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オイルの収量は微細藻類が断トツに多い

SAFの原料別の単位面積当たりのオイル収量(出所:ちとせ研究所)

乾燥させるだけで燃料に

 ただし、一口に微細藻類といっても多数の種類があり、それぞれで合成できる物質も異なる。IMATによれば、ボツリオコッカスという微細藻類はオイル含有量が50%と非常に多い。具体的には、培養に用いた水400Lから、約800gの藻を収穫でき、そこから約400gのオイルを抽出できるという。このオイルは「分子量が重油に近く、乾燥させてゴム状になったボツリオコッカスに火をつけるとよく燃える」(IMAT)。

乾燥ボツリオコッカスはゴムのようになる
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乾燥ボツリオコッカスはゴムのようになる
(写真:日経クロステック)
ボツリオコッカスに火をつけて燃やす様子
(出所:日経クロステック)

 オイルの抽出までにかかる時間は、「藻のプレ培養に約1週間、本培養に約1週間、収穫作業に半日、乾燥に2日、抽出に1日で、合わせて約2週間半」(IMAT)だという。

 ナンノクロロプシスという微細藻類は、エイコサペンタエン酸(EPA)という魚油に含まれる成分を合成する。

 一方、タンパク質を主に合成する微細藻類の代表がスピルリナだ。この藻であれば、800gの藻から5%、つまり40gのタンパク質を抽出できる。

課題はコスト低減と他の微生物

 これら微細藻類の培養には課題も大きく2つある。1つは、コストの低減、もう1つは、環境からの望ましくない微生物や雑菌の混入(コンタミネーション、コンタミ)による「バイオ破綻」のリスクの低減である。

 コスト低減は、SAFの実用化にとって最大の課題だ。せっかくSAFを生産しても、それが既存のジェット燃料に対して大幅に割高であれば、商業ベースでは軌道に乗らない。どこまで低コストで微細藻類を生産できるかは、この事業の命運を左右する。

 2つ目のコンタミによるバイオ破綻は、培養したい微細藻類とは異なる種類の微細藻類が混入して増えてしまうケースや、微細藻類を餌とするミジンコなどの動物性プランクトンが増えて微細藻類が激減してしまうような状況を指す。

 IMATはこれらの課題への対策として、大きく3種類の培養プラントを検証していくとする。具体的には、(1)屈曲させたガラスチューブの中に微細藻類をほぼ密閉して、循環させる「チューブラー型」(2)2枚の透明な板から成る薄い水槽を用いる「フラットパネル型」(3)大型のバスタブのような水槽を用いて、水をサーキットのレーシングカーのように循環させて培養する「オープンレースウェイポンド型」――の3種類である。

チューブラー型培養プラント
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チューブラー型培養プラント
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チューブラー型培養プラント
室内での培養実験の様子。ガラスチューブの中をゆっくりと藻類を含む水が流れていく。光の利用効率が高く、コンタミも起こりにくいが、設備の導入や保守のためのコストが高い(写真:日経クロステック)
薄い水槽のようなフラットパネル型
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薄い水槽のようなフラットパネル型
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薄い水槽のようなフラットパネル型
側面から光を照射するため、薄くして光の利用効率を高めている。水槽は密閉されておらず、コンタミが起こる可能性がある(写真:日経クロステック)
鯉の池のようなオープンレースウェイポンド型
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鯉の池のようなオープンレースウェイポンド型
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鯉の池のようなオープンレースウェイポンド型
中央に仕切りが置かれ、水車などで水を循環させる。水深を深くすると光の利用効率が下がる。また、開口部が大きいため、コンタミが起こりやすい。ただし、設備コストは安い(写真:日経クロステック)

 これらの3種類は、設備にかかるコストと、2番目の課題であるコンタミやバイオ破綻のリスク、そして生産する微細藻類の用途を総合的に検討して選ぶことになる。(1)のチューブラー型は、光の利用効率が高く、コンタミのリスクが低い一方で、設備の導入コストや保守コストが高い。このため、「付加価値の高い物質を生産する微細藻類向け」(IMAT)だという。

 (2)のフラットパネル型は、設備の導入コストが比較的低いが、密閉型ではなく、コンタミやバイオ破綻のリスクはやや高くなる。ちとせ研究所が2023年に導入した5haの藻類生産施設はこのタイプである。

 (3)のオープンレースウェイポンド型は、設備コストが最も低い一方で、光の利用効率が低く、コンタミやバイオ破綻のリスクが大きい。

 IMATは今後、これらのプラント、及びそれらに最適な微細藻類の組み合わせを検証していくという。