動励起による異常抵抗や有限ラーモア 半径に由来する粒子効果,また,一般化されたオームの法則で表される流体的効果などによる説明が試みられている. 磁気リコネクション 掲載号 70-3 118 Magnetic Reconnection プラズマ・核融合学会用語解説 プラズマを記述する方程式としては,Klimontovich 方程式が厳密であるが,通常は位相空間における連続体近似であり,Liouville の定理を満 足するVlasov 方程式がよく用いられる.しかし,磁場に閉じ込められたプラズマに対しては,プラズマの不均一性と複雑な磁場構造が本質的で あるために,Vlasov 方程式は容易に解けない.そこで,マックスウエル分布に近いプラズマの巨視的性質に対しては速度空間の情報が重要では ない点に着目し,Vlasov 方程式から得られるモーメント方程式系がしばしば用いられ,磁気流体モデル(あるいは電磁流体モデル)と呼ばれて いる.モーメント方程式系は,マックスウエル分布に近いことを利用して,プラズマ密度,プラズマ圧力(あるいは温度)および流体的速度を 物理変数として閉じさせることができる.これらは,電荷密度と電流密度を通して,マックスウエル方程式系と結合している. 磁気流体モデルには,抵抗,粘性,拡散や熱伝導等の散逸過程を考慮しやすい利点がある.また,無衝突の極限として理想磁気流体を考えれ ば,粒子数,運動量,エネルギー等の保存則が成り立つ. 磁気流体モデル 掲載号 68-1 032 MHD Simulation Model プラズマ・核融合学会用語解説 プラズマ中の電気抵抗による磁場の拡散時間τRとアルヴェン時間τAの比である。一般に Sで表され, S =τR/τAとなる.ここで,τR=μ 0a2/η,τA=a / VA,VA=B0 /(μ0ρ)0.5(アルヴェン速度),μ0は真空の透磁率,a はプラズマの特徴的な長さ(一般にトーラスでは小半径をと る),ηはプラズマの抵抗率,B0は特徴的な磁場の強さ,ρはプラズマの質量密度である.電気抵抗を持つプラズマの振る舞いを記述する抵抗 性電磁流体方程式を,時間をτAで,速度をVAで,距離をa で(ナブラ;∇=a-1∇N とする),磁場をB0で,圧力をρ0で 正規化して書き表す と,プラズマの運動方程式と磁場の拡散方程式は, dv/dt=-2β0∇NP +(∇N × B)×B ∂B/ ∂t=∇N ×(v×B)-(1/S)∇N ×(∇N×B) β0=ρ0 / (B0 2/2μ0 )(プラズマのベータ値)と書くことができる. 上式から,磁気レイノルズ数 S がプラズマの振る舞いに対するプラズマの電気抵抗の効果を示す指標であるということがわかる.すなわち, S が無限大の時(抵抗率がゼロの時)には上式は理想電磁流体方程式となるが,抵抗率が大きくなり, S が小さくなっていくにしたがって,第 2式右辺第2項の電気抵抗による磁場の拡散の効果が大きくなり,理想状態からずれが生じる.抵抗率の効果を無視した場合には不安定性が起こ らない状態,すなわち理想電流体不安定に対して安定な平衡状態に対しても,抵抗率の効果を入れることにより新たな不安定性(抵抗性不安定 性)が発生し,その成長率が磁気レイノルズ数の関数となることが知られている. 磁気レイノルズ数 掲載号 75-11 317 Magnetic Reynolds Number またはLundquist Number プラズマ・核融合学会用語解説 熱力学の第二法則に従えば,閉じた系におけるエントロビーは常に増大し秩序構造は時間と共に崩れる.しかし,開いた系においては系外か らエネルギーを持続的に取り込みつつエントロピーを放出することにより,秩序構造を自発的に形成する場合のあることが知られている.この 過程を自己組織化と呼ぶ.生体の発生,結晶成長,ベナール対流のパターン形成などはその顕著な例である.核融合プラズマにおいても逆転磁 場ビンチ(RFP)の自発的配位形成とその維持,電気二重層の形成など様々な非線形現象の理解において有効な概念となっている.前者は J. B. Taylorの変分法により,最小エネルギー状態への緩和過程としても定式化されている.空間のみならず時問的秩序構造の発生の例として,トカ マクプラズマの鋸歯状振動(saw-tooth oscillation)を挙げることもできる. 自己組織化 掲載号 69-1 081 Self- Organization プラズマ・核融合学会用語解説 金属または半導体中にある1個の電子を真空中に取り出すのに必要な最小のエネルギーが仕事関数(単位:eV)である. 金属中には,自由に動きまわることのできる電子(自由電子)が満たされているが,それらの電子は金属の外に簡単に飛び出すことはできな い.それは,最も高いエネルギーの電子でも,真空中で静止している電子のエネルギーよりも低いためである.図(284.gif)は,金属内の自由電 子のエネルギー状態を真空中に静止してる電子のエネルギーを基準にして示している.温度0Kにおいて金属内の自由電子はフェルミエネルギー E f まで満たされている. ここでW は,金属表面のエネルギー障壁の高さを表している.フェルミエネルギーをもつ電子を金属外に取り出すに は,W-E f =φwより大きいエネルギーを必要とする。 このφwが金属の仕事関数である(Pt, W,Mo:約5.3~4.3 eV).半導体では,電子の エネルギー帯が図とは異なるので,上述の説明を少し修正する必要があるが,ここでは省略する. 金属や半導体に熱を加えたり,光を当てたりなどして電子にエネルギーを与えると,いくらかの電子は,エネルギーの障壁を超えて外に飛び 出すことができるようになる(熱電子放出,光電子放出).仕事関数は,電子放出現象ばかりでなく,接触電位差,表面の化学的活性などを考 慮する上で重要な物理量である. ---図--- 仕事関数 掲載号 74-11 284 Workfunction プラズマ・核融合学会用語解説 気相中に存在する粒子の分析法のひとつに,粒子の質量数の分析により粒子の同定をおこなう質量分析がある.分析の基本となる質量分離の 手法としては,磁界・電界を利用するものが多く,磁界中におけるラーモア半径の差から質量分離をする方法は古くから用いられている.一 方,電界を用いて質量分離をおこなう手法にはさまざまなものがあるが,その中でもコンパクトな装置構成で高い質量分解能を得ることができ る四重極質量分析の手法は広く普及しており,真空容器内の残留ガス分析装置や表面分析装置等に応用されている.またこれらの方法とは異な り,粒子を予め一定のエネルギーに加速した後ドリフト管を通過させ,検出器への到達の時間差から質量分離をおこなうTime of Flight法もあ る.一般に質量分析する際には粒子が電荷を持っていることが必要であることから,測定対象となる粒子が電荷を持たない場合(中性粒子)に はあらかじめ対象粒子の電離がおこなわれる.電離手法としては電子ビームを粒子に照射するのが一般的である.質量スペクトルから気相中の 粒子組成を評価する際には,それぞれの粒子に特徴的な質量スペクトルがあることを考慮する必要がある.特に多原子分子は電子衝撃による電 離の際に解離イオン化を起こし多くのフラグメントイオンを生みだすので,組成評価の際には注意が必要である. 質量分析 掲載号 74-3 260 Mass Spectrometry プラズマ・核融合学会用語解説 強い縦磁場がある場合,イオンのジャイロ周期より低周波の現象を解析するために有効な運動論モデル.トカマクやステラレータ等の低ベー タ装置でのプラズマ中の異常輸送の解明や,MHDモードの運動論的変形を解析するのに用いられる.粒子の運動をジャイロ軌道(円軌道)で平 均化した方程式系を用いる.粒子の運動は案内中心の運動で表され,磁力線方向の並進運動,有限ラーモア半径効果を含むE×Bドリフト,磁 場勾配ドリフト,磁場曲率ドリフトおよび磁力線に平行方向の電場による加減速等からなる.電場および磁場を求める式にもジャイロ運動論的 変形を考慮する必要がある.ジャイロ運動論的粒子モデルによるシミュレーションの基本式になっている.ジャイロ運動論的粒子モデルはコン ピュータに対する負荷が大きく次世代の超並列コンピュータをも考慮に入れて研究を進める必要がある.電子を断熱的に取り扱いイオンのみ ジャイロ運動輪的に取り扱うハイブリッドモデルや,電子とイオンをMHD 的に取り扱い高エネルギーイオンのみをジャイロ運動論的に取り扱 うハイブリッドモデルを用いたシミュレーションも行われている. ジャイロ運動論モデル 掲載号 71-3 154 Gyrokinetic Model プラズマ・核融合学会用語解説 ジャイロトロンは中空状の弱い相対論電子ビームがマグネトロン入射電子銃から引き出され,磁気圧縮をうけて共振器に入り電磁場のエネル ギーに変換され,ミリ波を発振させる電子管である.普通のマイクロ波電子管とは異なり,発振周波数は共振器内での電子サイクロトロン周波 数に近い.汎用ジャイロトロンは共振器として開放端型円筒空洞を,準光学ジャイロトロンは電子ビームと直交する一対の曲面鏡で構成された 共振器を用いている.発振の電界パターンにより汎用ジャイロトロンではリング状をした軸対称型と花びら状をしたホイスパリングギャラリー 型がある.共振器の寸法がミリ波波長に比べて格段に大きい高次モードの共振器を採用しているため,共振器壁の熱負荷が軽滅され,連続発振 可能な大電力のミリ波が発振できる.このためクライストロン等で不可能であったミリ波領域での大電力かつ高効率の発振が可能となり,現 在,核融合プラズマでの電子サイクロトロン共鳴加熱のミリ波源として利用されるに至った.プラズマ加熱からジャイロトロン開発に要請され る仕様は周波数 110-140GHz,単管出力1MW,連続動作である.現在,140GHz,ホイスパリング・ギャラリーモードTE15,2の発振により 0.5ms で1MWの出力を,500msで 0.38MW の出力が得られている. ジャイロトロン 掲載号 67-2 018 Gyrotron プラズマ・核融合学会用語解説 磁場に閉じ込められたプラズマは,各種の微視的不安定性による電磁波揺動により磁力線を横切って損失する.例えばドリフト波乱流が損失 機構の主要因と考える.磁力線垂直方向の波長λがイオンラーモア半径ρ程度の静電波が最も不安定で,その線形成長率Γはほぼドリフト周波 数 式(1)である(L:プラズマの磁 力線垂直方向分布の特性長,T:温度,B:磁場).静電ポテン シャル揺動 eφ/T の大きさは λ/L 程度 になって飽和すると考えると,プラズマのE×Bドリフト運動の振幅はλ程度であり,その振動運動の相関が失われる時間τはγ-1である.した がって,E×Bドリフトのランダム運動による粒 子の拡散係数 D および熱の拡散係数 χは, 式(2)となる. このように,ボーム拡散係数 DB~T/eBに規格化ラーモア半径(ρ/L)を乗じたものをジャイロボーム拡散係数という.一般的に,無次元関数 F = F( ベータ値,衝突度,局所的 アスペクト比,安全係数,...)を用いて,拡散係数をD = DB・(ρ/L)μ・F と表すとすれば,,μ = 0 のと きはボーム型拡散,μ = 1のときは ジャイロボーム型拡散,μ = 0.5のときは弱ジャイロボーム型拡散と呼ぶことができる. 式(1):153aeq.gif 式(2):153beq.gif ジャイロボーム拡散 掲載号 71-3 153 Gyro-Bohm Diffusion プラズマ・核融合学会用語解説 ジャイロ運動論的ブラソフ方程式のモーメントをとって得られた流体方程式を基本とするモデル.イオンの有限ラーモア半径効果や,粒子の 磁場勾配ドリフト,磁場曲率 ドリフト等の効果を含む.高エネルギーイオンも取り扱える.ジャイロ流体シミュレーションの基本式となってい る.トカマクの異常輸送の解明やMHDモードの運動論的 変形の解析に用いられる.モーメント方程式系を閉じさせるための近似が問題にな る.電子およびイオンのランダウ減衰および逆ランダウ減衰の効果をジャイロ運動輪的ブラソフ方程式より導きモーメント方程式系を閉じるこ とも可能である.ジャイロ運動論モデルのほうが物理に忠実ではあるが,ジャイロ運動論的粒子モデルを用いたシミュレーションは計算機に対 する負荷が大きく次世代の超並列コンピュータをも必要とする.ジャイロ流体モデルによるシミュレーションは現在のスーパーコンピュータで も十分現実的な時間内で計算可能である.ジャイロ運動論的粒子モデルを用いたシミュレーションとの比較を通じてモデルの正当性を検証して いくことが必要とされる. ジャイロ流体モデル 掲載号 71-3 155 Gyrofluid Model プラズマ・核融合学会用語解説 能動粒子線計測法のひとつ.プラズマ中の電位,密度,温度等の測定を目的とし,重イオン(通常はアルカリあるいはアルカリ土類金属イオ ン)ビームをプラズマ中に入射し,電離反応で生成された二次ビームのエネルギーおよび強度を測定する.プラズマ閉じ込め装置内で電離反応 を起こした二次ビームは電荷が変化するため,未反応の入射ビームとは異なった経路で閉じ込め装置から放出される.したがって二次ビームの みを選択的に検出することが可能である(図(128.gif)参照).入射ビームのエネルギー,電荷をそれぞれEp,qp,二次ビームについてEs,qs とすると,電離点での電位は(Es-Ep)/(qs-qp)で表される.密度,温度については二次ビームと入射ビームの比から決定できる.ただ し,密度を求めるには温度を,温度の場合は密度を他の測定から与えなければならない.電位測定に関するこの測定法の特徴は,ビームの入射 角度を変化させることによって非常に高い空間分解能をもって分布測定が可能な点にある.測定点を固定することによって,空間電位および密 度の揺動測定も可能である. 重イオンビームプローブ 掲載号 70-6 128 Heavy Ion Beam Probe (HIBP) プラズマ・核融合学会用語解説 エネルギーのそろった指向性の強い電子ビームをウイグラー(もしくはアンジュレータ)と呼ばれる強い電磁場,あるいは誘電体や遅波構造 を持つ導波路に入射し,コヒーレントな放射光を発生する装置である.制動放射の反作用による電子ビームのバンチングを利用して増幅・発振 を行い,その機構はクライストロン等の電子管に類似している.発振波長は用いる電子ビームのエネルギーの二乗に逆比例して短くなる.した がって,電子蓄積リング,高周波線形加速器,誘導線形加速器,静電加速器等色々な加速器を用いることによって,波長 1cm から波長 10nm 以 下のX線領域まで発振の可能性がある.「第4世代の放射光」と呼ばれることもある.世界ではじめての発振の成功は,米国・スタンフォード大 学(1976年)のJ. M. J. Madeyらの実験によるものである. 自由電子レーザーの利点は波長可変で高出力なことであるが,加速器等が大型であることが欠点とされる. 自由電子レーザー 掲載号 67-5 027 Free Erectron Laser(FEL) プラズマ・核融合学会用語解説 原子炉の有する固有の危険性(例えば,核分裂生成物やその崩壊熱,余剰反応度とそれに起因する出力逸走事象等)を十分小さくするために 採用する工学的安全システム,構造物,機器の作動が,外部からのエネルギーあるいは信号や操作なしに,自然法則や物質の物理的性質,ある いは,内部に含まれるエネルギーに依存するものをさす.これに対して,能動的安全性(Active Safety)とは,原子炉の有する固有の危険性(例 えば,核分裂生成物やその崩壊熱,余剰反応度とそれに起因する出力逸走事象等)を十分小さくするために採用する工学的安全システム,構造 物,機器の作動が,外部の(機械的,あるいは電気的な)エネルギー,信号,操作に依存するものをさす.ここで「自然法則や物質の物理的性 質」とは,例えば,以下のような事項をさす. 1.重力,磁力 2.熱膨張 3.熱に伴う相または物性変化 4.熱容量 5.自然対流,伝導,輻射による熱移動 6.温度変化に伴う核反応特性の変化 7.物質の放射線遮蔽特性 等 受動的安全性 掲載号 74-7 272 Passive Safety プラズマ・核融合学会用語解説 熱陰極電離真空計の一種で,約100 Paまでの高い圧力の測定に使用できるように工夫されている.電極は2枚の平行平板とその間に置かれた フィラメント(熱電子源)で構成され,平行平板の一方をアノードに,他方をイオンコレクタとしている.フィラメントにはレニウムやトリア コートイリジウムが使われている.熱陰極電離真空計はIi=K・Ie・Pの関係から圧力を求めているが,感度係数Kと電子電流Ieが測定圧力Pには 無関係に一定であることを前提としている.これは,一定量の電子が一定の軌道を描きながら飛行してほぼすべての電子がイオン化に寄与する ことなくアノードに流入し,「無駄」になる条件である.しかし,圧力が高くなり多くの電子がイオン化に使われるようになるとKの値が変化 する.また,多量の生成イオンは空間電位を変えてKの変動を引き起こす.この対策として,次のようなことが行われている.1)電子の軌道 長を短く(電極間隔を狭く)し,Ieを低く押える.2)アノード電圧を低くしてできるだけカスケードイオン化を少なくする.3)イオンコレク タを深い負電位にしてイオンの引き込みを強くすることにより,圧力変化によるイオン収率の変動を防ぎ,フィラメントに流入するイオン電流 の割合を減じる.これにより,高い庄力までIe一定の条件を保つ. シュルツ型真空計 掲載号 70-4 120 Schluz Gauge プラズマ・核融合学会用語解説 黒鉛等の炭素材料のスパッタ率は,数百度以下では温度によらず一定で,いわゆる物理スパッタリングによるものとなっているが,温度が 1,000K 以上になると(水素を一次粒子とした場合の化学スパッタリングはここでは考えない),入射一次イオンの種類によらず,スパッタ率の 値が温度と共に指数関数的に上昇する.この現象による炭素材料の損耗率は単純な熱による炭素の昇華に比べてはるかに大きいため,照射促進 (または誘起)昇華と称され,最近の大型トカマクの炭素によるプラズマ汚染の一因として注目を浴びている. この照射促進昇華現象は,次の2つの理由,すなわち 1.炭素材料に特有で金属やセラミックスでは現在のところ報告されていないこと. 2.熱昇華(蒸発)の場合には放出される粒子はC1 だけでなく,C2 ,C3 ,C6 ・・・等のクラスターが含まれるのに対し,照射促進昇華では そのほとんどがC1 であること. 等により,入射粒子との衝突により弾き出された炭素原子が,層状構造を持つ黒鉛の層間を格子間原子として,固体内で空孔に捉えられること なく表面まで移動した後,そのまま放出されるものとしてモデル化されている.ボロンやチタンあるいはシリコンの添加はその低減化(照射促 進昇華開始温度を高める)に効果があることが報告されているが,その機構については現在のところ不明である.照射促進昇華も詳しくみると 入射粒子束依存性など必ずしもモデルと実験結果とは一致してはいないだけでなく,電子線や中性子を一次粒子とした場合での現象の確認もで きていない.現象のそのものの解明,そしてその低減化は今後の大きな課題となっている. 照射促進(誘起)昇華 掲載号 67-3 019 Radiation Enhanced(or Induced)Sublimation プラズマ・核融合学会用語解説 合金や不純物を含む材料が照射を受けた場合,点欠陥の流れによって固溶する溶質原子の移動が誘起され,結晶粒界やキャビティ,転位など の点欠陥消滅場所(シンク)の近傍で溶質原子濃度が上昇または低下する.