2021年6月7日月曜日

連載:第1回 中小企業の「見える化」経営者のリアルな声 “一つだけ”「見える化」をしたら社員の自主性が上がった話。サイボウズのキントーンでイントラネット導入の成功例。

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BizHint 編集部 2021年5月12日(水)掲載

宮城県・名取市で金属製品製造業を展開する株式会社イエムラ。ビル建築や構造物のステンレス製品を顧客の要望に応じたオーダーメイドで加工しているため、個々の案件管理や社内の情報共有が課題でした。2010年に2代目社長に就任した家村秀也さんはある社内改革を行います。売上を2倍以上に伸ばしながら行った社内改革とはどのようなものだったのでしょうか。[sponsored byサイボウズ株式会社]

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株式会社イエムラ
代表取締役社長 家村 秀也さん

神奈川県生まれ。宮城県育ち。東北学院大学経済学部を卒業後、某メーカーの東京本社に入社。入社3日目に異例の人事異動で工事部へ。現場リーダーとして、23歳で100人以上の職人を統率。1996年、宮城県名取市で父親と株式会社イエムラを創業。技術部、営業部、専務を経て、2010年に代表取締役社長に就任。社内変革に取り組み、業績をV字回復させる。「のこすモノ・つくるヒト」をモットーに、地域の各種団体においても要職を務めている。


建築不況からのV字回復 売上と社員数の増加スピードに情報共有が追いつかない

家村秀也さん(以下、家村): 株式会社イエムラは金属製品製造業として、ステンレス鋼材のオーダーメイド加工に特化し、ビル建築用のステンレス製ドアやサッシ、手すり等の設計・製造・工事を手掛けています。エリアは宮城県を中心に北海道から首都圏まで、最近では仙台駅のペデストリアンデッキの手すりなどにも私たちの製品を納品しています。

そもそも(株)イエムラは私の父が1994年に設立した会社です。父は設立前に別のステンレス関連の建材加工会社を経営していた経験があります。今から27年前に当時のスタッフを引き連れて独立する形で起業し、現在に至っています。

私が社長に就任したのは2010年、43歳のときです。きっかけは2008年のリーマンショック以降の建築業界不況です。「今は景気が悪いけど俺の厄年も明けるし、きっと流れも変わるから交代すっぺ、親父」と言って交代しました。

創業当時はステンレス製ドアの製造がメインでした。社長に就任した翌年の2011年に東日本大震災があり、建築業界は大幅に需要が増加。加えて、既存商品だけでは他社との差別化は難しいため、戦略的にドア以外のビル建材にも注力を始めました。既存の製造設備と職人の高い技術を活かして、お客様の多様なニーズに対応するようになったのです。

そんな要因から製品の多角化を進めたことで、震災前は社員数15名ほどで売上1億6,000万円ほどだった会社は、スタッフ22名、役員4名の1.5倍の規模に、売上は2倍の3億円以上に成長しました。ただ、事業を多角化するなかで、営業担当者に任せている見積もりや顧客の管理が非常に煩雑になってきていました。

当時の案件管理は営業担当者がExcelに入力して印刷して提出。それを私がチェックしExcelに打ち直して再び印刷……というように、今思うと無駄な書類作成を何度も繰り返ししていましたね。また、案件数が増えた分、事務処理や管理項目も増えます。それをアナログでチェックしていたので社内の情報共有に齟齬が生じたり、遅れや抜け漏れが起きる事が当時の大きな課題だったのです。

自社のステンレス製品はお客様のご要望に応じて作る一点物の特注品なので、値段も工数も物によって異なります。そのため、いわゆる「定価」がありません。

“誰”が“どの企業”の案件を担当しているのか、“いくら”の値付けにすべきなのか、“どれくらい工数”をかけているのか。社長の私はもちろん、スタッフ全員が見えるようにしておく必要性を感じたのです。

