https://news.yahoo.co.jp/articles/ccb5135a0156df049df7af19afc4019fd46e08ee
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新型コロナウイルス感染状況のデータを収集する新システムが5月末に導入されたのだが、いまだに利用が進まない。東京都でも、データはファクスで送られている。そのため、接触確認アプリも機能不全に陥っている。
【写真】何が「電子政府」だ? 日本政府のITはなぜこうもダメダメなのか
こうした状態では、日本の生産性が低くなるのも当然だ。
期待の新システムだったが
新型コロナウイルス感染状況のデータを収集するため、最初はNESIDというシステムが使われていた。
感染が分かると、まず医師が患者の情報を記した発生届を作成する。それを各医療機関が管轄の保健所にファクスで送信する。受け取った保健所は、記載に不備がないかどうかを確認し、個人情報を黒塗りにするなどして都道府県にファクスで転送する。
データをファクスでやり取りするのでは、当然のことながら、迅速なデータの収集・分析はできない。それだけでなく、誤送など、さまざまな問題が発生した。
そこで、HER-SYSというオンラインのシステムが導入され、5月29日に稼働を開始した。これによって国、自治体、医療機関の迅速な情報共有が可能になり、事務負担の軽減につながると期待された。
ここまでは、7月12日公開の「検証、コロナ情報収集-ネット以前の手書き作業で国民の命は扱われた」で書いた。
東京都では文京区のみ
ところが、毎日新聞が伝えたところによると、運用開始から1カ月以上が経過したにもかかわらず、HER-SYSの利用は進んでいない(毎日新聞7月5日付「新システム稼働したのに…都内なおファクス報告 コロナ感染、進まぬ情報共有」)。
しかも、驚いたことに、感染者が多い東京都や大阪府で利用開始のメドが立っていない。東京都23区では、試行的に一部利用している文京区を除いては、HER-SYSを利用していないという。
7月3日時点で、保健所を設置する155自治体のうち、43自治体(28%)がまだHER-SYSを利用していない。既存の情報把握システムからの切り替えや、システム上で個人情報を国などに報告することについて、個人情報保護審議会への諮問が必要なためだそうだ。
このため、医療機関から保健所、保健所から都道府県への報告は、依然としてファクスで行われている場合が多い。
HER-SYSを使うにしても、大半の自治体では、医療機関からファクスで患者の報告を受けた後、保健所がHER-SYSへの入力を代行しており、保健所の業務軽減につながっていないという。
HER-SYSがダメならCOCOAも
新型コロナウイルスの接触確認アプリ「COCOA」を厚生労働省が6月19日にリリースした。
7月5日公開の「何が『電子政府』だ? 日本政府のITはなぜこうもダメダメなのか?」で書いたように、COCOAはリリース直後に不具合が発覚し、通知ができるようになったのは7月3日だ。その後再び不具合が見つかり、13日から修正版を提供していた。
このアプリは、陽性者が感染の事実をCOCOAに入力しないと機能しない。入力する場合には処理番号が必要だ。それは、HER-SYSから本人に送られることになっている(厚生労働省新型コロナウイルス感染症対策推進本部、内閣官房新型コロナウイルス感染症対策テックチーム事務局「新型コロナウイルス接触確認アプリについて」2020年6月19日)。
しかし、上で述べたように、東京都23区では、文京区以外ではHER-SYSは利用されていない。すると、「東京23区の感染者が入力しようとしても、できない」ということになるのではないだろうか?
