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菅総理はワクチン接種が、目標の「1日100万回を超えた」と豪語する。もっとも、80万回程度ではないか、と疑問視する声もあるが、1日80万回を続けられれば、五輪までには全国民の3割弱への接種が完了し、高齢者の多くが接種を終えることになる。 【写真3枚】この記事の写真を見る
続けて、全国民への接種を「11月までに完了」という約束も、菅総理には守ってほしいが、本当に安心できるようになるには、治療薬の充実が欠かせない。 そこにひとつ、朗報が届いた。厚生労働省が製薬4社7品目に対して、新型コロナ用の治療薬を開発するために、国内での臨床試験の費用などを補助すると決めたのである。厚労省健康局結核感染症課の担当者が説明する。 「この“新型コロナウイルス感染症治療薬の実用化のための支援事業”は、今年3月に公募したもので、各製薬会社から治験業者への委託費用や、薬事申請のための書類作成等にかかる費用を補助します。各製薬会社が提出した希望額の試算をもとに、交付基準額を決定し、4社合わせて20億円程度が支払われることになりました。応募があった10件につき、学術的な観点から見て製品化される見込みがどの程度あるか、当該製薬会社に、その治療薬を事業として供給する能力があるか、といった点から評価委員会が評価し、7件が採択されました」 では、実用化に向けたスケジュールはどうか。 「令和3年度末(2022年3月)の事業終了から半年以内で、薬事申請を目指すことが条件です。万が一、それができなければ、交付したお金を返還していただきます。現在、多くの製薬会社が治療薬の開発を進めていますが、日本で薬事申請をしていただかなければ、国内で流通しません。治療薬として使える薬を日本国内に早期に供給する、というのがこの事業の趣旨。経口で服用でき軽症者の重症化を防げる薬など、有効性が証明された選択肢が増えるのはいいことなので、しっかりと後押ししたいと考えています」 副反応を恐れて慎重になりすぎ、認可を渋って助かる人も助からなくなる、という厚労省の悪弊が、少しでも解消されるなら、歓迎すべきだろう。 ところで、事業の対象になった7品目のうち、小野薬品のカモスタットの開発中止が、6月11日に発表された。厚労省の担当者は、 「ほかにも採択されながら、開発に行き詰っている製薬会社がある、という話も入ってきています」 と話すが、取材に自信満々に応じてくれた製薬会社のものは、おそらく大丈夫ではなかろうか。そのひとつ、英グラクソ・スミスクライン(GSK)の日本法人の広報担当によると、 「厚労省の支援対象となったのは、ソトロビマブとオチリマブ。ともに静脈注射型のモノクローナル抗体医薬品です。ソトロビマブは米ヴィア・バイオテクノロジー社との共同開発で、軽症から中等症で重症化リスクが高い患者の入院または死亡リスクを、85%低減して重症化を防ぐ、とのデータが出ています。医療機関の負担を軽減させるためにも、重症化を防ぐ薬の意義は深いと考えます。イン・ビトロ(試験管内の)試験では、変異株にも効果を示すという結果が出ています。米国での緊急使用に加え、5月21日にはEUが承認勧告し、現在、EU加盟各国で承認に向けたプロセスが進行中です」 片や、オチリマブは、 「関節リウマチの治療薬として開発していた医薬品で、現在はCOVID-19重症患者の、呼吸不全を低減できる治療薬として開発が進んでいます。特に70歳以上で、かつ肺疾患等のリスクを抱えた重症患者の、さらなる重症化防止という有益性に着目し、現在、日本でも、第III相臨床試験を行っています」 気になる日本での実用化は、厚労省の定めた今年度末から半年以内の薬事申請、という条件が守られるのは当然として、特にアメリカで承認されているソトロビマブは、一刻も早い特例承認が望まれる。
軽症者向け治療薬への期待
続いて、中外製薬広報IR部の話である。 「支援を受ける薬は2品目。一つ目は抗体カクテル療法とよばれ、カシリビマブとイムデビマブという二つのウイルス中和抗体を注射で投与する医薬品で、米リジェネロン社が創製し、私どもの戦略提携先のロシュ社が導入しました。すでにアメリカでは緊急使用許可を取得しています。この薬は最後の第III相臨床試験の結果が出ていて、一つには、新型コロナウイルス感染者に投与することで、入院または死亡リスクを70%、および71%低下させました。入院していない段階の患者さんが重症化するリスクが7割減少したわけです。二つ目は、予防のための臨床試験で、過去4日以内に陽性だと判定された人と同居し、まだ感染していない人に投与したところ、発症リスクが81%減少しました」 この薬の今後は、 「抗体カクテル療法は海外で開発が先行し、日本からは第III相臨床試験に参加していません。