この8年間で起きた技術的変化を反映

内燃機関を持つクルマを改造して電気自動車(EV)に仕立てたコンバージョンEV。スポーツカーやクラシックカーを改造したEVに乗った経験がある方もおられるかもしれない。このほど一般社団法人電気自動車普及協会(APEV:Association for the Promotion of Electric Vehicles)ではコンバージョンEVを製作するためのガイドラインを8年ぶりに改定した。

大きな変更点は駆動用蓄電池に関する項目だ。ざっくり言えば、コンバージョンEVは内燃機関をモーターに、燃料タンクを蓄電池に置き換えて製作する。8年前はEV用でもまだ鉛蓄電池が多かったが、近年はリチウムイオン電池が主流になった。そして2016年には道路運送車両法関連法令が改正され、「バッテリー式電気自動車に係る協定規則(第100号)」が加わっている。

そこで今回ガイドラインを改定するにあたり、駆動用蓄電池およびバッテリーマネジメントシステム(BMS)についての記述を強化した。例えば、協定規則第100号では蓄電池の安全性のために振動、熱衝撃・熱サイクル、衝撃など10項目の試験が要求されていることから、改定版ではこれらを追記している。また、蓄電池の搭載方法や残量計に関する情報を更新したほか、用語解説も拡充した。

もう1つの大きな変更点は回生ブレーキ作動時のブレーキランプの挙動に関する記述だ。回生ブレーキは広く利用されている技術だが、EVはハイブリッド車などよりも回生ブレーキが強めにかかるため、もしも後続車が想定している以上に急減速すれば追突事故に至る恐れがある。そこで、改定版ガイドラインでは「電気式回生ブレーキ作動時の減速度が1.3m/s2を超える場合は、制動灯を点灯しなければならない」ことを明記した。

改定に携わったAPEV技術委員会担当理事の佐藤員暢氏によれば「ガイドラインは法令に基づくもので国土交通省や関連機関にも相談しながら策定した。一方で、コンバージョンを行う事業者にとって運用しやすいものでなければならないため、APEV会員企業の声も反映した内容になっている」という。

普及のカギを握るのはコスト

実は近年、コンバージョンEVの登録台数が減っていたという。理由はずばり蓄電池の問題だ。協定規則第100号では圧壊や耐火性といった項目の試験も要求するが、試験は万が一蓄電池が爆発・炎上しても問題ない環境で行わなければならない。それだけの施設を有する企業はまれで、民間の試験場を借りれば相応の費用がかかる。試験費用は当然のことながら、製品価格に反映される。

では、いくらくらいかかるのか。思い切って、APEV代表理事の田嶋伸博氏にコンバージョンEVの価格を尋ねてみた。

「一概には言えない。蓄電池の試験の問題だけでなく、蓄電池そのものも駆動系システムも、価格はピンキリだから。ただし、APEVはEVの普及を目指している。そうなると高品質で高価なシステムはそぐわない。方向性としては、ベースのエンジン車を最新モデルに買い替えるのと同じくらいの金額で、コンバージョンを行えるようにしたい」

APEVではコンバージョンのコストを抑えるために、会員向けに試験済み蓄電池パックの共通使用を検討している。EV用蓄電池は国内外からさまざまなタイプを調達できるが、その中のいくつかの蓄電池について、APEVが安全性試験を実施する。試験済みの蓄電池であれば、コンバージョン事業者は自ら安全性試験を行う必要がないので、製品価格を抑えることができる。早ければ、2020年7月にも安全性試験を実施し、会員向けに試験済み電池パックの提供を早い時期に始める予定だという。

ここで想定しているのは、出前や配達に使用される小型貨物車やエリア限定のマイクロバス、ルート営業用の軽自動車や1300㏄クラスの小型乗用車のコンバージョンEVだ。「小型の貨物用EVは大手メーカーが製造していないため、コンバージョンEVだからこそ実現できる分野だ」と、佐藤氏は言う。

「APEVは地球環境問題とエネルギー問題を解決するものとしてEVの普及を目指している。残された石油は燃やすのではなく、石油製品として活用し、移動にはEVを含む電動モビリティーを活用すべき」(田嶋氏)

コロナ禍は人々の移動に大きな影響を与えた。自粛で出歩けない分、宅配や出前のニーズが急激に拡大。また、“三密”を避けるために公共交通ではなく、マイカー回帰が起こるのではとの指摘もある。いま必要なのは生活のための短距離の移動手段だ。ここに小型EVがはまりそうだが、コンバージョンにかかる費用は決して安いとはいえないものだ。田嶋氏は「ユーザーの背中を押すために補助金の充実」を訴える。例えば「1300㏄のエンジン車をEV化したら13万円補助」といった分かりやすい施策があれば、コンバージョンを検討しやすくなるのではないだろうか。

中国ではコロナ禍による経済活動制限で大気汚染が一時的に解消された。経済活動を維持しつつ、地球環境を守るには何をすべきか、あらためて考えるべき時にきている。

(文=林 愛子/写真=電気自動車普及協会/編集=藤沢 勝)