受注していざ製造に取り掛かった際や、納品した後に「収益が合わない」と気づくようでは手遅れです。成り行きでは会社経営が立ち行かなくなってしまいます。

流行りの「統合システム」は数百万円の見積り。最適なツールに出会うまで

家村: 何か解決策はないかと色々調べていると、どうやら商談の進捗管理や営業部門の情報共有に便利なツールがあると知りました。顧客ごとに案件のスレッド(掲示板)をたて、必要な情報を打ち込めば、それぞれに案件管理ができるのです。商談の進行具合や、受注プロセスの管理もでき、見積書や請求書発行まで一元処理できるというグループウェアがありました。そこで、類似のソフトウェアに候補を絞り数社から見積もりをもらったのですが、導入費用とオプション、そしてサポート費用を含めると何百万円になると知り、「便利だろうけれど、ウチのような中小企業には手が出せないぞ……」と諦めかけていました。

そんなときに、中小企業向けのセミナー会場で紹介されていたのが「kintone」でした。

kintoneは自社の業務に合わせたシステムを開発の知識がなくてもかんたんに作成できるサービスです。業務のアプリを直感的に作成できて、チーム内で共有して使えます。顧客管理だけでなくいろんな業務に使うことができ、アプリに溜まったデータに、指示やアドバイスなどのコメントも投稿できるからコミュニケーションも画面上でできます。

参加したセミナー会場では、その場でアプリを簡単に作るのをみて「おぉ!! これは面白い!」とひとしきり感動し、すぐに東京で開催されていた『kintone初心者セミナー』に申し込みました。kintoneは導入時の初期費用(イニシャルコスト)は無料、1,500円/5ユーザーからとリーズナブルです。しかも、自社に合わせてアレンジできて運用しながらも改善ができます。他のツールはアレンジするのに追加費用がかかるのが一般的ですが、kintoneは不具合が出ても自力ですぐに変更できますし、ずっとアレンジを加え続けても追加で費用がかからないのは大きかったですね。身の丈にあったツールに出会えてよかったです。

弊社は拠点が1か所のみの小さな会社です。そもそもの目的は、目標達成のための案件の「見える化」のみ。大企業が導入するような大掛かりな業務支援の統合システムは必要ないと気がついたのです。

そこで案件の「見える化」以外の機能は開発せずにシンプルにしました。以前から付き合いのあった大塚商会さんにサポートをお願いしたところ、「オプションで交通費や経費の精算機能も付けられますよ」と提案もありましたが、うちの場合、社員とも普段から対面でコミュニケーションしているので、直接経理に提出したほうが早いんです(笑)。大切にしているリアルなコミュニケーションもなくしたくなかった。「経費精算とかは対面でやるから。この案件管理だけでいいんだ!」と伝えて開発してもらいました。

何でもかんでもデジタル化するのではなく、「目標達成に関わることだけを最もわかりやすく明確に共有したい」という要望を叶えてくれるのがkintoneのよいところだと思います。あと、導入に際しては「IT導入補助金」も使いました。

情報が「見える化」されて、効率よく働けるように

家村: 弊社の案件管理を行うkintoneアプリには、案件ごとの見積金額や収益が可視化でき、いくつかの経営上のKPIが確保できない案件は背景が赤く色分けされるようにできています。

実際のイエムラでのkintone画面、注意すべきポイントが赤枠で囲まれる

極端な話、順調に進んでいる案件は、私があえて追いかける必要はないんですよね。注意すべき案件を浮かび上がらせ、そこだけに注力する。また、このことで難しい案件はスタッフの判断で撤退する選択も取れるようになりました。そして、蓄積したデータを基にチェックすべきKPIも入念に分析ができます。

これまで案件の詳細は営業担当の頭の中でしたが、kintoneを導入した結果、今までブラックボックス化していた案件情報を「見える化」することができました。また、全社的にオープンにしているので、営業にとっては自分の仕事が他の方にも見える状況になり、部門間の連携が取りやすくなりました。これらのことから、仕事に対する個人の自己責任感が高まったと思います。

私にとっても、案件ごとの情報を把握し蓄積した各データをもとに詳しい経営分析ができるようになりました。また、各人が1回入力すればOKなので、同じデータを何度も入れる手間もなくなりました。

ただし、導入の決定はトップダウンで進めました。ですから、実は費用対効果よりも気にしていたのは社内の反応です。中小企業にとって新たな仕組みの導入はスタッフに負担をかけてしまうので、「新しい仕組みを入れたけど結局使いづらいね」となっては本来の目的である案件の「見える化」は効果がありません。

