2023年11月13日月曜日

USBやUPnPより圧倒的に音が良い「LAN DAC」とは何か? スフォルツァートの最新アップデートで検証 Roonとも比較した

https://www.phileweb.com/sp/review/article/201807/27/3124.html


逆木 一
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SFORZATO(スフォルツァート)のネットワークプレーヤーが、最新のアップデートで「LAN DAC」機能に対応した。これはWindows PC上で再生した音楽をネットワーク経由でスフォルツァートのプレーヤーから再生できるという機能だ。逆木氏は、自身が所有する同ブランドの「DSP-Dorado」でLAN DACとして再生した音が、同機のUPnPネットワーク再生やUSB-DAC再生と比べても明確に音質が良いことに驚いたのだという。










スフォルツァートのネットワークプレーヤー「DSP-Dorado」(写真は本体、電源部は別筐体)

なぜLAN DACはここまで音が良いのか? 従来のUPnPネットワーク再生やUSB-DAC再生に対してどのような可能性を持っているのか。同時にスフォルツァートのプレーヤーがアップデート対応したNOS機能と合わせて、逆木一氏がレポートする。


ES9038ProによるNOS(ノンオーバーサンプリング)再生に対応

7月上旬にスフォルツァートのプレーヤーの最新アップデートが公開された。ネットワークプレーヤーは各種機能の追加や操作性の改善のためにアップデートを行うことがままあり、スフォルツァートの製品もその例に漏れない。ブランド初号機のネットワークトランスポート「DST-01」の登場から今に至るまでアップデートが続けられ、その過程ではOpenHome対応など、製品の性格を一変させるような進化もあった。

今回のアップデートでは、単なる“改善”にとどまらない重大な機能がふたつ追加された。「NOS」と「Diretta」である。

「NOS」はNo Over Sample、いわゆる「ノンオーバーサンプリング」と呼ばれているもの。NOSモードではリニアPCMの音源をD/A変換する際、昨今のDACでは一般的なデジタルフィルターによる補完が行われない。そのため、「演算の過程で生じた本来存在しない音」であるポストエコーやプリエコーが発生せず、より自然な再生音が実現できるとされている。NOSモードは先日発表されたSOULNOTEのUSB-DAC「D-2」にも搭載され、話題となっている。

スフォルツァートのプレーヤーにおけるNOSモードは、ESS TechnologyのDACチップ「ES9038PRO」を使いこなす形で実装しており、現状ではDSP-Vela/Dorado/Pavoの3機種で使用できる。NOSモードでは使用するアナログフィルターも控えめにすることで、音の鮮度を追求しているとのことだ。


WebブラウザにSFORZATOのプレーヤーのIPアドレスを打ち込むと設定画面に入る。Windows用に、IPアドレスを打たなくても設定画面が立ち上がる「SFORZATO config」というソフトも用意されている。 また、iOS用に同様の設定アプリも用意されている。



「PCM Upsample」と「PCM Oversample」をともに「off」にすることでNOSモードになる。

「PCM Oversample」をオフにして聴いた瞬間、音の輪郭の曖昧さが消滅したことがわかる。とにかく瞬間的に音が立ち上がってくる印象で、ボーカルのリアルさ、パーカッションの弾ける鮮度の向上が著しい。空間の見通しの良さも改善され、コーラスが重なり合う様が克明に見えるようになる。全体として「音楽が鳴っている」という感覚から、「そこで演奏している/歌っている」という感覚が強くなる。

今までDSP-Doradoで聴いていた音に不満があるわけでは決してなかった。しかしNOSモードの音を聴いて去来するのは、「今まで聴いていた音は何だったのか」という思いである。

再生ソフトやハードの機能を使ってアップサンプリングを行うと、空気感が濃くなり、響きが豊かになると感じることが多い。しかし、もしかしたらそれは、演算によって生じたプリエコーとポストエコーを聴いていただけなのではないか。NOSモードの生々しく鮮烈な音は、そんな思いさえ抱かせた。

NOSモードでは全体的に音が引き締まる。同時に響き(あるいは、今まで響きだと思っていたもの)は減る傾向になる。今までの音を完全に気に入っていた場合は好みとずれる可能性もあるが、トータルでは大きな音質改善になると感じられる。


LAN DAC化を可能にする「Diretta」とは?

