2020年12月8日火曜日

ようやく日本でも「電子化」が進む? アドビの好調な数字が示す、コロナの前と後

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2020年12月08日 07:42  ITmedia ビジネスオンライン


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ITmedia ビジネスオンライン

写真写真はイメージです(提供:ゲッティイメージズ)

写真はイメージです(提供:ゲッティイメージズ)

 行政サービスのデジタル化に期待している読者は少なくないだろう。縦割りの仕組みに応じて構築されてきたITシステムに、横串を刺していくプロセスは、想像以上に難しいかもしれないが、コロナ禍の現在ならば大きく変わる可能性があると思いたい。



 「思いたい」と表現しているのは、そうあって欲しいと願っている一方で、行政機関関連の申請にあきれることが少なくないからだ。




 筆者は先日、コロナ関係の融資に関連し、印紙で収めた税金を還付するとの連絡を受けた。同様の連絡を受けた読者もいるだろうが、筆者の場合、還付額は2000円。希望すれば書類を郵送するとのことだが、オンラインでPDFのフォームを入手できると書かれていたのをみて、迷わずPDFを選択した。




 ところがダウンロードしたPDFファイルは、電子入力フォームの設定がされていないのは想像通りとして、カーボンコピーで複写する形式の3枚のフォームだったのだ。かくしてプリンタで印刷後、1年のうち税申告時にしか使わないカーボン紙を引っ張り出し、ボールペンで記入したのち、郵便ポストに必要書類をまとめて投函した。




 同じことが全国で繰り返され、そして税務署長宛に送られる書類を処理する職員の手間などを想像すると、デジタル庁が取り組まねばならないことが、技術的なペーパーレス化ではなく、様式や伝票を回していくプロセスなど業務全般に関わることだと想像できる。直接比較はできないが、個人向け給付金で事務作業が“爆発”したのも致し方ないというところか。




 ……と、前段の話が長引いたが、先日取材したアドビの話を聞いていると、こんな日本でもいよいよ待ったなし、やっと「変われる」機会が到来しているのかもしれないと感じた。




●コロナ禍で、好調のアドビ




 在宅ワークの増加は、自然にペーパーレス化に使う道具を普及させた。好む、好まざるにかかわらず、紙伝票を手渡しできない環境下で仕事をせねばならない。当然ながら電子文書へと移行することになるが、一方で紙文書を電子化するだけでは、作業の流れは寸断される。印鑑の捺印(なついん)やサイン、フォームへの記入なども電子化されていなければ、コミュニケーションの流れは寸断されるからだ。




 長年、ペーパーレス環境に慣れてきた読者や、IT系の業務に関わっている方ならば「何を今さら」という話だが、「紙の用紙や伝票を画面上で扱えるようにする」だけでは、業務改善にはならないという、実に当たり前のことを多くの人が感じたことは収穫でもある。




 アドビによると、PDF文書を読むためのアプリ「Acrobat Reader」は月間アクティブユーザー昨年末の207%に増加。2019年12月は650万ユーザーだったが、20年8月には1350万ユーザーまで増加した。同様に電子サインサービス「Adobe Sign」は312%、スマホカメラでPDF文書を作成可能な「Adobe Scan」は273%と、いずれも大きくユーザー数を伸ばしている。数字はいずれもグローバルでの実績値だ。




 この数字にリアリティーがあるのは、アドビがクリエイター向けツール事業だけではなく、電子文書関連のアプリケーション事業も“サブスク化”に成功しているからだ。PDFを作る、マーキングする、回覧する、フォームに入力するといった機能をツールで提供するだけでなく、クラウドを通じて文書を共有し、ワークフローを簡素にするソリューションを提供してきた。




 そのため、これらのツールを使うためにはアドビのIDが必要となっている。先ほどの数字は単なるダウンロード数ではなく、実際に利用しているユーザー数だ。




 無論、スマホで文書を撮影してPDFにしたところで、電子サインを埋め込んだり、入力フォームを作ったり、フォームを回覧して承認を得るためのワークフローを設計できるわけでもない。




