2019年12月11日水曜日

JBL Professional:3632-T

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HAL

hardware review of home theater and self-made devices

JBL 3632-T

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INDEX
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1. JBL Professional: Three-Way Tri-Amplified ScreenArray Cinema Loudspeaker System:3632-T

JBLにはプロオーディオとコンシューマー部門があります。馴染み深いのはコンシューマーで、入門実用機から趣味性の高い高級機まで豊富なラインアップを誇っています。ここで紹介するのはJBL professionalすなわちプロオーディオの製品で、ディーラーもコンシューマーとは異なります。型番は3632-T、中規模劇場用のスピーカーでサウンドスクリーンを使用することを前提にデザインされています(Stewart サウンドスクリーン)。米国の著名なLeonard H. Goldenson Theatreに装備されているのは同じシリーズで、そこでは毎年アカデミー賞授与式が行われています。高域、中域、低域の3ウエイで、それぞれにパワーアンプを使用するマルチアンプドライブ仕様です。サブウーファーは同じシネマシステムの4645Cを使っています。(AV システムのサマリー
クリックするとスライドショーが開きます。(マウスを右に置くと進む、左は戻る)
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左から高域ホーン、中域ダブルユニットホーン、低域ダブルユニットウーファーです。プリアンプから出た元の信号をプロセッサーdbx DriveRacck4800で高域、中域、低域に分けて出力し、別のパワーアンプでドライブします。
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ドライバーはねじ込み式2418H、ミッドバスと統合されたスピーカーターミナルはねじ式で確実なコンタクトがえられます。
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38センチダブルウーファーは単体では4639となっています。右の写真は上部3632M/HFユニットの4639への固定部で、左右に首振りが可能です。
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Smaart を使った音響測定

2.音響調整

コンシューマー製品の大半はニアフィールド、すなわちスピーカーからの直接音を聴く事が前提で作られていますが、プロオーディオ製品は音響までチューンすることが必要な製品が多く存在します。ホールや劇場など大きな空間の中で高い音圧で鳴らすために、反射や残響を無視できない状況で使われることが多いためです。3632-Tもニアフィールド用としては設計されてはいません。本体の設定に加え、室内の音響調整を行う必要があります。

3.インストール

従って通常のコンシューマーオーディオのスピーカーとはインストールの方法が違います。ユニットは全面バッフル仕様で造作することが前提です。置いてすぐに音が出る完成品のスピーカーというよりは、設備的にスクリーン裏の壁に開口部を持つユニットの集合体です。スピーカー後面からの音やスクリーンからの反射音が干渉しないようにバッフル後ろの空間は徹底的な吸音を施します。またスピーカーの前面もスクリーンからの反射音が反射しないよう吸音します。いわば規模の大きい壁面スピーカーの自作です。

4.吸音とチューニング

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バッフル面およびスピーカー前面、スピーカー裏の後壁には低域吸音特性の良いウレタン系素材を多用しています。後壁垂直面約25平方メートルには三層にわたって空気層を持った多重構造にしています。(シアタールームの設計
音響調整は測定調整共にPCのソフトウエアで実行。FFT音響測定ソフトウエアEAWの”SmaartV6″ で最終的には単体でほぼフラットな特性を得ています。測定系にはコンデンサーマイクEarthworks M30, オーディオインターフェースRME Fireface400を使用しています。コントロールソフトウエアはハーマングループのSystem Architectで、スピーカーマネージメントシステムdbx DriveRack4800を制御します。
Smaartで測定されたコヒーレンスプロット、特定の帯域のディップなど参考にしながらSystem Architectでフィルターをかけてゆきます。クロスオーバー等基本的なデータはメーカーサイトより3632用が用意されているので、該当VenueファイルをダウンロードしてSystemArchitect にロードしておきます。 これらソフトウエアには英文マニュアルしかなく、その量も膨大で読むのに数週かかります。続く実際の調整作業は更に輪をかけて時間と労力を要します。私の場合、吸音処理など平行してDIYで行った事もあり、最初の音が出たのはスピーカー搬入から約2ヶ月経ったあとです。この調整作業に関しては、また機会があれば別項を設けます。
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dbx professional DriveRack 4800. 4in 8out speaker management system. 本機を2台使用して各ユニットのバンドパス、pEQ、ディレイ調整を行う。コントロールソフトウエアはSystemArchitectでPCから本機の機能にフルアクセスが可能。チャンネルデバイダーの機能に加えFFTの測定結果を反映させての室内音響補正も行う。
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調整を終えたSystemArchitectの設定の一部です。これらの設定は当シアター固有の音響特性を反映したもので、環境によって全く異なる設定になります。上図は左チャンネルを示しています。まず大きくバンドパスフィルターで帯域分割し(右上)高域、中域、低域ドライバーにルーティングします。全てのアサインが終わったら(左上)、夫々の分割チャンネルの音響補正を行います。下段は左から低域、中域、高域の各種フィルターを示しています。高域はナチュラルにロールオフしますが、弱めのホーンEQでも十分な特性が得られます(右下)。
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最も難題の低域フィルターです。38センチダブルウーファーの設定です。上は左チャンネルの様子で、6つのフィルターをかけています。急峻なパラメトリックから緩いバンドパスまで様々なツールを駆使します。Smaartのコヒーレンスカーブを参考にしながら、ディレイやフィルターの設定周波数と種類、強度を調整します。マウスのドラッグでフィルターの形は自由に変わります。吸音材の設置の仕方や家具の配置などで微妙に違う結果になります.
SmaartのFFTに現れるピークやディップの周波数帯から距離を割り出し、問題の対象物の処理を行います。音響調整と平行して躯体や壁面、吸音材の調整など調音工事を行います。伝送特性を完全にフラットにする事は不可能なので、バランス重視で調整しています。ここに示したのは左チャンネルだけで、同じ調整をセンター、右チャンネルにも行い、更にサイド、バックのスピーカーもイコライジングします。サラウンドスピーカーはフルレンジなので、帯域分割は省きますが、フィルターはいくつか入れています。最後に複数のチャンネルから同時に音を出して測定し、仕上げにレファレンスディスクで聴感補正を施します。フルデジタルのフィルタリングで音質劣化は感じられません.

5.音質

さて音質です。台詞が圧巻です。中低域の芯と重量感、実在感が秀逸です。男優の声では風圧すら感じますが、誇張感はありません。音色的にミッドバスが効いています。高域は華麗とは言えませんが、素直に太い帯域が伸びています。調整されたマルチ3本と46センチウーファーの総合力はかつてのセットを音のリアリティーで完全に凌駕しています。音量ははてしなくどこまでも上がり、破綻しません。視聴位置で90dBを超えても音楽性を吟味できる音質です。通常の映画館のとは趣が異なり、クリアで圧迫感がありません。アンプにパワーと強大な制動力がないとこういう鳴り方は難しいかもしれません。中低域が異次元の鳴り方です。

6.スペック

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7.最後に

JBL 3632-Tは高度な調整を要求する業務用スピーカーです。置いただけででは音は出ず、自分で一から音作りが必要です。ある意味究極の自作スピーカーです。本来業務機ですが、調整次第でパーソナルユースとして使用しても高次元の再生環境が得られます。アマチュアとして前例の無い冒険を試み、全てが手探りで独学でしたが、かつて経験したコンシューマー機のレベルは凌駕しています。
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この記事は2010-06-06に更新しています。初稿に加えた重要な変更箇所は赤で記載。

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