大手牛丼チェーン「吉野家」。1200店以上を展開する吉野家では、牛丼に欠かせない玉ねぎが毎日大量に消費されている。この玉ねぎを処理する過程で排出される、芯などの端材は年間約2.5トンに上る。消費者に提供できない端材はこれまで、数百万円をかけて廃棄されていた。
吉野家にとっては「コスト」だった玉ねぎの残渣(ざんさ)。今、この「数百万円のごみ」を「年間数千万円の価値」に変えようとしているベンチャーがある。一体どういう仕組みなのか。
吉野家が目を付けた技術力
野菜の芯や皮などの食品残渣は、環境省の推計によると年間で約2000万トン排出されている。
残渣は家畜の飼料やたい肥などに再利用されることが多いが、食材によっては動物が中毒症状を起こす恐れもある。吉野家では、玉ねぎはコストをかけて処分せざるを得なかった。
そんな吉野家だが、埼玉県にある創業4年目のベンチャー「ASTRA FOOD PLAN(アストラフードプラン、以下アストラ)」とともに、この課題を解決するプロダクトを共同開発した。
アストラは食品残渣を「乾燥して、粉末化する」技術をもつスタートアップ。
吉野家との取り組みでは、アストラの装置を吉野家に導入し、玉ねぎの芯などの残渣を粉末に加工。アストラがこの玉ねぎパウダーを全量買い取り、販売する。2023年2月には、最初の事例として買い取った玉ねぎパウダーをベーカリー「ポンパドウル」に販売。同社は4種類の「玉ねぎブレッド」を開発し、店舗で販売した。
アストラの加納千裕社長(36)は
「吉野家さんから問い合わせをいただき、まずは一緒に実験しましょうと、玉ねぎの端材を送ってもらいました。硬い部分ももちろんあるのですが、『まだ食べられるじゃん』『もったいない』と思ったのを覚えています」
と振り返る。
味良し香り良しの粉末パウダー
吉野家では当初食品以外への再利用を検討していた。ただ、アストラの装置で乾燥粉末化したところ、香りも味も良い玉ねぎパウダーが完成。想定以上の出来栄えに食品として活用する方法を探ることになったという。
食品残渣を乾燥させて再利用する選択肢は以前からあった。ただ、フリーズドライなどの既存の手法では、乾燥に半日以上要する上、コストや手間もかかる。廃棄した方が合理的だった。
アストラでは、食品を乾燥殺菌する「過熱蒸煎機」という独自の装置を開発。色や風味を残したまま5~10秒という短時間で食品の乾燥を可能にした。1時間当たり最大で500キログラムの原料を乾燥殺菌し、粉末化した食品は常温で1年保存ができるようになるという。
同社は2022年9月、本社の一角に過熱蒸煎機を試験的に利用できる「ラボ」を設置。メーカーなどがさまざまな野菜芯や食品残渣を持ち込み、既に約100品目の粉末化テストを行っている。
アストラはこの過熱蒸煎機をメーカーに販売し、そこで生み出されたパウダーを全量買い取り、販売も担う。メーカー側はリスクを取らずに廃棄を減らせる。アストラは過熱蒸煎機の販売に加えて、パウダーの販売収入という収益の柱を得ることができるというビジネスモデルだ。
アストラには在庫を抱えるリスクや販売先開拓の必要性があるものの、加納社長は食品関連の職場で経験があった。加えて、父で同社相談役の加納勉さんは元セブンイレブンジャパンの常務取締役。退職後は自ら食品ビジネスを手掛けており、加納社長もその一員だった。メーカーへの営業や提案に知見があるほか、これまでの取引先との関係性も生かせたる強みがあった。
メーカーにリスクなしの循環モデル
ビジネスモデル構築や実証を経て、今秋、吉野家東京工場(埼玉県)への「過熱蒸煎機」本格導入が決定した。レンタルの形式を取り、2024年から貸し出す。金額は非公開だが、月数十万円程度という。
吉野家東京工場で製造された玉ねぎパウダーは全量をアストラが買い取り、メーカーなどに販売する。販売先の一つである食品メーカーとは、吉野家で提供するカレーの開発を共同で進める計画だ。これによって玉ねぎ端材を廃棄せず、循環させる仕組みの確立を目指す。
メーカーにとっては、食品ロスを減らすことによるイメージ向上以外のメリットもある。カレールーに使用されている玉ねぎの粉末は、そのほとんどを輸入に頼っているという。輸入先は中国が多く、国際情勢の変化による輸入量の変化や円安による価格高騰といったリスクの側面から見ても、国産原料が調達しやすくなることはプラスだ。
アストラが販売する玉ねぎパウダーの1キログラムあたりの単価は数千円ほど。価格だけを比べると輸入品よりも割高というが、
「香りの強さや質が高く、少量だけ添加するだけですごく味が出る。全く新しい性質の新素材として使っていただくことを想定しています。既存の玉ねぎパウダーと競争をするつもりはないですが、いずれは吉野家だけではなく他の企業にもこのモデルを横展開することによって価格を下げ、より多くの人に使ってもらいたい」(加納社長)
という。
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