そこで開発段階から社員に加わってもらい、3か月の準備期間を設け「どう? 使いづらくない?」と実際の業務に照らし合わせて、使いやすくするための意見や要望を何度も出してもらいました。現場の声を反映したことは本当に良かったと思います。

繰り返しますが、無駄な入力作業が大幅に減り工数削減が実現できました。営業進捗や案件ごとの収支管理が可視化できただけでなく、社員全員がデータを見られるので、営業だけが持っていた顧客情報を製造や総務部門も把握できるようになり、顧客理解も深まりました。

「見える化」でスタッフの納得度が上がった

家村: 我々のような中小企業にとって、ITツール導入は後回しにしがちです。しかし、弊社の場合、このシステムを入れたことで、職場の環境が良くなったように思います。初めはパソコン作業に不慣れな社員もいましたが、今は「パソコン教室に通いたい」と手を挙げるスタッフもいるほどです。自分で案件情報を入力するので「この受注、この数字は会社にとってこんな意味を持つ」と腹落ちしやすくなったのでしょう。その積み重ねで雰囲気がよくなったのだと思います。企業にとって「見える化」は究極のセンスメイキングだと思っています。

センスメイキングとは想定外な出来事や不確実性の高い事象に対しても「意味付け」を行うことで状況を好転させる循環プロセスです。早稲田大学入山章栄教授が『世界標準の経営理論』(ダイヤモンド社刊)でも紹介していることからヒントを得ました。弊社がkintoneを入れたことによる効果を俯瞰すると、センスメイキングの大切さを本当に実感します。

それに、中小企業はチームメンバーにおける相互依存の良し悪しで業績が決まると思っています。だからこそ、良いチームを創らなければなりません。その想いは私の最初の就業経験が根底にあります。私は大学を卒業後に入社した某メーカー本社で入社3日後に営業から工事部に異動になり、いきなり現場リーダーとして100人以上の職人を引率することになりました。激務の中でなんとか1人で仕事をこなす社員になりましたが、同時に現場を20個近く回していたので、頭の中はパンパンです。「自分がもう一人欲しい!」と限界を感じていました。限界を超えるにはチームが必要です。そして、チームのスタッフには同じ情報を渡さなければ業務は回らないと気づきました。

そんな経験があったので代表に就任した2010年以来、チーム力を高める優秀なスタッフの採用に注力してきました。なお、建築業界の社員平均年齢は50歳程度です。一方でイエムラの社員平均年齢は41歳、製造部門は40代以下と業界平均より若い。さらに全社的には各年代や外国籍のスタッフがいます。理想としていたダイバーシティ型の組織ができ、スタッフの気質が高まってきたからこそ、デジタル化の効果があるように思います。

そして、競争環境ではITツール導入に積極的な点で差別化が可能と考えています。例えばオンライン会議システム「Zoom」も2年前から導入していて、インドの関連会社とのやりとりに活用しています。また、近い将来には、設計計画や施工データをクラウドで共有できる「BIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)」の導入も検討しています。

ただ、建築業界の需要は人口増減に大きく左右されます。昨今、国内の人口減に加えて建築物の耐久性も向上しているため、今後は大幅な右肩上がりの成長は難しいかもしれません。私たちの強みである優れた技術を活かし、他社が作れない製品の提供や、もしかしたらビル建材にとどまらない商品にチャレンジする可能性もあるかもしれません。

いずれにしても、今のビジネス環境ではツールの導入によって事業の可能性をもっと広げることができると考えています。ですから、それらを活用して「できないことをできるようにする」のが経営者の役割なのです。「業務システムへの投資は考えているけれど、金額が高い」と感じる経営者も多いでしょう。私もそう思っていました。でも、いまさら「業務システムを使うとお金がかかるから経理はそろばん使って!」と命令するわけにはいかないでしょう。そろばんどころか電卓もあるし、もっと効率のいいツールもたくさんあります。ライバルとなる他企業は既に先行投資を行っているのですから、導入を実行しなければ差は大きくなる一方です。

さて、実は5年後には国内事業を次の経営者にバトンタッチすると決めました。現在、社内の若手リーダーの育成や、組織や事業をどうするかについて、スタッフを交えて準備を進めているところです。私の役割は、「今後もテクノロジーを活用し更に事業を成長させるにはを考えることである」と思っています。

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