アルジャーノンとは

・ アルジャーノンとは、ケミカルバイオロジー(化学生物学)を専門とする萩原正敏教授(京都大学)の研究グループが発見した、ダウン症の出生前治療を可能にすると期待される化合物。2017年9月5日、アルジャーノンの発見が京都大学によって発表され、多くの新聞紙上で報道された。ダウン症の子を妊娠したマウスにアルジャーノンを投与したところ、生まれたマウスの症状が改善したという。根本的な治療法が見つかっていなかったダウン症の出生前治療が可能となることに期待がかかるほか、化合物につけられたアルジャーノンという名称が注目されている。
・ インターネット上には、アルジャーノンという名前から、米国の作家ダニエル・キイスのSF小説『アルジャーノンに花束を』を連想する人が多く見られる。ハフポストは、『アルジャーノンに花束を』のあらすじを以下のようにまとめた。
小説は、知的障害のある男性・チャーリーが主人公の物語だ。
チャーリーは外科手術によって知能を上げる研究をしている教授らから、人体実験に誘われる。教授らは、ネズミのアルジャーノンを、天才にする手術に成功していた。
手術を受けて天才になったチャーリーは、複数の外国語を理解し、数学や物理学にも精通する。しかし、自分がモルモット扱いされていることに気が付き、ネズミのアルジャーノンを連れて教授らの元を逃げ出す。
ところが、しばらく経つとアルジャーノンに異常行動が増えるようになる。手術により上がった知能の向上は一時的なものと気がついたチャーリーは、「人為的に誘発された知能は、その増大量に比例する速度で低下する」との結論に達するのだった…。
・ 作中に登場する「アルジャーノン」は、手術によって知能が向上するものの、悲劇的な結末を迎える。このため、インターネット上では「新造豪華客船に『タイタニック』と名付けるようなもん」「あの小説を読んでたら『アルジャーノン』と命名するわけはない」などの意見が挙がっている。
・ アルジャーノン(ALGERNON)の正式名称は、「altered generation of neuron」(ニューロンの変化生成)。ITmediaが京都大学広報課に取材したところによると、アルジャーノンの名前はキイスの小説に由来しているのではなく、正式名称の頭文字をとって作られたのだという。

アルジャーノンの働き

・ 京都大学の発表によると、ダウン症とは染色体異常の一種で、知的障害や先天性心疾患などの合併症をともなう。およそ1,000人に1人の確率で発症し、妊婦は診断を受けることで胎児のダウン症の有無を知ることができるものの、根本的な治療法は確立されていない。
・ 人間の体細胞は46本の染色体を持っている。このうち、「21番染色体」の本来の数は2本であるが、突然変異によって3本になると、遺伝子が過剰に働き、ダウン症が発症する。また、21番染色体上には「DYRK1A」という遺伝子があり、ダウン症の人に過剰に発現する。さらに、ダウン症iPS細胞のなかでは神経幹細胞の増加量が少なく、神経幹細胞が供給する神経細胞数も少なくなるため、このことが脳機能の発達不全になる原因のひとつだと考えられている。
・ しかし、京都大学の研究グループによる実験において、アルジャーノンの使用が上記のようなダウン症の特徴に変化をもたらすことが確認できた。まず、アルジャーノンにはDYRK1Aの働きを抑制する性質があり、アルジャーノンをダウン症iPS細胞に加えると神経幹細胞が正常に増加したほか、マウスに投与しても神経幹細胞が増加した。さらに、ダウン症の子を妊娠したマウスにアルジャーノンを投与したところ、生まれたマウスの学習行動は、ダウン症でないマウスと同程度の水準だった。
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アルジャーノンの利点

・ アルジャーノンが実用化されるまでには多くの臨床試験が必要であるものの、ダウン症の症状を出生前の投薬で改善できる可能性が生まれたことは重要である。産経ニュースの報道によれば、ダウン症の有無を判別できる「新出生前診断」を受けた妊婦のうち、染色体異常が確定した人の94%が人工妊娠中絶を望んだ。アルジャーノンが実用化されれば、中絶せずに投薬でダウン症の症状を改善することが可能になると期待される。
・ また、アルジャーノンに神経幹細胞を増殖させる機能があると判明したことで、アルツハイマー病やパーキンソン病といったほかの病気の治療にも役立つ可能性が指摘された。今後、アルジャーノンを用いた薬の開発が期待されている。