https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/00001/08598/?n_cid=nbpnxt_mled_nws
NTTデータは2023年11月6日、「全国銀行データ通信システム(全銀システム)」の大規模障害について会見を開いた。全銀システムは10月10日から2日間にわたって、10金融機関で他行宛ての振り込みに関するオンライン処理ができなくなるトラブルに陥った。このトラブルを巡り同社が会見を開くのは初めてだ。
同社は、中継コンピューター(RC)上で金融機関名を参照するためのテーブルを構築する生成プログラムに不備があったと説明。親会社であるNTTデータグループの本間洋社長をトップとする「システム総点検タスクフォース」を設置し、100~200に及ぶ重要システムについて2023年度中にチェックを完了する方針だ。
一連のトラブルにより、NTTデータが開発を担当する第8次全銀システムへの刷新プロジェクトは一時中断に追い込まれている。NTTデータはそれ以外にも、向こう数年で複数の共同利用型勘定系システムの刷新プロジェクトを控える。それだけに「全銀ショック」とでも言うべき今回のシステム障害の影響が、自主的な総点検により他のプロジェクトへ波及することを防げるか、ここが正念場といえる。
全銀システムを運営する全国銀行資金決済ネットワーク(全銀ネット)と同システムの開発・運用を担うNTTデータは10月7~9日の3連休に、全銀システムと各金融機関をつなぐRCの更改作業を実施。「RC17シリーズ」から「RC23シリーズ」へと移行したが、これが障害の引き金になった。
NTTデータによるとRCが、内国為替制度運営費のチェック・入力をするに当たって参照する共有メモリー上の「金融機関名インデックステーブル」が一部破損していたため、全銀システムが異常終了した。同テーブルは金融機関名テーブルを検索するために使うものだ。起動時にディスク領域から共有メモリー上へ展開するが、ディスク領域上に元データをつくるための生成プログラムに不備があった。
この生成プログラムはRC17シリーズにも実装しており、RC23シリーズへの更改に伴い改修した。不備が生じた原因についてNTTデータの鈴木正範取締役副社長は「直接的な内容は判明しているが、本当にそれだけが問題だったのかを全銀ネットと確認している」とし、「見極められたタイミングで全銀ネットと協議して改めて説明の場を設けたい」(同氏)とする。
一方で現時点で断定はできないとしながらも「(RCのOSが)32ビットから64ビットになったことが生成プログラムに不具合が生じた一因」(同氏)との見方を示した。「物理的なメモリー不足が原因ではない」(同氏)とも明らかにした。
鈴木取締役副社長は、「プログラムそのものよりも、不具合をすり抜けさせてしまったことが問題」と語る。今回、金融機関名インデックステーブルを使う試験そのものは実施していたが、破損箇所にアクセスするような試験はできていなかったという。
刷新控えた「MEJAR」の点検は既に開始
NTTデータグループは全銀システム障害の原因分析や再発防止策の検討に加え、開発や運用を担う重要システムの点検を実施するシステム総点検タスクフォースを発足した。本間社長が総責任者を務め、同社の品質保証部と技術革新統括本部のメンバーを中心に600人規模の体制を敷く。全銀システム以外には金融分野の決済系システムや勘定系システム、官公庁の大規模システムなどが点検対象になるといい、合計100~200システムに上る。2023年度中をめどに、全ての点検を完了する方針だ。
それぞれの重要システムにおいて、開発、試験、移行、運用の各工程で設けている現状のKPI(重要業績指標)をしっかりと満たしているか、そもそも十分なKPIになっているかなどをチェックする。詳細な内容はこれから検討する。NTTデータグループの本間社長は今回の全銀システム障害を踏まえて、「アプリケーションに変更がなくても基盤が変わって不整合が起きることがある。こうした点の検証が1つのポイントになる」と語る。
リリースが近づいている一部のシステムは既に点検に乗りだしているという。一例が、2024年1月に予定している横浜銀行など地方銀行5行が参画する「MEJAR」の刷新だ。NTTデータが開発するミドルウエア「PITON」を活用し、富士通製メインフレームからオープンシステムに移行させる。「最優先で確認しているところ。スケジュールは変更せずに進めたい」(鈴木取締役副社長)。2026年には、信用金庫向けの共同利用型システムを運営するしんきん共同センターのオープン化も同様の仕組みを使って支援する予定だ。
金融機関の勘定系システムを巡っては、その後にも大型プロジェクトが控えている。2028年には地銀をメインターゲットにしたPaaS(プラットフォーム・アズ・ア・サービス)型のプライベートクラウド「統合バンキングクラウド」を稼働させ、同年には京都銀行などの「地銀共同センター」を移行。2030年にはMEJARの合流も見据える。
NTTデータグループは今回の総点検に際し、点検結果を顧客企業に報告する方針を打ち出した。大規模システム障害を起こしたベンダーによる異例の会見と、そこで打ち出された自主的な総点検と顧客への情報開示姿勢からは、「全銀ショック」に伴う疑心暗鬼の余波が金融業界や官公庁などの顧客へ広がるのを何としても阻止したい、NTTデータの思惑が垣間見える。
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