今回のアップデートはこれで終わらない。続けて「Diretta」を取り上げる。これは“ディレッタ”と読む。

Direttaとは、スフォルツァートのプレーヤーをUSB-DACならぬ「LAN DAC」として使うための機能/モード、およびそれを実現するための通信プロトコルである。LAN DACという名称だが、USB-DACがパソコン(トランスポート)で再生した音源をUSB経由で受けるDACである一方、LAN DACはパソコンで再生した音源をLAN経由で受けるDACと考えるとわかりやすいだろう。もちろん、NOSとDirettaを同時に使うことも可能だ。

Direttaの実装により、Diretta用ドライバーをインストールしたPCで再生した音を、LANケーブルで接続したスフォルツァートのプレーヤーから出すことが可能になる。これは元々オプションのUSB入力と同じような発想で、Prime Seatなど、PCでしか使えないサービスをスフォルツァートのプレーヤーでも楽しめるように、というのがスタートだったそうだ。

おさらいすると、今回のアップデートにより、スフォルツァートのプレーヤーにはオプションまで含めると4通りの使い方ができるようになった。

まず、(1)UPnPベースの「ネットワークプレーヤー」として使う方法。別途サーバーが必要になるが、同社の製品にとって最も基本的な使い方である。この時、「音源の再生」はスフォルツァートのプレーヤー自身が担う。

次に、(2)「Roon Readyプレーヤー」として使う方法。スフォルツァートのプレーヤーは(現時点ではUncertifiedながら)Roon Readyに対応しており、RoonのOutputとして機能する。

続いて、(3)「USB-DAC」として使う方法。これはDSP-Vela/Dorado/PavoのオプションのUSB入力を搭載することで可能になる。この時、音源の再生は接続したPCの再生ソフトか、あるいはUSB出力を持つトランスポートが担う。

最後に、今回のアップデートで可能になった(4)「Diretta/LAN DAC」として使う方法。スフォルツァートのプレーヤーはいずれもLAN入力を備えているため、アップデートにより全機種で使用可能になる。この時、音源の再生は接続したPCの再生ソフトが担う。なお、Diretta用のASIOドライバーの関係で、現状組み合わせるPCはWindowsに限られる。





最新ファームでは「Player」内に「Diretta」が追加。これを選択するとLAN DACとして使用可能になる。なお、ネットワークプレーヤーとして使うモードは「UPnP」になる


Diretta用のASIOドライバーを入れたPCからは、LAN DACモードのSFORZATOのプレーヤーは「SFORZATO Diretta」という名称で認識される。筆者のDSP-DoradoはオプションのUSB入力を搭載しているが、そちらの「SFORZATO USB Audio」とは別物ということがわかる


LAN DAC/USB-DAC/UPnPネットワーク再生を聴き比べる

ここからは、実際に筆者のシステムを例として、Diretta/LAN DACモードを使っていく。

筆者のファイル再生の環境は、ネットワークプレーヤーのスフォルツァート「DSP-Dorado」、サーバーがfidata「HFAS1-XS20」、オーディオ用PCが「canarino Fils」という構成だ。

逆木一氏の自宅リスニングルームで検証を行った

筆者はふだん、HFAS1-XS20とDSP-DoradoをLANケーブルで直結し、DSP-Doradoを「プレーヤー」として再生している。HFAS1-XS20の2系統あるLAN端子を利用して、ハブを経由せず最短で接続するかたちだ。この構成を「A」とする。



DSP-DoradoをUSB-DACとして使う構成には、「プレーヤー」としてcanarino Filsを使う場合「B」と、HFAS1-XS20を使う場合「C」の2種類がある。









「B」と「C」の音は甲乙つけがたい部分があるが、「A」はそれらよりも優れた再生音を聴かせる。つまり、DSP-DoradoはUSB-DACとして使うよりも、ネットワークプレーヤーとして使う方が高音質である。端的に表現すれば、「B≒C<A」となる。もっとも、DSP-Doradoはそもそもが「ネットワークプレーヤー」なので、「A」の音が一番良くて当然と言われれば確かにその通りなのだが。

この状態から接続を変えないまま、DirettaでDSP-DoradoをLAN DACとして使う構成が「D」になる。Direttaの音はこの状態で聴いた。



Direttaの効果は驚くべきものだった。データ経路の最短化さえ行っていない「D」のDirettaの音が、スフォルツァートの本懐であるネットワークプレーヤーの機能を最短経路で活かした「A」を明らかに越えていたのである。

「NOS」の検証にも使った曲を一通り聴き直してみたが、分解能、高音の伸び、中域の充実、低域の沈み込み、ディテールの表現など、多くの面でDirettaの音が上回る。そして、それらの分析的な聴き方で得られる印象のすべてがどうでもよくなるほど、ひとつひとつの音が瑞々しく、生命力に満ちている。「NOS」にした時より、モードを「UPnP」から「Diretta」に変えた時の方が、音質向上の幅がよほど大きく感じられる。

この音の変化はあまりにも衝撃的だった。端的に表現すれば、「B≒C<A<<<D」なのだ。

なお前述の音の印象は、再生ソフトにJRiver Media Center(以下JRiver)を使ったことも影響しているのだろう。「NOS」モードのすっきりとして切れ味鋭い音に、JRiverで特徴的な煌びやかな質感が見事に調和し、強烈なオーディオ的快感がもたらされる。はっきり言って、過去これほどまでにJRiverの再生音を素晴らしいと思ったことはない。

「Diretta」対「Roon Ready」。その結果は?

