全2383文字

  大手だけでなく中小の建設会社でもICT(情報通信技術)施工が普及している。しかし、外注費や機材レンタル費がかさんで生産性を高められていない会社があるようだ。建設会社への経営コンサルティングでICT施工などを指導するストラテジクスマネジメント(東京・渋谷)の吉田なぎさi-Constructionスペシャリストに、中小建設会社のICT導入における注意点を聞いた。(聞き手は橋本 剛志=日経クロステック/日経コンストラクション)

吉田なぎさ氏 ストラテジクスマネジメント・i-Constructionスペシャリスト
吉田なぎさ氏 ストラテジクスマネジメント・i-Constructionスペシャリスト
製造業の営業支援や自治体向けの地方創生関連事業、ブランディングを手掛け、建設業ではi-Constructionの開始当初から導入支援に携わる。ドローン操縦や測量などの実務支援の他、セミナーを開催する専門人材「i-Constructionスペシャリスト」の1人として、建設会社の経営コンサルティング業務に従事する(写真:ストラテジクスマネジメント)
[画像のクリックで拡大表示]

中小の建設会社におけるICT施工の普及状況はいかがでしょうか。

 業界全体の担い手が不足していくなかで、国は残業時間の上限規制の適用やBIM/CIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング/コンストラクション・インフォメーション・モデリング)の原則化を打ち出すなど改革に本気で乗り出しています。何の対応もしなければ、受注できる案件数や利益が先細ることは目に見えています。

 そんななか、ICT施工を社員が理解し、自ら工夫して工事の生産性を高める中小の建設会社が増えてきました。ICT施工に取り組んだ会社は、従来通りの施工プロセスよりも現場を効率化できる点があることに気づいているようです。

 とはいえ、元請けとしてICT施工を手掛けられる案件はまだそれほど発注されていません。ICT施工の機会を増やす工夫としては、売り上げ規模の大きい建設会社の下請けに入る方法があります。

 ただ、中小の建設会社の多くは自社が置かれた状況を客観視できていません。発注者が求める技術的な水準に自社がどの程度応えられているのかが分からないと、ICTへの投資や工事の受注、人材育成のそれぞれを進めるタイミングなども見極められません。

ICT施工にとりあえず挑戦してみるのは危険だと。

 実力が全く伴っていないのに形だけICT施工を取り入れようとすると、最悪の場合、工事が止まってしまいます。よくあるのが、下請け会社や外注先に全て任せてしまうケースです。自社でノウハウを蓄積していないため、万一トラブルが起こっても原因を追究できません。

 例えばICT施工の精度が出ない場合、その原因が計測機器やシステムにあるのか、ICT建機の操作にあるのか、作った3次元設計データにあるのかが分からない。ICT施工に関わる担当者がそれぞれ測量会社やオペレーター、3次元設計データを作製した外注先と分かれてしまっているため、詳しい状況を把握しきれずに原因の究明や同じトラブルの回避が難しくなるのです。

社内でのICT人材の育成も重要な視点です。

 ICT施工に詳しい人材を社内で育てようとしている会社は増えました。ただし1人の担当者に同僚への指導やチーム作りまで任せて、うまくいかない失敗が目立ちます。

 スキルの高いベテランに任せた場合、その人ができても周囲はついて来られなくなる。結果的にICT施工の推進役が、社内で孤立しがちです。ある会社では経験を積ませて育てたICT施工のリーダーが他社に転職してしまい、それまでの投資を回収できなくなった例がありました。

 ICTののみ込みが早い若手に、本人の意思とは関係なくベテランをサポートさせるケースもトラブルにつながりがちです。長年の経験があるベテランと折り合いが付かなくなります。

 そもそも、中小の建設会社が数回のICT施工で得た知見を社内で水平展開するという考え方には無理があるのです。工事は基本的に一品生産でイレギュラーなものが多い上、一度や二度の経験で習熟できるほど簡単なものではありません。