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エストニアでは電子政府化で、「行政サービスの99%がオンラインで完結している。そして、GDP2%分の行政コスト削減と言うのは実に素晴らしい。
エストニアでは「行政サービスの99%がオンラインで完結している」というのは前回紹介した通りだ。行政サービスがオンライン化されることで、行政や国民にとってどのような恩恵があるのだろうか。
同国の行政サービスでは「結婚と離婚、不動産売却の手続以外では役所に行かなくてもよい」のである。それ以外の手続きは全てオンラインで完結するからだ。もちろん技術的には結婚と離婚の手続きも電子化することは可能であるが、この手続は双方の意思確認が必要だから、あえて、できないようにしているという。
同国の電子政府の特徴は「国民ID制度」とそれを支える「X-ROAD」と呼ばれる情報連携基盤である。1991年の独立から現在に至るまで、この2つの特徴を軸にして様々な行政サービスが電子化されている。同国の電子政府化のプロセスは大きく3つのフェーズに分けられる。
主要な電子サービスの開始年表 “e-Estonia. E-Governance in Practice” published by e-Governance Academy
フェーズ1. 政府内での電子化推進
2001年、電子政府の中核をなす「X-ROAD」と呼ばれる情報連携基盤の運用が開始された。分散処理型のアーキテクチャが採用されており、行政サービスに関連する各種データベースが非集中化されている。つまり、X-ROADは政府・官庁・病院・学校・警察などの各機関が以前から保有している各々のデータベースを横断的に相互接続するネットワークシステム。中央集中管理ではないので、情報が必要な時に、必要な場所に対して参照をするだけだ。
データのフォーマットには、現在では標準的となっているXMLが採用されているが、2001年時点では新技術として注目されていたことを考えると、この採用はリスクをとった英断だったと言えるのではないだろうか。
2017年には、国内900以上の機関が、1500種類にもおよぶ電子公共サービスを提供し、2016年の1年間には5億7000万件以上の照会が処理されており、1年間で「820年分」の労働時間削減効果があったと同国は報告している。
X-ROADの導入と並行して、銀行・税金申告システムと閣僚・公務員向けのサービスも電子化された。
「e-Tax」と呼ばれる税金申告システムでは、国税当局がX-ROADで連携されている国民一人一人の銀行口座から、給与や社会保険料などの情報を取得して自動的に申告書を作成するため、国民はあらかじめ用意された内容をチェックするのみで申請が可能になっている。確定申告の還付金振込に3か月以上も要していたが、今では数日で完了する。
また、国民に電子システムを利用してもらうためには、まず自分達から、ということで、2000年には閣僚の会議システムが「e-Cabinet」として電子化。毎週開催される閣議前に、大臣らが事前にシステムで議題を確認することができ、半日かかっていた閣議が1時間程度で終わるようになった。さらには、毎週数千ページの資料が不要になったことで、年間約19万ユーロが削減された。
e-Cabinetを利用して閣議をしている様子。ペーパーレスである。
同国の行政サービスでは「結婚と離婚、不動産売却の手続以外では役所に行かなくてもよい」のである。それ以外の手続きは全てオンラインで完結するからだ。もちろん技術的には結婚と離婚の手続きも電子化することは可能であるが、この手続は双方の意思確認が必要だから、あえて、できないようにしているという。
同国の電子政府の特徴は「国民ID制度」とそれを支える「X-ROAD」と呼ばれる情報連携基盤である。1991年の独立から現在に至るまで、この2つの特徴を軸にして様々な行政サービスが電子化されている。同国の電子政府化のプロセスは大きく3つのフェーズに分けられる。
主要な電子サービスの開始年表 “e-Estonia. E-Governance in Practice” published by e-Governance Academy
フェーズ1. 政府内での電子化推進
2001年、電子政府の中核をなす「X-ROAD」と呼ばれる情報連携基盤の運用が開始された。分散処理型のアーキテクチャが採用されており、行政サービスに関連する各種データベースが非集中化されている。つまり、X-ROADは政府・官庁・病院・学校・警察などの各機関が以前から保有している各々のデータベースを横断的に相互接続するネットワークシステム。中央集中管理ではないので、情報が必要な時に、必要な場所に対して参照をするだけだ。
