日立製作所などが開発するインホイールモーター
日立製作所などが開発するインホイールモーター
システムの出力密度3kW/kgを目標とし、様々な新技術を盛り込む。2030年の実用化を目指す(写真:日経クロステック)
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 開発グループには、日立製作所のほか、Astemo(アステモ、旧:日立Astemo)、日立インダストリアルプロダクツ(東京・千代田)、大同特殊鋼、東北特殊鋼の5社が参加する。開発資金の一部に、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「グリーンイノベーション基金」を活用する。

 車輪の中に電動モーターを配置するインホイールモーターでは、従来の電気自動車(EV)で電動アクスルが専有していた空間を別の用途に利用できるようになる。例えば、車室空間の拡張や、搭載する電池の大型化による航続距離の延長が見込める。

 インホイールモーターのこうした利点は、自動運転技術と相性が良い。自動運転が普及した未来では、運転操作が減るので移動中の自由な時間が増える。移動中にどのような空間や体験を提供できるかが、今後の自動車の商品価値に直結する。Astemoで技術開発統括本部次世代モビリティ開発本部パワートレイン技術開発部ダイレクターを務める高橋暁史氏は、「移動体験を自由に演出するためには、広い車室空間の確保がますます重要になってくる」と語る。

 移動体験の向上のためには、車室空間の拡張だけでなく、乗り心地の改善も不可欠だ。インホイールモーターでは、四輪に搭載するモーターのトルクを個別に制御することでロールやピッチなどの車体の揺れを抑制することができる。Astemoによると、4輪を独立にトルク制御をすることで、トルク制御を使用しない場合と比較してロールの角速度を40%減少できるという。

インホイールモーターによる車体制御の説明
インホイールモーターによる車体制御の説明
前後のモータートルクを調整することで上下動を作り出す。左右の上下動の幅を変更することでロールを打ち消す方向に車両を動かす(出所:Astemo)
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 実際に、テストコースで試作車両を運転すると、その特徴を実感できた。試作車両は小型車両程度の大きさの車体だが、4人が乗車しても車内空間にはかなり余裕がある。約40km/hでカーブや車線変更などのステアリング操作をした際に、制御を使用しない場合と比較してロールの減少を実感できた。ロールやピッチは、完全に発生しないと運転に慣れている利用者にとっては逆に違和感の原因となる可能性もあるために、あえて残してあるという。

開発グループが作成した試作車
開発グループが作成した試作車
小型車程度の大きさだが足元の空間は広い。モーターのトルク管理モニターから走行中にトルクを独立制御していることが確認できた。試作車はインホイールモーターの他に次世代型操舵(そうだ)装置の「スマート・ステア・バイ・ワイヤ・システム(Smart SBWS)」の開発用途も兼ねる(写真:日経クロステック)
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