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堀越 総明 2016年8月4日
団塊世代をターゲットにしたカフェ「イノベーション」は懐メロのBGMで好業績
A男さんが、脱サラして、愛妻のB子さんと仲良く経営しているカフェ「イノベーション」は、早いもので開業してから3年の月日が経ちました。大手チェーンに押されて、独立系のカフェは経営が厳しいと言われるなか、顧客ターゲットを団塊世代に絞った戦略が功を奏し、売上は右肩上がりで伸びています。
A男さん 「どうやら今月の売上も前年実績を超えそうだぞ。この分だと、今年の年収は、ついにサラリーマン時代を上回るかもな。」
B子さん 「これもすべて団塊世代のお客様のおかげね!でも、3年前の本コラムVol.2の第4回・第5回以来、毎日毎日、BGMが、由紀さおりの『夜明けのスキャット』と、ザ・ベンチャーズの『パイプライン』だけというのはちょっとつらいわ~。」
A男さん 「仕方がないよ。あの2曲は団塊世代のお客様にとってキラーチューンだからな。」
とは言うものの、A男さんも本音では、毎日同じBGMにはうんざりしています。A男さんは、かつてB子さんから言われた「わたし、ずっとお店に出てるから、テレビでワイドショーを見る時間もないわ。」という言葉を思い出し、ある日、家電量販店で思い切って55インチのテレビを買い、お店に設置しました。
団塊世代の心を射止める新しいコンテンツは「トラック野郎」のDVD上映!
「うれしい!久しぶりにワイドショーが見られる~!」と喜ぶB子さん。やがてワイドショーの時間が過ぎ、テレビ画面には映画「男はつらいよ」が映し出されました。すると、お店にいた団塊世代のお客様が熱い視線をテレビ画面に注いでいるではありませんか。「寅さん、お好きなんですか?」と、B子さんがお客様に話しかけると、お客様から意外な言葉がかえってきました。
お客様 「いやー、寅さんもいいけど、ボクはやっぱり“桃さん”だね。でも最近、テレビで『トラック野郎』は放送してくれないんだよね。」
すると、他のテーブルにいたお客様まで、「『トラック野郎』は最高ですなー。ボクは、桃さんよりも、“やもめのジョナサン”が好きでした。」と話に加わってきます。
B子さん 「あなた!次はこれよ!お店のテレビで『トラック野郎』のDVDを上映するのよ!」
お客様 「いやー、寅さんもいいけど、ボクはやっぱり“桃さん”だね。でも最近、テレビで『トラック野郎』は放送してくれないんだよね。」
すると、他のテーブルにいたお客様まで、「『トラック野郎』は最高ですなー。ボクは、桃さんよりも、“やもめのジョナサン”が好きでした。」と話に加わってきます。
B子さん 「あなた!次はこれよ!お店のテレビで『トラック野郎』のDVDを上映するのよ!」
A男さんはすぐに『トラック野郎』全シリーズのDVDを取り揃え、お店のテレビで上映したところ、見事に団塊世代のお客様の心を射止め、カフェ「イノベーション」は連日の大盛況です。特に、クライマックスのトラックとパトカーのカーチェイスのシーンになると、お店の中は大歓声に包まれます。
「あなた、またやったわね!」とVサインをするB子さんでしたが、ある日、カフェ「イノベーション」に1通の内容証明郵便が届きました。 A男さん&B子さん「えっ!ちょ、ちょ、著作権侵害だって!?」
市販のDVDをカフェで上映すると著作権侵害になります
街でカフェなどの飲食店に入ると、お店のテレビで映画やアニメのDVDが上映されていることを時たま見かけます。お店の人の中には、おそらく、「お金を出してDVDを買ったのだから、それをどこで上映しようが自分たちの自由だ!」と思っている人もいることでしょう。確かに、DVDを買った人には、DVDというプラスティックの円盤の所有権はあるのですが、しかし、その円盤に収録されている映画やアニメの著作権までを購入したわけではなく、その著作権は依然としてその映画やアニメの著作権者(映画会社など)に帰属しているのです。
映画やアニメの著作権者は、独占的にその映画やアニメを上映する権利を持っています。つまり、映画やアニメのDVDを上映しようとする場合は、必ずその著作権者の許諾をもらわなければならないのです。
もちろん、DVDを買った人が、家のテレビでも自由に上映することができなければ、だれもDVDを買わなくなってしまいますので、個人的・家庭的など一定の場合には自由な上映は認められています。しかし、カフェなどの飲食店で、お客様に見せるためにDVDを上映することは、著作権者に無断で行うことはできません。
これは、本コラムVol.2の第4回・第5回でお話しした、店内で音楽CDをかける場合と、まったく同じことです。ところで、音楽CDの場合は、A男さんとB子さんが、JASRAC(一般社団法人日本音楽著作権協会)に少額の著作物使用料を支払うという簡便な手続きにより、カフェ「イノベーション」では、引き続き、音楽CDを店内BGMとしてかけることができました。しかし、JASRACでは、映画やアニメの著作権は管理していません。ということは、カフェ「イノベーション」で「トラック野郎」のDVDを上映するためには、A男さんとB子さんは、著作権者である東映と、直接交渉して許諾をもらわなければいけないのでしょうか?
「業務用DVD」を使用すればカフェで映画の上映会を開催できます
映画やアニメには、JASRACのように一括して著作権を管理している団体はないのですが、その代わりに、「業務用DVD」というシステムがあります。それは、業務用DVDを取り扱う業者さんが、著作権者である映画会社から事前に許諾を受けた業務用DVDを、イベントなどでの上映のために、希望者に有料で貸し出すというものです。
つまり、A男さんが買い揃えた「トラック野郎」のDVDを、お店で上映すると著作権侵害になってしまうのですが、業者さんから「トラック野郎」の業務用DVDを借りてきて、それをお店で上映すれば、著作権侵害にはならないのです。
しかし、音楽CDを店内BGMとして流す場合とは違って、業務用DVDを借りるには、それなりの料金が掛かってしまいます。カフェ「イノベーション」のように、毎日、「トラック野郎」をお店で上映するような場合に、業務用DVDを借りることは予算的に無理があるかもしれません。
業務用DVDを取り扱っている業者さんとしては、「業務用DVD.JP」や「ムービーマネジメントカンパニー」などがありますので、ご興味のある人は一度問い合わせてみると良いでしょう。(ちなみに、業務用DVDを上映する場合でも、その映画やアニメの中で、テーマ曲や挿入曲などの音楽が収録されている場合は、別途JASRACへの手続きも必要となります。)
さて、インターネットで調べて業務用DVDの存在を知ったA男さんでしたが、これまでのように、「トラック野郎」を毎日上映するには経費が掛かりすぎるため、月1回、「トラック野郎DAY」と題して、お店のポイントカードのスタンプがたまったお客様限定で、DVD上映会を開催することとしました。桃さんのカーチェイスを楽しみにしているお客様が、熱心にスタンプを集めだし、カフェ「イノベーション」はますますの大繁盛となったそうです。
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