2019年10月3日木曜日

無線LAN新規格「IEEE 802.11ax」「11ah」はなぜ必要か

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 2018年12月27日 05時00分 公開

IoT時代の課題を解説接続デバイス数の増加や利用シーンの多様化によって新たな課題が浮上する無線LAN。新規格の「IEEE 802.11ax」と「IEEE 802.11ah」がその課題をどのように解決できるのか説明する。

[遠藤文康TechTargetジャパン]

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画像標準化に向けて活動中のIEEEのタスクグループ(出典:NTT説明資料)
 1人当たりの利用デバイス数の増加や、IoT(モノのインターネット)による屋外での接続デバイスの多様化を背景に、新たな無線LAN規格の標準化や実用化の動きがある。
 2013年に標準化した「IEEE 802.11ac」の進化版として、標準化団体IEEE(米電気電子技術者協会)のタスクグループ(TG)において審議が進んでいるのが「IEEE 802.11ax」。無線LANの普及促進を図る業界団体、Wi-Fi Allianceが無線LANを世代別に見分けるために2018年10月に発表した表記法によれば「Wi-Fi 6」、つまり無線LANの第6世代に当たる規格だ。第5世代に当たるIEEE 802.11acのデータ伝送速度は最大6.93Gbpsまで高速化している。だがデバイスが密集した環境ではトラフィックが混雑してスループット(実環境におけるデータ伝送速度)が出にくくなる。それを解消するための技術がIEEE 802.11axに導入される。
 2016年に標準化が完了した「IEEE 802.11ah」(Wi-Fi Allianceの認証プログラムでは「Wi-Fi HaLow」)は、屋外でのIoTインフラに適した規格だ。こちらは法整備の遅れもあり、国内ではまだ商用化していない。ただし通信事業者やメーカー、学術団体などが2018年11月に「802.11ah推進協議会」を発足させ、実用化に向けた動きを強めている。
 これら無線LANの新規格について、2018年11月に開催されたマイクロ波関連イベント「MWE 2018」のセミナー内容を基に整理する。

「IEEE 802.11ax」が必要になる理由

 一般的に利用される無線LAN規格としては、最近では2009年に「IEEE 802.11n」、2013年にIEEE 802.11acが標準化し、企業での導入が進んでいる。IEEE 802.11axもこれらの規格と同様、スループットの向上を目指している。問題は同一の周波数帯が混雑することだ。無線LANは2.4GHz帯の利用が一般的で、IEEE 802.11n以降の規格で5GHz帯の利用も広がっている(図)。IEEE 802.11axが対象とする周波数帯は1GHz~7.125GHzだが、製品化は2.4GHz帯または5GHz帯が基本になると考えられるため、混雑は今後も広がるとみられる。そのためIEEE 802.11axは、混雑した中でいかにスループットを出すかという点に主眼を置く。
画像図 無線高速化の変遷(出典:NTT説明資料)
 MWE 2018で講演したNTTアクセスサービスシステム研究所の井上保彦氏は、IEEE 802.11axについて、「これまでとは異なる方向性で進化を目指している」と説明する。これまでの無線LAN規格は、複数のチャネル(データの送受信に用いる周波数帯)を束ねる「チャネルボンディング」という方法によって、伝送速度を高速化してきた。
 それに対してIEEE 802.11axが重点を置くのは、複数ユーザーのデータ伝送をいかに効率化するかという点にある。それによって同一周波数帯を使う無線LAN接続が密集した環境でも高スループットを実現する、というのがこの規格の特徴だ。以下で井上氏の説明に基づき、複数ユーザーによるデータ伝送を効率化する要素を説明する。

