ダウン症の子を妊娠したマウスに投与すると、生まれた子の脳の構造が変化して学習能力が向上する化合物を発見したと、京都大の萩原正敏教授(化学生物学)らのグループが、5日付の米科学アカデミー紀要電子版に発表した。化合物の作用で神経細胞の増殖が促され、ダウン症の症状が改善されるという。
 将来、出生前診断をした人の胎児を対象とした薬剤の開発につながる可能性がある。ただ、人の胎児で臨床研究を行うことの是非など、早期の実現には倫理面で課題がある。
 ダウン症は21番染色体が1本多い3本になることで起き、発達の遅れや、心臓疾患などの合併症を伴うこともある。グループは、神経の元になる細胞(神経前駆細胞)が増えないことがダウン症の原因の一つと考え、717種類の化合物をふるい分けし、神経幹細胞が前駆細胞を増殖するのを促進する化合物を発見。「アルジャーノン」と名付けた。
 ダウン症の子を妊娠したマウスに1日1回、経口投与すると、胎児の前駆細胞が増えるなど、投与しなかったダウン症の子とは脳の構造が異なった。迷路を使った実験で学習能力を比較した結果、投与したマウスの方が好成績で、正常なマウスとも変わらなかった。
 グループは、ダウン症患者から作製した人工多能性幹細胞(iPS細胞)でも効果を確認。脳神経が関係するアルツハイマー病や鬱病、パーキンソン病などにも役立てたいとしており、萩原教授は「すぐに臨床応用できるわけではなく、慎重に研究を進めたい」としている。
 【用語解説】ダウン症 正式名称は「ダウン症候群」。21番目の染色体が1本多い3本になることで起きる。「21トリソミー」とも呼ばれる。発達の遅れや心臓疾患などの合併症を伴うこともある。約千人に1人の確率で発生するとされる。現状では根本的な改善方法はない。