https://special.nikkeibp.co.jp/atclh/NXT/23/cccj1026/
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した。CCCJが近年本気で取り組んでいるのが、若手スタートアップの支援。華商経済フォーラムの中では、優れたスタートアップを発掘するための「ビジネスコンテスト」も開催した。盛大に開催された華商経済フォーラムの様子をリポートするとともに、䔥敬如会長にCCCJがスタートアップを支援する目的などについて語ってもらった。
若い世代のアイデアからDXは生まれる
在日華僑・華人の最大の経済団体、日本中華總商会(CCCJ)が2023年9月29日、「第5回華商経済フォーラム」を東京港区のザ・プリンス パークタワー東京で開催した。CCCJは昨年開催した「第4回華商経済フォーラム」に合わせ、日本発の優れた若手スタートアップを発掘する目的で「CCCJビジネスコンテスト2022」を挙行し好評を博した。今年のフォーラムでは「ビジネスコンテスト2023」に加え、日本で起業した3人の若手華人起業家や、日中ビジネスの第一線で活躍する弁護士、会計士、税務専門家、さらには日本上場を果たした華僑・華人の経営者等が企業経営や資金調達の実際等を語るトークセッションを実施。CCCJがイノベーションとスタートアップ支援に注力する姿勢を改めて示した。
今年はまた、マレーシア、香港、マカオの中華總商会から青年実業家約20人を招待、日本企業のみずほ銀行(CCCJ賛助会員)、三菱地所等を訪問したほか、CCCJ青年委員会と交流する「アジア青商茶話会」を実施。CCCJのネットワークで「デジタルネイティブの若手と日本」や「海外と日本」をつなぐ活動も展開した。
開催に先立ちインタビューに応じたCCCJの䔥敬如会長は、昨年に続きビジネスコンテストを開催する狙いについて、「デジタルトランスフォーメーション(DX)に関しては欧州が圧倒的で、これに中国、米国が追随する中、日本がどう追いかけるかというのが過去5年の状況だった。ところが岸田政権が2022年11月に『スタートアップ育成5か年計画』を打ち出して以来、コーポレート・ベンチャー・キャピタル(CVC)大手による投資が加速、本格化してきており、データの活用を飛び越えて、デジタルによるビジネスモデルの変革が起きつつある。とはいえ、スマホがないと生活できないというところにまで行き着いた中国やエストニアのような国に比べると、日本は少し遅れ気味。ここでDXを活用して日本にも新しいものを創っていこうとする際、生まれながらにして携帯に触れて育ってきたデジタルネイティブの20代、30代の若い感性が生み出すアイデアに期待したいということだ。毎年ビジネスコンテストを開催することにより、我々年長者は、彼らを支援するだけでなく、過去の成功体験を常に見直して新しい気付きを得て、若い世代と共に新しい時代とビジネスを築いていけるという喜びも感じている」と説明した。さらに、「華僑・華人のネットワークを通じて、DXで先を行く中国の情報が尋常ならざるスピード感ときめ細やかさで入ってくるCCCJだからこそ、若い世代のアイデアやビジネスモデルを判断できるという強みもある」と述べた。
一方、ビジネスコンテストの他、「海外青年団訪日ミッション」や交流会の「日本中華總商会中秋賞月会」等と華商経済フォーラムをまとめ、「2023 CCCJウィーク」と銘打った3日間の日程で開催する大きなイベントとしたことについては、「政治と経済のバランスが多少崩れている中国の昨今の状況を頭に入れながらビジネスをしていく必要のある時代が始まったことを踏まえて準備を
大規模なビジネス案件には日本企業の協力を期待
日本企業がCCCJの賛助会員になるメリットについては、「CCCJは会員企業と地域経済の発展に寄与し、日本とグレーターチャイナ、世界の華僑・華人との経済交流プラットフォームの構築を目指す、在日華僑・華人の経営する企業を主体とする経済団体だ。今年で設立24年目を迎えたが、2007年には世界中で活躍する華僑・華人が一堂に会する『世界華商大会』を成功裏に開催したことで、設立して既に100年が経つ世界の中華總商会から注目されるようになり、持ち込まれるビジネスの規模が一気に大きくなった。すると、業種はピッタリだが資金が足りないとか、上場していて資金は十分だが業種が合わないというように、歴史が短いことによる深みの足りなさが出た。そこで導入したのが、賛助会員の形で日本企業に入会してもらう制度だ。華僑・華人が役員でない企業でも中華總商会への入会を認めているのは日本だけで、大きな特徴になっている」と説明した。
その上で、「日本には、世界中の人たちが、『日本って心地いいな』と感じるサービスがある。世界に通用するものづくりもある。ただ、日本のものや、日本で起業して生み出されたサービスを世界に持っていくためには、その国や地域の文化に最前線で触れている人たちが必要。中華總商会の持つ世界的な華僑・華人のネットワークが、CCCJ賛助会員である日本企業のグローバル展開の一助になると信じている」と強調した。
さらに、「新しい時代やビジネスは、若い世代自身が創っていくものだ。そこでCCCJでは、賛助会員の若手の従業員と、世界各国・地域の中華總商会の若い世代が一緒になって新しいものを創り上げるための場を提供していきたいと考えている。来年1月の総会で、代表者以外でも会員として交流できるよう定款を修正する方向で環境整備を進めている。CCCJが積極的に支援するスタートアップ、CCCJ正会員の若手、世界中の中華總商会の若手、そして賛助会員の若手が一緒にビジネスをすることで、無限の可能性が生まれることを期待している」と述べた。
なぜ日本という異国の地が起業に適しているのか?
