1年ぶりに日本に帰国も「どこに住めばいい?」と大ピンチ
――若いうちだけだから、そんなことができるのは
哲也さんの両親は一定の理解を示していたといいますが、そんな生活が30代になっても続くと、さすがの両親も「いい加減にちゃんと就職しろ」と怒りをあらわに。しかし、すっかり自由人になってしまった哲也さんには響きません。
10年前に父親が亡くなり、年金月16万円(手取り)の母親が実家にひとりになったら、さすがにちゃんとするかなと陽子さんは思っていました。しかし「月に16万円もあれば、俺が日本に帰ってきても大丈夫だな」「日本に帰ってきても、ちゃんと住む家があるから、安心して海外に行ける」と、逆に余裕を持たせてしまったといいます。
海外に魅了されて30年強。1年ぶりの帰国には、陽子さんも駆けつけました。きちんと伝えておかないといけないことがあったのです。
――日本でどこに泊まるか知らないけど、もう兄さんが帰る実家はないわよ
――えっ!?
言っている意味が分からない様子の哲也さん。海外に行っている間に実家は売却。すでに他人のものになっているのです。
――なんでそんな大事なこと、言わないんだよ!
――携帯の電波の届かないところにいる、兄さんが悪いんでしょ!
実は、哲也さん・陽子さんの母(80歳)は自宅で転倒→骨折。入院することに。その際、退院したら自宅(実家)に戻るかどうか、という話に。陽子さんは夫の母と暮らし、そこに実母が引っ越してくるのは現実的ではありません。かといって、自宅(実家)でのひとり暮らしには大きな不安が残ります。そこで退院後は老人ホームに入所しようと決めたのです。
問題は費用。前述の通り、母の年金は月16万円。貯蓄は2,000万円はあります。それに対して、候補に挙がったホームは、初期費用800万円、月額費用は25万円。貯蓄から取り崩していっても10年は費用を払い続けられます。ただ昨今の値上げ。ずっと月額費用がこのままとは限りません。そこで、入所からしばらくしたら実家を売却。不安を解消しようということになったのです。
「(日本で)どこで暮らせばいいんだよ!」という哲也さんを陽子さんは冷たくあしらいます。
――さあ、うちは無理よ
――泊めてもらえる家を見つけるのが得意でしょ
世界を放浪する哲也さんの住む場所はどうするのか、という問題はさておき、核家族化が進んでいる昨今、「実家に扱い」は子世代の大きな問題です。株式会社すむたすが行ったアンケート調査によると、「実家の処分について、関係者間で話始めたのはいつか?」の問いに対して、「親の死後」が56.0%、「親の生前」が27.5%。親が健在のうちに話始めた人に、「話始めたきっかけ」を聞いたところ、最多は「親が病気になったため」で63.3%。「親が介護施設・老人ホーム等の施設に入居することになったため」が43.3%と続きます。
さらに「実家の処分にあたり、後悔はあるか」の問いに対して、「はい」が過半数越えの55%。「適正価格を知らずに安く売却してしまったような気がする。遺品の整理費用も圧縮できた気がする」(男性 60代後半)と、売却価格に対する後悔もあるよう。老人ホーム費用に充てるのであれば、なおのこと。売却益が最大限になるように、焦りは禁物です。
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