このように照射によって溶質原子濃度が不均一化する現象を照射誘 起偏析と呼び,局所的な組成変化から母相と異なる相が析出する現象を照射誘起析出と呼ぶ.照射誘起析出は材料の強度特性劣化やスウェリン グの直接または間接的原因となり,照射誘起による粒界偏析はステンレスにおける応力腐食割れを促進する(照射促進応力腐食割れ; IASCC). 照射誘起偏析においては,多くの場合,母相に対して原子半径の小さい (undersized)溶質原子は点欠陥のシンクで濃化し,原子半径の大きい (oversized)原子は反対に欠乏する.このような現象を広くサイズ効果と呼ぶ.照射誘起偏析の機構として,溶質原子が点欠陥と複合体を形成 することによるシンク方向への移動,原子空孔と位置を交換することによるシンクとは反対方向への移動,母相との点欠陥の易動度の違いによ り移動方向が決まる逆カーケンドール効果(inverse Kirkendall effect)などが提唱されている. 照射誘起偏析・析出 掲載号 71-11 177 Radiation-Induced Segregation ; RIS, プラズマ・核融合学会用語解説 絶縁性セラミックスでは,金属のように伝導帯に電子が存在せず,価電子帯に電子が存在するため,自由電子による電気伝導がなく,高い電 気絶縁性をもつ.中性子およびγ線等の放射線を絶縁性セラミックスに照射すると,セラミックス中の価電子帯にある電子を伝導帯へと励起 し,放射線のイオン化に応じて伝導電子とホールを生成するため,電気伝導が生じ,絶縁抵抗が劣化する.これを照射誘起電気伝導 (Radiation-Induced Conductivity:RIC)と呼ぶ.このRICは伝導電子とホールが極めて短時間(10-11 秒程度)で再結合するので,照射中のみに生 じる現象である.核融合炉には,炉内構造物,RF窓,計測系等に種々のセラミックス絶縁材料が用いられる.これらは,核融合炉の稼働中, 14MeVまでの中性子及び副次的に発生するγ線に曝される.14MeV中性子は核分裂炉中性子に比べ,イオン化効率が高く,RICによるセラミッ クス絶縁材料の絶縁性劣化が懸念されている.このため,種々の照射装置を用い,核融合炉における絶縁性劣化を評価するための試験を実施し ている. 照射誘起電気伝導 掲載号 71-11 176 Radiation Induced Conductivity プラズマ・核融合学会用語解説 イオンの電離・再結合,励起・脱励起は,主に自由電子との衝突による衝突過程(collisional process)と,光子を吸収・放出することによる輻 射過程(radiative process)により支配される。比較的高密度で低温の状態では衝突過程が支配的で,局所熱平衡状態(local thermodynamic equilibrium;LTE )に近付く.ところが,比較的低密度で高温な状態では,輻射過程が重要となる.光学的に薄いプラズマでは輻射励起・電離 が起こりにくく,衝突過程と輻射脱励起・再結合とが支配的となる.このように衝突過程と輻射脱励起,再結合とがバランスした状態を衝突・ 輻射平衡(略して CRE )という.この平衡モデルでは,高密度・低温では LTE となり,低密度・高温の極限でコロナ平衡(cornal equilibrium) となる.たとえば,レーザープラズマのように小スケールのプラズマで温度・密度が空間的に急激に変化するプラズマの原子状態を記述するの にこの衝突の輻射平衡を仮定することがしばしばある. 衝突・輻射平衡 掲載号 68別冊 073 Collisional Radiative Equilibrium プラズマ・核融合学会用語解説 新古典テアリングモードは,衝突周波数の下がった高温プラズマにおいて,ヘリカル構造をした磁気島に沿って流れる、新古典理論に基づく ブートストラップ電流が磁気島を成長させるMHD不安定性である.磁気島が存在すると,プラズマ圧力が磁気島内部で平坦化するため,磁気 島内のブートストラップ電流が減少する.この磁気島内外のブートストラップ電流の差が磁気島を成長させ、閉じ込めの劣化を引き起こし、ソ フトなベータ限界をもたらす.磁気島幅wの成長は次の理論モデルで説明されている.(下式(1)) ここで, Δ'(w) はテアリングモードの安定性の指標であり,第2項は,ブートストラップ電流による不安定項である. τR = μ0 r2 / ηsは抵抗 性磁場拡散時間,k1,k2は平衡の詳細に依存する定数,rsは磁気島が存在する磁気面の小半径,εs=rs/R0,下付きのsはrs上の値を示す.また, Lq = q / (dq /dr),Lp=-p/(dq /dr)であり,wd は(χ⊥/χII)1/4 - rs に比例する量である.χ⊥とχ‖は,各々磁力線に垂直および水平方向の熱拡散係数 であり,多くの場合磁気島幅の飽和時にはw≫wdと近似できる.この式から,磁気島が存在する有理面でβpの上昇,低シアによるLqの増加, 高圧力勾配によるLpの減少が磁気島を大きくすることがわかる.新古典テアリングモードはJ.D. Callen 等によって理論的に予測されていたが, 1995年にTFTRで観測されたMHD現象と磁気島幅(電子温度分布の平坦化幅)が上式によってよく説明できたことをきっかけに,新古典テアリ ングモードによるβ限界がいくつかのトカマク装置について調べられ,衝突周波数の低下にしたがってβ限界が理想MHD安定限界値より低くな ることが報告された.新古典テアリングモードは,ITERおよび将来の高βによる高効率定常炉における重要な課題となっており,イオンの分極 電流による安定化効果の検討や,JT-60などで電子サイクロトロン波を用いた磁気島内への局所電流駆動による安定化の研究が進められてい る. 式(1):313.eq 新古典テアリングモード 掲載号 75-9 313 Neoclassical Tearing Mode プラズマ・核融合学会用語解説 新古典輸送とは,トーラス磁気面内に閉じ込められた粒子のサイクロトロン運動の案内中心の軌道に対するクーロン衝突の結果として生ずる 粒子及び熱の磁気面を横切る拡散により引き起こされる輸送現象のことである.磁力線に沿って磁場強度が不均一なトーラス系では,磁気モー メントの保存により粒子は磁場に捕促される粒子(補捉粒子)とされない粒子(非捕捉粒子)に大別され,対応する案内中心の軌道の周波数と 磁気面からのズレが新古典効果を考える上で重要な要因となる.この案内中心の軌道に大きな影響を与えるのは,トロイダルドリフトである が,非軸対称系では,ヘリカルリップルや電場による影響も重要となる.一般に,磁場構造の性質を大きく反映する捕捉粒子の案内中心の磁気 面からのズレは大きいが,その周波数は小さいため,衝突周波数が補捉粒子の運動周波数よりも十分小さい時,顕著な新古典論的効果が現れる 事になる.例えば,軸対称系でのバナナ拡散,非軸対称系でのリップル拡散,また,両者におけるブートストラップ電流等がこれに相当する. 逆に,非捕促粒子トーラス方向の周回周波数よりも衝突周波数が大きくなっていくと,新古典的効果は薄れていくが残っており,この領域での 新古典拡散は Pfirsh-Schluter 拡散と呼ばれる.したがって,粒子の軌道に直接的な影響を与える軸対称性の有無等の磁場配位の空間依存性及び 拡散を産み出すクーロン(二体)衝突の性質(運動量保存,自己共役性)が新古典理論の結果に本質的な影響を与える. 新古典輸送 掲載号 67-2 017 Neoclassical Transport プラズマ・核融合学会用語解説 多重防護(防護)ともいう.原子力施設の安全性確保の基本的な考え方の一つで,放射性物質の閉じ込めに有効な防護策を多重に講じ,万一, 1つの防護策を超えるような事象に発展しても,他の防護策により放射性物質の環境への異常な放出を防止し,環境影響を低減する思想.具体 的には,原子炉施設の設計,建設,運転にあたっては,以下の3段階の防護策が講じられている. (1)安全上問題となる異常事象の発生を未然に防ぐための対策 ・原子炉に高い固有の安全性(例えば,負の原子炉の出力係数)を持たせる ・安全上余裕のある設計 ・誤作動や誤動作を防止する設計 例えば,フェイルセイフ設計(部品や機器が破損または故障しても,その結果,系全体が安全側に作動するように設計)やフールプルーフ設 計(運転員が誤作動してもその結果が事故にならないように設計) ・運転が容易な設計 ・連続的あるいは定期的な点検・保守が実施可能な設計上の工夫 ・十分な品質管理,品質保証等 (2)異常事象の拡大防止及び事故への発展防止のための対策 ・異常の早期発見のための高い信頼性を持つ検出系の設置 ・異常発生に対し,高い信頼性をもつ原子炉緊急停止系の設置等 (3)事故に発展した場合を想定し,放射性物質の異常な放出を防止する環境影響低減のための方策 ・非常用炉心冷却系の設置 ・原子炉格納系の設置等 深層防御 掲載号 74-4 263 Defence in Depth プラズマ・核融合学会用語解説 ハミルトン系の時間発展は正準変換(シンプレクティック変換),すなわち変換のヤコビアンは1であるから,位相空間の体積は不変に保た れる.シンプレクティック積分法はこの性質を保つ数値積分法である.従来の積分法では局所離散化誤差のため扱っている系に実際にはない滅 衰や励起を起こし,長いステップにわたる数値積分の後では解の信頼性が失われてしまうことがあった. 現在までに様々なシンプレクティック積分公式が提案されている.代表的なものとして母関数による陰的法,陰的ルンゲ・クッタ法(よく知 られた古典的ルンゲ・クッタ法などの陽的法はシンプレクティック積分法ではない)があり,またハミルトニアンが H = T(p) + V(q) という分離 型の場合の陽的法などが挙げられる.さらに系にエネルギ一などの保存量がある場合,その性質を保持する公式も研究されている. [参考文献] H. Yoshida, Recent Progress in the Theory and Application of Symplectic Integrators, Celest. Mech., (1993), to appear. シンプレクティック積分法 掲載号 69-6 095 Symplectic Integrator プラズマ・核融合学会用語解説 水素同位体間で,平衡比(気液平衡状態での蒸気相と液相のモル分率の比)に差があることを利用した同位体分離法.水素同位体6分子種は 平衡比の差が大きく,例えば大気圧でH2 とT2 が気液平衡状態にあるとき,相対揮発度(H2 の平衡比/T2 の平衡比),すなわち分離係数は約 3.5に達する.水素同位体を約20Kにまで冷却(それで「深冷」の形容がつく)液化し,相対揮発度の差を利用する蒸留塔により分離を行う.蒸 留塔は(Fig. 1(147.gif)),再沸器(ヒータにより蒸気を発生させる),凝縮器(冷媒ヘリウムガスで蒸気を液化する),精留部(充填物が詰め られており,凝縮器から落下する液を分散して,再沸器から上昇する蒸気と接触させる)から構成される.平衡比の大きいH2 は蒸気相に,D2 およびT2 は液相に移動し,それぞれ塔頂および塔底に濃縮される.気液が向流接触することにより多段の分離効果が得られること,水素を液化 するため,大流量の連続処理が可能であることに大きな特徴がある. 深冷蒸留水素同位体分離 掲載号 71-1 147 Cryogenic Hydrogen Isotope Distillation プラズマ・核融合学会用語解説 熱拡散とは,混合流体を温度勾配下に置くと,一般に,軽成分が高温側に,重成分が低温側に移動する現象で,Enskog(1911),Chapman (1917)が,気体分子運動論から初めて指摘した.熱拡散法による同位体分離は,1939年ClusiusとDickelが向流型熱拡散塔(中心軸に発熱線を 張り,外側を冷却する垂直円筒管)を考案して実用的になった.これは,水平方向温度勾配による熱拡散効果で混合気体を分離させ,鉛直方向 に生じる自然対流で分離を多段的に積み重ねて,分離効果を飛躍的に増大させるものである.1990年,通常の冷壁(例えば,288K)の代わりに 深冷壁(例えば,液体窒素温度77K)とすれば,分離係数はさらに飛躍的に増大す,と山本によって予言され,実験的にも確認された.熱拡散 法は,不可逆プロセスでエネルギー効率が悪いが,単一の熱拡散塔での分離係数が常温冷壁でも大きい(深冷壁の採用でさらに飛躍的に増 大),塔内のインベントリ量が小さい,構造が簡単で可動部を持たず信頼性が高いことから,核融合炉燃料のトリチウムガスの精製・分離法と して有望視されている. 深冷壁熱拡散塔水素同位体分離 掲載号 71-1 148 Hydrogen Isotope Separationwith Cryogenic-Wall Thermal プラズマ・核融合学会用語解説 核融合プラズマの閉じ込め領域から流出した水素同位体イオンは,主としてダイバータやリミタ,第一壁などの固体壁表面に吸着・捕捉され る.これら水素の一部は,固体壁表面から中性粒子として再放出され閉じ込め領域内のプラズマに戻り,電子衝撃による電離やイオンとの荷電 交換反応により,再びイオンとなる.このように水素粒子が壁からプラズマに戻ることを通常「リサイクリング」と呼ぶ(閉じ込め領域から荷 電交換衝突によって第一壁に到達し,再放出される水素も一部がリサイクリングに寄与する).プラズマへ流入する中性水素粒子の総数とプラ ズマから流出するイオンの総数との比がリサイクリング率である.ダイバータ排気のない状態では,ダイバータ板,第一壁表面での水素濃度の 蝕和のため,数十秒以上の長時間放電の後期にリサイクリング率は1になる.ダイバータ排気を行うときには1より小さいリサイクリング率で平 衡状態が存在する.固体壁表面の飽和水素濃度がプラズマや壁面温度などに依存して変化するため,いったん平衡状態に到達した後も,これら の変化に伴ってリサイクリング率は別の平衡状態へ変化する.こうした動的挙動を支配する法則の理解や,特性時間に関するデータが今後の長 時間放電では重要になる. 水素リサイクリング 掲載号 70-6 127 Hydrogen Recycling プラズマ・核融合学会用語解説 この用語は水素リテンション量あるいは水素リテンション特性として用いられており、プラズマ対向材料中の水素保持量あるいは水素保持特 性を意味している。水素はプラズマ対向材料がグラファイトの場合はC-H結合,ボロンの場合はB-H結合の形で保持される.核融合プラズマの エネルギー閉じ込め特性は,燃料粒子の壁と境界プラズマとの行き来,すなわちリサイクリングの度合に強く依存している.プラズマ対向材料 中の燃料水素が放電中に熱負荷あるいは粒子負荷によりプラズマ中に放出され,リサイクリングが顕著になるとエネルギー閉じ込め時間も短く なるし,プラズマ密度の制御も難しくなる.このため,放電前にべーキングやヘリウム放電洗浄を行い,そのレベルを低減しておく必要があ る.代表的なプラズマ対向材料は,グラファイト,ベリリウム,ボロンカーバイド,タングステン等であり,水素イオン源を用いた実験で,飽 和水素リテンション量や水素リテンション量のべーキング温度依存性が調べられている.プラズマ表面相互作用の研究において,プラズマ対向 材料のエロージョン特性とともに水素リテンション特性の評価は重要なテーマとなっている. 水素リテンション 掲載号 72-2 187 Hydrogen Retention プラズマ・核融合学会用語解説 トカマク型装置のように,電流の流れているトーラス形状プラズマを閉じ込めるためには,外部から,回転対称軸方向の磁場(垂直磁場)を 加える必要がある.そのとき,垂直磁場が内側に湾曲している場合,プラズマは垂直方向の変位に対して,不安定になる(垂直位置不安定 性).この不安定性の成長時間は,他のプラズマ巨視的不安定性と同程度(~μ秒)であるが,プラズマの近傍に導電性の容器を置くとプラズ マの変位によって容器に誘起される電流の効果により安定化される.しかし,容器が完全導体でないときには,誘導電流が減衰するのでその減 衰時間程度で不安定性は成長する.これを完全に安定化するためには,外部磁場をプラズマの変位に対してフィードバック制御する必要があ る.現在の大型トカマク装置では,プラズマの断面積を大きくするために,外部磁場によりプラズマを垂直方向に引っ張っているが,これは垂 直磁場を内側に湾曲させることに対応する.そのため,垂直位置不安定性の制御は,トカマク型装置にとって特に重要である. 垂直位置不安定性 掲載号 70-3 119 Vertical Instability プラズマ・核融合学会用語解説 次期核融合炉実験装置で構造材候補材となっているオーステナイト鋼をより高温,重照射環境で用いる場合の最大の問題点は,ボイド形成に よる体積膨張(スウェリング)であると予想されている.構造材としてのスウェリングの上限はせいぜい 5% 程度と考えられるが,核分裂中性 子照射で数 10% から 100% 近くに至るスウェリングが報告されている.ボイドスウェリングには強い温度依存性があり,オーステナイト鋼で は 500-600℃ 付近で最大となる.オーステナイト鋼のスウェリングは,一般に潜伏期の後照射量に比較して増加し,その増加率は様々な照射・ 材料因子条件にあまり左右されないことが明らかになっている.したがって,微量添加元素,加工熱処理等の工夫によって,潜伏期間を延長さ せ,耐スウェリング性を向上させる努力が払われている.なお,オーステナイト鋼に比ベフェライト鋼はボイドスウェリングが著しく低く, フェライト鋼の優位な点の1つとなっている.また核融合中性子の(nα)反応で発生する He によりスウェリングがどの様な変化を受けるかは データが少なく,まだ評価が一致していない.ボイドスウェリングの素過程,機構に関しては「ボイド」の項を参照されたい. スウェリング 掲載号 67-4 022 Swelling プラズマ・核融合学会用語解説 電磁場中におかれた気体中を運動する荷電粒子(電子,正・負イオン)は中性粒子やその他の荷電粒子と頻繁に衝突する結果,各々はほぼ無 秩序な運動をするが,多数の粒子を同時に観測すればその群れの重心は電場に引かれる方向に一定の速さでゆっくり移動(ドリフト)し,ま た,電場に平行な方向と直交する方向にそれぞれ拡散する.このような荷電粒子群の挙動は蜂や小鳥の群れ(swarm)の飛行を想像させ,電子 スウォーム,あるいは,イオンスウォームなどと呼ばれる.また,粒子群の巨視的な(あるいは平均的な)特性を表す移動速度や拡散係数など はスウォームパラメータ(または輸送係数)と総称される.気体中の荷電粒子スウォームの挙動を厳密に解析する手法が最近いくつか開発さ れ,対象とする荷電粒子とその他の粒子の間の各種衝突相互作用の詳細(衝突断面積)が正確に知られていればその輸送特性を正しく評価する ことができる.また,スウォームパラメータの正確な測走結果から逆に荷電粒子と中性粒子の間の衝突断面積を決定すること(スウォーム法) も,確定したエネルギーを持つ粒子ビームの散乱から断面積を決定するビーム法と相補的な手法として,重用されている. スウォーム 掲載号 69-5 091 Swarm プラズマ・核融合学会用語解説 スクレイプオフ層層は,プラズマ閉じ込め領域を囲む周辺プラズマ層である.