5月に入り、ハイパースケーラーから生成AIに関する発表が相次いでいる。Googleは年次イベント「Google I/O」で、生成AI「Gemini 1.5 Pro」のアップデートを発表し、また、マイクロソフトは開発者向けイベント「Microsoft Build」で、AI向けに設計されたPCの新カテゴリー「Copilot+ PC」「Microsoft Copilot Studio」の強化を発表した。

Google、マイクロソフトの強力なライバルであるAWS(Amazon Web Services)は彼らに先手を打つかのように、4月にAmazon Bedrockの機能拡張、生成AIサービス「Amazon Q Business」の一般提供を発表した。

このほど、AWSジャパン サービス&テクノロジー事業統括本部 技術本部長の小林正人氏が生成AI関連のアップデートについて説明を行ったので、同社の生成AI関連サービスの最新情報をお届けしよう。

  • AWSジャパン サービス&テクノロジー事業統括本部 技術本部長 小林正人氏

「Amazon Q」 の最新情報

AWSは、生成AIのテクノロジースタックを「基盤モデルのトレーニングと推論のためのインフラ」「大規模言語モデルと基盤モデルを組み込んだアプリ開発のためのツール」「大規模言語モデルと基盤モデルを活用した構築済みアプリケーション」の3つの層から構成されている。

最もユーザーが多いと思われる「大規模言語モデルと基盤モデルを活用した構築済みアプリケーション」に位置付けられるのが「Amazon Q」だ。同サービスは、「Amazon Q Business」「Amazon Q Developer」「Amazon Q in QuickSight」「Amazon Q in Connect」の4つのラインアップから構成されている。

  • AWSの生成AIのテクノロジースタック

「Amazon Q Business」一般利用開始

4月末に、企業システム内のデータや情報に基づいてタスクを完了する生成AIアシスタントである「Amazon Q Business」の一般利用が、米国東部(バージニア北部)、米国西部(オレゴン)のリージョンで開始された(現時点では英語のみサポート)。

Amazon Q Businessは、ビジネスユーザーがデータ主導でコンテンツを生成、ダッシュボードを構築、企業の知識とデータを活用して適切かつ迅速な意思決定を行えるように支援する。現時点で、 40以上のビジネスツールに接続できる。

「Amazon Q Business」の新機能として、会話からAIを利用した生成アプリを数秒で作成できるようにする「Amazon Q Apps」が、Amazon Q Business Pro の一部としてプレビュー提供が開始された。

「Amazon Q in QuickSight」一般利用開始

加えて、BIサービス「Amazon QuickSight」にAmazon Qを連携することで、生成BIアシスタント機能が利用可能になるAmazon Q in QuickSight」の一般利用が、米国東部(バージニア北部)、米国西部(オレゴン)、欧州(アイルランド)リージョンで開始した。これにより、自然言語を利用してダッシュボードを数分で作成すること、データに基づき重要なインサイトやビジュアルを抽出すること、エグゼクティブサマリーを自動生成することができる。

  • Amazon Q in QuickSightで生成されるダッシュボードのイメージ

「Amazon Q Developer」一般利用開始

ソフトウェア開発のライフサイクル全体をカバーする生成AIアシスタント「Amazon Q Developer」も一般利用開が開始された。同サービスは、アプリケーションのコーディング、テスト、アップグレードから、トラブルシューティング、セキュリティスキャンと修正の実行、AWS リソースの最適化まで、開発者とITプロフェッショナルのタスクを支援する。

「Amazon Q Developer Agents」を使えば、機能の実装、コードのドキュメント化、リファクタリング、ソフトウェアのアップグレードの実行など、さまざまなタスクを自律的に実行できる。現在、アプリケーションのJava変換は利用可能だが、.Net変換は近日中に提供開始される予定。

なお、機能ごとに対応リージョンとデータ処理リージョンが異なるため、利用に際しては確認されたい。

Amazon Bedrock の機能拡張

大規模言語モデルと基盤モデルを組み込んだアプリ開発のためのツールである「Amazon Bedrock」においては、さまざまな機能拡張が行われている。

「Knowledge bases for Amazon Bedrock」「Agents for Amazon Bedrock」「Guardrails for Amazon Bedrock」が東京リージョンに対応した。各サービスの概要は以下の通り。

  • Knowledge bases for Amazon Bedrock:基盤モデルを社内データソースに安全に接続する、検索拡張生成(RAG)のフルマネージドサービス

  • Agents for Amazon Bedrock:組織内のシステム・データソースを活用し、複数の作業ステップが必要なタスクを解決する生成 AI エージェントを作成できるサービス

  • Guardrails for Amazon Bedrock:基盤モデルの入出力について、フィルタリングによる追加の安全機構を容易に導入できるサービス

加えて、生成 AI アプリケーションのプロトタイピング環境であるAmazon Bedrock Studioのプレビュー提供が開始された。Knowledge Bases、Agents、Guardrailsなど生成 AI 搭載アプリケーションを完成品にするための主要機能を活用し、独自データソースやツール、 APIによる外部連携を含んだアプリケーションのプロトタイプ開発が容易に行える。

Amazon Bedrock のモデル選択肢拡充

生成AIを活用する上では基盤モデルが重要になるが、Amazon Bedrockにおいて、以下の基盤モデルが選択可能になった。

  • Amazon Bedrockで拡充された基盤モデル

  • Amazon Bedrockで利用できる基盤モデルのラインアップ

基盤モデル関連の機能としては、ユーザーがカスタマイズしたモデルをAmazon Bedrock にインポートし、生成アプリケーションからの呼び出しを可能にする「Amazon Bedrockカスタムモデルインポート機能」のプレビューが開始された。

同機能により、アプリケーション開発者は、 Amazon Bedrockで提供しているモデル群とカスタマイズされたモデルの双方を、同一のBedrockのAPI で呼び出せるようになる。インポートしたモデルの利用料金はオンデマンドモードの費用が適用される。

そのほか、Amazon Bedrockのモデル評価機能が一般利用開始になった。同機能により、精度・堅牢性・有害コンテンツ生成リスクの低さなどのメトリクスを評価するために用意されたアルゴリズムを用いて、自動的に複数の評価を実行できる。

生成AIアプリケーションでは、精度・待ち時間(レイテンシ)・コストのバランスが重要であるため、モデル評価機能は合理的なモデル選択を支援するという。

  • 説明会会場では、同社が開発した機械学習向けアクセラレータ「AWS Trainium」を搭載したインスタンスが公開されていた