インドの若き起業家バヴィン・ターアクヒア(Bhavin Turakhia)は、安価なメッセージングプラットフォーム「フロック(Flock)」を市場へ送り出した。
法人ユーザー数、すでに2万5000社
10代で会社を起こし、20歳までに大金持ちになり、36歳にして弟と共同で10億ドル規模の資産を得たバヴィン・ターアクヒア(Bhavin Turakhia)は、野心的な姿勢を怖れずに生きてきた。
同氏はいま、自己資金の4500万ドルを投じて、スラック(Slack)などのライバルとなるワークプレイス・メッセージング・プラットフォームを立ち上げている。
クラウドベースのチームコラボレーションサービス市場は競争が激しく、フェイスブック、アマゾン、マイクロソフトといった世界的な大手テック企業も関心を寄せている。
しかし、ターアクヒアの「フロック(Flock)」は、すでに2万5000社の法人ユーザーを集めている。その顧客には、カナダ最大のファーストフードチェーン「ティムホートンズ」やアメリカの電機メーカー「ワールプール」、プリンストン大学なども含まれる。
バヴィンとその弟ディヴヤン(Divyank)の名を聞いたことのある者は、2016年夏にはほとんどいなかった。
この兄弟が一躍有名になったのは、2人で設立した広告テクノロジー企業で、ヤフー、CNN、ニューヨーク・タイムズなどを顧客に持つ「メディアネット(Media.net)」を、中国のコンソーシアムに9億ドルで売却したからだ。
この全額現金払いの買収によって、ターアクヒア兄弟は単なる大金持ちから、一気にスーパーリッチの仲間入りをすることになった。
ワードローブには140組の同じ服
バヴィン・ターアクヒアはバンガロールのオフィスで「フロックを、これまでに立ち上げたどの事業よりも大きく、優れたものにしたい」と語った。同氏の服装は、もはやトレードマークとなっているリーバイスの濃色のTシャツと、プーマのスウェットパンツだ。
この起業家がいつもカジュアルな服を着ているのは、少し変わった服装のセンスによるものではない。彼のワードローブは、140組のまったく同じ服で構成されている。
毎日何を着るか、何を食べるかといったつまらない判断に時間を使わず、他の領域でより生産的になるためだという。もちろん、政府関係の会合やクライアントとの夕食に備えて、フォーマルな服装一式はオフィスに常備されている。
バヴィンは、生産性に関する独自の考え方を、生活における服装以外の領域にも適用してきた。
たとえば、自宅とムンバイ、ドバイ、ロンドン、ロサンゼルスにあるオフィスのワークスペースには、立ち机から特製の椅子まで、まったく同じものが置かれている。さらには、移動時間も有効に使えるよう、所有する車の後部座席には特別注文のデスクが取り付けてある。
兄弟は、力を合わせてメディアネットを築き上げた。だが現在では、バヴィンが自らの手でフロックを率いるいっぽう、ディヴヤンは新しいオーナーの下でメディアネットをさらに成長させる仕事に専念している。
フロックは、コミュニケーションのヒエラルキーをなくし、リアルタイムでアイデアを共有する方法のひとつとして、競合するサービスよりも安い価格で市場に投じられた。
その無料バージョンには、チーム同士が互いに共有できるToDoリストや投票アプリが含まれ、ユーザーはウーバーを呼んだり、音声や動画での会議に参加したりすることもできる。
バヴィンによると、トレロ(Trello)、ツイッター、メールチンプ(Mailchimp)、グーグル・ドライブといった人気アプリを、このプラットフォームに組み合わせることも可能だという。
「攻撃的な価格設定」で市場に挑む
市場調査会社オーバム(Ovum)のシニアアナリストで、ビジネスコラボレーションとコミュニケーションツールの世界的な動向を専門とするネハ・ダーリアによれば、フロックはスラックとマイクロソフトが縄張り争いを繰り広げるセグメントの破壊を狙っているという。