環状型プラズマ発生装置におけるプラズマ閉じ込め領域は最外 郭磁気面 (リミタ配位の場合リミタのプラズマ側の先端が接している磁気面,ダイバータ配位の場合X-ポイントを有するセパラトリックスと呼 ばれる磁気面) により限定される.スクレイプオフ層は最外郭磁気面のすぐ外側のプラズマ領域で,その領域内の点は磁力線を通してリミタ, ダイバータ板といったプラズマ対向物とつながっている.閉じ込め領域から流れ出る熱流や粒子流は最外郭磁気面を横切るとわずかながら径方 向に拡散しながら磁力線に沿ってプラズマ対向物に達する.この径方向の拡散のためにスクレイプオフ層の幅が有限になり,現存の閉じ込め装 置ではおおよそ1 cm程度である .また,ITERのような次期装置設計では,プラズマ対向物への熱負荷の観点からその幅は重要関心事になってい る.不純物は主としてプラズマ対向物から発生するが,その多くはスクレイプオフ層のプラズマによって電離される.それゆえ,不純物イオン のスクレイプオフ層での挙動 (輸送) が閉じ込め領域における不純物の汚染度に大きな影響を与える. スクレイプオフ層 掲載号 66-3 008 Scrape-off layer プラズマ・核融合学会用語解説 慣性核融合では,ドライバーエネルギーをターゲット表面に照射することによって発生するアブレーション圧力により燃料の圧縮を行うが, その圧縮過程は次の3つに大別できる.1.ターゲット表面で励起された衝撃波が球殻(シェル)内面に到達するまでのシェルの重心が動かない フェイズ.2.シェルが中心に向って加速され,燃料の内面が中心に到達し,その反射衝撃波が燃料を押しているプッシャーに到達するまでの加 速フェイズ.および,3.プッシャーが減速を受けながらも燃料の最大圧縮を達成するスタグネーションフェイズ.このスタグネーション時には プッシャーと燃料の接触面が減速を受け,実効的な重力加速度が内側に働いており,プッシャーの質量密度が燃料より大きいとレイリー・テイ ラー不安定性が生じる.その結果,燃料とプッシャーの混合(mixing)が生じ核融合出力が低下する.その成長率は Atwood 数((ρ2 - ρ1)/ (ρ2 + ρ1))の平方根に比例し,密度の跳びが小さければ成長率は小さくなる.また密度勾配や,熱伝導によって安定化されることも知られ ている.燃料とプッシャーの混合は慣性核融合の重要な研究課題であり,実験的な計測が望まれる. スタグネーション 掲載号 68別冊 057 Stagnation プラズマ・核融合学会用語解説 トロイダルプラズマの平衡を確保するために必要な磁力線の回転変換を外部コイルに流れる電流のみによって与える閉じ込め方式の一つ.プ リンストン大学のライマン・シュピッツァー教授によって1958年に発明された.最初のアイディアは,(トカマクのトロイダル磁場に相当す る)単純な軸方向の磁場のみを用い,閉じ込め容器を立体的な8の字型にねじるものであった.閉じ込め容器を単純化して平面磁気軸にする と,ヘリカルコイルが必要になる.ステラレータはヘリオトロン/トルサトロンと異なり,ヘリカルコイル(合計2n本:nは磁場の極数)の電 流は交互に向きを逆転させる.プラズマ断面は楕円(n=2のとき),三角形(n=3のとき)と磁場の極数に応じて変化する.ヘリカルコイルは トロイダル磁場を発生しないので,別途トロイダル磁場コイルが必要である.ヘリカルコイルとトロイダル磁場コイルをまとめてモジュラー化 したのがW7-AS装置である. 閉じ込め領域に軸方向の電流がないにもかかわらず,回転変換を与えるために必要な実効的なポロイダル磁場が生じるのは次の理由による. 単純トロイダル磁場がヘリカルコイルの直下を通る時,回転変換を与える向きのポロイダル磁場を感じる時はトロイダル磁場を弱め,回転変換 を巻きもどす向きの時はトロイダル磁場を強める.これによって磁力線の正味のポロイダル回転が生じる.磁力線をトロイダル角一定の断面に 投影すると二重ラセンになり,磁気面は必然的に非円形となる. ヘリオトロン/トルサトロンと比較した時の磁場構造上の主な相違点は,.1)ヘリカルリップルが小さい,2)概して回転変換角が小さい, 3)磁気シアが小さい,である. ステラレータ 掲載号 70-7 129 Stellarator プラズマ・核融合学会用語解説 磁場によるトーラス型プラズマ閉じ込め装置では,磁場は磁気面を形成し,この磁気面が小半径方向に層状に構成され閉じ込め磁場配位が作 り出される。理想的な状態では特定の磁気面上の磁力線はこの磁気面上のみに存在し,1本の磁力線に沿って働いても特定の磁気面上からはず れることはない.プラズマを構成する荷電粒子は磁力線に沿っては自由に運動できるが,磁力線を横切る方向は非常に働きにくい性質を持って おり,この性質を利用することにより層状の磁気面構造によってプラズマを閉じ込めることが可能となる.しかしながら,外部からの不整磁 場,あるいはプラズマの電磁流体的な不安定性による揺動磁場等の変動磁場成分が存在すると,磁気面が乱されて,1本の磁力線が別の磁気面 上に乗り移ることが起こる.磁場の変動レベルがそれ程大きくない場合は(閉じ込め磁場1 %以下程度)でも,変動の性質によっては,一本の 磁力線をたどることにより,二つの磁気面で挟まれたある領域(甚だしい場合にはプラズマの全領域)をほとんど覆ってしまう状態が生じるこ とがある.このような状態になった磁力線をStochasticな磁力線と呼ぶ.Stochasticな磁力線の領域では内と外とのプラズマが一本の磁力線でつな がれることのなるので,プラズマの輸送は磁力線に沿ったプラズマの運動によるものが支配となり,通常の磁場を横切る拡散より桁違いに大き な輸送量が現れる[1] .したがって,良好なプラズマ閉じ込めを現実するためには,少なくとも閉じ込め領域の外部境界に近い部分で stochasticな磁力線構造が発生しないようにすることが必要である. [1] A.B.Rechester and M.N.Rosenbruth,Phys. Rev. Lett. 40, 38 (1978). stochasticな磁力線 掲載号 75-10 316 Stochastic Magnetic Field Line プラズマ・核融合学会用語解説 針対平板電極配置のような不平等電界において,針電極に正の高電圧を加えると,細いフイラメント状の発光(ストリーマ)が平板電極に向 かって間欠的に伸びる.その速度は108cm/s程度である.印可電圧が低いとストリーマが平板電極に達しても火花放電にはならないので,スト リーマを安定に観測することができる.さらに電圧を高めると橋絡したストリーマから火花放電になる. このような線状の発光形状をもつた過渡的な放電形態をストリーマと呼んでいるので,放電がストリーマ状に現れる条件は多岐にわたってい る.例えば,大気圧中の平等電界下の絶縁破壊はストリーマ破壊である.陰極からの光電子放出によって電子雪崩が繰り返し発生し,作られた 正イオンが陰極前面に蓄積されて高電界を作る.ギャップ中に光電離でつくられた初期電子から出発した電子雪崩がそこに流入することによっ てプラズマ状のストリーマが形成され,それが陽極に向かって伸びることによって火花放電にいたる.この様子は,荷電粒子連続の方程式に電 界ひずみを組み入れて数値解析することでシミュレーションされている. ストリーマ 掲載号 74-5 267 Streamer プラズマ・核融合学会用語解説 媒質中にボイドまたは減衰の少ない領域が存在すると放射線がこの領域の周囲の壁で反射しながら外へすりぬけてゆくため,ある方向への放 射線の透過が増加する現象である.媒質中では放射線束は指数関数的に減衰するのに対し,ボイド中では幾何学的形状(長さ,幅,径等)によ り決まる減衰しか期待できないため,ストリーミングによる局所的増加率は数倍,時には数桁にも達する.この現象が注目されたのは原子力船 「むつ」の出力上昇試験中の「放射線漏れ」(昭和49年)の主原因が原子炉容器と一次遮蔽体の間隙からの中性子ストリーミングであることが 明らかにされ,従来のバルク減衰計算を中心とした遮蔽設計では対処できないことが理解されたからである.以後現在に至るまで遮蔽研究の中 心課題がこの現象の解析・設計手法の開発であったと言ってよく,多くの簡易評価式・実験式,輸送方程式の数値解放やモンテカルロ法を使用 した詳細解析手法が提案されている.原子炉(核融合炉も)では冷却材の配管ダクト類,制御や計測のための貫通孔,保守点検のためのマン ホールやプラグ類,(核融合炉の)排気,加熱ダクト等不可避的な機器においてストリーミングが発生するためダクト類の設置位置の適正化, 屈曲ダクトの採用,補助遮蔽等の対策によりストリーミング効果を低減するよう配慮する. ストリーミング 掲載号 67-5 026 Streaming プラズマ・核融合学会用語解説 スフェリカルトカマク(球状トカマク,ST)とは,アスペクト比A(トーラスの大半径をR,小半径をaとすると,A = R/a)の小さいトカマク (Aの値が1.6 程度以下のもの)の呼び名で,低アスペクト比トカマクとも呼ばれる.本質的にはトカマクを低アスペクト比化したものである が,スフェロマックにトロイダル磁場を加えて安定化したものと考えることもできる.スフェロマックのコンパクトさと,トカマクの安定性と 閉じ込めのよさを合わせ持つ閉じ込め方式として有望視されている.従来型トカマク(A = 3 程度)とは異なる閉じ込め概念であることを強調 し,スフェリカルトーラスとも呼ぶ.スフェリカルトカマクにおいて生成されるプラズマは,その断面が自然にD型になる性質があり,球の中 心軸に穴の空いた形状をとるためこのような呼び名がついた.図に示すように磁力線はトーラスの外側で大きなピッチ角(水平方向からの傾 き),内側で小さなピッチ角をもち,安定な磁場配位を形成する. スフェリカルトカマクでは,従来型トカマクと比べ,はるかに高いベータ値(プラズマ圧力の磁気圧力に対する比)を実現することができ る.このため,より小型で高性能な核融合炉が可能となると考えられている.実験的には,イギリスのSTART (Small Tight Aspect Ratio Tokamak) 装置において,中性粒子ビーム加熱を用い,ベータの高いプラズマ(体積平均値で40%)が安定に形成され,しかもよい閉じ込めと両立するこ とが実証された.以後,世界各地でこの種の装置が多数建設されるに至った.なかでもイギリスのMAST (Mega Amp Spherical Tokamak) およびア メリカのNSTX (National Spherical Torus Experiment)は1MA級のプラズマ電流を持つ装置として設計されており,1999年より始まる実験に期待が寄 せられている. 図(311.gif ):スフェリカルトカマクの磁力線(A = 1.6, q = 3の例) スフェリカルトカマク 掲載号 75-8 311 Spherical Tokamak プラズマ・核融合学会用語解説 トーラス型磁気閉じ込め方式の経済性を高める工夫の一つは,そのドーナツ状の形状を極限まで圧縮,球形化して(アスペクト比を1付近ま で低下させる)構造を簡略化することである.スフェロマックはそうしたコンパクトトーラス(CT)と呼ばれる磁気配位の一種であり,図 (157.gif)のようにトーラスでありながら単連結な球形の磁気配位となる.平衡配位はテーラーの磁気エネルギー極小配位によって与えられ,ほ ぼ同じ大きさのトロイダル磁界とポロイダル磁界を有し,q値は 0.5-0.8 程度,大きな磁気シアを持つ.必要なコイルが平衡磁場コイルのみであ る等,簡略化された炉構成,さらに40%に達する高いエンジニアリングベータ値,ナチュラルダイバータを有すること,軸方向移送性などが長 所である.反面,逆転磁場ピンチと同様,磁束変換効果に伴う磁気揺動が閉じ込め悪化を招く問題等が未解決である.その研究は1950年代後半 の宇宙プラズマ研究に始まり,70年代後半からプラズマ閉じ込め研究としての実験に移行し,配位の外を外部磁場で覆うか,導体壁で覆うかで 自由境界,固定境界の2種類の実験がなされてきた.現在は,閉じ込め実験としての配位改良の他,プラズマの軸方向移送性を利用したプラズ マ合体,炉心入射応用などの分野を生んでいる. スフェロマック 掲載号 71-4 157 Spheromak プラズマ・核融合学会用語解説 一般には,異方性媒質中を伝搬する二つの独立な固有電磁波のモードを命名したものであり,1軸の異方性を持つ媒質では,屈折率が異方軸 と波数ベクトルのなす角(伝播角)に依存しない方を正常波モード,他方を異常波モードと呼び,振動電場が異方軸に垂直な直線偏波の場合が 前者,平行な成分を持つものが後者に対応するが,磁化プラズマ中を伝播する電磁波の場合には磁場の存在により異方性が現れると同時に伝播 媒質である荷電粒子のラーモア運動の旋回方向に起因する屈折率の伝播角依存性が加わるため伝播角に依存しない本来の意味での正常波モード は存在しなくなる.このために,通常磁化プラズマの場合には,磁場に垂直方向に伝播する二つの独立な固有電磁波モードを対象として屈折率 が磁場強度に依らないモードを正常波,他方を異常波と定義している.この定義によると正常波モードは振動電場が磁力線方向の直線偏波とな り,異常波モードは磁力線に対して垂直な面内で楕円偏波となる. 磁化プラズマの正常波モードの屈折率が磁場強度に依存しないで,電子密度のみに依存する性質を利用した代表的な例が電子密度の電磁波の 干渉測定である.磁化プラズマの電磁波モードを用いた加熱の例としては電子サイクロトロン波加熱があり,一般に電子サイクロトロン共鳴の 一次高調波は正常波モード,二次高調波以上では異常波モードが吸収されやすい. 正常波モード・異常波モード 掲載号 73-11 248 Ordinary Mode and Extra-Ordinary Mode プラズマ・核融合学会用語解説 単探針(ラングミュアプローブ)においては,Bohm電流と呼ばれるイオンの飽和電流が電子の飽和電流にくらべて電子とイオンの質量比(m / M ) の1/2乗倍程度小さい.そのために,イオンの減速領域におけるイオン電流は電子電流におおい隠され,イオンの温度やエネルギー分布関数の情 報を得ることが困難である.これらイオンの情報を得るために,プラズマと単探針(平板電極)の間にプラズマの空間電位より負にバイアスした グリッドを挿入して電子を追い返し,平板電極(コレクタ)でイオン電流のみを計測しようとする「静電イオンアナライザ」が考案されている. イオン電流Iiとコレクタ電圧Vcの関係は,単探針の電流・電圧特性と類似である.しかしながら,グリッド前面の負の電位で加速されたイオン の一部が,グリッドの網目に衝突して発生する二次電子がコレクタに流れ込むために,イオン電流を正しく評価できない場合が多い.さらに1 ~2枚のグリッドを追加して二次電子を追い返す工夫をした「マルチグリッド型」が広く用いられている.イオン電流Iiを一次元のイオン流で近 似できる場合は,イオン電流Iiをコレクタ電圧Vcで1回微分することにより,イオンのエネルギー分布関数を得ることができる. 静電イオンアナライザ 掲載号 75-1 292 Electrostatic Ion Energy Analyzer ; Multigrid Type プラズマ・核融合学会用語解説 高温プラズマのエネルギー損失の主要部分を占める放射過程である.自由電子の軌道がイオンのクーロン場によって曲げられるときに電磁波 を放射し,その後もなお自由状態にある過程で,自由遷移ともよばれる.放射された電磁波は制動放射と呼ばれ,振動数あたりの放射エネル ギー分布は大部分の振動数領域で一定である. 1個の電子の純粋なクーロン場による放射強度は,古典的には双極子放射近似で容易に計算できる.量子力学的には放射断面積が種々の場合 によく計算されている[1].電子速度が小さい場合にはSommerfeld の表式,大きくなるとBorn 近似の式が使える.さらに電子エネルギーが 30 keV を越えると多重極放射を考慮する必要があり,相対論的領域に至ると,電子・イオン衝突に並んで電子・電子衝突の寄与が重要になる.他 方,重いイオンでは核外電子の影響を考慮せねばならない. 高温プラズマ全体の放射強度は,個々の電子の放射断面積を基礎に電子速度分布について積分して得られる. *ドイツ語がそのまま英語圏で用いられている. [1] 例えば,原子過程断面積データ集第1集(名古屋大学プラズマ研究所報告)IPPJ-DT-48(1975),(Ra) 放射過程. 制動放射 掲載号 69-4 089 Bremsstrahlung プラズマ・核融合学会用語解説 Zピンチは大気圧アーク放電のように,プラズマ中を流れる電流Jzの作る自已磁場Bθの圧力によってプラズマが圧縮され,保持される形式 をいう.広い意味ではプラズマフォーカスや真空スパーク,金属ライナ圧縮などもZピンチに含まれる.ピンチ効果が有効に働くためにはプラ ズマの温度が十分高く,電気伝導度が高くなってプラズマ中への磁束の侵入が止まり,しかもプラズマの圧力よりも外部磁気圧を十分高くする だけの電流がプラズマ中を流れる必要がある. Zピンチは電源からプラズマへのエネルギーの注入効率がよく,簡単に高温高密度状態を作ることができるため,1950年代には核融合炉実現 のための最初の候補として研究された.しかし中性子発生が不安定性に起因することと,不安定を安定化することがnτの増加に結びつかな かったことで,より安定なΘピンチやトカマクなどに核融合研究の中心が移行した.近年,ファイバーZピンチに高速のパルスパワーを適用 し,従来のMHD理論では説明できない安定なプラズマ保持できることが明らかになり,磁場閉じ込めと慣性核融合の中間領域のパラメータでの 核融合の可能性が再び議論されるようになっている.一方,ガスパフ方式やワイヤーアレイ方式のZピンチが,大容量のX線輻射源として注目 を集めている.また,キャピラリーZピンチからの軟X線レーザーの発生が報告されており,Zピンチの各方面への応用が期待されている. 図:223.gif Z-ピンチプラズマ 掲載号 73-2 223 Z-pinch Plasma プラズマ・核融合学会用語解説 磁力線が形成する面,磁気面 ψは,その定義からΔψ・B= 0を満たす.ここで B は磁束密度である.この式の解は,磁場に対称性がある場 合には比較的簡単に求められる.厳密解が得られない場合でも平均的な近似解として求めることができる.セパラトリックスはΔψ・B= 0の特 異形で,セパラトリックス層,セパラ トリックス面とも呼ばれる. 具体的には,大型ヘリカル装置のようなヘリカル磁場配位やダイバータを備えたトカマク磁場配位で,プラズマを閉じ込めるための入れ子状 になった磁気面形成領域と外側の開いた磁力線領域を 分けている境界層あるいは境界面がセパラトリックスである.セパラトリックスは閉じた 磁気面領域内からセパラトリックスまで到達した粒子を磁力線に沿って真空容器壁まで導くことができるため,中性化板(ダイバータ板)ある いは排気設備等と組み合わせて周辺プラズマの制御に利用されている. セパラトリックス 掲載号 71-7 165 Separatrix プラズマ・核融合学会用語解説 慣性核融合において,爆縮効率は,いかに低エントロピーのまま燃料球を爆縮し,その運動エネルギーを最大爆縮の時点でプラズマの熱エネ ルギーに変換できるかにかかっている.先行加熱が起こると爆縮の終了する以前に燃料球壁が加熱されてしまい,低エントロピー状態にとど まっていられなくなる.