 とはいえ、まずは電子文書の一端に触れる機会が激増したことは大きい。




●キヤノンが、業績回復に自信を見せる理由




 対照的に感じたのがキヤノンの業績だ。




 少し前の話になるが、キヤノンは10月26日、20年12月期(20年1月~12月)の連結業績予想を引き上げると発表した。新型コロナウイルスの影響で売り上げが落ちていたが、同社の想定を上回る速度で、回復が進んでいるという。本当にそのまま回復基調に向かうなら喜ばしいことだが、アドビが出した数字は“逆方向”を向いている。




 キヤノンの自己診断によると、在宅ワークの増加で個人向けインクジェットプリンタの売り上げが増加していることに加え、オフィスに人が戻りつつあることでオフィス向け複合機、プリンタなどの印刷需要が復活してきているという。




 キヤノンは売上の半分近く(47%、19年12月期)を複合機やレーザープリンタなどオフィス向け機器の売上から得ている。カメラやスキャナー、インクジェットプリンタといったイメージング機器の売り上げがこれに続くが、その比率は23%とグッと低い。




 こうした“印刷ボリューム”に強く依存した事業ポートフォリオは、キヤノンの強みにもなっていた。進まないペーパーレス化は、プリンタ・複合機業界を勝ち抜いてきたキヤノンのドル箱で、常に安定した収益源だった。




 同社はオフィスに人が戻れば紙需要は復活するというストーリーで、今後の業績回復を示唆しているが、電子文書に触れる機会が増え、在宅ワークのコツをつかみ始めた人たちが、コロナ禍が過ぎたあとに「元には戻る」のか。




 キヤノンが業績回復に自信を見せるのは、紙の文書で仕事をすることの心地よさ、楽さもあるのかもしれない。繰り返しになるが、単に紙を電子文書に置き換えるだけでは、ハンドリングの良さは得られても、閲覧性やワークフロー上の分かりやすさなどまでは見通しにくい。




 「電子文書、やっぱり不便だよ」となれば、紙のワークフローへと舞い戻るオフィスワーカーもいることだろう。




●サービス、アプリケーションの中に溶け込めば……




 電子文書に触れる機会が増えても、紙の方がずっと便利と感じる環境では、一向に電子政府など望めないのは当たり前だ。いまさら何をいわんやだが、冒頭で話したようにわが国の行政機関が、カーボンコピーが必要な(あるいは同じ内容を繰り返し3回書く必要がある)書式をWebページからダウンロードさせているのも事実だ。




 アドビのブライアン・ラムキン氏(アドビデジタルメディア事業部門担当エグゼクティブバイスプレジデント兼ゼネラルマネジャー)は、クラウド化が鍵だと話す。「単なるツールだけではなく、“Document Cloud”として統合的なサービスを提供し、PDF中心にドキュメント作業を進められる。プリンタはもちろんだが、パソコンさえ必須ではなく、モバイル向けアプリで共有、編集、提供という環境を提供し、署名も電子的に行える」




 アドビのサービスを使うかどうかは、それぞれの判断として、文書作成、共有、共同編集などをクラウドとスマートフォンの普及で、誰もがオンライン上で行える環境にあることは間違いない。




 問題は電子文書らしい利便性と、紙を踏襲した無駄なワークフローのルールを撤廃できるかどうか。やはり鍵となるのは菅政権のデジタル庁構想だろうが、その中で注目したいのが、河野行政改革・規制改革大臣の印鑑廃止に対する熱量の高さだ。




 ペーパーレス、さらにハンコの禁止(=デジタル署名化)という流れが進まなかったのは、取引先も含めた導入が並行して進まなかったことだ。もっといえば、大企業がペーパーレス化しなければ、取引先は相手に合わさざるを得ない。




 行政サービスだけではなく、省庁の仕事を全て電子化するよう号令をかけるということは、政府と取引のある企業にもデジタル化の流れは伝播(でんぱ)する。そうなれば、いよいよ時代は変化するだろう。




 来年こそはカーボン紙を使わない1年となって欲しいものだ。




(本田雅一)


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