https://www.chem-station.com/blog/2024/04/lmct.html
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LMCTを介したTi触媒によるアルコールの光駆動型脱ラセミ化反応が報告された。単一不斉配位子を用いた二度の不斉誘導により高いエナンチオ選択性が発現する。
光駆動型触媒的脱ラセミ化反応
脱ラセミ化反応は、ラセミ体を単一のエナンチオマーに変換できる有用な不斉合成反応である。動的速度論光学分割とは異なり、原料と生成物の構造は変化しない。脱ラセミ化反応では、生成系のエントロピーが減少する点や、熱平衡による再ラセミ化が潜在的な課題である[1]。これらの課題を、光を利用して克服した初の例が、Bachらによる不斉チオキサントン触媒を用いたアレンの脱ラセミ化である(図 1Aa)[2]。チオキサントン触媒は、立体反発のより小さいエナンチオマーと優先的に水素結合を形成する。その後、相互作用したアレンと励起したチオキサントン触媒との間で三重項エネルギー移動が起こり、異性化する。本反応では、非熱平衡過程の三重項エネルギー移動を経由することで課題であった再ラセミ化を抑制した。この報告の後、Knowlesらはウレアの可視光駆動型脱ラセミ化を報告した(図 1Ab)[3]。励起されたIr触媒によりウレアが酸化された後、キラルブレンステッド塩基によるプロトン移動(PT)、キラルペプチドチオールによるHATを経て脱ラセミ化する。本反応では、二つの不斉触媒による二度の不斉誘導により、高いエナンチオ選択性を実現した。
本論文著者のZuoらは近年、Ce光触媒に着目したアルコールの変換反応を複数報告している(図1B)[4]。これらの反応ではCe錯体のLMCT(ligand to metal charge transfer)を経てアルコールからアルコキシラジカルが生成する。その後β-開裂により生じたアルキルラジカルがラジカル捕捉剤と反応する。
今回、著者らはTi触媒によるアルコキシラジカル生成を起点としたアルコールの脱ラセミ化反応を報告した(図1C)。単一の不斉Ti触媒が、アルコールのβ-開裂と再環化過程における二度の不斉誘導を実現し、高い光学純度でアルコールが得られる。
“Multiplicative Enhancement of Stereoenrichment by a Single Catalyst for Deracemization of Alcohols”
Wen, L.; Ding, J.; Duan, L.; Wang, S.; An, Q.; Wang, H.; Zuo, Z.Science2023, 382, 458–464.
DOI: 10.1126/science.adj0040
論文著者の紹介
研究者: Zhiwei Zuo (左智伟)
2007 B.S., Nanjing University, China
2012 Ph.D., Shanghai Institute of Organic Chemistry (SIOC), China (Prof. Dawei Ma)
2013–2015 Postdoc, Princeton University, USA (Prof. David W. C. MacMillan)
2015–2020 Assistant Professor, Shanghai Tech University, China
2020– Professor, Shanghai Institute of Organic Chemistry (SIOC), China
研究内容:Ce光触媒を利用したアルコキシラジカル生成法の開発
論文の概要
ヘプタン中、触媒量のTiCl4とキラルリン酸L、Na2CO3存在下、光照射(395 nm)することでラセミ体である環状アルコール1の脱ラセミ化反応が進行し、一方のエナンチオマーが選択的に得られることを見出した(図2A)。本反応は、β位にアリール基をもつ様々な環員数の2級アルコール(1a–1c)に加え、α位にメチル基をもつ3級アルコール(1d)に適用できた。また、ビスオキサゾリンL4を不斉配位子に用いることで、非環状アミノアルコール2も利用可能であった。
著者らは、反応機構解明実験として、部分的に重水素化したシクロペンタノール3を脱ラセミ化した(図2B)。その結果、3の重水素化率を維持した状態で、1aと同等の立体選択性を示したことから、脱ラセミ化は水素原子移動(HAT)や段階的な酸化還元過程を経由しないことが明らかとなった。