先行加熱されながら圧縮された燃料の内部エネルギーと,等エントロピーで断熱圧縮された燃料の内部エネルギー比 (α)の三乗に比例して点火に必要なレーザーエネルギーは増加する.先行加熱は,レーザーとプラズマコロナ領域での非線形相互作用による 超高速電子やX線によって引き起こされる.例えば,コロナ領域で二電子プラズマ波崩壊不安定性が起こると,それに伴い誘起された電子プラ ズマ波は強く励起される.プラズマ波のポテンシャルにつかまった電子は位相速度にまで加速されてしまい,l0 keV程度のエネルギーを持つ高 速電子が生成される.この場合,例えば高速電子の温度は TH =(90 keV)[Iλ2/2×1015(W/cm2)μ2 ]1/3[Te(keV)/3]1/2 で表される.ここでIはレーザー強度,λ(μm)はレーザー波長,Teはプラズマ温度である.高速電子は自由行程が長いため,ターゲット壁深 くまで浸入し最大爆縮以前に燃料を予備加熱してしまうので爆縮効率が低下する. 先行加熱 掲載号 68別冊 062 Preheating プラズマ・核融合学会用語解説 揺らぎを特徴づける統計量であり,確率過程論,統計 力学,物理計測,情報処理などにおいて重要な役割をはたす.例えば,不規則な時間信 号x(t)について,2つの時刻における信号値の積の集合平均〈x(t)x(t+t)〉を自己 相関関数といい,信号が定常であれば時間差tのみの関 数となる. 2つの信号の間の相互相関関数,N個の時刻 の信号値にかかわるN次相関関数,さらに,これらを物理 量の時間空間的な揺らぎx(R,t)に対して拡 張したものを 定義できる.揺らぎが空間的に一様であれば,相関関数 〈x(R,t)x(R+r,t)〉は相対位置rのみの関数となる.そして,定常・一様な 揺らぎの相関関数は,Wiener-Khinchin 流に集合平均で定義される周波数・波数スペクトルと互いにフーリエ変換の関係にある. 例えば,プラズマからの電磁波散乱信号のスペクトルは,電子密度揺動の相関関数のフーリエ変換に相当する.天体観測のための電波望遠鏡 は,空間的に配置された多数のアンテナの受信信号について相互相関関数を測定し, フーリエ積分の逆問題を解いて像を求める撮像法である. また,トロイダルプラズマの電子サイクロトロン放射に用いられるフーリエ分光は,入射光の自己相関関数を測定し,そのフーリエ変換を計算 してスペクトルを求める.三次相関関数のフーリエ変換はバイスペクトルと呼ばれるが,これを測定してプラズマ波動や乱流における非線形結 合を検出する試みがある. 相関関数 掲載号 74-1 255 Correlation Function プラズマ・核融合学会用語解説 プラズマ中を伝播する波動の中で,位相速度の速い波を速波,遅い波を遅波と呼び区別する.低域混成波周波数帯では,磁場に垂直に伝播す る波に速波と遅波があり,従来の電流駆動においては遅波が選ばれてきた.遅波を用いた手法では密度限界があるので,将来の核融合炉では速 波電流駆動が必要とされている.イオンサイクロトロン周波数より高い周波数帯の加熱においては,圧縮性アルヴェン波とイオンバーンステイ ン波が伝播でき,前者は速波,後者は遅波と呼ばれる.またイオンサイクロトロン周波数より低い周波数帯では,磁場に平行に伝播する波動を 用いることが多く,圧縮性アルヴェン波が速波で,ねじれアルヴェン波が遅波である.この遅波は磁気ビーチ波を励起している領域から緩やか に磁場が減少し,イオンサイクロトロン共鳴の存在する磁場配位による波の減衰を利用し,比較的密度の低いプラズマの加熱に用いられてい る. 速 波と遅 波 掲載号 72-8 205 Fast Wave and Slow Wave プラズマ・核融合学会用語解説 ソリトンは,媒質のもつ分散効果が非線形効果と釣り合って作られる安定な波動構造である.非線形性は,波の速度が振幅に依存する性質で あり,波形の突っ立ち,つまり,高調波の励起をもたらす.一方,分散効果は速度が波数により変化する性質を表す.たとえば,非線形効果で 振幅の大きい部分が速く進む性質があるとする.突っ立ちにより生じる高い波数の高調波の速度が,低波数の波の速度より遅い分散特性があれ ば,非線形性と分散性の競合の結果,両者が釣り合って安定な構造が実現する.それは,ひとコブの孤立した波であり,速度と幅が振幅に依存 する.孤立波を記述するK-dV方程式と呼ばれる非線形発展方程式の数値計算から,孤立波には衝突によって振幅が不変に保たれる粒子的な性質 があることが見いだされ,粒子的な孤立波(solitary wave)と言う意味をこめてsolitonと呼ばれるようになった.K-dV方程式が持つこうした特性 は,逆散乱法,広田の直接法等によって解析的に示すことができるようになり,可積分系の理論として1960年代後半から爆発的に発展した. K-dV方程式以外には,Schrodinger方程式のポテンシャルが波の振幅の絶対値の2乗に置き変わった非線形Schrodinger方程式がよく知られてい る. 逓減摂動法,戸田格子,広田の方法,光ソリトンの理論,イオン音波ソリトンの実験 等でわが国の研究者がソリトン研究の発展に残した足跡 は大きいものがある. ソリトン 掲載号 72-9 208 Soliton プラズマ・核融合学会用語解説 1980年代後半から,プラズマと電磁波との相互作用でおきる電磁波の周波数上昇や電磁波の発生の研究が盛んに行われた。その中で,光速に 近い速度で伝播している電離面と電磁波の間で,電磁波の周波数上昇が起るの可能性が指摘され,その実験的検証がなされてきた. これらの研究に引き続き、実験室系の周期静電場でさえも,伝播する電離面の座標系から見ると、電磁波と同様な相互作用を引き起こすの で,このような静電場との相互作用によっても電磁波が発生することが指摘されはじめた.この原理は,周期静電場(直流)から直接電磁波(交流) が発生するので,DARC ( DC to AC Radiation Converter) と名付けられた. DARC の特徴は,発生する周波数は周期静電場の空間波長,プラズマ密度に依存し,発生するパルス幅は静電場周期の総数に依存すること, さらに大電力が期待できることなどである. 実験では極性を交互に変えた電極を多数並べ,その電極間にレーザーを入射させる.このレーザー光はガスなどをイオン化することでプラズ マを生成させながら高速に伝播する.この伝播電離面にのった座標でみると,周期静電場はプラズマ中の電磁波の分散関係を満たしながら,し かも,その位相が連続した状態でプラズマに入射することになる.そのため,発生する電磁波の周波数 ω は,下式(1)で与えられる.ここ で,ωp,vf,k0 は,それぞれ,プラズマ周波数,電離面の速度,周期静電場の波数である.電離面の速度はほぼ光速 c に等しいので,発生す る電磁波の周波数は,プラズマ密度と波数に強く依存し,プラズマ周波数 ωp よりも大きくなる. この現象は,以下のように考えると理解しやすい.電離面に生成されたプラズマ中では,静電場の向きに電流が誘導される.電離面の伝播に よって次の瞬間には,逆向きの電場の領域に入るため逆方向の電流が流れる.この様子を,実験室系から見ると,電離面は交流電流が流れてい るアンテナのように振る舞い、さらに、光速に近い速度で飛んでくるとみることができる. 式(1):320.eq DARC 掲載号 75-12 320 DARC(DC to AC Radiation Converter) プラズマ・核融合学会用語解説 周辺に多数の傾斜したブレードをもち 250~350 m/s の周速で回転する円板と,同じ形で傾斜が逆向きのブレードをもつ静止円環とを交互に 軸方向に20段前後組み合わせ,分子流の圧力領域で吸人圧縮作用をする高真空ポンプ.軸流圧縮域に似た形のポンプ要素をもち,Becker が1958 年に発表した時からこの名称を付けた.TMPと略記する.同じ年に Hamblanianは軸流圧縮機を高真空ポンプとする可能性について試験結果を報 告した.TMPはそれまでの溝型ドラッグポンプに比して格段に大きい排気速度をすべての種類の気体に対してもち,オイルフリーの超高真空が 容易に得られ,排気性能は履歴の影響がなく,連続運転できる.玉軸受または磁気軸受を用いた50~5,000 l / s の製品が市場にある.へリカル 溝分子ポンプ部分をTMP要素部分と一体化して,吸入圧領域を粘性流領域まで2桁程拡げ,大流量を圧縮できる複合分子ポンプは,日本で半導 体製造装置用に開発され1985年市場に出た.5軸制御磁気軸受型の例の透視図(42.gif)を示す. ターボ分子ポンプ 掲載号 68-4 042 Turbo-Molecular Pump プラズマ・核融合学会用語解説 語源は誘導発電機を意味する英語であり,その由来のとおり,電流を発生して磁場を作りだす自然の機構をダイナモと呼んでいる.歴史的に は,地磁気など,天体が有している自然発生的な磁場に関連して古くから研究されているが,決定的な理論はない.今日,核融合プラズマの分 野でもダイナモが論じられるのは,特定の磁場配位が自発的に形成・維持される現象が,逆転磁場ピンチ(RFP)による実験などで明確に示さ れたことによっている. 原理的には,力学的運動エネルギーが,電磁誘導効果を介して電磁エネルギーに変換する機構といえる.すなわち,プラズマなどの導電性流 体が磁場を横切って運動すると,電場が誘導され,電流が発生する.この誘導を引き起こす速度場と磁場のトポロジー,運動の発生・維持の機 構などが研究テーマとなる.さらに近年では,ダイナモで発生する磁場配位が単純なトポロジーと大きな空間スケールを持つことに注目し,こ れを構造の自己組織化と認識し,非線形力学の一般的な観点から研究が行われている. ダイナモ 掲載号 68-1 031 Dynamo プラズマ・核融合学会用語解説 トロイダルプラズマにおいて,プラズマ圧力に起因するMHD(磁気流体)安定性はベータ値(プラズマ圧力/磁場圧力)が低いときには安 定であり第一安定領域にあるが,ベータ値の上昇によって不安定化し,更にベータ値が上昇すると再び安定化することがある.これを第二安定 領域と呼ぶ.トカマクプラズマにおいては,バルーニングモードや内部キンクモードに対する第二安定領域の存在が理論的に示されており,核 融合炉の高効率化の観点から多くの研究がなされてきた.バルーニングモードにおける安定化効果は,ベータ値の上昇に伴い磁気面がトーラス の外側で密になり,バルーニングモードの局在領域で自律的に局所的な磁気シアが強くなることから生じる.不安定領域を経ずして第二安定領 域に達することが重要であり,プラズマ断面形状をそら豆型にする方法や,電流分布を平坦化しプラズマ中心の安全係数を上げる方法などが提 案され,実験的検証が試みられている. 第二安定領域 掲載号 71-9 172 Second Stability Region プラズマ・核融合学会用語解説 超伝導体は電気抵抗が0になること(超伝導)と,内部の磁束密度が0になること(完全反磁性)とによって特徴づけられ,外部磁界が臨界値 を超えると常伝導状態となる.零磁界時に,常伝導状態と超伝導状態とを仮定して計算される自由エネルギーの差(gn-gs)によって熱力学的 臨界磁界(以下の式(1))が定義される.第一種超伝導体では外部磁界がHc以下なら完全反磁性の超伝導状態を示し,Hcを超えると常伝導状 態となる.一方,第二種超伝導体では,外部磁界が,下部隙界磁界Hc1(Hc1<Hc)を超えると内部への磁束の部分的な侵入(混合状態)が始 まり,上部臨界磁界Hc2(Hc2>Hc)を超えると内外の磁束密度の差はなくなり,常伝導状態となる.混合状態で電気抵抗が0でないものを理想 的第二種超伝導体,電気抵抗が0のものを非理想的(あるいは,不均質)第二種超伝導体という.非理想的第二種超伝導体は,不純物や格子欠 陥によって磁束が拘束されること(ピンニング)で電気抵抗0の特性を維持し,現在の実用化超伝導線はすべてこれに層する. 実用化超伝導線のμ0Hc2(4.2K)はNbTiで12T程度,Nb3Snで22T程度(Ti等の添加時は25T程度)である.実用化されつつあるNb3Alについて は32T程度の値が報告されている. 式(1): 130eq.gif 第二種超伝導体 掲載号 70-7 130 Type ⅡSuperconductor プラズマ・核融合学会用語解説 熱衝撃とは材料が極めて高い熱流束に短時間さらされることで,核融合の分野では,プラズマデイスラプション時の高熱負荷に材料がさらさ れることをさしている場合が多い.プラズマが突然消滅するプラズマデイスラプション時には,プラズマのエネルギーが0.1ミリ秒から数ミリ秒 という短時間に第一壁表面の一部分に集中して放出される.このときの熱流架はスペースシャトルが大気圏に突入する時受ける熱流束より1桁 から数桁高くなると推定されており,材料の溶融,蒸発,破損を生じる.第一壁表面材料の熱衝撃特性の研究では材料表面の損耗や材料の破損 などについて,プラズマデイスラプション時の熱負荷を電子ビームやレーザーなどの加熱装置により,模擬して進められており,これまでに高 熱伝導率のCC材料の耐熱衝撃特性が優れていることがわかっている. 耐熱衝撃特性 掲載号 70-12 144 Thermal Shock Durability プラズマ・核融合学会用語解説 プラズマ閉じ込め領域から外にむかって流れ出る熱流,粒子流を第一壁あるいはリミタに接触させずに閉じ込め領域境界から遠く離れた所に 導き,プラズマ運転で 問題となるプラズマと壁の相互作用の軽減を行うプラズマ制御装置をダイバータと呼ぶ. プラズマと第一壁との接触を避 けるためには,ダイバータコイル電流による磁場を用いて,閉じ込め領域がX-ポイントの有するセパラトリックスによって囲まれた磁場配位を 形成する必要がある.このような配位では,閉じ込め領域から流れ出た熱流,粒子流は,セパラトリックスに到達すると磁力線に沿って,ダイ バータ板 (プラズマ対向物) に導かれる.ダイバータ板付近の構造は単に X-ポイントが第一壁内に存在するという簡単なものからダイバータ機 能を高めるためにバッフル板 (中性粒子遮蔽板) を用いて,閉じたダイバータ室を設けたものまで ある.ダイバータの第一の機能は不純物の制 御である.閉じ込め装置では高温プラズ マが第一壁,あるいはダイバータ板に必然的に到達するが,その際に不純物がたたき出され,主な不純 物の発生源となっている.ダイバータ板で発生した中性不純物は,ダイバータ領域の壁に吸着したり,またダイバータプラズマ内でイオン化 し,そしてダイバータ板に向かって流れているプラズマ流との摩擦力が充分強ければ,ダイバー タ板に押し流されて,閉じ込め領域への不純物 の侵入は抑制される.またダイバータ領域にポンプを設置すれば灰 (He) 除去も有効に行える.またダイバータによるリサ イクリング制御はエ ネルギー閉じ込め改善放電 (Hモード) を容易にかつ安定に達成 するのに必要であり,ダイバータの重要な機能の1つになっている. ダイバータ 掲載号 66-3 007 Divertor プラズマ・核融合学会用語解説 太陽の希薄な外層大気であるコロナの外縁部からは,さらに希薄な超高温の粒子が,太陽の重力を振り切って絶えず惑星間空間に流れ出して いる.その大陽プラズマの連続的な外向きの流れが太陽風(solar wind)と呼ばれていて,電子と陽子を主成分とし他にα粒子等の重い質量の原 子核を小量含む.地球近傍における太陽風の典型的な速度は400 km/s,数密度は5/cc,温度は10万度であるが,太陽活動の変化に伴いそれら の値はファクタ10を越えて大きく変動する.太陽風は空間的にも一様ではなく,コロナホールと呼ばれる極域の磁力線が開いた領域からは高速 流が,低緯度のニュートラルシート付近からは低速流が流れ出ている.その軌跡は,太陽からはほとんどまっすぐ外に放射されるが,太陽自体 が約27日で自転しているために回転水まき機からの放水のようになる.太陽表面から引き出された磁場を伴って太陽風は惑星間空間を駆け抜 け,地球プラズマと衝突して,地磁気活動や電離層に変動をもたらし,極域ではオーロラを輝かせる.さらに,地球軌道を越えて太陽系外部ま で流れていき,恒星間の中性ガスやプラズマに遮られて終罵する. 太陽風 掲載号 68-2 035 Solar Wind プラズマ・核融合学会用語解説 太陽大気中で発生する爆発現象のことで,太陽面爆発ともいう。典型的なサイズは,1万-10万km,継続時間は数分-数時間,全エネル ギーは1029 - 1032 erg に達する.もっとも,エネルギーの小さいフレアほど発生数が多いので(発生頻度分布はべき型で地震と同じ),厳密に言 えば典型的なエネルギーなど存在しない.1029erg より小さな現象はマイクロフレアやナノフレアと呼ばれる. フレアは歴史的には可視光(白色光)観測によって1859 年に発見された.今世紀初頭以来の長年にわたる光球磁場観測より,フレアのエネル ギー源は,太陽大気中の磁場(数10 -数100 ガウス)に貯えられた磁気エネルギーであることが,ほぼ確立している.フレアが起こると,γ 線,X線からHα線,電波にいたるまで,あらゆる波長の電磁波がバースト的に放射される.電磁放射は大きく分けると熱的放射(軟X線,紫 外線,Hα線など)と非熱的放射(γ線,硬X線,マイクロ波,メートル波など)から成る.これらの観測より,フレアの本体は,コロナ中で 発生した温度数千万度,電子数密度 1010-1011 cm-3の超高温プラズマであることが判明している.一方,非熱的放射はべき型スペクトルをもつ 10 keV-1 MeV の非熱的電子,1 MeV-1 GeV の非熱的イオンが原因である. 最大規模のフレアが起こると,惑星間空間に大量の高速(100-1,000 km/s)プラズマ雲,非熱的粒子(太陽宇宙線),衝撃波が放出され,これ らが地球に到来すると地球磁気圏で磁気嵐やオーロラが起こる. 1991年8月30日に打ち上げられた太陽X線観測衛星「ようこう」は,磁気リコネクションがフレアのエネルギー解放機構に関して中心的な役 割を果たしていることを明らかにした. 太陽フレア 掲載号 75-6 305 Solar Flares プラズマ・核融合学会用語解説 電極間に加える電圧を上昇させていくと,あるところで発光を伴う放電が突然出現する.これを気体の絶縁破壊と呼び, Oxford大学の Townsendはこの破壊が起こる条件を次のように定式化した. γ{exp(αd)-1}=1 この式をタウンゼントの条件式と呼ぶ.ここで,dは電極間距離,αは電離係数と呼ばれ,一個の電子が電界方向に1cm進む間に起こす電離の平 均回数で電界の関数,γはイオン衝突による電極からの二次電子放出係数(確率)である. この式は暗流を表す式から求められる.暗流とは絶縁 破壊前に電圧印加に伴って流れる非発光電流のことであり, Townsendはこの電流iを i=i0/{1-γ[exp(αd)-1]} と定式化(ここでi0は外部からの供給電子による電流で定数)し,破壊後は電流が暗流に比べて数桁増えることから,右辺の分母が零(すなわ ち,i= ∞)となるところを絶縁破壊条件と見なして導出した. この条件式は次のように解釈することもできる.陰極から出た一個の電子は電極間を移動する間に電離衝突によりexpαd個に増倍し,陽極 に流れ込む.一方,電子の増加分{exp(αd)-1}に等しい数だけ生成される正イオンは陰極に進み,衝突すると二次電子としてγ{exp(αd)- 1}個の電子を陰極から放出させる.