1月27日にソニーより新型ウォークマンが発売された。コスパに優れた普及機、コンパクトモデルの「Aシリーズ」からはNW-A306とNW-A307の2モデル。「Aシリーズ」とフラッグシップモデル(最上位モデル)の中間に位置するハイエンドモデル「ZXシリーズ」からはNW-ZX707が登場した。どちらのシリーズも約3年ぶりとなる新作だ。
しかし、弊誌記者は思ってしまった。「今更ウォークマン......。スマホで十分なのでは?」と。今回はそんなぶっちゃけ話を聞きにウォークマン開発者を直撃!
■趣味はウォークマンいじり!?
――本日はよろしくお願いします!
佐藤 ウォークマンの音質設計を担当しております佐藤浩朗です。よろしくお願いします。
――はじめに、佐藤さんのご経歴を教えてください。
佐藤 1986年に入社して、当初は『ドデカホーン』というCDラジカセを作っていました。その後、音楽用のハードディスクを積んだサーバーや『CLIE(クリエ)』という電子手帳を作る仕事をして、2003年からはウォークマンの開発に携わっています。
――ソニーに入社したのはウォークマンを作るために?
佐藤 元々ウォークマンというより、オーディオを作りたくて入社しました。子供のころちょうどソニーのラジカセが流行って、そこからオーディオが好きになったのかなと。学生時代はオーディオにほとんどのお金を費やしていましたね。
ウォークマンが生まれたのは高校生ぐらいの時。当時、カセットテープは録音できるのが当たり前だと思っていたので、再生するだけのウォークマンはバックギアがない車みたいな印象でした(笑)。でも、友達が持っていたものを聴かせてもらったら、信じられないぐらい良い音が聞こえて感動しました。それがウォークマンとの出会いです。
――そんなウォークマンの新製品の魅力と前作からの変更点って何なんですか?
佐藤 Aシリーズは前作からサイズを大きく変更せずに音像が広がり、細かい音も聴けるように設計しました。バッテリーの持続時間、操作性も向上しています。上位モデルと違ってコストを抑えた中で、良いものができたかなと自負しています。
NW-ZX707は前作からサイズを大きくしました。その分、上位モデルで使っている大きい部品も詰め込んでいます。営業からは「上位モデルが売れなくなったらどうする」と心配されるぐらい高音質化を実現できました。
筐体内部には、無酸素銅切削ブロックを採用しています。削り出しだと低音の締まりとか、高域の伸びが全然違うんですよね。
――削り出しが良い、ということはどうやって気が付いたのですか?
佐藤 2013年にNW-ZX-1という機種を作る際、いろいろと試行錯誤している中で気が付きました。周波数特性や歪み率とかの数値は測定できますが、最終的に音質は測定できないので。結局、聞いて判断するしかないんです。
NW-ZX1の開発が始まる前は、後輩と市販のヘッドホンアンプのキットを買ってきて、音質を良くするためにいろんなパーツを試していました。完全に趣味で「アンプ部」という非公式の活動をしていたら、先輩に見つかって「仕事として堂々とやれ」と言われたんです。
――ウォークマンの進化にはそういった背景があるんですね。
佐藤 直接の背景というわけではないけど、良い経験だったとは思います(笑)。最終的に、仕事としていろいろなパーツを検討させてもらえたので、削り出しが良いと気がつけたきっかけになりました。
ただ、ウォークマンの進化を語る上でもっと重要なのは、ソニーが据え置きのHi-Fiオーディオ開発を既にやっていたことです。目指す音が既に具現化されている環境だと感じています。部品選定も本来はより時間がかかるんですけど、据え置き機の部品作りも参考にして、効率的に開発が進められました。
ソニーには、オーディオ開発に関する様々なノウハウが蓄積されているので、それがウォークマンにも活かされています。入社後に携わったラジカセ開発でも、限られた大きさにいろいろな機能も詰め込みつつ、音を良くするノウハウを学べた。これはウォークマン開発に役立っています。
■ウォークマンの"存在意義"とは?