そこで、日本では3月から第I相臨床試験を開始しており、問題がなければ、21年中に承認申請する予定です」 とのことだが、中外製薬ももう1品目、支援の対象になっている。 「まだ名称がない、AT-527と呼ばれる軽症から中等症向け経口薬です。米アテア社が創製、ロシュ社が共同で開発し、最終臨床試験は始まっていますが、まだ結果が出ていません」 これまでに数多くのコロナ患者を診てきた、東京歯科大学市川総合病院の寺嶋毅教授は、 「現在、日本で新型コロナ治療薬として承認されている薬は、レムデシビル、デキサメタゾン、バリシチニブの三つで、中等症から重症で入院している患者さんに用います。レムデシビルは中等症以上で使い、デキサメタゾンは、酸素治療が必要になった患者の死亡率改善が認められている。バリシチニブもレムデシビルとの併用で、症状回復までの期間を短縮させ、酸素治療が必要になってからの段階で一番効いています」 こう説明したうえで、今後必要とされる治療薬について、期待を述べる。 「新型コロナの場合、一番多いのは軽症の患者さんで、重症になると患者さんの予後にかかわり、医療機関にも負担がかかる。軽症の方が軽症のまま治れば、感染者数は同じでも、医療機関への負担は軽減します。その点で、いま求められる治療薬は、軽症の方に投与して入院せずにすむ薬や、濃厚接触者やクラスター追跡で見つかった、症状が出ていない感染者の症状が出ないようにする薬です」 GSKのソトロビマブや、中外製薬の抗体カクテル療法の特徴と、見事に重なるのである。あらためて厚労省には、一刻も早い特例承認を求めたい。
経口薬がほしい
また、寺嶋教授は軽症者に投与する薬について、 「早い段階で簡単に使用できるように、経口薬がいい。現状、入院しないと治療に取りかかれず、施設療養や自宅療養時に、重症化しないようにとじっと待つのは、患者さんには心細い」 と語る。中外製薬のAT-527の開発が順調に進むことを念じないではいられない。寺嶋教授が続ける。 「変異株の観点からも治療薬は大事。ワクチンはいまのところよい効果が出ていますが、ウイルスが変異すると効果が影響を受ける可能性があります。一方、治療薬は比較的、変異の影響を受けにくい。ウイルスが細胞に侵入する際にくっつく突起、すなわちSタンパクの変異は、ワクチンの効果に影響することがありますが、逆にSタンパクをターゲットにした治療薬でなければ、その変異が起きても同様の効果が得られます。それに新型コロナの各段階に効く薬があれば、さまざまに組み合わせられる。それができるのも治療薬の強みなので、ワクチンだけに頼るのではなく、治療薬との両輪作戦が必要です」 やはり多くのコロナ患者を治療してきた、浜松医療センター感染症管理特別顧問の矢野邦夫医師も言う。 「一番多い患者さんは、肺炎になりかかりくらいの人で、そういう人が肺炎にならないようにしたい。そのためにもウイルスが増殖する前に、できれば経口で投与でき、ウイルスの増殖を抑える薬がほしいです。インフルエンザには、ウイルスの増殖を抑える薬としてタミフルがありますが、そういう薬が新型コロナに対してもできてほしい。今回の厚労省の補助金は、そうした薬を開発する助けになるでしょう」 そして、こう加える。 「多くの人が新型コロナを怖がっていますが、タミフルのような薬が出てきてインフルエンザと近いと思えれば、普通の生活に戻りやすいと思います」 しかし、実は、すでに日本には、効果が期待できる軽症者向けの経口薬がある。本誌(「週刊新潮」)で何度か取り上げたイベルメクチンである。兵庫県尼崎市にある長尾クリニックの長尾和宏院長は、 「中等度II、すなわち酸素飽和度が93%以下の患者さんに、在宅酸素およびステロイドとともに“三種の神器”と称して処方しています。自宅療養中の症状の悪化を防ぐために、自宅療養が始まる時点でイベルメクチンを渡し、私が指示したタイミングで飲むように伝えます。1日1回、3~4錠を飲むだけなので、日付の感覚が失われている一人暮らしの認知症患者にも適しています」 と話す。ただしコロナ用には認可されていないので、長尾院長は自身で責任を負い、患者から口頭でインフォームド・コンセントを得て使用しているという。 厚労省の支援を得て治療薬の開発が順調に進み、一日も早く認可されることを強く望みたい。同時に、イベルメクチンのような日本発の既存薬の有効活用を希望せずにはいられない。 「週刊新潮」2021年6月24日号 掲載
新潮社
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