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半導体の進化に伴い、設計に用いるEDA(電子設計自動化)ツールの重要性が高まっている。EDAベンダーは台湾積体電路製造(TSMC)や米Intel(インテル)といったファウンドリー(受託製造)事業者と強く結び付き、米NVIDIA(エヌビディア)などの半導体設計会社にも強い影響力を持つ。ファウンドリーの集約が進み、製造で差が付きにくくなっている中、EDAツールをうまく使いこなすことが求められている。
2024年2月、インテルが米カリフォルニア州サンノゼで開催したファウンドリー事業のイベントは、先端半導体においてEDAツールが欠かせないものであることを雄弁に物語っていた(図1)。イベントでは、米OpenAI(オープンAI)最高経営責任者(CEO)のSam Altman(サム・アルトマン)氏が登壇したほか、米Microsoft(マイクロソフト)CEOのSatya Nadella(サティア・ナデラ)氏が動画でメッセージを寄せた。こうした著名企業と並んで、注目すべき協力企業として紹介されたのがEDAベンダー4社だった。
その4社とは、米Synopsys(シノプシス)と米Cadence Design Systems(ケイデンス・デザイン・システムズ)、米Siemens Digital Industries Software(シーメンス・デジタル・インダストリーズ・ソフトウエア)、米Ansys(アンシス)だ。インテルは、このイベントで2030年までにTSMCに次ぐ世界第2位のファウンドリー事業者を目指すと宣言した。その目標を達成するのに、EDAベンダー各社の協力は不可欠というわけだ。
EDAツールは、ICやプリント基板の設計を支援する。具体的には、機能を実現するための論理回路の設計や、回路のレイアウト検討などだ。トランジスタ数が10億個を超えるような現在の半導体は、EDAツールがなければ設計できない。先端プロセスの開発でTSMCや韓国Samsung Electronics(サムスン電子)に後れを取ったインテルとしては、EDAベンダーとの関係強化で自社ファウンドリー事業の製造ラインの利便性を高め、半導体設計会社に利用を促す狙いがある。
ファウンドリー事業者との関係深化
インテルのイベントに登場した4社は、業界でも特に大きな影響力を持つEDAベンダーだ。それは、TSMCの2nm世代プロセス「N2」で認証されたツールを見れば分かる。その提供元は、全く同じ4社なのである。
従来もファウンドリー事業者とEDAベンダーは連携していたが、両者の関係はますます深まっている。かつては、ファウンドリー事業者がプロセスを開発してから設計データを公開し、EDAベンダーはそれに基づいてツールを開発。ファウンドリー事業者がそのEDAツールを認証するという流れだった。半導体設計会社は、認証を受けたEDAツールを使って半導体を開発する。従って、プロセスの開発完了から半導体の設計開始までに時間差があった。
最近は、この流れが変化している。ファウンドリー事業者のプロセス開発完了に合わせて、ツールも認証されるようになった。つまり、プロセス開発が完了したら、半導体設計会社はすぐに設計を始められる。これが可能になったのは、ファウンドリー事業者とEDAベンダーがプロセス開発段階で密接に協業しているからだ(図2)。
ファウンドリー事業者は、製造工程の詳細や装置の設計といった情報をEDAベンダーに提供する。一方、EDAベンダーはファンドリー事業者に対してツールの情報を提供したり、設計を効率化するための新機能を提案したりする。ケイデンス日本法人(日本ケイデンス・デザイン・システムズ社)ディレクターの牧井徹氏によれば、こうした協業は16nm世代プロセスぐらいから始まったという。そして、その関係は微細化に伴ってどんどん深まっていた。
EDAベンダーは、半導体設計会社との協力体制も強化している。半導体設計会社とは、自社で工場を持たず設計に専念する、いわゆるファブレスメーカーを指す。海外ではエヌビディア、日本ではソシオネクストが代表的な企業だ。EDAベンダーとしては、半導体設計会社にツールを利用してもらうことで、ライセンス料の他に半導体設計のノウハウやトレンドといった情報も入手できる。なぜなら、EDAベンダーは単にツールを提供しているだけではなく、導入支援も手がけているからだ。また、ツールに対する要望も重要な情報源となる。
英Arm(アーム)のような、半導体のIP(回路情報)を手がける企業との関係も深い。アームは、自社IPの採用を促すために半導体設計の利便性を重視しており、EDAベンダー各社と長年にわたって協業している。
最近は、半導体のユーザーさえもEDAの重要性を認識し始めた。例えば、国内の自動車メーカーや自動車部品メーカー、半導体メーカーなど12社が車載SoC(システム・オン・チップ)の研究開発を目的に2023年12月に設立した「自動車用先端SoC技術研究組合(ASRA)」には、シノプシスとケイデンスの日本法人も名を連ねた(図3)。
ASRAはチップレットを活用したSoCを2030年までに量産車に搭載するという目標を掲げており、先進運転支援システム(ADAS)や自動運転への活用が期待される。トヨタ自動車をはじめ日本の名だたる自動車関連企業が肝煎りで始めたプロジェクトに、外資系のEDAベンダー2社も参加した形だ。2024年3月29日の記者会見でASRA専務理事の川原伸章氏(デンソー)は「半導体メーカーやEDAベンダーまで含めた共同研究体制で、車載向けチップレット技術を確立し、日本の自動車の競争力向上に貢献したい」と語った。
差異化のポイントは設計に
世界での注目度の高まりに反して、日本での存在感はまだ大きくない。日本シノプシス社長の河原井智之氏は「海外に比べて日本のEDA市場の成長は鈍い」と打ち明ける。2023年におけるシノプシスの地域別売上高の成長率を見てみると、米国や欧州、韓国は20%近く伸びたが、「日本は非常に厳しい状況」(同氏)だという。
現在の半導体は、米Apple(アップル)のように最終製品も含めて大きな影響力を持つ企業を除けば、製造で差異化することは難しい。ファウンドリー事業者の集約が進んでおり、どの企業も同じ工場や製造ラインで造ることになるからだ。つまり、差異化のポイントは設計にある。「海外企業はそのことに気づいている」(河原井氏)。日本が半導体産業で巻き返すには、EDAツールを駆使した設計が欠かせない。
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