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シャシー統合制御ソフトウエア「cubiX」を中核に車両運動制御の進化を目指すZF
シャシー統合制御ソフトウエア「cubiX」を中核に車両運動制御の進化を目指すZF
そのデバイスとなるシャシー向けの様々なアクチュエーターやセンサー組み込み部品を展示した。(左の画像:ZFのプレゼンテーション画像を日経クロステックが撮影、右の写真:日経クロステック)
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 ドイツZFの日本法人ゼット・エフ・ジャパン(横浜市)は2023年10月9日、「ZF Next Generation Mobility Day」を開催し、開発中もしくは最新の技術やそれを搭載した試作車を報道陣に公開した。具体的には、巻き線界磁式同期モーターや電動油圧車高調整システム「eLEVEL」、サスペンションのアッパーアームに組み込んでシャシーのばね下の動きを検知する「スマートシャシセンサ」、機械的な接続を完全になくした完全分離式のステア・バイ・ワイヤなどを展示した。

 展示した巻き線界磁式同期モーターは開発中のもの(図1)。その最大の特徴は、ブラシをなくして非接触でローターへの給電を可能としていることである。電磁誘導によって給電を実現しているとする。

図1 開発中の巻き線界磁式同期モーター
図1 開発中の巻き線界磁式同期モーター
ローターへの給電を非接触で実現しているのが最大の特徴。(写真:日経クロステック)
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 非接触で給電する利点は、寿命を延ばせること、および同モーターの軸長を短縮できることという。同社は、「ブラシの場合は10年使えるかどうかだが、非接触なら寿命は車両の要求寿命よりも長い」と説明する。

 軸長を短くできるのは、非接触給電に必要な励磁機構をローターに組み込んでいるから(図2)。同社によれば、開発中のモーターでは、軸長を90mm短くできたとする。ブラシで給電する方式では、ローターとは軸方向にずらして、ブラシ機構を設けるケースが一般的だ(図3)。

図2 非接触給電のための励磁機構
図2 非接触給電のための励磁機構
同機構をローターの中に入れ、電磁誘導によってローターへの給電を可能にしているという。(写真:日経クロステック)
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図3 ブラシ式に比べて90mm軸長を短縮
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図3 ブラシ式に比べて90mm軸長を短縮
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図3 ブラシ式に比べて90mm軸長を短縮
左の写真は、短縮できる長さを手で示したもの。右の写真は、開発中のものとブラシ式のものの軸長(写真の高さ方向)を比較したもの。同写真の左側が開発中のもの、右側がブラシ式のもの。(写真:日経クロステック)

 開発中のモーターは、希土類も永久磁石も不要な上、出力密度は「永久磁石式同期モーターと同レベル」(同社)と高いのが特徴。最高出力は、100k~300kWを想定する。生産開始の目標時期は、2026年か2027年としている。

 車高を調整するeLEVELは、減衰力連続可変(CDC)式電子制御ダンパー(もしくは従来型のダンパー)と組み合わせて使うポンプを有したシステムだ(図4)。ポンプからダンパーに油を送ると、ダンパーの内圧が上がってダンパーのロッドが伸びる。これにより車高を上げるという。

図4 eLEVEL(左)とCDC式電子制御ダンパー(右)
図4 eLEVEL(左)とCDC式電子制御ダンパー(右)
(写真:日経クロステック)
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 現在はまだ開発中のeLEVELだが、最大で60~100mmの車高調整が可能とする。適用する車両にもよるが、60mmの車高調整に要する時間は10秒以下だ。同社は、2026年の生産開始を目指す。

 eLEVELは基本的には車輪ごとに搭載する。車高を調整する利点は、例えば次の通りだ。

 まず、乗降時には、車高を調整することで乗り降りしやすい座面の高さにできる。坂道では、車高調整によって車体の傾きの変化を抑え、快適性を上げられる。

 さらに、高速走行時には、車高を落として空気抵抗を減らし、燃費や電費の改善につなげられる。また、非接触での充電を利用する電気自動車(EV)では、充電時に車高を下げることで充電の効率を高められる。

 同社は、eLEVELを組み込んだ試作車も公開した(図5)。中国・上海汽車集団と米General Motors(ゼネラル・モーターズ、GM)の合弁会社である中国・上海通用汽車のフルサイズSUV(多目的スポーツ車)「Buick Enclave(ビュイック・アンクレイブ)」がベース車となっている。

