2021年6月23日 08:00
常識を覆す、SOULNOTEの魅力
昨年購入したオーディオ&AV機器の中で、「買ってよかった! 」と感じさせてくれたナンバーワン製品は、SOULNOTE(ソウルノート)のSACD/CDプレーヤー「S-3」だった。AV Watchに昨年12月に寄稿したので、お読みいただいた方もいるだろう。
常識の逆を行くプレーヤー、SOULNOTE「S-3」にノックアウトされた1年 by 山本浩司
SOULNOTEは神奈川県相模原市を本拠とするCSRの高級オーディオ・ブランド。少人数で運営されるハイエンドオーディオ・メーカーの製品は、主宰者や設計者の個性が色濃く反映されるのが常で、だからこそハイエンドオーディオは熱心なファンに長年支持されてきたわけだが、このS-3ほどチーフ・エンジニアの思想・感性がダイレクトに投影された国産製品は珍しいのではないだろうか。
そう、S-3は従来のデジタルオーディオ機器設計の「常識」をことごとく否定した上に成り立っているのである。
開発の過程でさまざまな決断を迫られるオーディオ機器開発で、もっとも重要なことは「何をよすがに選択するか」だろう。SOULNOTEのチーフ・エンジニア加藤秀樹さんは、設計上何か選択を迫られるたびに従来の常識を取り払い、自分の耳を信じて虚心坦懐に「音が生きているかどうか」だけを判断し、本機を完成させたのだという(S-3のみならずSOULNOTE製品すべてがそうなのだが)。
そんなわけで、本機の設計手法は斬新極まりない。リスニング・テストを繰り返して音の良いパーツ、デバイスを見つけ出し、音の鮮度を損ねることは極力しないというポリシーを貫いているのである。まるで超高級日本料理店のようですナ。
たとえば。1.筐体を必要以上に固めない。2.電源トランスも固めない。3.天板は浮かす(触るとカタカタ、ガシャガシャいう!)。4.基板は固定しない。5.内部配線材は細く軽く。6.シールドは極力しない。7.ノイズフィルターは入れない。8.オーバーオールの帰還はしない。9.デジタルフィルターは使わない等々……加藤さんが「音が死ぬ」と感じる手法はいっさい採らない開発姿勢で貫かれているのだ。
従来の「静特性(スペック)」重視の高音質設計の逆をいく手法が採られていると言ってもいいだろう。
もちろんオーバーオールの帰還はしない、フィルターは使わない等の手法を用いれば当然スペックは良くならないが、「それがどうした? コレは音楽を聴く機械だぜ」というわけである。
話を聞けば聞くほどこの製品に強い興味を抱いたが、重要なのは言うまでもなく自分にとって好ましい音が聴けるかどうかである。オーディオにおけるあらゆる仮説は、すべてリスナーの聴感覚によっててのみ検証されるべきで……などとつぶやきながら本機を拝借し、自室でその音を聴き、心の底から感動した。
とくにNOS(Non Over Sampling)モードで聴くCDの、鮮度感抜群の生々しい音にぼくは声もなくノックアウトされてしまったのだった。S-3に出会う前は高次オーバーサンプリングこそがデジタルオーディオ高音質化の決め手だと信じていたのだが、S-3のNOS モードの音を聴いて必ずしもそうではないと思った。何を聴いてもフレッシュで、加藤さんの言う「生きている音」という感覚が「あ、わかる!」という感じ。そんなわけで、ぼくはすぐさま本機の購入を決めたのだった。
ZERO LINKとは何か
S-3には、PCM最大768kHz、DSD最大22.6MHz対応のUSB-B入力端子が装備されており、ぼくはLUMINのネットワークトランスポート「U1Mini」と接続し、NAS(DELA N1A/2)に収めたハイレゾファイルや高音質ストリーミングサービスのTIDAL音源も本機経由で聴いている。もちろん音が良いからだ。
さて、S-3は昨年秋に無償ヴァージョンアップにより「S-3 ver.2」(128万円)となったが、今年に入ってこのファイル再生時の音質向上を目指した新たな提案があった。それが“ZERO LINK(ゼロリンク)”である。
もっともこのまったく新しいデジタルデータ伝送方式は、SOULNOTE一社で提案されたものではない。2009年の創業以来、音の良いネットワークオーディオ機器を開発してきたスフォルツァート(本社・東京都日野市。主宰者は小俣恭一さん)と共同で提案されたものだ。
ZERO LINK とは、簡潔に言えばデジタル音声データを読み出す基準となるクロックを、DVI端子を使ってプレーヤー(トランスポート)とDAC間で共通化し、非同期動作を追放してしまおうというもの。