データのフォーマットには、現在では標準的となっているXMLが採用されているが、2001年時点では新技術として注目されていたことを考えると、この採用はリスクをとった英断だったと言えるのではないだろうか。
2017年には、国内900以上の機関が、1500種類にもおよぶ電子公共サービスを提供し、2016年の1年間には5億7000万件以上の照会が処理されており、1年間で「820年分」の労働時間削減効果があったと同国は報告している。
X-ROADの導入と並行して、銀行・税金申告システムと閣僚・公務員向けのサービスも電子化された。
「e-Tax」と呼ばれる税金申告システムでは、国税当局がX-ROADで連携されている国民一人一人の銀行口座から、給与や社会保険料などの情報を取得して自動的に申告書を作成するため、国民はあらかじめ用意された内容をチェックするのみで申請が可能になっている。確定申告の還付金振込に3か月以上も要していたが、今では数日で完了する。
また、国民に電子システムを利用してもらうためには、まず自分達から、ということで、2000年には閣僚の会議システムが「e-Cabinet」として電子化。毎週開催される閣議前に、大臣らが事前にシステムで議題を確認することができ、半日かかっていた閣議が1時間程度で終わるようになった。さらには、毎週数千ページの資料が不要になったことで、年間約19万ユーロが削減された。
e-Cabinetを利用して閣議をしている様子。ペーパーレスである。
2002年には、国民IDカードが導入された。IDカード導入以前も、X-ROADを利用して各組織間で効率よく情報共有を行い、公務員の処理を効率化させていたが、その処理自体を国民が直接行えるようにしたのだ。
このIDカードには、本人氏名や顔写真のほか、11桁の国民ID番号が記載されている。日本のマイナンバーとは異なり、この番号は保護対象ではなく公知のもの。同国の15歳以上の国民に所有が義務付けられており、94%の国民が所有している。
カードは本人確認に用いられるほか、運転免許証や健康保険証、公共交通の定期券や病院の診察券代わりになる。また、電子署名や電子認証が利用できるため、会社の登記や選挙の電子投票にも利用できる。電子署名の活用による行政手続きのコスト削減効果は、GDPの2%に相当している。
国民IDカードの導入以降、教育システムや電子投票システム、会社登記システムなどの運用が続々と開始。同国では98%の企業がオンラインで登記されている。この会社登記システムについては日本のメディアでも頻繁に紹介されており、最速18分で登記が完了したことから「世界で最も早く会社登記ができる国」とも言われている。
素早く登記できる理由の一つとして、登記時に資本金を用意する必要がないことも挙げられる。ここで注意しておきたいのが、登記に必要な最低資本金は、あくまで登記時に用意する必要がないだけであり、会社を清算する時には支払う必要がある。さらに、会社の清算には半年以上かかることはあまり知られていない。
会社登記の速さが注目されがちであるが、情報ポータルとしても有用である。営利企業やNPO企業・政党などの情報が公開されているため、融資先の調査や取引対象となる会社の決算報告書、法人税の納付状況、借入金の有無など、あらゆる財務状況全般を瞬時に確認することが可能なのである。不動産登記システムとも連動しているため、企業が保有する土地やビルなどの詳細までも確認することが出来る。
フェーズ3. 国際展開
エストニアは、X-ROADの拡大展開を国家戦略に位置付け、デジタル時代の社会インフラとして国外に輸出することを推進している。隣国フィンランドとは、2013年、国を越えたデータの相互利用を目的とした「X-ROAD v6.0」を共同開発する契約を締結しており、2017年6月から自動相互接続の運用が開始された。
欧州委員会が定めるeIDAS(電子認証や電子署名に関する基準)に対応しており、国境を越えた電子契約、電子商取引などを安全かつシームレスに行うことが可能になる。エストニアで発行された薬の電子処方箋があれば、フィンランドで受け取ることも可能なのである。
同国の電子政府は、各サービスそのものだけではなく運営方針も特徴的だ。サービスの利用満足度をKPIとして設定しており、リリース後には利用者(公的機関、民間企業、一般市民)を対象にユーザーテストを行い、フィードバックを得ている。システムを作りっぱなしにせず、その結果をもとに日々アップデートしている姿勢はまさにスタートアップのようである。
電子政府を活用することで、各機関の管理コストを大幅に削減し、さらには国を越えて社会インフラの普及を推進しているエストニアは、EUのみならず、世界におけるデジタル時代のリーダーという役割を果たしていくのではないだろうか。
次回は、同国がこのような電子政府の体制を構築することが出来た要因について分析する。
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