2024年4月28日日曜日

Google DeepMindによる「AIを使って220万種類の新しい結晶構造を発見した」という主張に研究者が異議を唱える

https://gigazine.net/news/20240428-deepmind-materials/

サイエンス





GoogleのAI研究部門であるGoogle DeepMindは、「GNoME」と呼ばれるAIツールを使って、「理論的には安定しているものの実験的には実現されていない新しい結晶構造」を220万種発見したことを発表しました。しかし、複数の研究者がGoogle DeepMindの発表した新しい結晶構造を分析した上で、「既知の物質を過度に拡大解釈したものがほとんどで、驚くほど新しいと言える化合物では含まれていない」と反論しています。

Artificial Intelligence Driving Materials Discovery? Perspective on the Article: Scaling Deep Learning for Materials Discovery | Chemistry of Materials
https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acs.chemmater.4c00643

PRX Energy 3, 011002 (2024) - Challenges in High-Throughput Inorganic Materials Prediction and Autonomous Synthesis
https://journals.aps.org/prxenergy/abstract/10.1103/PRXEnergy.3.011002?ref=404media.co

Is Google's AI Actually Discovering 'Millions of New Materials?'
https://www.404media.co/google-says-it-discovered-millions-of-new-materials-with-ai-human-researchers/




安定した結晶構造は現代のさまざまな技術に強く関係していますが、分解されにくい安定した結晶を得るには、数カ月にわたる精密な実験が必要です。しかし、Google DeepMindの研究チームは、新しい材料の安定性を予測することで新素材の発見速度と効率を劇的に向上させるディープラーニングツールの「Graph Networks for Materials Exploration(GNoME)」を利用する事で、AIによる分析で新しく220万種の結晶構造を発見したとNatureで発表した論文の中で主張しました。220万種類はこれまで発見された結晶構造の45倍以上にもおよび、このうち38万種類は構造的に安定したものであると期待されているため、Google DeepMindは「今回の発見は、800年分の知識量に相当します」と述べました。

Google DeepMindがAIツールを使って220万種類の新しい結晶構造を発見、これまで発見されてきた数の45倍以上 - GIGAZINE




同時に発表されたローレンス・バークレー国立研究所の研究者による別の論文は、「Google DeepMindとの連携により、我々のAI予測が自律的な物質合成にどのように活用できるかを示すことができました」とGoogle DeepMindの発表を指示しました。研究者らによると、計算、文献からの履歴データ、機械学習、能動学習を使って人間を含まず分析研究を実施した「自律型実験室」を用いており、「自律的材料発見のための人工知能駆動プラットフォームの有効性を実証しました」と主張しています。

しかし、カリフォルニア大学サンタバーバラ校のアンソニー・チーザム氏とラム・セシャドリ氏は、査読付きの科学雑誌であるChemistry of Materialsで2024年4月に発表した論文の中で、Google DeepMindとバークレー国立研究所の論文を分析し「AIが新しいタイプの材料を発見する上で大きな可能性を秘めていることは確かですが、220万種の新しい結晶構造を見つけたという研究結果は過大評価です」と主張しています。

研究では、Google DeepMindが公開した38万種類の「安定した新しい結晶構造」の中から無作為に数百個のサンプルを選択した上で、その結晶が「信頼できるか」「有用か」「新規性はあるか」という3段階のテストを実施しました。Google DeepMindが発見したものは、一般的な「材料」としたものではなく、何らかの有用性を実証するものに限定していないため、必ずしも有用なものとは限りません。しかし、それを踏まえた上で分析しても、無作為に選んだサンプルはいずれも十分な基準を満たしていなかったとチーザム氏とセシャドリ氏は述べています。以下は、論文で示されている一例で、左が既知の結晶構造、右がGoogle DeepMindの提案した新構造。新構造には「Nb(ニオブ)」が含まれている以外はほぼ同じ構造で、論文によると「この場合に、提案された結晶構造に新規性があると考えられる可能性は低い」とのこと。




論文では、「38万4870種類の安定した結晶構造のリストには、驚くべき新規性がある化合物は含まれていませんでした。新しい結晶構造の多くは既知の素材を簡単に改変したものです」と指摘しています。また、テクノロジー系メディアの404mediaが実施したインタビューの中で、チーザム氏は「Googleの論文は、物質科学者にとって有用かつ実践的な貢献という点では、かなり不十分です。新しい結晶構造が特定の機能を果たすことができるかは、特定のニーズに重点を置き、くまなく可能性を検討して役立つかどうか判断する必要があります。しかし、220万種もの新しい結晶構造を検討することは困難です。今回、私たちは無作為にそのうちいくつかを検討しましたが、仮に安定した結晶構造であっても、新規性も有用性もないことがわかりました」と語りました。

また、プリンストン大学のレスリー・シュープ氏とユニバーシティ・カレッジ・ロンドンのロバート・パルグレイブ氏らは、バークレー国立研究所の自律実験室に関する発表の分析を実施し、「その研究では新しい資料は発見されていない」ということを指摘しています。シュープ氏とパルグレイブ氏は、チーザム氏らと同様にAI主導で新しい材料を発見するプロセスは有望だと認めつつも、「少なくとも現在の発表では、大きな進歩は含まれておらず、そのような文脈で発表されるべきではない」と述べました。


パルグレイブ氏は「Google DeepMindの論文には、この分野の専門家だけではなく、ほとんどの高校生でもわかる明らかにナンセンスな予測資料も多数含まれています。私には、基本的な品質管理が行われていないように見えます。AIが予測としてそのような化合物を出力していることは憂慮すべきことであり、何かが間違っていることを示しています」と語っています。


反論となる論文を受けた上で、Google DeepMindは「私たちは Google DeepMindのGNoME論文で行われたすべての主張を支持します」と声明で述べました。

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