S-3には当初からZERO LINKと印字されたDVI端子が装備されていて「なんじゃコレ?」と思っていたのだが、この連携を実現させるためのものだったのだ。
トランスポートとDAC は通常それぞれのクロックで動いている。その二つのクロックにズレが生じると、当然ながらノイズが発生するなど様々な問題が生じる。その解決策として発案されたのがZERO LINKで、良質なクロックを用意したD/Aコンバーター側からトランスポート側にきれいなクロックを送り、そのタイミングでデジタル音声データをDACに送ってほしいとリクエストする、これがZERO LINKの概念である。
同軸端子を用いた従来のS/PDIF伝送においては、トランスポート側のクロックのタイミングに合わせてDAC側がフィードバックをかけながらなんとか同期させていた。しかも様々なサンプリング周波数のデータが送られてくるので、通常はDAC前段のPLL(Phase Locked Loop)を用いて、入力されたそれぞれの周波数クロックに変換させている。
しかしDAC素子に採用されているPLLの変換精度は心許なく、データそのものを変質させてしまう可能性さえある。ここにデジタルオーディオにおける大きな音質阻害要因があるとスフォルツァートとSOULNOTEは考えたわけだ。
実際にS-3 Ver.2 はDACチップに内蔵されたPLLを使用していない。では、どうやってさまざまなサンプリング周波数の音声データに対応しているのか。そこで登場するのがDDS(Digital Direct Synthesizer)である。これはマスタークロックから様々なクロック周波数を生み出す超高精度な変換器で、スフォルツァートとSOULNOTE製品はこの高価なICを搭載しているのである。
話を聞けば聞くほど興味深い。ぜひZERO LINKの音を体験してみたいと考え、この伝送方式に対応したスフォルツァートのネットワークトランスポート「DST-Lepus」(レプス/38 万円)を拝借、わが家のSOULNOTES-3 Ver.2とZERO LINK接続して音を聴いてみることにした。ちなみにZERO LINK接続するためにはS-3 Ver.2を最新のファームウェアにアップデートする必要がある。
DST-Lepus を丸一日通電したのちに一緒に送られてきたスープラ製DVIケーブルでS-3 Ver.2と接続、 2日間かけてさまざまな音楽ファイルを聴いてみたが、なるほどZERO LINKの効能は明らかだった。
「音楽が生きている!」という実感がより強固になると言えばいいだろうか。ルーミンのネットワークトランスポートU1MiniとS-3 Ver.2 をUSB接続したこれまでの再生法に比べて、音楽の表現がいっそう伸びやかに、スケール感豊かに描写されるのである。
内田光子が弾き振りしたモーツァルトのピアノ・コンチェルトのライヴ演奏を収録したハイレゾファイルを聴くと、これまで聴き取れなかった楽団員の体の動き、それによって発せられる様々なノイズ、気配が濃厚に伝わってきて、ギョッとさせられた。眼前に扇状に並んだオーケストラが目に見えるかのようで、これこそハイエンドオーディオの醍醐味、と深く納得させられたのである。
「これもぜひ試してみてください」とSOULNOTEの加藤さんから送られたきたのが、この7月に発売予定のクロックジェネレーターの「X-3」(35.2万円)。S-3 Ver.2内蔵クロックよりも断然精度が高く安定な10MHz矩形波生成器である。これをS-3 Ver.2につないでDST-Lepusとのコンビネーションで同一ハイレゾファイルを聴いてみた。
ステレオフォニックな音の広がりがいっそう顕著になり、L/Rスピーカーの真ん中に定位するヴォーカル音像がよりシャープになり……というのは優秀なクロックジェネレーターの過去の体験からある程度予想できたが、X-3を加えた効果はそれだけではなかった。
なんというか音の鮮度感が上がり、いっそうピチピチとした生々しい音に変貌するのである。そう、音場感の向上に加えて、音の色艶、音色の豊潤さがぐんと増す感じなのだ。
「35.2万円? オレならちょっといい腕時計買うけど……」という方は多いと思いますが、ぼくは断然このクロックだナ。う~む、スフォルツァートDST-Lepusともどもお買い上げか?
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