https://www.sbbit.jp/article/cont1/143156
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江崎グリコやユニ・チャームの「SAP S/4 HANA(以下、SAP)」への移行が難航している問題を受けて、ネット上で「SAPは使いづらいのに、なぜ利用されているのか」という問題提起が多数あがっている。では、なぜSAPがERPのデファクトスタンダードとして、世界中で使い続けられているのだろうか。その背景や事情、日本の製造業への提言について、元SAPに在籍しERPに詳しいフロンティアワンの鍋野 敬一郎氏に話を聞いた。
前編はこちら(※この記事は後編です)
SAPは使いづらいのに、なぜ世界中で使われているのか
江崎グリコのトラブルを受けて、ネット上で「SAPは使いづらいのに、なぜ利用されているのか」という声が多数あがっている。
SAPでの勤務経験のある鍋野氏の率直な意見はどうなのだろうか。
「実際にお客さまにSAPの製品を提供していたときは『SAPが愛されていない』と感じていました(笑)。そもそも値段が高い、動かない、操作が面倒といったご意見や、お客さまからお叱りをいただくことも多々ありました。とはいえ、経営者のための情報や、経営者が使うための経理財務、金銭に関わる部分に関して、SAPより強いシステムは存在していないことも事実です」(鍋野氏)
その背景には、これまでSAPが半世紀以上にわたって製品を提供し、4万社もの大手企業への導入実績を持ち、経営者への安心感と金融機関の評価を勝ち得ていることがある。監査側から見ても1つの元帳簿として管理しやすく、比較して分かりやすいという理由もあるようだ。
「SAPは、監査側も金融側も利用側も世界共通のソリューションとして知られています。それだけでなく、業界業種の内部事情として、たとえば化学素材・製薬・電力のようにグローバル展開する業界では、SAPに対する特定のレギュレーションや標準化が存在しているのです」(鍋野氏)
たとえば、海外ではSAPを使っていないと、企業が買収されたときに企業価値が下がってしまい、買収価格に影響するという事情がある。買収する側がSAPを使っていて、買収相手がSAPを使っていないと、システム統合時に入れ替え費用がかかる。逆に買収相手がSAPを使っている場合、システムを片寄せし、ライセンスを追加すれば、スムーズに統合できるからだ。鍋野氏は次のように付け加える。
「業界で標準化されているほうが、システムは断然使いやすいのです。特に重要なのが原価管理です。内部の管理コストや原価が見えないと利益が見えてきません」(鍋野氏)
SAPが「使いづらい」といっているのは日本のユーザー“だけ”
とはいえ、ユーザー側で、SAPが使いづらいという声が多いのも事実だ。しかし、鍋野氏は、実はこういった苦情について、海外ではほとんどないと明かす。「SAPが使いにくいといっているのは日本だけで、海外ではSAPを使いにくいとは言われていません。というのも、欧米ではホワイトカラーとブルーカラーの権限が明確に分掌されています。現場の担当者はシステムを自由に選べず、もしも現場の担当者がSAPを使えなかったら、高給でも良いのでSAPを使える人材に入れ替えるだけの単純な話なのです。日本以外の国では、経営側や管理側の論理が強く働くため、『SAPが使いづらい』などの声が表面化されにくいのだと思います。また、今回の各社のトラブルに共通しているポイントに、ERPシステムの本番移行判定をパスして、本番移行した後にシステムが止まっていることがあります。原因として、現場業務は従来どおりなのに、システムオペレーションが変わっていることがあると考えます」(鍋野氏)
たとえば、実在庫とシステム在庫の数量が合わないというケース。従来システムでは入力した数字に間違いがあれば、間違った入力データを取り消して正しいデータを再入力するが、ERPシステムではこのやり方ができない。
ERPシステムでは、一度入力したデータは、赤伝処理(マイナス伝票処理)してから、関連するデータが実質的にプラスマイナスゼロになることを確認して、再度正しいデータを入力する処理を行う。これはERPシステムがデータ改ざんを許さないため、取り消し機能を持たないことによる。結果、入力データの間違いを繰り返すと、その修正作業を行うシステム要員だけでは対応しきれない事態が生じる。
したがって、ERPシステムのシステムオペレーションは、煩雑かつ膨大な手間と時間がかかる。事実、ERPシステムに移行したユーザー企業において、ERPシステムに連携するレガシーシステムの桁ズレやエラーデータによって膨大な対応処理を強いられるケースは少なくない。
また、世界と日本との労働環境やプロセスに対する考え方の違いについて、鍋野氏は次のように語る。
「海外では現場で実際に手を動かして作業をする人と、システムにデータ入力する人が必ずしも同一である必要がないという考え方があります。事務作業は、入力代行の会社や、オペレーターをアウトソースする会社に任せれば良いということです。これまで日本企業は、手を動かして作業する人がシステムにデータを入力しなければいけないという固定観念が強くありました」(鍋野氏)
日本のように「現場の人数は増やさない上、現場にシステム入力もさせる」ということになれば、現場の負荷もかかるし、業務としても嫌がられるのは当然の成り行きだろう。鍋野氏はこう指摘する。
「日本はデジタル化が大事と主張する割には、それほど現場を大事にしておらず、データを入力する仕事も大切にしてないように感じられます。その結果、データの扱いも粗雑になるし、しっかりと現場にデータ入力もしてもらえないという状況になるでしょう。そういう意味では、日本と欧米では担当者のレベルや意識が大きく違っているのかもしれません」(鍋野氏)
現在の日本企業の弱点、ないがしろにすべきでないこと
現在、生産現場でもIoTによる自動化や、AIの波が進んできている。そういった技術が浸透していけば、将来的にデータの扱い方が変わる余地は十分あるだろう。どんな現場でもデータを収集するだけなら、カメラとセンサーがあればほとんど対応できる。この続きは会員限定(完全無料)です
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