彼らは高エナンチオ選択性を実現する不斉発現メカニズムも調査した(図 2c)。はじめにC–C結合形成過程におけるエナンチオ選択性を確認した。syn体(±)-2の脱ラセミ化反応では、反応初期に生成するanti体2の鏡像体比はほぼ一定であり(er = 75:25)、anti体は結合開裂に関与しないことが示唆された。すなわち、結合形成過程のエナンチオ選択性はer = 75:25と見積もられた。また結合開裂が進行しない暗条件下、アルデヒド4とイミン5を反応させるとanti体(+)-2が鏡像体比er = 77:23 (kR/kS比3.3:1)で生成した。次に、C–C結合開裂における立体選択性を確認した。2とラジカル捕捉剤6を光照射条件下で反応させた結果、(S)-エナンチオマーが優先的に消費されることが明らかになった(k–S/k–R比8.1:1)。これら二つの不斉誘導過程から算出される鏡像体比(er = kRk–S/kSk–R)はer = 96:4となり、本脱ラセミ化反応における2aの不斉収率(er = 97:3)と一致した。以上より、C–C結合切断/形成の各過程における不斉誘導は中程度であるものの、これらを組み合わせることで高いエナンチオ選択性を達成したことが示された。他にも、Ti(III)の生成やβ-開裂反応の関与、プロキラルなラジカル中間体を経由することが実験的に示された(論文参照)。
今回、不斉チタン触媒を用いたアルコールの脱ラセミ化が報告された。単一触媒による2つの不斉誘導で高いエナンチオ選択性を達成する本手法のコンセプトを応用した、新たな不斉触媒反応の開発が期待される。
参考文献
- Huang, M.; Pan, T.; Jiang, X.; Luo, S. Catalytic Deracemization Reactions. J. Am. Chem. Soc. 2023, 14, 10917–1 DOI: 10.1021/jacs.3c02622
- Hölzl-Hobmeier, A.; Bauer, A.; Silva, A. V.; Huber, S. M.; Bannwarth, C.; Bach, T. Catalytic Deracemization of Chiral Allenes by Sensitized Excitation with Visible Light. Nature 2018, 564, 240–243. DOI: 1038/s41586-018-0755-1
- Shin, N. Y.; Ryss, J. M.; Zhang, X.; Miller, S. J.; Knowles, R. R. Light-Driven Deracemization Enabled by Excited-State Electron Transfer. Science 2019, 366, 364–369. DOI: 1126/science.aay2204
- (a) Guo, J.; Hu, A.; Chen, Y.; Sun, J.; Tang, H.; Zuo, Z. Photocatalytic C–C Bond Cleavage and Amination of Cycloalkanols by Cerium(III) Chloride Complex. Angew. Chem., Int. Ed. 2016, 55, 15319–15322. DOI: 1002/anie.201609035 (b) Hu, A.; Chen, Y.; Guo, J.-J.; Yu, N.; An, Q.; Zuo, Z. Cerium-Catalyzed Formal Cycloaddition of Cycloalkanols with Alkenes through Dual Photoexcitation. J. Am. Chem. Soc. 2018, 140, 13580–13585. DOI: 10.1021/jacs.8b08781 (c) Zhang, K.; Chang, L.; An, Q.; Wang, X.; Zuo, Z. Dehydroxymethylation of Alcohols Enabled by Cerium Photocatalysis. J. Am. Chem. Soc. 2019, 141, 10556–10564. DOI: 10.1021/jacs.9b05932 (d) Chen, Y.; Wang, X.; He, X.; An, Q.; Zuo, Z. Photocatalytic Dehydroxymethylative Arylation by Synergistic Cerium and Nickel Catalysis. J. Am. Chem. Soc. 2021, 143, 4896–4902. DOI: 10.1021/jacs.1c00618
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