COCOAについて、6月21日の「コロナ長期戦の切り札『接触確認アプリ』は機能するのか?」では、「感染者が登録するだろうか?」との疑問を呈したのだが、仮に登録する気になっても、できない場合が多いということだ。
そうだとすれば、東京近辺に住んでいる人は、アプリから接触の通知がなくても、安心はできない。だから、意味のないアプリということになる。「意味がない」だけでなく、それを信用して行動すれば、危険でもある。
接触確認アプリ、登録した陽性者はわずか3人
厚生労働省は「7月8日午後5時までに感染を登録した人は3人にとどまっている」と明らかにした。
7月3日から7日までに感染が確認された人は全国で1100人余りなので、感染をアプリに登録した人の割合は0.3%以下だ。
このように、COCOAはほぼ機能していない状態だ。
なお、アプリのダウンロード数は、8日の時点でおよそ610万件だった。このアプリが有効に機能するには、全国民の6割がインストールする必要があると言われる。
しかし、海外でも類似のアプリの普及率は低い。3月に導入したシンガポールでは4割程度、4月にスタートしたオーストラリアで2割程度だ。
それに比べ、全国民数を分母に取れば、COCOAの610万件は普及率が約5%ということになり、諸外国に比べてはるかに低い。上述の事情を考えると、普及率が今後顕著に高まることは望み薄だ。
折角最先端の技術を駆使して作ったのに、それを支えるべきデータシステムが貧弱なため、機能しない。コロナ対策の「切り札」は、残念ながら日本では使えない。
数字データはデジタルでないと処理できない
ファクスは、1970年代の末頃から普及した装置だ。いまから40年前のことである。多くの事務所や家庭で使っていたが、いまどき使っているところはないだろう。それを、保健所ではいまだに使っているのだ。しかも、われわれの命に係わる重要な情報の伝達に使っている。
画像を送るというのであれば、まだ分かる。しかし、ここで問題になっているのは数値データだ。数値データであれば、それに関して必ず演算が必要になる。最低限、合計と変化率を計算する必要がある。だから、デジタル化は絶対に必要だ。
データの処理が途中で紙になってしまうと、送受信だけでなく、データ処理が出来なくなるために問題なのだ。
まさか電卓で計算をしているのではないだろうと思うが、つぎに述べる状況を考えると、それもありうる。
ファクスの枚数を手で数えているのだろうか?
朝日新聞の7月17日の記事「東京都の新規感染者数、昼には速報が どうやって集計?」は、1日あたりの感染者数が集計される仕組みを解説している。
それによると、都庁の30階にある感染症対策部に2台のファクスが常備され、そこに都内31保健所から「新型コロナウイルス感染症発生届」が送られてくる。
感染者1人につき、A4判1枚。したがって、送られてきたファクスの合計枚数が、都内の感染者数となる。
ということは、電卓よりさらに前の、「手で枚数を数える」という方式に頼っていることになる!
都が発表している1日あたりの感染者数は、前日午前9時の締め切り以降、当日午前9時までに都に送られてきたファクスの枚数だ。
つまり、午前9時までの1日間に受信したファクス枚数が、その日の午後3時頃に公表されるわけだ。
ところで、締め切り時間がなぜこんなに早いのかというと、「指標の数値をつくる作業と、報道発表の準備のため」だという。指標とは、平均や増加率などのことだ。
しかし、その計算のために、なぜこんなに時間が必要なのか?
仮にデジタル処理をしていれば、さまざまな指標はあらかじめ準備していたプログラムで自動的に、かつ瞬時に計算できるから、9時に締め切って即座に発表することもできるはずだ。
疑われても仕方ない
100枚も200枚ものファクスを手で勘定するのでは、数え間違いもあるだろう。実際、5月には169人分の漏れと46人分の重複が発覚したことがある。
NESIDのシステムでは、検査で陽性と判明してから公表までに、3日ほどかかるそうだ。
これほど長い時間がかかるために、「発表人数を都が操作しているのではないか」との疑念を持つ人がいる。「都知事選の前にそうした操作が行われた」という記事が週刊誌にでている。
「そんなことはあり得ない」と思うが、上で述べたことを考えると、「あり得ないことではない」という気持ちになってしまう。
以上で述べたことは、驚きだ。
私がもっと驚いたのは、この記事がこうした状況に驚いていないことだ。ということは、以上で述べたようなデータ処理は、日本では普通に行われているということだろうか?
そうだとすれば、恐ろしいことである。
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