――多くの人はスマホで音楽を聴いていると思いますが、ぶっちゃけ今、ウォークマンで聴く意味って何なんでしょう?
佐藤 多くの人がスマホで音楽を楽しまれているのは事実です。ただ、スマホだといろいろ機能が必要になりますよね。その点、ウォークマンは音楽再生専用機として、音質を最優先に設計できる。あとは、スマホと2台持ちにすることで、スマホの充電や内部メモリーの容量を節約することも可能です。とにかく、音質は絶対スマホに負けていないです!
――実際、売れているんですか?
佐藤 DMP(デジタルミュージックプレイヤー)の市場は確かに減少傾向です。その中でも、ストリーミング対応の高付加価値モデルの構成比に関しては増加傾向にあるんですよ。新製品の導入で、今後も高音質モデルの市場は増加を見込んでいます。
――どんな人が買っているんですか?
佐藤 音にこだわっている方、ガジェット好きの方はもちろん、音楽が純粋に好きな方にも購入していただけています。年齢層は若干高めで、ずっと再生専用機で音楽を聴いてきた人にしっかりハマっている印象です。
じゃあ、若者は買わないかというとそうでもなくて。イベントをすると高校生とかが「お金を貯めて買いました」とか言ってくれるんですよ。あと、声優が大好きで、声をちゃんと聞きたいと、40万円ぐらいのフラッグシップモデルを買ってくださった若い女性も実際にいましたね。
――佐藤さんが今もウォークマンを作り続けている理由とは何ですか?
佐藤 ウォークマンは元々「いつでもどこでも、好きな曲をいい音で聞く」というコンセプトでできていて、それに共感しているからですかね。
やっぱり音楽って、通勤の時間とかも楽しくしてくれるじゃないですか。自分も日々、音楽から栄養をもらっているので、多くの人にウォークマンで少しでもいい音を提供できたらなと思っています。
――佐藤さんはどういう時にウォークマンを使って聴いてますか?
佐藤 通勤中や、意外と旅行先で聴いたりするとむちゃくちゃいいんです。あとは、家のベランダでコーヒー片手に空を見ながらとか。一回、リモートワークの日にそれをやったら、気持ちよくなり過ぎて仕事を早退しちゃいました(笑)。
――ウォークマンはどんな人にオススメですか?
佐藤 まず、ヘッドホン、イヤホンにこだわっている人にはオススメです。良いヘッドホンって、逆にプレイヤーの粗も目立ってしまうので。ウォークマンならヘッドホンのスペックを十分に活かしきれるんです。
まあ、音楽を聴く人であればどんな人でもオススメですけどね。高いモデルだと、ジャズとかクラシック向けなんじゃないのって思われがち。でも、ソニーとしてはなんでも鳴らさなきゃダメと教えられているんで、どんなジャンルを聴く人にもオススメできますね。
――最後にまだウォークマンを使っていない人にメッセージがあればお願いします!
佐藤 聴いていただければ良さは伝わるので、まずは近くのソニーストアや家電量販店さんで体験してください。今まで聴いていた曲でデモすると、知らなかった音も聴こえて楽しいと思います。アーティストの方々はものすごい労力と熱量で作品を作っているので、隅々まで伝えるお手伝いができればなと。
最近は長いイントロやギターソロは飛ばすと聞くことがあります。時代の流れなんでしょうけど、もう一回ちゃんと音楽に向き合うお手伝いがウォークマンにはできるんじゃないかと思いますので、是非お試しください!
■佐藤浩朗(さとうひろあき)1963年生まれ、新潟県出身。ウォークマン音質設計担当。1986年にソニー株式会社へ入社、2003年からウォークマン開発に従事している。趣味はヘッドホンオーディオ、ギター、バイクレース鑑賞
取材・文/週プレ取材班 撮影/白木淳也
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- ワシはカセットテープのウォークマン世代w
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