第5回華商経済フォーラムの幕開けでは、元アジア銀行総裁でみずほリサーチ&テクノロジーズ理事長の中尾武彦氏が、「グローバル経済の課題と日本の成長期待」をテーマに基調講演を行った。ロシアのウクライナ侵攻と、それが誘発するサプライチェーンの変調やエネルギー・食料価格の高騰、中国の不動産やインフラへの過剰投資に伴う債務の増加、民主主義の揺り戻しなど、グローバル経済の課題を多数指摘。その上で、経済の減速で注目が集まる中国経済の「日本化」について、バブル崩壊前後の日本との類似点や相違点を挙げると、集まった大勢の聴衆は熱心に聴き入っていた。
続くトークセッションは3部構成で行われた。「第一線の専門家からみた、日中双方向投資の機会と課題」と題した第1部では、西村あさひ法律事務所・外国法共同事業のパートナー弁護士、張翠萍氏が、「中国でビジネスをする日系企業にニーズが高いのはコンプライアンス関連、具体的には『個人情報保護法』『サイバーセキュリティ法』『データセキュリティ法』のいわゆる『データ3法』だ。中国の法律を正確に理解した上で、いかに程よく対応していくかがポイントになる」と述べた。さらに、「どうしても政治は絡んでくる。可能な範囲でリスクヘッジを」と呼びかけた。PwCコンサルタンツ、パートナーの鄧維維氏は、「中国の中央・地方政府とも日系企業の投資はウェルカムだが、一方で日系企業側は、中国の最新の助成動向を把握していない企業が少なくない。自社に適した奨励策がどの地方にあるのかを調べることが大切だ」と指摘した。長島・大野・常松法律事務所の日本法・NY法律パートナー弁護士の鹿はせる氏は、「『巨大人口が魅力』『経済安保の視点からはリスクが大きい』と中国についての言説が二極化する中、正しく現状を理解することが重要だ」と強調した。あずさ監査法人ディールアドバイザリーシニアマネジャーの孫寅嶠氏は、「比較的敏感でないコンシューマ向け投資は増えている」と紹介した。
「新鋭華人企業家が語る『日本での起業』」と題したトークセッション第2部では、issinの程涛代表取締最高経営責任者(CEO)、カウシェの門奈剣平代表取締役CEO、Merry Plusの杜垚代表取締役CEOが、日本での起業や資金調達、今後の目標について語った。中国河南省出身で、創業した東大発のベンチャーpopinを中国の検索大手バイドゥ(百度)と経営統合し、世界初の照明一体型3in1プロジェクターpopin Aladdinではシリーズ累計20万台を突破、その後2021年にヘルスケア事業のissinを立ち上げ、体重計測できるスマートバスマットを展開している程氏は、2回の起業の地にいずれも日本を選んだ理由について、「市場が公平という良い環境がありながら、中国や米国ほど競争が激しくないこと」を挙げた。中国瀋陽の高校を卒業後に来日し、東大農学部を首席で卒業、大手化粧品会社のヘアケアチームで10年以上研究・開発(R&D)に従事し、2020年に「RIMEDO」ブランドによるスキンケア化粧品のR&D・製造・販売や化粧品ODMサービスを手掛けるMerry Plusを立ち上げた杜氏は、「化粧品事業は、市場こそ中国の方が大きいが、企業は日本が先行していたので、ブランディングの観点から日本の方が良かったのに加え、女性の起業を支援するネットワークがあったため」と起業の地を日本に選んだ理由を述べた。日中ハーフで16歳まで上海で育ち、2020年4月に起業してシェア買いアプリ「KAUCHE(カウシェ)」を展開する門奈氏は、「日本における資金調達の環境は、この数年で非常に良くなり、中国にキャッチアップしてきたと言えるのではないか」と指摘した。起業家としての夢・ゴールは何かとの質問には、「生命力溢れる世界を創りたい。日本と中国を掛け合わせれば最強のビジネスモデルを創ることができると思っている」(程氏)、「日常において最もハッピーな場所を創りたい」(門奈氏)、「華僑・華人のネットワークを使って日本の技術や高品質を世界に届けるとともに、中国市場でナンバーワンのブランドになる」(杜氏)と揃って理想と意欲溢れる言葉が並んだ。
