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NTTと東京大学、理化学研究所、JSTは、最先端の商用光通信技術を光量子コンピュータに応用することで、世界最速となる43GHzのリアルタイム量子信号の測定に成功したと発表した。
日本電信電話(NTT)と東京大学、理化学研究所、JST(科学技術振興機構)は2023年3月6日、最先端の商用光通信技術を光量子コンピュータに応用することで、世界最速となる43GHzのリアルタイム量子信号の測定に成功したと発表した。この成果は、超伝導量子ビットを用いる現行の量子コンピュータの性能を大幅に上回るだけでなく、シリコン半導体で構成される古典コンピュータの性能も超える「スーパー量子コンピュータ」の実現につながるものだ。2024年中ごろまでに、今回の技術を適用した光量子コンピュータをクラウドベースで利用できるようにする方針である。
今回発表した光量子コンピュータは、光子が高速で飛来する“進行波”タイプの量子ビットを用いる量子コンピュータである。現行の超伝導やイオントラップなどを用いる“定在波”の量子ビットを用いる量子コンピュータとは異なり、時間軸上に量子ビットを並べることによって、装置の大型化や素子の集積化をすることなく量子ビット数の増大=大規模化が可能になる。動作周波数についても、100GHzを超える高速計算が可能なことが知られている。
また、シリコン半導体の動作周波数が数GHz程度にとどまっているため、現在のスーパーコンピュータの性能向上はマルチプロセッサ/マルチコアで実現している。もし、理論上の光量子コンピュータを実現できれば、動作周波数で100GHz以上、量子ビット数の増大=マルチコア化が可能になるため、量子コンピュータだけでなく古典コンピュータに対しても大幅な性能向上を果たすスーパー量子コンピュータを実現できるので、コンピュータ技術のパラダイムシフトにつながる。
リアルタイム量子信号測定がスーパー量子コンピュータ実現の壁に
光量子コンピュータのシステムは、量子状態を生成する量子光源とリアルタイム量子信号測定、測定誘起操作から構成されている。3者から成る研究グループはこれまでに、量子光源で6THzという広帯域を実現するとともに、測定誘起操作でも量子光の波形制御を行う技術を開発するなどの成果を収めていた。ただし、リアルタイム量子信号測定については、高効率検出と高速性を両立することが難しく帯域が数MHzにとどまっており、これがスーパー量子コンピュータ実現の壁になっていた。
今回発表した成果では、NTTが開発した光パラメトリック増幅器を用いて、量子光源から得られる光量子情報を3000倍以上に増幅することで、リアルタイム量子信号測定の帯域を43GHzまで高めることに成功した。光パラメトリック増幅器には、NTTが長年研究開発を積み重ねてきた直接接合型周期分極反転ニオブ酸リチウム(PPLN)導波路を用いている。リアルタイム量子信号測定については、市販の高速バランス検出器とリアルタイムオシロスコープを用いて43GHz帯域での光量子情報を検出した。
光量子情報の量子ノイズ圧縮率は約65%で、光量子コンピュータの動作に必要最低限な量子ノイズ圧縮(60%)を超えており、従来技術と比べて1000倍以上のクロック周波数で動作可能な高速な量子演算が実現できることを意味しているという。
研究開発を主導する東京大学 大学院工学系研究科 教授の古澤明氏は「NTTが得意とする光通信技術を光量子コンピュータと組み合わせることで画期的な成果が得られた。さらに、光通信の波長多重と組み合わせれば100コアも実現可能であり、100GHz/100コアのスーパー量子コンピュータ実現も視野に入ってきた」と述べている。
なお、今回の成果は、2023年3月6日(米国時間)発行の米国科学誌「Applied Physics Letters」に掲載される。また、研究の一部は、JSTのムーンショット型研究開発事業の助成を受けて行われた。
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