タウンゼントの条件式は,これが1に等しいということであり,これは陰極から放出された一個の電子に よって発生したイオンの衝突により再び二次電子を一個陰極から放出することを意味する.すなわち,絶縁破壊条件とは電子を外部から供給す ることなしに放電が自続する条件を表わすと考えることもできる. タウンゼントの条件式 掲載号 74-11 286 Townsend's Breakdown Criterion プラズマ・核融合学会用語解説 プラズマ中の微粒子(通常サイズはμm程度以下)は,流入電流をゼロとするために(nm程度以下の微粒子については電子親和力のため に),負に帯電しようとする性質があり,粒子輸送や波動を含む様々なプラズマ現象に影響を及ぼす.この微粒子を含むダストプラズマは,惑 星環や彗星を初めとする様々な宇宙現象に関連して,かなり以前より宇宙物理の分野において研究されている.最近になって,材料プロセスに 用いるプラズマに微粒子が発生し,薄膜の質の劣化やデバイスの歩留り低下をもたらすことが指摘され,ダストプラズマが再び大きな注目を浴 びている.微粒子を含むプラズマの身近な実現によって,結晶格子状の微粒子配列(クーロン格子)の形成や帯電微粒子の凝集成長など,プラ ズマ物理の観点からも興味ある現象が観測され始めている.また,新しいデバイスや機能性薄膜の創製へ向けて,プラズマ中の微粒子を積極的 に利用する試みも行われており,今後は,ネガティブな印象を受けるダストプラズマよりも微粒子プラズマと呼ぶ方が適当かもしれない. ダストプラズマ 掲載号 71-8 168 Dusty Plasma プラズマ・核融合学会用語解説 通常,吸着の逆過程,従って熱的活性化過程として把えられる場合が多いが,核融合炉のプラズマ対向材料の場合は,高いフラックスのプラ ズマと接するため,2つの特徴を持つ.1つには,高フラックスプラズマのため水素の表面被覆率も高くなると予想され,古典的な Lennard-Jones のモデルに依拠する議論が必ずしも適用できなくなることである.Lennard-Jones の古典的なモデルでは,化学吸着及び固溶が分子から2原子へ の解離を介してのみ起こるとしており,したがって解離化学吸着モデルと呼べる.このモデルによると,一たび表面が水素で飽和すると,もは やそれ以上の吸着は起こらないはずであるが,実際には,水素の透過速度や溶解度は,かなり高い圧力(P)領域までP^(-1/2) に比例して増加す ることが観測されている.このような古典モデルの矛盾を克服するため Waelbroeckは,モデルの拡張を計り,化学吸着分子,3原子複合体とい う2つの吸着状態を追加した.第2の特徴は,非熱的過程による脱離,即ちイオン,中性原子,電子,光子などによって誘起される脱着が加わる ことである.これらによる脱離は,大きな速度で起こるので,不純物のプラズマ汚染上極めて重要である.電子または光衝撃脱離は,基底の結 合状態から反結合状態への電子遷移によるとか,原子間のオージェ遷移を伴うとかの機構が提唱されており,なお議論を残している. 脱離 掲載号 68-6 047 Desorption プラズマ・核融合学会用語解説 身近な例では,ゴルフのカーボンシャフトや車のブレーキパッドなどに利用されており,製法を一口でいうと炭素の微粉と炭素繊維を混ぜて 焼き固めた複合材料である.特徴は機械強度に優れていることで,使用する炭素繊維の種類,炭素微粉の充填方法,焼結温度などを制御するこ とにより様々の特性を持ったCC材料が生産されている.核融合の分野では第一壁の表面を保護するアーマ材料に炭素系材料を使用するのが主流 であり,特にCC材料はプラズマからの熱で材料中に高い熱応力が生じるダイバータ部分のアーマ材料としてよく利用されている.最近では,室 温で鋼またはそれ以上の熱伝導率を持つCC材料が開発されており,JT-60やLHDなどの大型プラズマ実験装置のダイバータ部分に利用されてい る. 炭素繊維強化炭素複合材(CC材) 掲載号 70-12 145 Carbon Fiber Reinfored Carbon material プラズマ・核融合学会用語解説 タンデムミラーは,磁場と粒子速度のなす角度が小さくてミラー閉じ込めのできない粒子に対して,電位差による障壁を与えて,閉じ込め性 能を改善しようとする概念である.粒子の速度分布が温度 T のマックスウェル分布に近いとすると,閉じ込め電位 eφを乗り越える粒子の数は ファクタにして exp( - eφ/T) まで減少する.つまり,元来のミラーに比べて,タンデムミラーの閉じ込め時間は,閉じ込め電位の増加に応じて 指数関数的に増大する.これがタンデムミラーの基本となるパスツコフの比例則である. このような閉じ込め電位を形成するのにミラープラズマ自身の特性を利用する.閉じ込めを行う領域の両側にミラー磁場を置き,そこのプラ ズマの密度と温度を加熱により制御することで必要な電位分布をつくろうとするのが基本構想である.電位により端損失を抑制する領域をブラ グと呼ぶ.プラグ電位形成のためにミラーを連結することがタンデムの語源である.電位差はボルツマン則に従えば密度比の対数と電子温度の 積に比例するため,基本型ではプラグ部の密度を高くして電位を形成するが,熱障壁の導入により低密度でも電位形成が可能となる. タンデムミラー 掲載号 69-1 082 Tandem Mirror プラズマ・核融合学会用語解説 多自由度の力学系で,いくつかの異なる時間スケールが存在して,その速い時間スケールでの運動が周期的であると見なされるとき,その速 い時間スケールでの作用積分 式(1)は断熱不変量となる.強磁場中での荷電粒子の運動では,磁力線の周りの旋回運 動の磁気モーメントが 断熱不変量であることがよく知られている. 旋回運動の周期 について平均されたドリフト運動方程式によって記述されるドリフト粒子の運動を,磁力線に沿った運動と磁力線を横切って の運動とに分けることにより,磁力線に沿っての往復運動に伴う断熱不変量として縦(Longitudina1)断熱不変量が得られ,ミラー磁場中に閉じ 込められた荷電粒子の運動の記述によく用いられる. ヘリカルトーラスでは,ヘリカルリップルに捕捉された粒子の他に,トーラスに沿っ て周回する粒子や,トロイダルリップルに捕捉された粒 子が存在する.このため,ドリフト粒子の運動を,トロイダル方向の運動とポロイダル方向の運動とに分離することによって,リップルに捕捉 された粒子に対してばかりでなくトーラス中を自由に運動する粒子に対しても縦断熱不変量を定義することができる.このような分離が可能な ためには磁力線の回転変換が充分小さいとの仮定が必要になるが,その結果ヘリカルトーラス中での粒子運動の描像が極めて簡単になる. 断熱不変量は仮想的な周期軌道に沿っての積分として表されるもので,運動の保存量ではない. 式(1):158eq.gif 断熱不変量 掲載号 71-5 158 Adiabatic Invariant プラズマ・核融合学会用語解説 スペクトル幅の広いレーザー媒質を用いると,その周波数帯域幅の逆数で決まる短パルスのレーザー光を生成できる.近年、エネルギー蓄積 密度の大きい高帯域固体レーザー材料が開発され,パルス幅1 ps以下,ピーク出力100 TW以上の高出力・超短パルスレーザー光の生成が可能に なった.発振器で生成した低エネルギーの超短パルスレーザー光を回折格子を用いてチャーピング(時間的な周波数変化)をかけてあらかじめ 時間幅を広げ,この長パルス光を高エネルギーに増幅した後,再び回折格子によりチャープをもとに戻し(パルス圧縮),高出力超短パルス光 とする.これをチャープパルス増幅法と呼ぶ. 集光強度が約1018 W/cm2以上になると,光電界で駆動される電子の速度が光速に近ずき,レーザー光の相対論的自己収束,臨界密度の低下等 の相対論的効果が生じる.また,超短パルス領域では流体の運動が凍結されるため,高密度圧縮プラズマを膨張を伴わずに加熱することができ る,等エントロピー圧縮・自己点火に代わる新しい核融合点火方式として,研究が開始されている. 短パルス高強度レーザー 掲載号 72-7 201 High Intensity Short Pulse Laser プラズマ・核融合学会用語解説 普通の発電機(ダイナモ)では固体の金属を磁場中で動かすことにより電流を起こす.一方、磁気流体ダイナモでは,磁場中を電気伝導性流 体が流れることにより発電する.その結果,もとの磁場を強めるような電流が流れる場合,この磁場は増幅される.地球の外核(半径1,220 km ~3,480 km)は液体の鉄でできており,地球磁場はこの外核での磁気流体ダイナモによって生成されている.これが地球ダイナモである.地球 ダイナモには大きな謎がいくつも残っている.なぜ双極子磁場ができるのか,なぜ(地質学上のデータが示すように)磁場の極性が逆転するの か,等である.なによりも磁場増幅の詳しい物理機構が未だに解明されていない.物理学的に見ればこの問題は,回転する球殻形状の容器内部 での磁気流体の熱対流問題に他ならない.したがって回転(自転)と重力の効果を考慮に入れた磁気流体力学方程式を解けばよい.これは計算 機のシミュレーションが威力を発揮する問題の一つである.上記の問題の解決をめざした地球ダイナモの計算機シミュレーション研究が最近, 盛んにおこなわれはじめている. 地球ダイナモ 掲載号 72-4 193 Geodynamo プラズマ・核融合学会用語解説 中性子照射損傷は,一般に中性子の照射環境におかれる材料特性の(望ましくない)変化をさしている.この中で,主として材料の原子はじ き出し損傷に起因した材料特性変化を,狭い意味での照射損傷と呼んでいる場合も多い. 高エネルギーの中性子は,材料中の原子をはじき出し,ミクロな構造変化と組成変化をもたらす.これに伴い,材料の物理的,機械的,化学 的性質が変化する.金属材料では材料の硬化と伸びの減少,破壊靱性値の低下,照射下クリープ変形,疲労寿命の低下,ボイドの形成によるス エリングなどが引き起こされるとともに,耐腐食性が変化する.ミクロ組織変化およびこれらの材料特性変化は,照射条件,材料条件,環境条 件に敏感であり,中性子照射下の材料挙動はきわめて多くのパラメータ依存性を持つ. 中性子は核変換効果を持っており,(n,α)や(n,p)反応などによるへリウムと水素の生成,不純物元素の生成が問題となる.ヘリウム は,ボイドスエリングに影響するばかりでなく,高温では結晶粒界に集合して脆化の原因となる.また中性子照射は材料を放射化し,炉のメイ ンテナンス,廃棄物の処理・処分などの観点から,放射能を低減しうる材料の開発が急がれている. 中性子照射損傷 掲載号 67-6 028 Neutron Radiation Damage プラズマ・核融合学会用語解説 核融合実験装置の大型化および高密度領域での電流駆動の必要性から,中性粒子入射加熱(NBI)に要求される入射エネルギーは数100 keVか ら1 MeV以上となっている.NBI装置では,イオン源により生成・引き出されたイオンビームを所定のエネルギーまで加速した後,中性化セル を通過させることにより高速中性粒子ビームを得る.現在のNBIで用いられている正イオンビームの中性化効率は,核子あたりのエネルギーが 100 keV以上となると20 %程度以下に低下する.一方,負イオンビームの中性化効率は数100keV以上でも60 %以上(ガス中性化セル)であり, プラズマ中性化セルや光電離を用いると80~90 %以上にもできる.したがって,次期大型核融合実験装置では負イオンを用いたNBIが計画され ており,効率のより負イオン源の開発が精力的に進められている.負イオン源としては正イオンビームの二重荷電交換方式,表面変換方式,表 面生成方式等が古くから研究されてきたが,ビーム発散角が小さいこと,装置が単純化されることなどにより,プラズマ中で負イオンを生成す る体積生成(Volume production)方式が主流となっている(80年代以降).体積生成方式は,フィラメント等より放出された高エネルギー電子 (>40 eV)との衝突によりプラズマ中で振動励起された水素分子が,1 eV程度の低エネルギー・プラズマ電子との解離性付着で負イオンとなる 過程を利用する方式である.振動励起分子を生成する電子のエネルギーと負イオンを生成する電子のエネルギーが大きく異なること,および, 数 eV以上の電子による負イオン消滅反応の断面積が大きいことから,体積生成方式では,磁気フィルタと呼ばれる磁力線により,プラズマ生成 室内をドライバー領域と引き出し領域とに分離する(タンデム方式).ドライバー領域では電子温度を高く維持することで振動励起分子を効率 的に生成し,引き出し領域では電子温度を低く維持することで負イオンを効率的に生成する.最近,体積生成方式の負イオン源に微量のセシウ ム蒸気を添加することによって負イオン出力が大幅に増加することが見出された.セシウムの導入によりプラズマ電極表面の仕事関数が低下 し,表面効果による負イオン生成が大きく寄与するようになったためと考えられている. 中性粒子入射加熱装置用負イオン源 掲載号 70-6 126 Negative Ion Source プラズマ・核融合学会用語解説 慣性核融合において,高強度のエネルギードライバー(レーザーやイオンビーム)のパルスをターゲットに注入し,球殻状の燃料ペレットを 爆発的に圧縮することを爆縮(Implosion)と呼ぶ.レーザーやイオンビームを直接燃料ペレットの球面上に一様に照射すると,表面で吸収され気 化・電離により高温のプラズマが発生する.ペレット表面では連続的に熔発(アブレーション)がおこり,アブレーション圧力と呼ばれる超高 圧(1,000万気圧~1億気圧)が発生する.この超高圧により燃料ペレットを球対称圧縮する方法を直接駆動爆縮(direct drive implosion)と呼ぶ. 直接駆動爆縮 掲載号 68別冊 049 Direct Drive Implosion プラズマ・核融合学会用語解説 プラズマに電力を注入し温度を上げることを加熱という.ある加熱が存在して,さらに,新たな加熱手法を用いて加熱する必要がある時,こ れを追加熱と呼ぶ.トカマク,逆転磁場ピンチ等の閉じ込め装置ではプラズマ中を流れる電流がジュール熱を発生するので,先天的に加熱手段 を備えていると言える(オーミック加熱).高温プラズマではオーミック加熱は有効性を失う事が指摘され,電子サイクロトロン加熱,中性粒 子加熱,イオンサイクロトロン加熱,等の新たな追加熱手法が開発されて来た.開放端系/ヘリカル系,等の,閉じ込め装置においても,電子 サイクロトロン加熱によるプラズマ生成,イオンサイクロトロン加熱/中性粒子加熱による追加熱と機能を分離させれば,追加熱という概念を 成立させる事はできる.追加熱という言葉は核融合研究における上記の様な歴史的背景により生まれたものであり,現代の核融合研究において は,加熱と追加熱を特別に区別する意味は減少している. 追加熱 掲載号 72-12 216 Additional Heating プラズマ・核融合学会用語解説 トーラスを特徴付ける最も基本的な無次元量はアスペクト比(トーラスの主半径と小半径の比)である.トーラス型プラズマ閉じ込め装置の 一種であるトカマク装置ではアスペクト比を通常3~5に設定している.これに対して最外殻磁気面のアスペクト比を1.5以下に設定し,トロイダ ル効果を強調したトカマクが低アスペクト比トカマクである.低アスペクト比トカマクでは最外殻磁気面に近づくにつれてアスペクト比が急激 に小さくなり,強いトロイダル効果が現われる.トロイダル効果が強くなると強磁場側では磁力線はポロイダル方向にすこしづつ変位しながら トロイダル方向に回転する螺旋を描き,弱磁場側では磁力線はトロイダル方向と大きな角をなす.この結果として, 1)全体として磁気面量である安全係数は増大する; 2)MHD的に安定な強磁場側の磁力線の長さが弱磁場側に比べて長くなる; 3)平衡を充たすプラズマ電流が,弱磁場側では大きなポロイダル成分を持つためトロイダル方向の磁場を発生しプラズマは強い常磁性を示 す; などの特徴が現われる.低アスペクト比トカマクでは理論的にはMHD的に安定なべータ値の上限が上昇し,高ベータの達成が予想されている. また,最外殻磁気面に近づくにつれてアスペクト比が急激に小さくなるのでプラズマ周辺部で安全係数が急激に増大し,高い磁気シアを持つ. このことはMHD的な安定に大きく寄与することが理論的に予想されていて,英国のカラム研究所所有のSTART装置でプラズマの主崩壊を起こさ ない安定なプラズマの生成が実験的に確かめられている.低アスペクト比トカマクは高ベータでコンパクトな核融合炉の可能性を持つ装置とし て注目されているが,高ベータ化に不可欠な高プラズマ電流をオーミック加熱入力で得ることはインダクタンスの大きなオーミックコイルの設 置が困難なため不可能である.このため,オーミック加熱入力以外のプラズマ電流駆動法の開発が必要であると考えられている. 低アスペクト比トカマク 掲載号 71-4 156 Low Aspect Ratio Tokamak プラズマ・核融合学会用語解説 プラズマの比抵抗ηが零の理想的な場合に安定な配位であっても,抵抗が有限な場合はプラズマは磁力線を横切って動くことができるように なり不安定になりうる.オームの法則ηj=E+V×Bにおいてηが小さい場合はプラズマが磁カ線を横切ろうとするとjの大きさが大きくな り,その運動を押えようとする.ところが擾乱 f1(x)exp(jkyy + jkzz)eγt の伝播方向kが磁力線に直角な場合,すなわち(k,B)=0の有理面附近で はjは大きくならないことが導かれる.筒単のためスラブモデルの磁場配位を考える(B0=B0y(x)ey+B0z (x)ez).xはプラズマの径方向の座標 である.オームの法則をファラデーの式∂B/∂t+▽×B=0に代入すると以下の式(1)となるが,(k・B)=0のところではVx≠0,η→0と してもj1zは大きくならないことを示している.したがって有限抵抗の場合(k・B)の有理面附近で不安定なモードが起こりうる.磁気シアが ある場合有理面附近では(k・B)=Fsx/Lsとなる.(x=0を有理面にとる).B1x,Vxは(1)式の外にMHD運動方程式を満たす.これらの式 から,B1x(x) はx=0附近でxに関して偶関数,Vx(x) は奇関数となる.したがってB1x(x),Vx(x) は図1(245.gif)のようになる.このようなモード が成長すると磁気島が成長し,プラズマを引きちぎるようになるので Tearing Mode といわれている.この不安定化条件は式(2)であり,kLs ≪1で不安定になりやすい.このモードの成長時間はアルヴェン通過時間と抵抗拡散時間の重みをかけた幾何学的平均時間であり,キンクモー ドのような理想的(η=0)MHD不安定性の成長時間(アルヴェン通過時間)より,ゆっくりしている. この理論は Finth,Killen,Rosenbluth が1963年シートピンチプラズマ対象として発表されたが,トカマクの有理面に現れるinternal disruption あ るいは major disruption 等の解析の基盤となっている. 式(1):245aeq.gif 式(2):245beq.gif 図:245.gif ティアリングモード 掲載号 73-10 245 Tearing Mode プラズマ・核融合学会用語解説 トロイダル効果によって現れるアルヴェン波固有モードのこと.磁化プラズマ中のねじれアルヴェン波は,アルヴェン共鳴近傍でのみ伝播で きるが,アルヴェン共鳴自体は波を強く減衰させる.