トークセッション第3部では、「日本でのIPO(新規株式公開)及び上場会社経営」をテーマに、日本留学、起業を経て近年、株式上場を果たしたアクシージアの段卓代表取締役CEO、HOUSEIの管祥紅代表取締役CEO、ASIAN STARの呉文偉代表取締役が、先輩世代の華僑の立場から上場世代の経営について言及。「日本ブランドを世界に伸ばしていくべき」(段氏)、「政府、人材を含め流動性を高めて行くことが必要」(管氏)、「外国人が銀行口座を開くのが難しい等、『開放していない市場』のイメージの打破」(呉氏)と、日本社会に対する提言もあった。
コンテストの受賞者には既に問い合わせが続々と
トークセッション終了後には、「CCCJビジネスコンテスト2023」の決勝戦が開催された。ビジネスコンテストは、日本におけるスタートアップエコシステムのグローバル化の遅れを懸念したCCCJが、2022年に立ち上げたもの。日本には300万人の外国人が生活していると言われるが、企業家に占める移民(外国人企業家)の比率は約2%で、先進的なスタートアップエコシステムが構築されている海外諸都市と比べて圧倒的に低いという課題がある。こうした状況の中、起業の意思のある若者の支援が極めて重要だと認識したCCCJでは近年、新規ビジネスの創出及び次世代経営人材の育成に注力してきた。最先端のテクノロジーや革新的なビジネスモデルを駆使し、日本と中華圏で活躍するスタートアップをCCCJから輩出することで、会のさらなる発展を目指すと共に、グレーターチャイナと日本経済の活性化にも寄与していきたいとの考えからビジネスコンテストの開催に至った。
応募できるのは「グローバル展開を考えている日本発のスタートアップ」で、在日の外国人企業家や、多国籍チームを組んで世界展開を目指す日本人企業家も対象。事業の分野には、「社会問題の解決を志す次世代のスタートアップ」という大きな括りがあり、TMT(テクノロジー・メディア・通信)、DXソリューション、AI(人工知能)、環境、素材、新エネルギー等のディープテック、ライフサイエンス等々、社会問題の解決につながる技術を擁し発展させる意志のある人たちを想定している。
今年の決勝戦に残ったのは、ECモールアプリ「ぐるかい」を運営するぐるかい、ロボティック義足のR&Dで事業化を目指すBionicM、エンジニア向け管理画面サービス「Dashcomb」開発・運用のDashcomb、飲食店向けモバイルオーダー及びPOSレジアプリ「funfo(ファンフォ)」のFunfo Inc.、在宅医療における夜間・休日診療をサポートする「ON CALL」のON CALL、生成AI技術を生かした高齢者向けサービス開発「Heart Link」のPJ経営塾の6チーム。6分の持ち時間でプレゼンを行い、その後審査員の質疑に答えた。
ビジネスコンテストの結果は、華商経済フォーラムに続いて開催された政財界や華僑・華人経営者など約400人が参加した交流会「日本中華總商会中秋賞月会」で発表され、最優秀チームにはBionicMが選ばれた。また優秀チームとしてFunfo Inc.、ON CALL、Dashcombの3社が選出された。
華商経済フォーラムで司会を務めたAIS CAPITAL代表パートナーでCCCJ常務理事の郭健氏は、「会の終了後、正会員や賛助会員から、BionicMをはじめとするビジネスコンテスト参加チームについての問い合わせが殺到している」と指摘。さらに、「マカオ中華總商会からは、『マカオでもマッチングイベントをして欲しい』との引き合いがあり、香港の中華總商会も『すぐに日本のスタートアップ支援を始めよう』という話になっている。CCCJと手を組むことで、資金力に優れる海外の中華總商会の注目を引いた事例だ。スタートアップのみならず、海外展開、とりわけアジアのネットワークにアクセスしたい日本企業にとっても、CCCJの賛助会員になるメリットは少なくないのではないか」と話した。
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