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(写真=ロイター/アフロ)
 中国の科学技術省の張新民主任は3月17日に北京で開いた記者会見で、富士フイルムホールディングス(HD)の100%子会社である富士フイルム富山化学(東京・中央)が創出した抗インフルエンザウイルス薬「アビガン」が、新型コロナウイルスの治療に有効だと発表した。有効成分であるファビピラビルの臨床試験で良好な結果を得たとし、「今後、中国内の医療機関に対し、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者の診療ガイドラインへの掲載を推奨する」などと語った。
 しかしながら、このニュースが富士フイルムHDの業績に直接影響することはなさそうだ。ファビピラビルの物質特許は中国では既に切れており、臨床試験では中国の製薬企業が製造したジェネリックが使われた。富士フイルム側は16年6月に中国の大手製薬企業である浙江海正薬業とファビピラビルの特許ライセンス契約を締結して、開発・製造・販売する権利を供与していたが、その契約は既に終了している。浙江海正薬業など、現地の製薬企業が製造するファビピラビルが仮に中国で広く使われたとしても、富士フイルム側にライセンス料などが入ってくるわけではないのだ。
 そもそもアビガンは14年に抗インフルエンザ薬として日本で承認されているが、通常の医療用医薬品とは扱いが大きく異なる。「他の抗インフルエンザウイルス薬が無効または効果不十分な新型または再興型インフルエンザウイルス感染症が発生し、本剤を当該インフルエンザウイルスへの対策に使用すると国が判断した場合にのみ、患者への投与が検討される」とされ、厚生労働大臣の要請がない限り販売はできない。
 というのも承認を取得した際、動物実験の結果などから催奇形性(さいきけいせい)を持つ可能性が指摘されたためだ。承認申請は11年に提出されたが、審査期間は約3年と長期に及び、既存の抗インフルエンザ薬とは異なるメカニズムであることから、新型インフルエンザに対する備蓄用の位置づけで何とか承認された。ただし、催奇形性が心配されるため、妊娠中や妊娠の可能性がある女性が使うことはできない。服用した薬は精液や母乳の中にも出てくるので、男性が服用した場合も避妊が必要だし、授乳も中止しなければならない。このように、慎重に使用する必要がある薬であり、臨床研究などを除いてこれまでほとんど使われてこなかった。
 ただそれでもアビガンが、COVID-19への効果が期待される医薬品の候補であることは確かだろう。富士フイルム側は政府などの要請を受け、これまでに国内の医療機関が実施するCOVID-19の臨床研究などにアビガンを供給してきた。加えて開始時期などは明らかにしていないが、自社でもCOVID-19に対する企業治験を開始するべく準備しているところだという。
 アビガンが富士フイルムHDの業績に寄与するのは、そうやって治験などで有効性を立証し、国内で広く使われるようになってからとなるだろう。ちなみに、ファビピラビルの中国での物質特許は切れているものの、日本では物質特許が24年まで残存しているとのことだ。