https://chemicaldaily.com/archives/628308
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- 早稲田大学発のスタートアップでダイヤモンド半導体の開発を手掛けるパワーダイヤモンドシステムズ(PDS、東京都新宿区)が事業化に向けた準備を着々と進めている。幅広い顧客と連携して用途探索を行っており、近々サンプル提供を開始する。量産に向けた検討も行っており、自社での量産設備建設や外部委託などさまざまな選択肢を視野に入れる。2030年代前半にかけて量産と販売の体制を整え、30年代半ばごろをめどに事業を本格化させる構えだ。
ダイヤモンド半導体は高周波特性や大電流を流した際の効率、熱伝導率などで既存の材料を大幅に上回る。炭化ケイ素(SiC)や窒化ガリウム(GaN)などに続く次世代のパワー半導体として、モビリティ関連や発電施設、高周波デバイスなどさまざまな用途に向けた開発が進められている。
PDSの設立は22年。ダイヤモンド半導体の第一人者で、今年3月に退任した早稲田大学理工学術院元教授の川原田洋氏の研究シーズを基に事業化に向けた研究開発を進めている。24年以降立て続けに資金調達を行っており、創業以来の合計調達額は10億円を超えた。同社は縦型構造の酸化金属半導体電界効果トランジスタ(MOSFET)を開発中で、ダイヤモンド半導体の信頼性や大電流への対応性を高める技術が強みだ。
電流がチップの表面を横方向に流れる横型構造MOSFETに対し、縦型構造は電流が表面から裏面に向けて流れる。このため同じ電流をより小さなチップ面積で処理できるようになり、小型化しつつ大電流への対応性を高めることができる。23年には縦型構造MOSFETを活用して、ダイヤモンド半導体としては世界最高レベルとなる6・8アンペアの電流を流すことに成功した。
加えて、電源が入っていない時にスイッチが自動的に切れている状態を保つ「ノーマリ・オフ」技術の開発にも取り組んでいる。これにより故障時に電流が誤って流れることを防ぐことができ、安全性や信頼性が向上する。パワーエレクトロニクスでの応用においては欠かせない技術だ。
社会実装に向け技術開発を推進するとともに、パートナー企業と連携して用途開拓にも取り組んでいる。藤嶌辰也最高経営責任者(CEO)は「量産を急ぐよりも、しっかりと社会に浸透する『キラーアプリケーション』を探すことが先決だ」と語る。特定の用途に絞らず幅広い業界でチャンスを探りながら、業界ごとにダイヤモンド半導体の強みを最大限に生かしたかたちでの社会実装を目指す。国内に拠点を持つメーカーを中心に連携を強化し、ユースケース開発を進めていく。
間もなくサンプル提供を開始する。量産を前提とした提供ではなく、パートナー企業との検証を深めダイヤモンド半導体の可能性を探ることが目的だ。ダイヤモンド半導体の有用性を確立する上では重要なステップになるという。
現時点ではファブレスで開発を進めているが、将来的には自社での量産工場建設や外部への生産委託、大手企業によるバイアウトなど、さまざまな選択肢を検討する。いずれのかたちでも30年代前半をめどに量産体制を構築し、30年代半ばにかけて段階的に規模を拡大していく考えだ。生産場所については、国内で半導体のサプライチェーン構築が進んでいる地域が候補になる。
今後に向け人材採用も強化する。研究にかかわるメンバーに加え、先端半導体を使う側の知見を持った人材の獲得を目指す。問い合わせは増えつつあるなか、「尖った人材」(藤嶌CEO)を厳選して採用していく考えだ。
藤嶌CEOは「ダイヤモンド半導体が広く使われる未来はいずれやってくる。それを早めるのがわれわれの仕事だ」と語る。その時を見据え、社内外多くの人を巻き込みながら開発を進める構えだ。
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