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消えていったランクルと同構造のタフなクルマたち
トヨタから2021年6月10日(木)、新型「ランドクルーザー」の姿が公開されました。販売は今年の夏以降とアナウンスされています。ランドクルーザーは、非常に高い信頼性、耐久性、悪路走破性から、「どこにでも行け、生きて帰ってこられるクルマ」という評価を得ている特別なクルマです。簡単に言ってしまえば、これほどタフなクルマはないということ。 【海外ではフツーに売れ筋】日本未導入の本格フレームSUVを写真でチェック! そのランドクルーザーのタフさの理由のひとつは、フレームを使う車体構造にあります。ランドクルーザーは、トラックなどと同じく、強固な鋼鉄製のはしご型のフレームがあり、その上に薄い鉄板でできた箱型のボディが乗っています。対して一般的な乗用車は、薄い鉄板を箱型にすることで強くするモノコック構造が主流です。 ところが最近のSUVのほとんどは、乗用車と同じようにモノコック構造を採用しています。この方が車体を軽くできるので、燃費性能もよいし、乗り心地もよくなるからです。また、最近のSUVは街乗りや高速道路の走行がほとんどで、悪路を走行することがなくなったのも、乗用車と同じボディ構造を採用した理由になります。 しかし、1990(平成2)年ごろまでは違っていました。SUVは悪路を走るためのクルマであり、すべからくランドクルーザーと同じようにフレームを使っていたのです。 デコボコの悪路では、4輪のタイヤの接地する高さがバラバラになり、クルマがねじれてしまいます。そんな酷使に耐えるため、悪路を走るSUVはフレーム構造を採用していたのです。そうした悪路走行できるクルマはSUVではなく、「クロスカントリー・ヴィークル(通称:クロカン)」とも呼ばれていました。
時はバブル! こぞってスキーへ、クロカンで
そんなタフなクロカンが、1980年代後半から90年代にかけて「RVブーム」として非常に高い人気を集めました。RVは「レクリエーショナル・ヴィークル」の略で、オートキャンプなどのアウトドアで遊ぶクルマというもの。当時としては、目新しいクルマの使い方だったのです。 そのRVブームの中心にいたのが、トヨタのランドクルーザーであり、三菱自動車のパジェロ、そしてトヨタのハイラックスサーフに日産のテラノなども挙げられます。 ランドクルーザーは、当時からトヨタのクロカンのフラッグシップでしたし、パジェロはパリダカールラリーで大活躍。この2台は本格派クロカンとして憧れの対象となっていました。一方、ハイラックスサーフとテラノは、価格も手ごろで、もっと身近な存在でした。ハイラックスサーフは、ピックアップトラックをSUVにしたモデルで、どことなくアメリカの雰囲気が感じられました。そしてテラノは、低く構えた直線基調のデザインが非常にスタイリッシュに見えたのです。 そんなRVブームの追い風となったのが、1980年代から90年代にかけてのバブル景気です。経済が好調ですから、誰もが競争するかのように、お金をバンバンと使っていました。お金の使い道として人気になったのがスキーであり、オートキャンプでした。 映画『私をスキーに連れてって』の公開は1987(昭和62)年です。劇中に登場したのはセリカでしたが、この映画は、当時の若者をスキー場へと誘い、そうした場所に行くためのクルマとして、若者らはRVを購入したというわけです。
バブルが弾けて「なんちゃってSUV」登場
しかし、1994(平成6)年にトヨタのRAV4、翌年にホンダのCR-Vが登場してから、風向きが変わります。RAV4とCR-Vは、RVブームに乗って生まれたSUVでしたが、従来のRVと違って乗用車のモノコック構造を採用していたのです。 このため当時は「なんちゃってSUVだ」というような悪口もありました。本格的な悪路走行をすれば、もちろんフレーム構造のクロカンには敵わないからです。 しかし、実際のところ日本のユーザーのほとんどが街乗り中心で、頻繁に悪路を走るわけではありません。それであれば乗り心地と燃費に優れる方が好まれるもの。そして気づけば、日本市場にはモノコック構造のSUVばかりが増え、悪路走行ができるSUVとして残ったのは、トヨタのランドクルーザー、そしてスズキのジムニーだけという状況になりました。 とはいえ世界市場に目を移せば、現在でもフレーム構造のSUVが数多く販売されています。トヨタでいえば、ランドクルーザーを筆頭に、フォーチュナー、4ランナー、セコイアがあります。トヨタ以外では、三菱自動車のパジェロスポーツ、日産にはアルマーダ/パトロールのほか、ピックアップトラックのナバラ/フロンティアから派生したテラといったフレーム構造のSUVが販売されています。 つまり、悪路走行をする国や地域であれば、今もフレーム構造のSUVのニーズは根強く存在するというわけです。たまたま日本市場は本格的な悪路走行の性能が必要なかったため、フレーム構造のクロカンSUVは舞台から降りただけということ。 そもそも日本車の昔から今に変わらぬウリは、「壊れないこと」にあります。過酷な環境で使う人こそ、そうした日本車の信頼感を求めるのでしょう。ランドクルーザーに対する世界での高い評価は、そうした日本車の象徴とも言えるのではないでしょうか。
鈴木ケンイチ(モータージャーナリスト)
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