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(写真:奥野 慶四郎)
(写真:奥野 慶四郎)
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 上の写真は、岩手県北上市に本社を構える小田島組の新社屋「KITAKAMI O2(キタカミオーツー)」です。

 外装の斜線は右肩上がりの経営をイメージしたもの。社屋名の「O2」は、2003年から社長を務める小田島直樹氏が2代目であることを示すとともに、「地元にとって酸素のようになくてはならない存在になりたい」という経営理念を表しています。

 「田舎にいると、『現状維持マインド』になってしまう。変化しないことが良いと捉える風潮がある。自分も社長就任当時はそうだったが、それではつまらない。事業をどんどん拡大していくのが面白いと考えるようになった」

 こう語る小田島社長が目指すのは、東京の同業者と同レベルの生産性と給料の実現です。社長就任後の15年間で、会社の売上高を5~6倍に増やしました。

 そんな成長著しい小田島組には、一般的な地方建設会社にはあまり見られない特徴があります。

クイズです。 それは、次の3つのうちどれでしょうか。

  1. 1.全社員の4割ほどを女性が占める。

  2. 2.全社員の7割以上を60代が占める。

  3. 3.全社員の約9割を院卒者が占める。

正解はこちら

1.全社員の4割ほどを女性が占める

現場写真整理サービス「カエレル」の業務に取り組む社員(写真:奥野 慶四郎)
現場写真整理サービス「カエレル」の業務に取り組む社員(写真:奥野 慶四郎)
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若者が親しみやすい開放的な雰囲気のオフィス(写真:奥野 慶四郎)
若者が親しみやすい開放的な雰囲気のオフィス(写真:奥野 慶四郎)
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 社員数は23年6月時点で176人。うち110人が10代と20代で、若手が全体の6割余りを占めます。平均年齢は33.5歳です。

 「社員の報酬アップなど地元の活性化に投資することが、地方建設会社にとって大事な役割だ。若者が地元に残り、多くの子どもを育てられる環境をつくることが、自分たちの会社の成長にもつながる」

 小田島社長はこう考え、若手の採用を増やしてきました。冒頭の新社屋には、キャンパスをイメージしたフリースペースを設け、若者が親しみやすい開放的な雰囲気を演出。ウエルネスルームも備え、社員の健康面にも配慮しています。

 人員構成には、もう1つ特徴があります。女性の多さです。全社員の約4割を女性が占めます。女性が働きやすい職場の創出にも力を入れているのです。

 例えば、19年に始めた現場写真整理サービス「カエレル」。若い女性の大量採用を機に、経験値やスキルが低くても可能な仕事を考え、サービスを始めました。

 現在、他社の代行業務も引き受けており、30の現場から引き合いがあります。社内外の現場経験者ら、ベテラン技術者の活用にもつながっています。

 他社との共存共栄の発想は、ブランディング事業でも見られます。提携している5~6社に対して、自社で実践してきたブランディングのノウハウを提供しています。

 「自社だけが良くなっても仕方がない。ブランディングによって地元に良い会社が増えれば、それだけ地域の魅力が増す」。小田島社長はそう説明します。

業務効率下げる雑務を徹底排除

 斬新な経営で成果を上げている地方建設会社は、他にもあります。新潟県三条市に本社を置く小柳建設も、その1つ。

 「建設の仕事はアナログで、相当な手間をかけている印象があった。物事がスムーズに進む環境をつくりたいと常に考えている」

 そんな小柳卓蔵社長の思いを込めたのが、21年に建て替えた加茂オフィスです。執務スペースにはABW(Activity Based Working)を導入。固定席を設けず、働く内容に応じて場所を柔軟に変えられる仕組みにしました。

加茂オフィス。デジタルサイネージに経営情報を流している(写真:日経クロステック)
加茂オフィス。デジタルサイネージに経営情報を流している(写真:日経クロステック)
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 オフィス内のデジタルサイネージ(電子看板)には、各部門の採算状況をグラフで提示。社員の当事者意識の向上を図っています。

 サイネージには、米マイクロソフトの会議アプリ「Teams(チームズ)」の画面も表示。現場事務所などオフィス外と常時つなぎ、コミュニケーションの円滑化を進めています。

 小柳建設は、デジタル化や長時間残業上限規制対策、男性育休取得率100%、健康経営化など、社会課題にいち早く対応してきました。

(出所:取材などを基に日経クロステックが作成)
(出所:取材などを基に日経クロステックが作成)
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 基幹システムのフルクラウド化やビジネスチャットの導入が16年、電子契約の開始が18年です。19年には給与明細を手渡しからメール配信に変更。20年には電話対応を外注し、社外のコールセンターからTeamsで報告してもらう形にしました。

 このように、業務効率を下げる雑務を徹底的に排除した結果、22年度の従業員1人当たりの月平均残業時間を1.7時間に抑えることができました。一方で、年間の平均賞与支給月数を従来の2カ月から約4カ月に倍増させました。

 国も小柳建設の経営を評価。女性・若者の活躍促進や子育て支援など、社会課題の解決に積極的な優良企業として認定しています。

 建設業を志す若者も、小柳建設に注目しています。入社を希望する新卒者は、毎年20~30人を数えます。「どうすれば、そんなに応募が殺到するのか」と、他社がうらやむほどです。小柳社長は言います。

 「社員が楽に働けるよう、取り組みを少しずつ積み重ねてきたことが実を結んでいる。魔法の杖なんてない」