引用元URL:https://globe.asahi.com/feature/110515/04_2.html
[Part2] 日本でも広がる生薬栽培
形の悪いものや異物を素早く取り除く選別工程=2月22日、夕張ツムラ
北海道夕張市。もとはメロン畑が広がっていた約3万平方メートルの敷地に、昨年11月、漢方の生薬を加工・保管する工場が動き始めた。
建物の中では、契約社員の女性たちが黙々と手を動かしていた。ベルトコンベアーの上を流れる生薬を仕分けるのが仕事だ。
一つ手にとってにおってみると、土のにおいに混じって漢方独特の香りがした。
ツムラは、この工場を、北海道での原料調達の拠点に位置づけている。道内で栽培した生薬すべてを1次処理し、苫小牧港から茨城県内の拠点へと運ぶ。
「将来の漢方需要に応えるために、国内栽培も徐々に増やす」。夕張ツムラ社長の西村昌弘はこう話す。漢方生薬の国内自給率は12%。主産地の一つである北海道での収穫はセリ科の植物であるセンキュウが中心だ。
漢方では、根っこに血の循環を良くする効能があるとされる。発汗や解熱作用があるとされるハッカや、シソの葉であるソヨウなどもとれる。ツムラは機械化による大規模栽培化を進め、現在計300トンの収穫量を、2019年には約7倍の2000トンまで増やす計画だ。
小寺浩之氏撮影
そのためには契約農家の確保も必要になる。ツムラは収穫量ではなく栽培面積に応じて買い取り額を決める「面積保証」を採用。JA道央千歳薬草生産部会会長の伊藤孝之(59)は「作柄を気にせずに収入が計算できるのでありがたい」と話す。
ツムラは高知、和歌山、群馬、岩手でも契約栽培を進める。ツムラが使用する生薬118種類のうち、国内栽培で25種類が生産可能だという。
ただ、ここ数年の新規参入の機運の前までは、生薬の国内栽培は減り気味だった。農家の高齢化に加え、薬価の抑制で製薬メーカーもコストに厳しくなっていたことも影響。07年度の生薬生産量は97年に比べて17%減った。
「生薬栽培が初めての農家が栽培技術を磨くのに年数がかかる。中国産が高騰したといっても、国産の方がまだコストが高い」とある漢方薬メーカー。富山大和漢医薬学総合研究所教授の小松かつ子は「休耕田が多い中山間地対策として生薬栽培への関心は高いが、販売ルートづくりが難しい」と話す。
国内栽培を増やしても、気候や土壌といった条件面から中国でしか生産できない生薬も多い。帝京大医学部外科准教授の新見正則は「構成するどの生薬を一つ抜いても効き目がなくなる。同じ生薬を使っていても調合比率を変えるだけで風邪薬が胃腸薬に変わることもある。漢方は微妙なバランスが重要で、他の生薬では代替が利かない」と指摘する。
しかも漢方の生薬は、同じ品種であっても、ワインと同じように、生産地が変わると成分含有量が異なってくる。日本での漢方薬は液剤よりも製剤が中心になっており、違う産地の原料を使うと、製品の均質性を保つのが難しくなるという。このため「原料の中国依存からの脱却は当面むずかしい」との見方も多い。
(都留悦史)
(文中敬称略)
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