高度または重度の感音難聴の小児は、補聴器を使用していても口語能力の発達が困難だ。米Johns Hopkins大学のJohn K. Niparko氏らは、5歳未満で人工内耳の移植を受けた難聴患者を3年間追跡し、移植によりその後の言語能力の向上が促進されること、利益は生後18カ月未満で移植を受けた患者において最も大きいことを明らかにした。詳細は、JAMA誌2010年4月21日号に報告された。

 技術と機器の進歩により、人工内耳の移植は低年齢でも安全に行えるようになっている。だが、移植による利益の大きさや、最適の移植時期について前向きに調べた研究はほとんどなかった。著者らは、人工内耳移植の口語能力獲得に対する影響を調べ、難聴児の口語能力の発達にかかわる要因を同定するために多施設試験を行った。

 02年11月から04年12月まで、米国内の6施設で患者登録を実施した。5歳未満で人工内耳の移植を受けた、高度または重度の感音難聴の小児188人(平均年齢2歳3カ月)と、同年齢で健康な聴力を持つ小児97人(2歳4カ月、私立幼稚園で登録)を3年間追跡した。

 口語の理解と表現の指標であるReynell発達言語尺度(Reynell Developmental Language Scales:RDLS)を用いて、移植前、移植後6カ月、12カ月、24カ月、36カ月に能力を評価した。

 移植手術を受けた時の年齢で患者を以下の3群に分けた。生後18カ月未満(72人、38%、平均年齢は12.6カ月)、18~36カ月(64人、34%、27.1カ月)、36カ月超(52人、28%、46.1カ月)。

 移植後の患者の口語能力の発達は、聴力が正常な小児に比べ遅く、個人差も大きかった。しかし、移植前のRDLSスコアから予測された3年間の発達レベルが、理解能力は5.4ポイント/年(95%信頼区間4.1-6.7)、表現能力が5.8ポイント/年(4.6-7.0)だったのに対して、移植後の理解能力の伸びは10.4ポイント/年(9.6-11.2)、表現能力については8.4ポイント/年(7.8-9.0)と、大きく向上していた。

 残念ながら、3年後に年齢相応(=健常児と同等)のレベルに達することはできなかった。3年後の時点で、移植群の理解能力は正常群に比べ22.3ポイント(19.4-25.2)低く、表現能力は19.8ポイント(17.3-22.3)低かった。

 1年当たりの向上の度合いは、生後18カ月未満で移植を受けた患者で最も大きかった。より早期に移植を行うと口語能力の発達はより早くなり、移植が1年早く行われるごとに理解能力は1.1ポイント/年(0.5-1.7)、表現能力は1.0ポイント/年(0.6-1.5)多く向上していた。

 3年後の時点の実年齢と言語年齢の差を調べた。理解能力については、18カ月未満の移植群が15.5カ月(12.0-19.1カ月)、18~36カ月で移植を受けた群では32.0カ月(28.2-35.8カ月)、36カ月超の群では46.3カ月(41.9-50.7カ月)だった。同様に表現能力においても、それぞれ17.1カ月(13.7-20.5カ月)、32.5カ月(28.8-36.1カ月)、43.4カ月(39.2-47.6カ月)の差となった。

 また、ベースラインで難聴歴が短い小児の方が能力向上は早かった。難聴歴が1年短くなるごとに、理解能力は0.8ポイント/年(0.2-1.2)、表現能力は0.6ポイント/年(0.2-1.0)多く向上していた。

 多変量解析によって口語能力向上に関係する要因として同定されたのは、人工内耳移植前の聴力がより多く残っていた、聞こえていた期間が長い、患者と親の関係が強い、社会経済学的地位が高い―などだった。

 得られた結果は、小児に対する人工内耳移植は口語能力を高めること、より早い時期の移植がより正常に近い能力の獲得に役立つことを示した。なお、日本では、人工内耳移植の適応は生後18カ月以上の小児となっている。

 原題は「Spoken Language Development in Children Following Cochlear Implantation」、概要は、JAMA誌のWebサイトで閲覧できる。