そのため,多くの場合,ねじれアルヴェン波の減衰率は大きく,固有モードは励起されに くい.しかしながら,トロイダルプラズマでは,トロイダル効果によってポロイダルモード間の結合が生じ,アルヴェン共鳴が起こらない周波 数ギャップが現れる.このギャップの中に周波数をもつ固有モードは,アルヴェン共鳴による吸収を受けないので,減衰が弱く,容易に励起さ れ得る.これが TAE である. 磁力線方向にアルヴェン速度程度で運動する高速粒子は波と相互作用し,ドリフト運動と結合して TAE を不安定化することができる.また, それに伴って高速粒子自身の拡散・損失も増大する.実際に中性粒子ビーム入射加熱やイオンサイクロトロン波加熱に伴って,固有モードの励 起,粒子損失の増大が観測されている.核融合反応によって生成されるα粒子が TAE を励起して,α粒子の損失を増大させる可能性があり,安 定条件および損失率の評価が進められている. TAE 掲載号 73-6 235 Toroidicity-Induced Alfven Eigenmode プラズマ・核融合学会用語解説 照射量のスケーリングパラメータとしては,古くはnvt,さらに1 MeV以上の高速中性子フルエンスなどが用いられてきた.dpaは材料1原子あ たりのはじき出し総数(displalcement per atom)で粒子照射量を表そうという考えで,1970年頃から使われ始めた.フラックスφの照射粒子に よって固体中で原子の一次はじき出しが起こる断面積をσp,一次はじき出し原子(PKA)の規格化されたエネルギースペクトルをW(E, EP),エネルギーEP の一次はじき出しから連鎖的にできるはじき出し数をν(EP)とすると,dpaは以下の式(1)と表せる.ν(EP)をはじき出 し損傷関数と呼び,LSS理論から電子的エネルギー損失の寄与をとり入れたNRTモデルが多く用いられている. dpaを用いることによって,中性子ばかりでなく,重イオンや電子線などの異なる粒子の照射量を同一の基準で扱うことができる.しかしdpa は,残存する欠陥量を示しているわけではなく,材料の照射効果を表現するパラメータとしては制約が大きい. なお,核融合炉の 14 MeV 中性子の壁面負荷1 MWy/m2 は,ステンレス鋼では約10 dpaに相当している. 式(1):0029eq.gif dpa 掲載号 67-6 029 Displacement Per Atom プラズマ・核融合学会用語解説 重水素 (D) - ヘリウム3(3He) 核融合反応: D + 3He → 4He ( 3.67 MeV) + p (14.68 MeV) は D-T 燃料以外の核融合であるアドヴァンスド燃料核融合の一つである.D-T核融合で問題となっている中性子は主反応からは発生しないが副 反応の D-D反応や D-D 反応で発生した Tとの D-T 反応によって発生する.しかし,その量は自己点火状態で D-T 核融合の 1/10 以下と非常に少な く,安全性,環境保全性の観点から次世代の核融合と期待されている.しかしこの核融合反応を維持させるためには閉じ込めパラメータ (粒子 密度×閉じ込め時間) が約1021 sec/m3 で約100 keV (10億度) のプラズマ温度が必要となる.磁場によるプラズマ閉じ込めにおいて,このような高 温プラズマでは電子のシンクロトロン輻射損失 (温度の自乗,1-β / βに比例:β=プラズマ圧力 / 磁場圧力) が膨大となるために炉として成立 するためには高ベータプラズマ配位(磁場反転配位,球状トーラス等の20%以上のβ値) が要請される.さらに,この核融合の利点は核融合出 力のおよそ2/3を荷電粒子が担っておりその運動エネルギーを直接電気エネルギーに高効率で変換でき経済的な炉が可能となる.その変換効率は 熱・電気変換の40%に比べて高い60%以上が期待されている.この直接エネルギー変換のためには荷電粒子を外部に引き出すためにプラズマ周 囲が開いた磁力線で囲まれた配位が必要となる.燃料の重水素は海水中に存在するが,ヘリウム3は地球上に極くわずかしか存在しない(3He / 4He = 1.4×10-4 が月表面に少なくとも100万トンの経済的に採掘可能なヘリウム3が埋蔵されていることがわかっている.これは21世紀中頃の全 世界のエネルギー需要を約 500年間まかなえる量に相当する. D-He3 核融合 掲載号 75-3 298 D-He3 Fusion プラズマ・核融合学会用語解説 慣性核融合において高いターゲット利得を達成するためには,燃料を効率よく高密度に圧縮することが必要不可欠である.したがって燃料は できるだけ低い温度(低エントロピー)を保ちつつ加速・圧縮されなければならない.このような圧縮過程を実現するための駆動力となるレー ザーの波形は,高精度に調整(波形整形)される必要がある.この波形整形されたレーザーパルスはテーラードパルスとも呼ばれる.その基本 的特長は,レーザー出力が最初は極めて低く抑えられ,時間と共に急激に増大するというものである.テーラードパルスに対する代表的な理論 として Kidder 解がある.この理論では球殻状の燃料が時間と共に自己相似的に圧縮するものと仮定し,低エントロピー圧縮を実現する解として 時間tに対する外側のプラズマ圧力pに対して,p∝[1-(t/tc)2]-5/2を導出している.(tcは燃料の中心到達時刻).テーラードパルスの場 合、初期段階でのパルスの波形は衝撃波による先行加熱およびその後の爆縮過程におけるレイリー・テイラー不安定性の成長を決定するため特 に重要である. 低エントロピー圧縮 掲載号 68別冊 059 Low Entroopy Compression プラズマ・核融合学会用語解説 プラズマを閉じ込めるために大電流を必要とするトカマクプラズマにおいて顕著に現れる現象である.ディスラプション現象は,まず,プラ ズマ中心部の熱エネルギーが急激にリミタやダイバータ板等の第一壁に向かって放出され, ついで,プラズマの主円周方向に印加されている一 周電圧に数10 Vあるいは100 Vを越える負荷電圧スパイクが生ずるとともにプラズマ電流が急激に消滅する.電流減少率 として,1msあたり数100 kAという激しい場合も観測されている.この現象の第一段階を,熱的ディスラプション (thermal disyuption) ,第二段階を電流ディスラプション (current disruption)と区別して呼ぶこともある.ディスラプションに伴いプラズマの持っていた膨大な磁気エネルギーが開放され,これが第一壁 等の各種構造体中で熱エネルギーとして消費されることになり,第一壁の寿命にかかわる重大な問題となっている.ディスラプションの発生は プラズマの電流分布に強く依存しており, 小円周方向のモード数が2で主円周方向のモード数が1の磁力線と共鳴するような抵抗性テアリング モードによって引き起こされていると考えられる.したがって,電流分布に影響を与えるような不純物流入の抑制や電流分布の直接的な抑制に よってその発生をかなり制御できるようになってきている. ディスラプション 掲載号 66-2 004 Disruption プラズマ・核融合学会用語解説 プラズマに対向し,プラズマと相互作用する固体壁面にはこれまでに種々の材料が使用されてきた.その中で原子番号"Z"の低い材料である 炭素,ほう素,ベリリウム ,リチウムを総称して"低Z材料"と呼んでいる.低Z材料は1980年台はじめの頃から トカマク装置のリミタ,ダイ バータ板に使われはじめた.その主な理由は,壁材料が不純物としてプラズマ中に混入した場合に,原子番号の低い材料ほど線放射によって引 き起こされるエネルギー損失が小さいことにある.最初は黒鉛 材が主として用いられたが,酸素不純物と水素リサイクリングの抑 制が容易な ベリリウム,ほう素,リチウムが現在注目されている.また,ダイバータ板については,能動的な冷却が今後必要になることから,熱伝導率の 良い低Z複合材料や,水冷管と低Z材の接合材料の開発に現在カが注がれている. 低Z材料 掲載号 71-6 161 Low Z Materials プラズマ・核融合学会用語解説 中性子照射場で使用される材料はすべて放射化してしまうが,その放射能の減衰挙動は材料に強く依存する.低放射化材料は,この誘導放射 能が使用後速やかに減衰するような元素から構成される材料と定義される.この概念は,原子炉システムの維持管理,安全性,廃棄物処理の観 点から生じたものである.その基準は,例えば,維持管理及び安全性の点からは,炉停止後数日のうちに人が近づけるレベルまで線量率が減衰 することが,また廃棄物処理の観点からは,炉停止から100年以内に浅地処分が可能な放射能レベルまで減衰することである.これらの定量的 な値または考え方は各国の放射線管理基準に依存する.具体的な材料としては,放射能レベルが数日間で10桁以上減衰する SiC/SiC 複合材料 等のセラミックス材料が理想的である.現実には材料技術の成熟度からバナジウム合金やフェライト鋼が候補材になっている.しかしこれらの 金属材料は,その放射能が十分に小さくなるには数年から数十年を要することから,主として廃棄物処理の観点からの低放射化材料である. 低放射化材料 掲載号 71-9 171 Reduced and/or Low Activation Materials プラズマ・核融合学会用語解説 プラズマ中に点電荷 qを置くと,そのまわりにはクーロン場 q/r (rは点電荷からの距離)よりもずっと作用する距 離が短いq/r exp(-r/1)の形の静 電ポテンシャルができる.ここで,lはプラズマの温度(T),粒子密度(n)から算出される(T/n)1/2に比例する特性的な長さで,電解質溶液の理論で 初めてこの量を導入し た人の名前にちなんでデバイ長 (Debye length) という.プラズマ中に置かれた点電荷は,自分の作る電場で電子やイオン を引きつけたり反発したりして,周りに自分の電場を打ち消すような局所的電荷分布を作ろうとする.しかし,電子やイオンは熱運動をしてい るので,一様な空間分布になろうとする.この2つの作用の釣合いから電 荷の空間分布が決まり,上記の形の静電ポテンシャル場ができる.デ バイ長はいわば 静電場の作用と熱運動の作用とが釣り合う特性的な距離である.プラズマ内に静電場を 作るような作用が及ぶと,すぐに上の 機構でその作用を部分的に消すような電荷分布が生じる.こうして,プラズマ中で局所的な静電場ができる現象,たとえば,プラズマ振動やプ ラズマと壁との境界のシースなどの話には,いつでもその特徴的な長さとしてデバイ長が現れる. デバイ長 掲載号 66-1 001 Debye length プラズマ・核融合学会用語解説 一般的には,二つの相等しく反対符号に荷電された平行な空間電荷層間にサンドイッチされた電場のことを指すが,特にプラズマ中で局所的 に電荷準中性条件が破れて形成される電場のことを“プラズマ電気二重層(略称DL)”と呼ぶ.この場合,プラズマ中にはその温度相当程度ま たはより大きい静電位ジャンプが存在し,DL内の電場は隣接した両外側の電場よりはるかに大きい.また,電荷中性条件からの相対的ずれはイ オンに対する電子の質量比(me/mi)程度以上であり,DLの厚さはデバイ長の50倍程度である.DLの高電位側には捕捉電子と低電位側に加速 されて流れ込む自由イオンが,低電位側には捕捉イオンと高電位側に加速される自由電子が存在し,これら4種類の荷電粒子群により理論的に は一次元の定常解(BGK解)を作り得る.DL内では正負の電荷総量は零であるので,層を貫く電子流束に対するイオン流束の比は(me/mi)1/2 となる(ラングミュア条件).また,DLを維持するための臨界電流密度が存在し,電子の熱速度以上のドリフト速度が要請される(ボーム条 件).DLはオーロラ帯上空の磁気圏下部の高エネルギー粒子発生機構の一つとして注目されてきた. 電気二重層 掲載号 72-9 207 Electric Double Layer プラズマ・核融合学会用語解説 正イオンと中性あるいは負イオンないし正イオンの衝突の際,電子の一部および全部が移動する現象で,中性原子の場合,A^(q+)+B→A(q-1)+ +Bi+と表せる。荷電変換,荷電交換など,いろいろな名称があり混乱しているが,一番正しく現象を表現しているのは,しばしば用いられてい る電子交換(electron exchange)ではなく電子移動(electron transfer)という言葉だろう.量子力学の初期から多くの研究が行われ,今でも, (もっとも簡単なH++H→H0+H+の電子移動を含めて),毎年数10篇の論文が書かれている. 電子移動の機構は,一般には電子雲の重なりにより,つまり,衝突エネルギー(粒子間の相対エネルギー)によって大きく異なる.低エネル ギーでは,準分子形成によるので非常に大きな断面積をもつが,高エネルギーでは,この重なりが小さくなり,電子が移動する確率は非常に小 さくなる. 現在,この過程は次のような理由で核融合研究で注目を浴びている.中性粒子(多くの場合,水素,ヘリウム原子)をプラズマ中に打ち込む と,不純物イオンとの衝突で電子移動Aq++H→A(q-1)+(nl)+H+過程がおこる.電子移動に基づく分光法はこうして形成された不純物イオンから の光(nl→n'l')を観測して,ドップラー拡がり・移動を計測することにより,プラズマ中のイオンの密度およびその温度の時間的・空間的分 布,ないしはプラズマ回転などを知る上での最良の手法を提供している. 電子移動過程 掲載号 73-3 224 Electron Transfer Process プラズマ・核融合学会用語解説 プラズマ中の電子エネルギー分布関数(Electron Energy Distributiuon Function 通常略して,EEDFという)を一言で記述すれば"プラズマ中の 等方的運動をしている電子の速度を運動エネルギーで表したときの度数分布"となる. プラズマ中の電子エネルギー分布関数は,プラズマの生成および維持機構の解明や中性ガスの励起,分解,化学反応等の非弾性衛突の種類や 反応速度を決定する上で必要不可欠なパラメータである.中性ガスと電子間の弾性および非弾性衝突の断面積は,電子のエネルギーεに依存し ており,例えば,推定したい反応速度(衝突頻度)Kとし,その衝突断面積をσ(ε),ガス密度をN, EEDFをF(E)とそれぞれ置くと以下の式(1)よ りKを推定できる. 低温低圧プラズマ中の電子エネルギー分布関数は,ラングミュアプローブを用いて測定される.測定原理はドリュベステイン等により確立さ れ,プローブに収集された電子電流のプローブバイアス電圧に対する二次微分を検出して行われる.電子密度が1011-1012(cm-3)を越える高密度プ ラズマ中では,電子-電子間,電子-イオン間のクーロン衝突によるエネルギー緩和のため電子エネルギー分布関数はマックスウェル分布を形成 する.一方,反応性プラズマでは,分子性ガスまたはその混合ガスが用いられ,各種非弾性衝突のため電子エネルギー分布関数のマックスウェ ル分布仮定は妥当でなくなり,非マックスウェル分布を形成する.また,電子エネルギー分布関数は,プラズマチャンバの形状および寸法やガ ス圧力に依存する. 式(1):264eq.gif 電子エネルギー分布関数 掲載号 74-4 264 Electron Energy Distribution Function プラズマ・核融合学会用語解説 電子と陽電子が混合して静電的に中性になっているプラズマを指す.英語ではいろいろの呼び方がある.そのままで electron-positron plasma, 電子と陽電子が質量が同じ(まだ厳密には実証はされてはいないが)で電荷だけが逆の場合だから,両者対になっているとみて,pair plasma と も呼ばれる.歴史をさかのぼれば,Alfven が常物質と反物質の混合プラズマを ambiplasma と名付けている.この最も単純なものが電子と陽電子 の組み合わせである電子-陽電子プラズマとなる. まわりに常物質ガス分子がない場合,電子と陽電子の対消滅は2光子消滅が主となり,密度n=ne+=ne-[cm-3]の電子-陽電子プラズマが消滅 する時定数は,その温度(エネルギー)によらず,1014/n[s]であるので,n=1014[cm-3]程度のプラズマでは1秒間程度その状態が持続す る.しかし,ガス分子や原子があるときは,陽電子はそれらの最外郭電子とポジトロニュウム:Ps を形成しやすく,一旦 Ps ができると10-7 [s]程度の時間で消滅する. 実験室で,電子-陽電子プラズマを平衡状態に保持した例はまだないが,陽電子プラズマに電子ビームを入射して両者を混合した実験例はあ る.一方,宇宙では,ブラックホール降着円盤,宇宙ジェット等で電子-陽電子プラズマや光子-電子-陽電子3体混合状態があると,消滅γ 線の観測から推定されている.質量が同一であることから粒子シミュレーションが容易であるので,この方面の研究が盛んである. 電子・陽電子プラズマ 掲載号 72-10 211 Electron-Positron Plasma,Pair Plasma(Ambiplasma) プラズマ・核融合学会用語解説 電子ルートあるいはイオンルートは非軸対称トロイダルプラズマにおける径電場を新古典輸送理論に基づき決定する際に用いられる.しか し,トカマクの閉じ込め理論ではまったく用いられないので,狭い分野の用語という印象がある.非軸対称トーラス(バンピートーラスやステ ラレータ)における電子およびイオンの新古典粒子束ΓeおよびΓiは,径電場Erに強く依存し,しかも両極性条件Γe=Γiによりその大きさが決 まる.Γe=Γiよりある磁気面でErを決定しようとすれば,衝突周波数に依存して,根の数が変わる.Er<0で|Er/T'|~1(T' は温度勾配) の領域に1根がある場合と,Er>0で|Er/T'|≧(3-4)の領域に1根がある場合が両極端として現れる.ここで,Er<0の場合には,イオン の拡散が主になるのでイオンルートと呼ばれ,Er>0の場合には,電子の拡散が主になるので電子ルートと呼ばれる.場合によっては,Erが3根 になる.このとき,中間の解は不安定であり,残りのイオンルートに相当する解と電子ルートに相当する解は安定である.この結果からステラ レータプラズマでは径電場は径方向にEr<0からEr>0に分岐し,径電場の勾配が増大する閉じ込めのよい状態が得られる可能性が指摘されてい る. 参考文献:D. E. Hastings et al., Nucl. Fusion 25, 445(1985). 電子ルート, イオンルート 掲載号 72-6 197 Electron Root, Ion Root プラズマ・核融合学会用語解説 気体中で生成された電離イオンによる電流を測定して圧力を間接的に求める真空計である.イオン電流は広い圧力範囲で正確に測れるので動 作範囲も広く,圧力-電流の比例性にも優れている.通常気体の電離に電子を利用し,陰極の方式により冷陰極電離真空計と熟陰極電離真空計 に大別される.信頼性が高く多く使用されているのは後者で,高真空で主に使用される三極管型電離真空計,超高真空測定用のベアードアル パート真空計(B-Aゲージ),中真空用のシュルツ真空計などがある.いずれも,陰極(フィラメント),陽極(グリッド),イオンコレクタ の3電極をもつ.