フロックの月額料金はプレミアムバージョンでユーザー1人あたり3ドルだが、スラックのウェブサイトによるとユーザー1人あたりの料金は最低でも6.67ドルとなっている。ただし、どちらにも無料プランはある。
「コラボレーション・メッセージング分野の競争が激化するなかで、フロックは攻撃的な価格設定で市場シェアを勝ち取ろうとしている」とダーリアは言う。
同氏によると、フロックがジャイアントキラーになれるかどうかを見極めるのは、まだ時期尚早だ。
「より規模の大きな競争相手と張り合っていくために、ターアクヒアはイノベーションと人工知能のようなテクノロジーの導入を続けていかなければならないだろう」
17歳、500ドルを元手に会社設立
ターアクヒア兄弟は、ムンバイの中流階級の家庭に生まれ育った。父親は会計士だった。弟のディヴヤンより2歳年上のバヴィンは、10歳のときにプログラミングの勉強を始めた。
コンピュータ関係の教科書を次から次へとむさぼり読んだ同氏は、やがて高度なプログラミング言語の教師たちを個人的に指導するまでになったという。また、英雄として崇拝するビル・ゲイツの戦略を学ぼうと、マイクロソフトの創立者に関する本を1ダースほども読んで、その後、工学系の学位も取得した。
バヴィンが17歳のとき、兄弟は父親から借りた500ドルを元手に「ディレクティ・グループ(Directi Group)」を設立した。そして、アメリカでサーバースペースを買い、ドメイン名も取得した。同社は1994年、インドで初めて公認されたドメイン登録機関になった。
これを母体として生まれた4つの会社は、それから10年後、アメリカを本拠とするウェブホスティング会社エンデュランス・グループに1億6000万ドルで買い取られた。
バヴィンの傘下には現在、フロックの他に、ドメイン名登録サービスの「ラディックス(Radix)」、学生や専門家がテストを受けてコーディング・スキルの改善に役立てるプログラミング競技プラットフォーム「コードシェフ(Codechef)」など、5つの会社がある。
これらはいずれもディレクティ・グループからは独立した組織であり、アメリカ、ドバイ、イギリスで法人格を得ている。
ベンチャーキャピタルの支援もゼロ
ターアクヒア兄弟の過去のスタートアップと同様に、フロックには1ドルの負債もなく、ベンチャーキャピタルの支援も受けていない。
これは、設立から4年を経たスラックとは対照的だ。スラックはソフトバンク・グループやアクセル・パートナーズに支援されており、2017年7月にも2億5000万ドルを調達して、企業価値は50億ドル以上と評価された。
インドのテック企業の第一世代は、成功を収めたライバルのコピーキャットであることも少なくなかった。だが、それは必ずしも悪いことではないと語るのは、元テクノロジー系の起業家で、現在はシリコンバレーにあるカーネギーメロン大学ウェストコースト校で特別研究員を務めるビベック・ワファだ。
「何かを始めて学ぶためには、それが最善の方法だ。中国の起業家たちも、やはりコピーすることから始めたが、いまではさまざまなイノベーションを起こしている」と、ワファは話す。同氏は、ターアクヒアのようなインド人起業家が、今後も定評あるライバルに挑戦していくだろうと予想している。
バヴィンは、コピーキャットだという批判には動じない。同様に、スラックの膨大な評価額やバックに著名な投資家がいることも、あまり気にしていないようだ。
「わたしはどのセグメントにも後発として参入してきた。ウェブホスティングでは、市場の他の会社よりスタートが8年遅かったし、コンテキスト広告では10年遅れだった。それでも、わたしが立ち上げたスタートアップは、どれも業界のトップ5にまで食い込んだ」
原文はこちら(英語)。
(執筆:Saritha Rai記者、翻訳:水書健司/ガリレオ、写真:NatanaelGinting/iStock)
©2017 Bloomberg News
This article was translated and edited by NewsPicks in conjunction with IBM.