図5 eLEVELを組み込んだ試作車
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図5 eLEVELを組み込んだ試作車
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図5 eLEVELを組み込んだ試作車
左が車高を上げる前、右が車高を上げた後。(写真:日経クロステック)

 スマートシャシセンサは、車両運動の統合制御に貢献する部品として開発を進めているものだ(図6)。スマートシャシセンサでシャシーのばね下の動きを検知、車室内に設置したCDC式電子制御ダンパーの電子制御ユニット(ECU)に搭載された6軸センサーでばね上の動きを捉える。ばね上とばね下の双方の動きを把握することで、車体をよりフラットに保つ制御などが視野に入ってくる。

図6 スマートシャシセンサ
図6 スマートシャシセンサ
サスペンションのアッパーアームにホール素子を、アッパーアームのボールジョイントに磁石を組み込んでいる。(写真:日経クロステック)
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 スマートシャシセンサは、サスペンションのアッパーアームにホール素子を、アッパーアームのボールジョイントに磁石を組み込んだものである。サスペンションの動きに合わせてボールジョイントが動く。その動きに追従する磁石の動きをホール素子で検出する。

 同社によれば、スマートシャシセンサの開発は終了しており、現在は顧客候補に提案している段階だ。トラックの過積載のモニタリングにも利用可能だという。

 同社では、様々なシャシー部品を統合制御するソフトウエア「cubiX」を実用化済みである。スマートシャシセンサは、そうした統合制御に有用なデバイスの1つとなりそうだ。

 今回展示した完全分離式のステア・バイ・ワイヤは、2023年末から2024年初めに市場投入を予定するものである(図7)。操舵(そうだ)側と転舵(てんだ)側の機械的な接続を完全になくしたもので、失陥時の安全性確保のために、2重系もしくは3重系にして冗長性を持たせている。

図7 完全分離式ステア・バイ・ワイヤの操舵側
図7 完全分離式ステア・バイ・ワイヤの操舵側
軸方向に最大210mmとステアリングホイール収納のためのストロークが大きい。(写真:日経クロステック)
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 3重系にしているのは、例えば、センサー類である。2重系では、検知結果が異なる場合、どちらが間違っているのか分からない。そこで3重系にして、多数決で決めるアプローチを取り入れているという。

 ただし、すべてのセンサーを3重系にしているわけではない。例えば、操舵角のセンサーは2重系である。これは、操舵に使うモーターの回転センサーも使えるからだとする。

 同社によれば、このステア・バイ・ワイヤは次のような特徴も持つという。(1)自動運転時と手動運転時の安全な切り替えが可能、(2)ステアリングホイール収納のためのストロークが大きい(軸方向に最大210mm収納可能)、(3)ステアリングホイールの回転角を±170度または±645度に、機械的に制限でき先進的な形状のステアリングホイールにも対応できる――。

 同社は、こうした完全分離式のステア・バイ・ワイヤを搭載した試乗可能な試作車も公開した(図8)。ドイツVolkswagen(フォルクスワーゲン、VW)のEV「ID.3」をベースにしたものだ。

図8 完全分離式のステア・バイ・ワイヤを搭載した試乗可能な試作車
図8 完全分離式のステア・バイ・ワイヤを搭載した試乗可能な試作車
VWのEV「ID.3」をベースにしたもの。(写真:日経クロステック)
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 ステア・バイ・ワイヤでは、操舵と転舵のギア比をソフトウエアで変えられる。同試作車の試乗では、従来車に近い感覚のノーマルモード、スポーティーに振ったモード、低車速や駐車場での運転を意識したモードの3種類を体感できた。

 いずれも操舵角によって同ギア比を変えているが、ノーマルモードに比べてスポーティーなモードはステアリングが少し重く、その分小さな操舵角で旋回が可能だった。一方、低車速・駐車場向けのモードでは、±180度で転舵角を最大にでき、小さな操舵角でもスラロームが可能だった。同社によると、低車速・駐車場向けのモードでは、駐車時でもステアリングホイールから手を放さずに済むという。

 このステア・バイ・ワイヤの実用化時期について同社は、「2025年に何か(何らかの搭載車)が出る」と回答した。