音源の再生機能を持つ「ネットワークプレーヤー」より、再生機能を他に任せた「LAN DAC」として使ったほうが明らかに高音質という現実。これをどのように捉えればいいのか。
スフォルツァートのプレーヤーの再生エンジンが、JRiverに比べて明らかに劣っている……とはあまり考えたくない。現に、「A」と「B」の比較では「A」に軍配が上がるし、「A」のサーバーをcanarino Filsに変えても、「PC×再生ソフト<ネットワークプレーヤー」という結果は変わらない。

となれば、やはり「Diretta」という通信プロトコルが音の違いを生んでいると考えるのが道理だろう。

そこで、Roonを使った検証を行った。RoonのシステムはあくまでもRoonのCoreが再生機能を担うため、Roon ReadyモードのDSP-Doradoは、実質的に「LAN DAC」として機能する。もちろん、Roonを純粋に再生ソフトとして使い、Diretta/LAN DACモードのDSP-Doradoに出力することもできる。

Roonの設定画面。上の赤枠ではDSP-Dradoは「DirettaによるLAN DAC」として認識、下の赤枠では「Roon Ready」として認識されている

ソフト、ハード、ケーブルがすべて共通の状態で、純粋にRAATとDirettaというプロトコルを比較する形である。







結果はDirettaの圧勝だった。これほどの音質差をもたらすDirettaとは、いったいどのようなものなのか。

というわけでここからは、Direttaについてスフォルツァート代表の小俣氏に取材した話を書いていく。

Direttaはオーディオ再生に特化して設計されたプロトコルだ

繰り返しになるが、Direttaとは、スフォルツァートのプレーヤーを「LAN DAC」として使うための機能/モード、およびそれを実現するための通信プロトコルである。

LAN DACを実現するための通信プロトコルは、Diretta以外にも存在する。例えば、MERGING「NADAC」といった製品は、IPベースのリアルタイム音声伝送技術「RAVENNA」を採用する。前述したように、Roonで用いられる「RAAT」もまた、Roon Readyに対応するプレーヤーをLAN DACとして扱うためのものだといえる。
ネットワークプレーヤー「DSP-Vera」

Direttaとはこれらとは異なる独自のプロトコルで、最初からハイエンドオーディオ用途を意図して、音質を突き詰める方向で開発されたのだという。この点で、放送業界やプロオーディオ分野での使用を想定したRAVENNAや、音質を担保したうえでネットワークプレーヤーでもRoonのユーザー・エクスペリエンスを実現すべく作られたRAATとは毛色が異なる。

そしてDirettaそのものはフリーウェアであり、必ずしもスフォルツァートのプレーヤー専用というわけではない。今後、他のメーカーがDirettaを採用し、製品に搭載することは可能だそうだ。

とはいえ、Direttaはスフォルツァートのプレーヤーを使って開発・チューニングが行われており、事実上スフォルツァートのプレーヤーに最適化されている。Diretta自体、オーバーヘッドが極力小さくDSPの負荷が小さくなるように設計されたもので、最適化の度合いについては小俣氏いわく、「プレーヤー(DSP-Dorado)の負荷変動が限界まで小さい」「これ以上処理を削ると通信そのものが成り立たなくなる」というレベルにまで到っている。

ファイル再生では、「何をプレーヤーに使うか」だけではなく、再生された音源のデータをいかにストレスなくDACに送り込むか ーー 「伝送」という部分でも、著しい音質の差が生じる。Direttaが登場したことで、その事実をあらためて思い知らされた。

少なくとも筆者の環境でDSP-Doradoを使う限り、Diretta/LAN DACがもたらした音質向上はあまりにも大きかった。USB-DACとLAN DACではもはや比較にならず、「ネットワークプレーヤー」というスフォルツァートの本懐すら危うくしてしまったほどに。

DirettaはスフォルツァートがPCオーディオやネットワークオーディオといった垣根を越えて、真に「ネットワーク」の可能性を追求してきたからこそ誕生したといえるだろう。そしてその音質は、USB-DACに対するLAN DACの優位性をおおいに感じさせるものだった。PCオーディオと同様、使用するPCが再生音に甚大な影響を及ぼすという問題はあるにせよ、ファイル再生の新たな地平を切り開いたことは間違いない。

「NOS」と「Diretta」の搭載は、製品の世代が変わるレベルの大きな進化である。これほどの機能がアップデートで追加されるのだから、スフォルツァートのユーザーは幸いだ。

(逆木 一)

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