マルチユーザーMIMOの強化

 IEEE 802.11acで無線LANアクセスポイント(AP)からクライアントデバイスへのデータ送信(下り)に採用した「マルチユーザーMIMO」(MU-MIMO)を、IEEE 802.11axではユーザー端末からAPへのデータ送信(上り)にも採用する。MU-MIMOは、APが複数のアンテナを利用することで、複数デバイスとの同時通信を可能にする技術。
 MU-MIMOを上りにも採用するために、IEEE 802.11axは「トリガーフレーム」(Trigger Frame)という制御用フレームを導入する。トリガーフレームによってAPがデバイスごとの送信タイミングを指定する。それに従ってデバイス側が送信を開始することで、データの送受信を完了するまでの時間を短縮できる。

OFDMAの導入

 「OFDMA」(直交周波数分割多元接続)はLTE(Long Term Evolution)など第4世代移動体通信システム(4G)にも利用されている技術。チャネルを要素別に割り当て可能な最小単位「リソースユニット」(RU)に分割し、その各RUを複数のユーザーに配分する。これにより20MHz幅の単一チャネルの中に、最大9ユーザーのトラフィックを収容できるようにする。

Spatial Reuseの導入

 従来の無線LAN規格では、電波の到達範囲内にある関係のないデバイス(同じ周波数帯を利用しているが、同一のAPには接続していないデバイスなど)によるトラフィックが干渉し、本来データの送受信を開始すべきデバイスがそれを控えてしまう問題がある。これに対処するために周波数資源の再利用を促進する技術「Spatial Reuse」を導入する。この技術ではデータを送受信する各デバイスが、自デバイスに先行するトラフィックが自エリアのAPのものなのか、同一周波数を利用している他エリアのAPのものなのかを判別する。先行するトラフィックが他エリアのもので自エリアのデータ送受信に影響しない限り、そのデバイスは待機せずにデータを送受信する。
画像NTTの井上保彦氏
 これら複数ユーザーのデータ伝送を効率化する技術を取り入れることで、IEEE 802.11axはIEEE 802.11acの4倍以上のスループットを出すことを目指している。
 井上氏によれば、IEEE 802.11axは2018年6月に提出された「ドラフト3.0」で、IEEEのTGにおける承認率が87.5%となり、完成に近づいているようだ。「当初の計画よりも若干遅れ気味ではあるが、2020年の春ごろには最終承認される見込み」(井上氏)だという。IEEE 802.11axの準拠製品は2019年には市場に出てくるとみられる。

屋外IoT向けの「IEEE 802.11ah」(Wi-Fi HaLow)

画像横河電機の長谷川 敏氏
 IEEE 802.11ahは、とりわけ製造業におけるIoTインフラを支える無線LAN規格としての役割に期待が寄せられている。製造業で利用されるセンサー系のデバイスは、工場など、屋外の広大な敷地に設置されることが少なくない。横河電機マーケティング本部の長谷川 敏氏は、「これまでセンサー系のネットワークとして利用されてきた無線規格は、『ISA100.11a』など、広範囲はカバーできるがデータ伝送速度は低速なものが一般的だった」と語る。IEEE 802.11ahに期待が寄せられているのは、「屋外で高速かつ広範囲をカバーできる能力があるため」(同)だ。
 IEEE 802.11ahは半径1キロほどまで広範囲に電波が届くため、センサー系ネットワークに必要な広範囲のカバーが実現可能だ。かつ一般的な無線LANに近い、数Mbps程度のデータ伝送速度が出る。
 2016年にIEEEによる標準化は完了したものの、IEEE 802.11ahは国内での実用化には至っていない。問題は「IEEE 802.11ahが利用する電波の周波数帯、920MHz帯を利用するための法規制が整っていないこと」(長谷川氏)。今後実用化に向けた関係機関などへの働き掛けを強めるため、2019年からは国内での実証実験を進める計画だという。
 長谷川氏は、生産システムのデータを自動的に取得し、製造現場の最適化につなげる「スマートマニファクチャリング」を国内の製造現場に取り入れる重要性を語る。そのインフラとして、IEEE 802.11ahのような広範囲のカバレッジを持ち、かつ数Mbps程度のデータ伝送速度が可能な無線LAN規格は必須になるだろう。

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