イオン電流 Ic は電子電流(エミッション電流)Ie と圧力 P に比例する. Ic = K・Ie・P 比例係数 K は電離真空計の感度係数で,国家標準器で値付けした副標準電離真空計(VS-1)との比較校正法で求めている.Kは窒素に対する値 を与えることになっているので(JIS Z8750),他の気体では比感度を用いて感度補正をする必要がある.未補正の値は窒素相当圧または窒素換 算値と呼ばれている.使用可能な圧力範囲は,低い方は軟X線効果などで,高い方は Kや Ie を一定値に保てなくなるために制限される.感度の 較正時と異なる温度で使用するときは温度補正が必要である(JIS Z8752). 電離真空計 掲載号 69-11 108 Ionization Gauge プラズマ・核融合学会用語解説 広義にはプラズマ中に電流を流すことをいうが,通例は特に変流器を用いずに行う非誘導電流駆動のことを指す.非誘導電流駆動はトカマク の定常化,プラズマ電流分布の能動的制御にとって重要である.電流駆動を行うためにはプラズマ中での散逸に抗して非対称な荷電粒子の流れ を維持しなければならない.最も直接的な方法は,高速の中性粒子ビームを-方向に入射して運動量を供給することである.また進行する電磁 波により粒子を加速する方法もある.低域混成波電流躯動では,波の位相速度と同じ速度で進む電子が,波の電場を感じて加速される(ランダ ウ減衰).速波電流駆動ではランダウ減衰の他,変動磁場の蠕動によっても電子が加速される(走行時間磁気ポンプ).以上とは異なり外部か ら運動量を注入せず,非対称な荷電粒子の流れを維持することも可能である.たとえば電子サイクロトロン電流駆動では,ー方に進む電子の旋 回運郵エネルギーを上昇させ,逆方向に進む電子と比べて減速しにくくすることにより正味の電流を得ている.同様の機構は少数イオンを用い た速波電流駆動にも存在する.また低い周波数の波を用いた例では,円偏波したアルヴェン波によるヘリシティ注入電流駆動等がある. 電流駆動 掲載号 70-5 124 Current Drive プラズマ・核融合学会用語解説 等圧モデルは,Meyer-ter-Vehn により考案された慣性核融合のターゲット利得を評価するための簡単な理論モデルであり,物理的本質を把握 する上でも非常に有用である.このモデルでは,最大圧縮時の燃料構造を考えている.燃料全体は,中心の高温低密度領域とそれを取り巻く低 温高密度領域のそれぞれ一様な二領域に分割され,双方とも共通の圧力の下で静止状態に達しているものとする.中心の高温領域(スパーク) での点火およびアルファ粒子による自己加熱を保証するための必要条件は,スパークの温度 Ts≒5keV,面密度 ρsRs ≒ 0.3g/cm2 である.以 上の仮定と共に,次の3つの独立変数により系は完全に決定される. 1)結合効率ηc =(点火時の燃料エネルギー)/(全投入エネルギー) 2)燃料全体に共通な圧力 p 3)エントロピーパラメータ α=p/pdeg(pdeg:縮退電子圧力) ここで重要なのは,独立変数の個数が3個ということである.換言すると何を変数にとるかは爆縮様式に依存するので,利得曲線は若干ではあ るが異なったものとなる. 等圧モデル 掲載号 68別冊 053 Iso-baric Model プラズマ・核融合学会用語解説 不均一静電場中の誘電体には巨視的力が働く.この力のように,荷電粒子系に加えられた電磁気力の巨視的和をPonderomotive Forceといい, 動重力はそれに対する訳語である[1].この観点から電磁流体に作用するJ×BをPonderomotive Forceと称することもあるが,通常,プラズマ物 理学の分野では動重力(Ponderomotive Force)は高周波電磁場がプラズマに作用するカを高周波の時間スケールで平均化したもの(平均力F) を意味する.高強度の高周波電磁場あるいはレーザー光がプラズマに印加されたときの非線形現象の振舞いに動重力は重要な役割を果たす.大 振幅プラズマ振動の自己捕捉,プラズマ中を伝播する高電力電磁波ビームの自己収束等を引き起こし[2],開放端系プラズマの高周波封じ込 め等に利用される. 高周波電磁場が荷電粒子に及ぼす平均カF(=動重力)は平均法を使って計算でき,ポテンシャルカとなることが証明できる.(以下の式 (1)参照) ここでq,Mは粒子の電荷と質量を表しb(=B0(x)|B0(x)|)は静磁場B0(x)で定義される単位ベクトル,ωcはサイクロトロン振動数を表す. Eは高周波電磁場の電場成分,ωはそれの振動数である.<(……)>は時間平均を示す.ψは動重力ポテンシャル(ponderomotive potential)と呼ば れる. [1]ランダウ・リフシッツ電磁気学:(井上健男,安河内 昂,佐々木健訳,東京図書,1962))p84. [2]一丸節夫:プラズマ物理(産業図書,1981)p194. 式(1):134 eq.gif 動重力 掲載号 70-8 134 Ponderomotive Force プラズマ・核融合学会用語解説 環状プラズマ中においてトロイダル電場が存在するとき、電子の平均流速は電場による加速力と平均的摩擦力との釣り合いから決定される. 一般に,イオンとのクーロン衝突による平均的摩擦力は電子熱速度の3乗に反比例して減少する.一方、高速の電子が受ける摩擦力も速度の2乗 に反比例して減少するので,摩擦力が電場による加速力よりも小さな場合,高速電子は系から損失するまで加速され続けることになる.このよ うな高速電子を逃走電子と呼ぶ.トカマクプラズマ中では電場が小さくても(<0.1 V/m)磁力線に沿った運動する粒子の閉じ込めは一般的に よいので,逃走電子のエネルギーは容易にMeV 領域に達する.電子密度が高い時は,逃走電子は正規型速度分布のテール部分からのみ発生する のでその密度比は非常に小さく,全電流に占める逃走電流の割合も小さい.しかし,電子密度が低下するにしたがって逃走電子の割合は高くな る.特に,トカマクの電流立ち上げ時やディスラプション時のように大きなトロイダル電場が生じる場合には,逃走電子の割合が急速に増加し てほぼ全電流を担う場合もある.これらの逃走電子はトカマク等の閉じ込め容器壁に突入して硬X線の発生や壁の損傷をもたらすので,工学的 に問題となる.外部磁場に揺動を印加して高速電子の閉じ込め時間を短くすることにより,逃走電子を抑制できることが実験的に示されてい る. 逃走電子 掲載号 73-4 228 Runaway Electorons プラズマ・核融合学会用語解説 軸対称の環状(トロイダル)磁場閉じ込め方式の一種で,強いトロイダル磁場中にトロイダル電流(プラズマ電流)を誘起しそれが作る磁場 との合成で閉じた磁気面を形成し高温プラズマを閉じ込める核融合装置の呼称である.プラズマ電流は電磁誘導法あるいは高エネルギーイオ ン,高周波により駆動される.トロイダル磁場はトロイダル磁場コイルで形成され,プラズマの位置・形状を制御するためのポロイダル磁場コ イルも備えている.高温プラズマは高真空容器内に生成し,その境界はリミタ材もしくはダイバータ配位による磁気リミタによって決められ る.トカマク型閉じ込め方式は現在最も進んだ閉じ込め方式として研究開発が進められており,自己点火核燃焼試験を行う実験炉もトカマク方 式で設計が進められている. トカマク 掲載号 70-4 121 Tokamak プラズマ・核融合学会用語解説 初期の磁場閉じ込め研究では,プラズマのエネルギー閉じ込め時間はプラズマ形状,磁場強度とその構造(回転変換角),平均電子密度,加 熱入力,等でほぼ一意的に決まり,閉じ込め時間はいわゆるスケーリング則と呼ばれる数式で記述できるとされていた.ところが1982年にプラ ズマの蓄積エネルギーが突然大きくなる現象(Hモード遷移)が発見され,そのプラズマの閉じ込め時間はスケーリング則(正確にはLモードス ケーリング則)を大きく上回っていることが明らかになった.Hモードに限らず,放電中に閉じ込め時間がLモードスケーリング則(または各 装置のスケーリング則)の予想値から外れて,有意に大きな値を準安定に持ち続けるプラズマの放電または状態を「閉じ込め改善モード」とい う.これに対して,Lモードスケーリング則に従うものをLモードプラズマという.現在までに数多くの閉じ込め改善モードがトカマクを始めそ の他の閉じ込め装置で発見され,その輸送係数(拡散,粘性,熱伝導係数)がLモードプラズマの輸送係数より小さいことが確認されている. この輸送係数の減少の原因は,プラズマの圧力(または流れの)勾配が作り出した磁場や電場のシアの変化であると考えられている.プラズマ の密度,速度,温度分布が輸送係数を変化させ,その輸送係数の変化がプラズマの分布を変化させるため,この現象は一般的に非線形な遷移を 伴う.閉じ込め改善モードの発見は閉じ込めのよい装置を作るという装置の研究から,閉じ込めのよいプラズマ分布を作るというプラズマ輸送 の研究への進展を促したという点において,核融合研究の中で非常に大きな意義を持つ. 閉じ込め改善モード 掲載号 72-11 214 Improved Confinement Mode プラズマ・核融合学会用語解説 観測者に対して相対速度 v で移動する物体が発する波動の波長が静止時の波長λからλ(1±v/c)だけ変化する現象はドップラー効果(Doppler effect)としてよく知られている.プラズマを構成する原子,分子,イオンの熱運動の結果,それらが放射する電磁波がドップラー効果のため静 止波長を中心にして広がりを持つが,それをドップラー広がりという.それは電磁波を発する原子,分子,イオン(これを発光粒子と呼ぶ)の 熱運動を反映するもので,スペクトル形状はガウス分布になり,その幅の測定値から温度を求めることができる. 一般に,発光粒子のスペクトル幅は種々のものの合成で決まる.代表的なものは,ドップラー広がり以外に,緩和による幅(発光粒子の上位 エネルギー準位の寿命をτとすると1/2πτのローレンツ幅となる.自然放出の自然幅,圧力が高い場合の圧力幅がある),シュタルク幅(電界 中の発光粒子が受けるエネルギー準位の分裂やシフトの結果生ずる),ゼーマン幅(磁界中の発光粒子が受けるエネルギー準位の分離の結果生 ずる)がある.さらに観測装置の分解能により決まる装置幅がこれら発光粒子のスペクトル広がりと比して無視できないときは,それも広がり に寄与する.高温プラズマからの放射スペクトルはドップラー広がりと装置幅が支配的なことが多い. ドップラー効果は発光現象のみではなく,電磁波の散乱や吸収でも現われる.よく知られているのは,レーザーのプラズマからのトムソン散 乱計測において,ドップラー広がりから電子やイオンの温度を求める方法である. ドップラー拡がり 掲載号 74-8 277 Doppler Broadening プラズマ・核融合学会用語解説 広くは断層撮像を意味するが,特に,像の線積分値(ときには面積分値)である投影から計算によって像を再構成するのを計算機トモグラ フィ(computerizedまたはcomputed tomography, 略してCT)という.CTは数学的には逆ラドン変換として定式化される. 医用CTが有名であるが,逆ラドン変換について言うと実はその最初の成功が'50年代に電波望遠鏡による太陽撮像においてなされ,また,医 用CTがようやく実用化された'70年代前半には太陽コロナの三次元CTがなされたことを,科学史として強調しなくてはならない. 実験室プラズマのCTも'60年代から基礎研究がなされたが,プラズマのダイナミックスを撮像できるほど高速なCTは'80年頃になって実現し た.特に,トロイダルプラズマの閉じ込め性能を支配するMHD振動について軟X線の放射型CTが著しい成功をおさめ,また,レーザ爆縮プラズ マの様子を画像化する超高速の三次元CTが実現した.核融合研究がらみの先端的な技術開発のひとつである.今日ではJETにおける中性子放射 強度分布の撮像をはじめとして,制御核融合をめざす大型装置において欠かせない計測法になった観がある. なお,逆ラドン変換を必要としない,電子サイクロトロン放射を利用した電子温度分布の断層撮像法もある.また,最近の話題として電離 層・オーロラのCTがあり,その進展が注目される. トモグラフィ 掲載号 74-2 259 Tomography プラズマ・核融合学会用語解説 ある場所にトリチウムがどれだけ存在するかを直接的,間接的に測定評価し,トリチウム(量)の管理に反映させること.核融合炉やトリチ ウム取り扱い施設におけるトリチウムインベントリの正確な評価は,トリチウム安全性,および核拡散上の規制物質としての性格も有するトリ チウムの管理の2点において重要となる.前者の観点では,事故時のトリチウム放出につながる潜在的ソースタームとして考えられるばかりで はなく,サイトや施設,機器等においてトリチウム量の制限値が存在するような場合に,その評価は重要である.後者は,今後,より大量のト リチウム取り扱いを行う場合に,より重要性が増すものである.現在トリチウムはウランやプルトニウムのように保障措置の対象となっていな いが,将来はなんらかの規制対象になることが十分に予想される. トリチウム計量の方法としては,PVT法,カロリーメータ法,放射能測定法,濃度測定法,脱着法などがある.配管表面に付着したトリチウ ムや,内部に溶解したトリチウム量をいかに正確に測定するかが今後の課題となる.また,計量管理においては,マスバランスエリアの取り方 と,計量誤差の評価が大切であり,そのための統計的取り扱い法の開発も望まれる. トリチウム計量管理 掲載号 71-10 173 Tritiun Accountancy プラズマ・核融合学会用語解説 トリチウムは多重格納の概念に基づいて,安全に取り扱われる.その格納系内にトリチウムが透過・漏洩した場合には,速やかに検出し,格 納系を隔離し,トリチウム汚染区域のガスを閉ループで循環処理(格納系は負圧維持)し,トリチウムを除去する.このような設備をトリチウ ム除去設備という.一般的に多くのトリチウム取り扱い施設で使用されているのは,貴金属(Pt,Rh等)触媒によりトリチウムを酸化,トリチ ウム水を吸着剤(モレキュラシーブ)で捕集するものである. トリチウム除去設備 掲載号 73別冊 321 Tritium Removal System プラズマ・核融合学会用語解説 トリチウムは常温常庄で気体,かつ材料を透過しやすい水素の放射性同位体である.D-T核融合炉では一日あたり数十kg(数億キュリー,1 キュリー = 3.7 × 1010Bq)のトリチウムが取り扱われる.したがって,その安全取り扱い技術の確立が核融合炉開発の必要不可欠の条件であ る.炉システム内でトリチウムは様々な化学形,濃度および状態(プラズマ,気体,液体,或は固体)で分散する.このような状況下で核融合 炉を定常運転するためには,その生産はもとより貯蔵,供給,濃縮/分離,回収などが安全かつ容易に行えなければならない.そのためには, 計測/モニタリング,除去/除染,廃棄物処理技術の確立並びに材料相互作用等に関するデータベースの構築も不可欠である.「トリチウム取 り扱い」とはこのような生産,使用,回収,廃薬物処理および環境保全に至るまでの一連の作業をさす. 核融合炉でのトリチウムの取り扱いは,その量および濃度のみならずシステムの規模および複雑さなどにおいて従来の一般利用をはるかに越 えるものであり,当然社会的監視も厳しくなる.したがって,従来技術の改良・改善とともにイノベーションをはかり,社会に受容され得る信 頼性並びに経済性を有する技術の開発と学問体系の確立が求められる. トリチウム取り扱い 掲載号 70-2 116 Tritium Handling プラズマ・核融合学会用語解説 測定の目的,トリチウムの濃度およびその物理的・化学的状態等によって適用できる分析・測定法は異なる.ここでは特に,無担体に近い高 濃度域の元素状トリチウムを対象とした主な分析・測定法を示す.元素状トリチウムを含む混合気体の組成分析法としては,分子の振動数ある いは質量の相違等を利用したレーザーラマン分光法および質量分析法等があげられる.前者は非接触で測定可能であり,後者は測定感度が高い 点に特長がある. 一方,トリチウム量の測定法としては,基本的な容量法の外に,1)熱量測定法,2)無機シンチレータ法,3)小容積電離箱法,および,4) β線誘起X線計測法等があげられる.1)はβ線の熱エネルギー変換を利用したもので,絶対量測定法の一つであるが,長時間測定が必要であ る.2)および3)はβ線の蛍光作用およびイオン化作用を利用したものであり,何れも実時間測定に適した測定法である.ただし,後者の方法 は全圧および不純物の影響を受けやすいので注意を要する.4)はβ線と材料との相互作用によって発生する特性X線及び制動X線を利用するも のであり,有望な非接触測定法の一つである.本法は4kbq/cm3 程度の低濃度域から無担体領域までの広範囲の濃度測定に利用可能である. トリチウム分析法 掲載号 71-10 174 Methods of Tritium Measurement プラズマ・核融合学会用語解説 磁場中プラズマで磁場に垂直方向に粒子密度の勾配があると,磁場と密度勾配との双方に垂直方向に勾配の大きさに比例する速度vd(ドリフ ト速度)の電子の流れ,すなわちドリフトが生ずる.このドリフトと結びついて発生する波がドリフト波であり,その微視的不安定性(波の成 長)をドリフト不安定性という.磁場により閉じ込められた有限の大きさのプラズマ中には必ず密度勾配があり,それが必然的にドリフト不安 定性を伴うので,その安定化は重要である.ドリフト波の現象はドリフト振動数ω*=kvd(kはドリフト方向の波の波数)により特徴づけられ る.単純な型のドリフト不安定性は磁場のねじれ(シア)などで比較的容易に安定化される.しかし,この不安定性はω*がイオンのサイクロ トロン振動数の整数倍に近くなるとイオンサイクロトロン波と結合してドリフトサイクロトロン不安定性を引き起こし,さらにそれがミラー型 装置では粒子速度のロスコーン分布と結合してDCLC不安定性を起こしたりするなど,多種多様な不安定性を生み出して,その抑制は長い間, 核融合研究の最も重要な研究課題の一つであった. ドリフト不安定性 掲載号 73-3 225 Drift Instability プラズマ・核融合学会用語解説 D-D反応 D+D → T+p D+D → 3He+n で生まれる三重水素Tと3He粒子が,再び重水素と反応し, D+T → 4He+n D+3He → 4He+p となる反応を二次反応という.二次反応は重水素の密度が大きいほど,またその重水素燃料の大きさが大きいほど,起きやすくなる.この性質 を利用すると重水素燃料の面密度(密度×半径)を測定することができる. 一次反応でできる粒子(T,3He)が燃料中で止まってしまうほど燃料の面密度が大きくなると,それ以上面密度が大きくなっても二次反応 は増加しなくなり,もはや面密度の測定手段とはならなくなってしまう.そこで注目されているのが三次反応である. D-T反応(一次過程) D+T → 4He+n で生成される中性子は,ビリヤードの玉のように燃料粒子をはじき飛ばす(二次過程).はじかれた燃料粒子がもともとの燃料粒子とD-T反応 を起こす(三次過程).これを三次反応と呼んでいる.二次反応の場合と異なり,三次反応では中性子が途中で止まってしまうことはないので 「これ以上の面密度は測定不可能」という制限はないが,多重過程であるから反応の絶対数が少なく,測定が困難である. 二次・三次核反応 掲載号 68別冊 071 Secondary, Thetiary Nuclear Reactions プラズマ・核融合学会用語解説 一次粒子が固体に入射した結果として,その表面から電子が放出される現象のことである.一次粒子としては電子,イオン,中性粒子などが ある.電子の励起に費やされるエネルギーが粒子の運動エネルギーから来るものを運動放出(kinetic emission),イオンや励起状態にある粒子の もつポテンシャルエネルギーから来るものをポテンシャル放出(potential emission)といい区別する.一次粒子が電子の場合,後方散乱されて出 てくる一次電子と区別するため,50 eV 以下のエネルギーをもつものを真の二次電子という. 磁場閉じ込め核融合装置において,対向壁への周辺プラズマ粒子の衝撃によって起こる二次電子放出は,対向壁前面のシース電位形成過程を 介して,壁材料のスパッタリングによる不純物発生と関係する.入射粒子1個あたり放出された二次電子の平均的な数を,二次電子放出比 (secondary electron yield,二次電子放出係数あるいは利得ともいう)として定義し,二次電子のエネルギー分布や放出方向分布とともに応用上 重要である. 二次電子放出 掲載号 69-6 096 Secondary Electron Emission プラズマ・核融合学会用語解説 核融合炉において,D-TあるいはD-D核融合反応により,中性子が発生した場合に,この中性子が原因となって核融合炉を構成する機器の中で (その構成原子核と様々な核反応を起こした結果)生ずる発熱を,「ニュークリアヒーティング」(核発熱)という.D-T核融合反応において は,中性子が反応熱の80%を運動エネルギーとして持ち去り,核発熱に変換される.核発熱の大部分は,核融合プラズマを取り囲むトリチウム 増殖ブランケット中で発生し,その熱を冷却媒体により蒸気発生器へ伝達し,発電に利用する.ブランケットの使用材料の選び方により,中性 子がブランケットの構成核と起こす核反応の中での発熱反応の割合を高めて,最大で30%程度発熱量を増大させることができる.他方,極低温 に維持すべき超伝導磁石内での核発熱は,冷凍負荷を増大させる厄介ものとなる. ニュークリアヒーティング:核発熱 掲載号 70-11 142 Nuclear Heating プラズマ・核融合学会用語解説 タンデムミラー装置においてはロスコーンによる直線プラズマの端部における粒子損失をなくすため,イオン温度の数倍の閉じ込め電位を形 成させる.プラグ部の電子温度をイオン温度より高くするのが有効である.このため中央ミラー部とプラグ部の領域の間に電位の谷を作って, 両側の電子の大部分を空間的に分離しようとするプラズマの配位を熱障壁と呼ぶ. 熱障壁形成法の基本は,ミラー磁場中を往復運動するピッチ角のそろったイオンの転回点でピークした密度分布と電子加熱を組み合わせたも のである.密度の谷に発生する電位の谷を更に深くするために磁気補捉の高温電子の密度比を高くとり,衝突等を介して蓄積するイオンを排除 するのが有効と考えられる.実験的には,強力なプラグ部電子加熱により速度分布関数を著しく変形させると,ボルツマン則から予想されるよ り遥かに深い電位のへこみと高いプラグ電位が観測されている.電位形成の高効率化の観点からも興味深い問題を提供している. 熱障璧 掲載号 68-6 046 Themal Barrier プラズマ・核融合学会用語解説 鋸歯状振動とは,トカマクプラズマ内部において,ぽぽ周期的に圧力分布の緩和と自己修復が反復する現象である.プラズマ中心部のX線放 射強度などが,緩やかな増加と急峻な減少を繰り返し,信号波形が鋸の歯のように見えるのでこの名前が付いている.この理論的解釈として, q =1 面に共鳴するMHD抵抗性モードによる磁場再結合でポロイダル磁場の緩和が起きるとしたKadomtsevモデルが有力であった.しかし,トカ マク装置が大型化するにつれて,1)数 keV以上の高温プラズマにおいても,成長時間が 100 s 以下であり,抵抗性磁場再結合では説明できない こと,2)ボロイダル磁場計測によると,磁気軸上の安全係数が1以下の場合が多く,鋸歯状振動に伴う変動が小さいこと等の矛盾点が明らかに なってきた.そこで新しい理論モデルとして,無衝突磁場再結合の非線形成長や,統計的磁場によるプラズマ輸送の急激な増大などが提案され ている.前兆振動を伴わなかったり,部分崩壊を挿んだりする多様な鋸歯状振動を,電流分布計測と矛盾なく統一的に説明できるかが,理論的 解明のポイントである. 鋸歯状振動 掲載号 71-2 150 Sawtooth Oscillations プラズマ・核融合学会用語解説 原子・分子を吸着した固体表面の温度を上げると,表面との結合の弱い分子種から強いものへと順次脱離して,分圧(または濃度)のピーク を生じ,温度についての脱離分子種のスペクトルが得られる.この研究手法または現象を昇温脱離(thermal desorpdon,TD),または熱脱離と いう.ただし,熱脱離と言う表現は,非熱脱離,すなわち,高速粒子,電子,光子の照射などによって誘起される脱離と対立する概念としても 用いられる. 単一分子の昇温脱離の解析方法としては,脱離気体の圧力が十分低く再吸着の寄与が無視でき,また排気速度が十分大きいと仮定して,物質 収支の式をたてると,結局ピーク極大温度TP,昇温速度β,活性化エネルギーEdなどの間に以下の式が成立する. ただし,R:気体定数,νD :頻度因子,n :反応次数,θP :ピーク極大での残存覆率である.したがって,TP はβ,θP,n に依存する. 黒鉛に水素イオンを打込んだ試料の昇温脱離においては,少なくとも3種の水素分子ピークが観測されるのに対し,炭化水素ピークの方は, 化学種が異なってもほぼTP が一致する観測結果が得られており,これより各炭化水素の生成脱離反応の律速過程は同一であろうと推定されて いる. 式(1):048eq.gif 熱脱離 掲載号 68-6 048 Themal Dsoerption プラズマ・核融合学会用語解説 核融合プラズマのエネルギー的な釣り合いを表すローソン条件や自己点火条件は、横軸をプラズマ温度,縦軸をプラズマ密度×閉じ込め時間 にとった座標空間で閉じた曲線で示される(通常は下半面のみが示されている).この閉曲線の内側は核融合反応生成物によるプラズマ加熱が プラズマからの熱損失及び輻射損失より大きく,閉曲線の外側はその逆である.エネルギーを取り出すためには,プラズマ閉じ込め装置特有の エネルギー閉じ込め則とプラズマ密度の積を温度の関数として同じ座標空間に描いて交点を持つ必要があり,その2個の交点が核燃焼プラズマ の動作点となる.これらの動作点のうち,低温側の動作点でプラズマ温度が上昇すればプラズマ加熱が損失を上回るために正のフィードバック がかかることになり閉じ込め則曲線に沿って高温側の動作点に移動する.逆に動作点から温度が下降すれば核燃焼が止まってしまう.このよう に低温側の動作点は「熱不安定」にあるという.一方,高温側の動作点は以上の意味で負のフィードバックがかかるために安定であり温度の変 動に対して元の動作温度に戻る. 図:231.gif 熱不安定性 掲載号 73-5 231 Thermal Instability プラズマ・核融合学会用語解説 電子と原子・分子・イオンの温度がほぼ平衡状態にある熱プラズマは,比較的高圧下における電極間のアーク放電,または高周波放電による 方式で生成される.このプラズマは,それが有する高い温度と熱量を利用する分野,たとえば,材料の溶解・精錬,溶接・溶断,表面被覆並び に超微粒子・化合物の 創製等の分野に広く適用され,各種プラズマ発生トーチが開発されている. (1)直流アークプラズマトーチ タングステン陰電極と水冷鋼ノズル間でアーク熱により電離された高温・高連のプラズマ流を熱源とする.この方式では,高温プラズマ域が 狭い欠点を有する. (2)高周波プラズマトーチ 誘導結合壁高周波放電により発生したプラズマ流を熱源とする.低流速プラズマ流であるが,大気中でも広範囲な高温プラズマ域並びに電極 の溶損による材料の汚染がない長所を有する. (3)ハイプリッドプラズマトーチ 上記二方式の欠点をそれぞれの長所で補うため両者を重畳させた複合プラズマ流を熱源とした新しい方式で,その適用分野の拡張が期待され ている. 熱プラズマ 掲載号 68-5 045 Thermal Plasma プラズマ・核融合学会用語解説 レーザー核融合で、ターゲット加速を駆動するアブレーション圧力や質量噴出率の空間的不均一が,レーザー光やX線の照射不均一から評価 される値よりも緩和される現象を言う.レーザー照射の場合,遮断密度面(固体密度の1/100程度)とアブレーション面との間(デフラグレー ション領域)の距離(stand-off distance, Ds)はかなり大きくなる.このデフラグレーション領域におけるエネルギー輸送の過程で,遮断密度面 での吸収エネルギーの空間的不均一(波数 k )は横方向(レーザー光軸と垂直方向)熱伝導により緩和される.この現象を熱平滑化と呼ぶ. 一般的には平滑化係数はΓ=exp(‐αkDs)で評価され,波数を球ターゲット(半径R)上でのルジャンドルモード数lで置き換えると,Γ= exp(‐αlDs/R)となる.Ds/R≒数%であるために高次の不均一モードにしかこの平滑北は有効でないが,高次モードは流体力学的不安定 性の成長率が高いので,熱平滑化はレーザー核融合にとって重要な現象となっている.α(≧1)の値はレーザー照射一様性への要求に直接響 くので重要であり,現在実験および理論・シミュレーションによりαの評価が行われつつある.また,遮断密度近傍では電子の平均自由行程が 長いために,遮断密度面の温度分布自身が時間とともに均されていく現象が二次元シミュレーションで観測されている.これも広い意味での熱 平滑化に含まれるが,熱伝導による平滑化とは独立に考える必要がある. 熱平滑化 掲載号 68別冊 060 Themal Smoothing プラズマ・核融合学会用語解説 高速中性子や重イオンなどの高エネルギー粒子が固体物質に入射した場合,固体中の原子の受け取ったエネルギーがあるしきいエネルギーよ り大きいと,その原子は格子位置からはじき出される.入射粒子と直接衝突した原子を一次はじき出し原子(PKA:Primary Knock-on Atom)と 呼ぶ.PKAのエネルギーがしきいエネルギー(はじき出しエネルギーと呼ばれ,結晶方位依存性を持つ)に比べて十分に大きい場合,原子は 次々とはじき出されてゆく.このはじき出しの連鎖をカスケードと呼んでいる.はじき出しエネルギーは数 10 eV 程度であるのに対して,14 MeV 中性子によるPKAエネルギースペクトルは数100 keV 以上にも及んでいる.カスケード中では高密度の欠陥が生成し,自由な点欠陥の生成 率は,PKAのエネルギーに依存する.これに対して MeV 程度の電子照射の場合,物質中には単純な格子間原子と空孔の対(フレンケル対)が 形成されるのみである.はじき出し損傷はミクロ組織を変化させ,材料の物理的,機械的,化学的性質を変化させる.なお,セラミック材料で は,電子励起が原子のはじき出しを引き起こす場合がある. はじき出し 掲載号 67-6 030 Displacement プラズマ・核融合学会用語解説 トカマクにおいて磁場の弱いトーラス外側部に捕捉される粒子の案内中心軌道を,その形の視覚的特徴からバナナ軌道という.トカマク中の 荷電粒子は,軸対称性を仮定すると,通過粒子と捕捉粒子に分類される.通過粒子は磁力線に対するピッチ v///v が大きく,トーラスを自由に 周回する.これに対して v///v の小さい粒子は,ミラー効果によって磁場の弱いトーラス外側に捕捉される.捕捉粒子は,トロイダルドリフト のため反射前の磁力線に戻らず,子午面への投影がバナナのような軌跡を描く.捕捉粒子の磁気面からの変位(バナナ幅)は,通過粒子の変位 (~ラーモア半径/回転変換)よりアスペクト比の1/2乗のファクタ程度大きい. 捕捉粒子は通過粒子とは異なった変位と時間スケールをもち,空間およぴ速度空間に偏って分布しているので,トカマクの輸送・加熱・安定 性などに多彩な役割を演じる.例えば輸送係数が無衝突領域で古典値に比べ増大する現象は,新古典理論におけるバナナ拡散として知られてい る.また密度勾配があると,バナナ粒子群のトロイダル方向の平均的流れが残り,ブートストラップ電流が生じる.バナナ幅がプラズマ径を凌 ぐ高速イオンやα粒子は速度空間にロスコーンを形成すること等も,その役割の基本例である. バナナ軌道 掲載号 69-7 098 Banana Orbit プラズマ・核融合学会用語解説 オゾン生成や新しい紫外光源として近年注目されているエキシマランプなどに用いられている放電形式である.これはまた,無声放電(Silent Discharge)またはオゾナイザ放電(Ozonizer Discharge)とも呼ばれている.本放電では,電極の一方または両方がガラスなどの誘電体で覆われ た状態で交流高電圧が印加される.電極間に高電圧が印加されると,誘電体表面に電荷が蓄積し,これによって局部電界が生じる.この局部電 界と外部電界が等しくなったところで放電が自動的に停止する.このため,この放電形式では放電の不安定すなわちアーキングにまで放電が進 展しないのが特徴である.動作圧力は通常大気圧以上で,主に酸素,空気,キセノンなどの希ガスおよびKrFなどの希ガスハライド系ガス中で の放電である.放電は短時間で発生と消滅を繰り返す多数の微細なパルス放電が観測される.個々のパルス放電を微小放電(Micro-Discharge) と呼ぶ.大気圧酸素中で生じる微小放電中の代表的なパラメータとして以下の値が与えられている.放電柱の半径は約100μm,電流パルス幅は 約 2 ns ,放電電荷量は約10^-10 C,電流密度は約103 A/cm2,電子密度は約1014 cm-3,エネルギー密度は約10-2 J/cm3,換算電界は(1~2)×10-15 V・cm2および平均電子エネルギーは約5 eVである. バリア放電 掲載号 74-9 280 Barrier Discharge プラズマ・核融合学会用語解説 磁気シアを持つトーラスプラズマにおいて,圧力駆動型不安定性を解析するのに用いられるMHD方程式.主に高モード数バルーニング不安定 性の解析に用いられる. 磁力線に垂直な波数が磁力線方向の波数より十分大きな高モード数フルート型摂動を仮定すると,微小パラメータεを導入してスケール分離 が可能となり,WKB解析を利用できる.WKB解析において,アイコナルは磁力線に垂直な速い動きを,エンベロープξは磁力線方向の構造を 示す.このWKB近似におけるアイコナール表示をMHD方程式に適用して得られるのがバルーニング方程式である.ξに対する磁力線に沿った2 階の常微分方程式で表される.バルーニング方程式において,アイコナルはポロイダル方向の周期性を満足せず,無限領域を定義域とする “covering space”でのみwell definedである.そのため,解も周期境界条件を満足せず,quasi-modeと呼ばれる.周期性を満たす物理的な解は quasi-modeから変換して得られ,その変換をバルーニング変換,その表式もしくはこの技法のことをバルーニング表示と呼ぶ.磁力線垂直方向 の波数ベクトルには選択の任意性があり,そのため,バルーニング方程式から求められる固有値(成長率)はその任意性を表すパラメータを含 んでいる. 磁力線垂直方向における物理的な解のエンベロープや上述のパラメータの空間構造は,WKB近似のより高次のオーダの巨視的理論から求めら れ,それにより,任意パラメータを含まない物理的固有値も確定される.通常は,バルーニング方程式を用いて安定性判別のみ行うことが多 い.特に,バルーニング方程式を解いて得られた,トカマクプラズマにおけるs一αダイアグラムは第二安定領域の研究に関連して有名であ る. バルーニング方程式 掲載号 70-9 135 Balloning Equation プラズマ・核融合学会用語解説 トカマクでは,ディスラプション時の電流消滅(電流クエンチ)過程において,プラズマの上下または内側への移動を伴った~10 msオーダ の急速なプラズマ電流の減少が生じる.この時同時にプラズマから真空容器に流入する電流が観測される.この電流は磁力線が閉じていないス クレイプオフ層に流れていると考えられている.スクレイプオフ層の幅は,電流クエンチ時に通常の数 cmから数10 cmと広がる.この電流の流 れる領域のボロイダル断面の形状が,丁度おぼろ月にかかるかさ(ha1o)に似ていることからその名がついている.ディスラプション時にプラ ズマに加わる電磁力のバランスを考慮する際には,この電流のポロイダル成分に着目して,ボロイダル電流と呼ばれることもある.ハロー電流 の駆動力の候補としては,電流クエンチ時にプラズマ内部のトロイダルおよびボロイダル磁束が減少し,この磁束変化に逆らって磁束を保存す る向きの電場が最外殻磁気面の外側に形成されるという機構が提案されている. 観測されたハロー電流は,プラズマ電流の20~40%にも達し, その結果生じる電磁力は相互誘導で真空容器に誘起されるトロイダル渦電流によるものと同等かそれ以上と見積もられている.また,電磁力が ボロイダル方向に局所的に加わるため,ITER等の次期トカマクの設計上大きな問題となっている.詳細な特性評価と低減方法の確立が今後の課 題である. ハロー電流 掲載号 71-5 159 Halo Carrent プラズマ・核融合学会用語解説 電磁石コイルの巻き線形態を示す言葉.この巻き方のコイルでは,ホットケーキのように平板状のコイル形状となる.核融合装置のコイルで は,大きな空間に強力な磁場を発生させる必要性から,一般の電気機械と比べ大電流導体を用いる.またコイル断面中での導体の空間占有率を 向上させるため,一般的に矩形断面の導体を用いることが多い.ある形状(例えば円形,D形など)のコイルをこの方式で製作する場合,導体 を内径側より外径側に順次巻線する.したがって磁場の発生方向(コイルの軸)とは直行する平面内に導体が積み上げられていく.一本の導体 線条を端から単純に内径側より巻線したもの(したがって導体は一層に配列)をシングルパンケーキ,一本の導体線条の中間部を内径にして双 方向に巻線したもの(したがって導体は二層に配列)をダブルパンケーキと呼ぷ.ダブルパンケーキコイルは口出し部(電流,冷媒等の導入 部)がコイルの外周部に出るので電源等との近接性がよく,また磁場発生を期待している内径側の空間を阻害することが少ない特徴を持つ.一 般的には,必要とする起磁力を確保するためこれを積層して,一つのコイルを構成することが多い. パンケーキ型コイル 掲載号 72-4 191 Pancake Coil プラズマ・核融合学会用語解説 プラズマ中の荷電粒子は,元の磁場と逆向きの磁場を生ずるようにラーモア回転する.したがって,微視的にみると,プラズマは磁場を減少 させる反磁性体の性質を持つ.しか し,巨視的には逆の常磁性的振る舞いを示すこともある.z方向の外部磁場中において,z方向の電流成分を 持つ圧カP,半径aの円柱プラズマを考えると,動径方向の圧力バランスは以下の式(1)で与えられる. ここで,バー(本文中は<>)は体積平均を表し,Bθはプラズマ電流によって作られる磁場のθ成分を表す.この式から,プラズマ内外の磁 場のz成分,
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